第四十三・五話 SS 服飾の道標
コン、コンッ♪
「ニコーレお嬢様、トキン様をお連れしました」
「どうぞ」
メイドさんに促され、ニコの部屋へ入ります。
よく考えたら、女の子のお部屋に入るのは、初めてかもしれません。
「おじゃまします」
お部屋に良い匂いが漂っています。
何かのお花の匂いだと思います。
部屋には、机、ベッド、ガラス戸棚、仕事用と思われる作業机、そしてニコが腰掛けてるソファがあります。
木目調と白色の家具が並びます。
「トキン、立ってないで座って」
ニコが二人掛けの、小さなソファをやさしく叩きます。
僕は笑顔で、ニコの隣りに座ります。
「トキン、明日シェーナ街に向かうの」
「うん、その方がいいみたいなんだ」
「その旅に、私を誘ったのはどうしてかしら」
隣りに座るニコが、僕の方をみてることに気付きます。
「僕、ミラノに来るのが凄く楽しみだったんだ。ニコに会えるからね。それで昨日の夕方にミラノに着いて、今日ニコと一緒に街を周って、やっぱりミラノに来て良かったと思ったんだ」
一呼吸おいて言います。
「僕のわがままだけど、一日だけじゃなく、もっとニコと一緒にいたい。そう思って言っちゃったんだ」
「フフッ。そう、わかったわ。私も付いていくわ、だからよろしくね。トキン」
僕もニコの方をみます。
「本当、凄く嬉しいよ。ありがとう、ニコ。あ、でもこれから荷物をまとめるの大変じゃない」
ニコが立ち上がり、紺色のショルダーバッグを肩にかけます。
「このマジックバッグに、必要な物は常にいれてるの。あとは追加の着替えを入れるだけよ」
僕はにっこり頷きます。
そして、疑問を口にします。
「ニコ、さっきから気になってるんだけど、そのガラス戸棚にあるのは何かな」
ジャムを入れるような、ガラス瓶を指さします。
ニコがガラス戸棚から、ガラス瓶を大事そうに持って、作業机の上に置きます。
「これは大好きだった、お婆さまが使ってたメジャーよ。数年前に私がうっかり落として、ガラス製のケースを割ってしまったの。今でも後悔してるわ」
「そっか、細かなガラス片まで集めてるのは、大切な思い出の品だからか」
僕は、声を出さずに『鑑定』スキルを使います。
鑑定結果
「ガラス付きメジャー」
不良品(割れ)
【服飾の道標】
器用+4(4/10)
4,000ゴルド
ガラスケース付き巻取りメジャー。
僕は作業机の上に、シルクのハンカチーフを広げます。
「ニコ、触らないと約束するから、このハンカチーフの上に、ガラス瓶の中身を出して見せてくれないかな」
「えっ。どうして、そんなことをいうの」
「君のことが大好きだからさ」
ニコがクスッっと笑い「へんなの」と言いながら、ガラス瓶を傾けます。
ガラス片とメジャーが、ハンカチーフの上に広がります。
「ありがとう、ニコ。よく観ててね」
僕は、壊れたメジャーに、そっと両手をかざして、静かにつぶやきます。
「『修復』」
僕の両手から、優しい光が溢れ、傷ついたアイテムを包み込みます。
そして、本来の姿を取り戻します。
ニコが静かに手を伸ばします。
【服飾の道標】をつまみあげ、眼の前で見つめます。
そして、両手で胸に抱きます。
ニコの目から、涙がポロポロこぼれます。
ニコが【服飾の道標】をハンカチーフの上に、そっと戻します。
そして、僕に抱きつきます。
僕は勢いに押され、後ろにあったベッドに倒れ込みます。
ニコも一緒に倒れ込みます。
慌ててニコの身体を、抱きしめます。
気付けば、二人はベッドの上で抱きしめあい、そして重なりあっています。
僕の顔の上に、ニコの小さなお胸が乗っています。
挟まれる気配はありません。
問題は、僕の両手のポジショニングです。
完全にお尻の上に乗ってます。
少し指先が食い込んだ、鷲掴み状態ともいえます。
お尻から手を離すタイミングを、既に逃しています。
ニコは、まだ声をころして泣いています。
この状況から、どうリカバリーすればいいのか。誰か教えて下さい。
僕は固まります。
しばらくして、落ち着きを取り戻したニコが、いつもの調子で言います。
「トキン、どこをさわってるのかしら」
ハッっと、両手を離します。
「え〜と、その、事故というか、ごめんなさい」
「フフッ。まあ、トキンなら、いいんだけど」
いいんですか!という言葉は飲み込みます。
危機を脱したようで、ホッとします。
「ソフィには、黙っておくわ。フフッ」
「お心遣い、痛み入ります」
危機は脱してなかったようです。
明日、朝食後に出発する約束をします。
少しだけ長めのハグをして「おやすみ」を交わします。




