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迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。  作者: ジン ロック
ベニス編
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第十三話 ベニス①

 僕は今、水の都ベニスにいます。


 この街は何度訪れても、格別だと感じます。


 石畳の通路の代わりに、水路が張り巡り、

 馬車の代わりに、ゴンドラが行き交います。

 エメラルド色に輝く海水が、街をつなぎます。

 ピンク、白、黄、緑、水色と統一性のない、カラフルな建物が並びます。

 

 絵本の中から飛び出してきたような、そんな街並みに目を奪われながら、サンマルコ広場のドゥカーレ宮殿を目指します。


 街のどこにいても、見ることができる、高さ98.6メドルの大鐘楼塔が目印です。

 

 

 迷わずドゥカーレ宮殿に着きます。

 フォルトゥーナをひと撫でして、馬丁に預けます。

 出迎えてくれた執事、メイド達に挨拶します。

 

 宮殿内では執事長のジョバンニが迎えてくれます。

 

 まずはレオナルド様にご挨拶です。

 ジョバンニ執事長に続いてすすみます。

 執務室の前で言います。


「ありがとう。これはジョバンニさんへのお土産です」


「モンタルチーノの『ブルロッソ』でございますね。これは今宵、開封する楽しみをいただきました。トキン様、感謝致します」


 ジョバンニ執事長が、にっこり頭をさげます。

 

 僕もにっこり頷いて、一人で執務室に入ります。


「レオナルド様、トキンです」


「やあ、トキン。本当に一人で来たみたいだね」


「はい。喜んでもらえる、お土産を持ってきました」


「ほう、それは楽しみだ。だが私は簡単には喜ばないぞ」


 僕はにっこり頷きます。

 床に荷物をおき、マジックバッグから、九種類の生地見本を取り出します。

 ハサミで1センチ角に切り出します。

 一気に『修復リペア』をかけます。

 それぞれ一反いったん巻きのフランネル織物となります。


 レオナルド様が大きく頷きます。


「価値は一反で1億800万ゴルドです。これを2,700万ゴルドでポーロ商会に卸します。僕とレオナルド様で半分こです。全店で一気に売り出すよう言ってあります」


「やはり、凄まじい力だね」


「既に各種100反、合計900反の注文を受けました。喜んでもらえましたか」


 僕はにっこり聞きます。


「ああ、嬉しいよ。大喜びさ」


 レオナルド様が笑顔でこたえます。


「私もトキンに喜んでもらおうと思ってね。準備しておいた物を見せたい。ついてきたまえ、街にでる」 



 家紋入りの豪華な馬車で移動します。


 家人達が乗る馬車に、前後を挟まれるかたちで三列進行です。


 公爵家の馬車と知り、市民達が道をあけます。


 レオナルド様に向け、市民達が手を振ります。

 帽子を胸に頭をさげる男性もいます。

 

 聞いていたとおり、市民達に愛されています。

 良政の証です。

 レオナルド様も笑顔で応えます。


 僕はなんだか胸がジ〜ンとします。

 ヴェネート領の未来は、これからも明るい気がします。

 

 しばらくして馬車がとまります。

 家人達に囲まれる中、二人で馬車から降ります。

 

「ここは島の東部にあたる。トキンに見せたいのは、この建物だ」


 家人二人が、建物表面に掛けられた幕を取り払います。


 ベニスの運河を流れる水の色、エメラルド色に染まる建物が露わになります。


 ガラス戸の上には、楕円形の木製看板があります。



小さな鑑定屋さん


『トキンの虫眼鏡』


 ベニス出張所



「えっ、僕のお店だっ」


 僕は振り向きます。

 レオナルド様がニコニコの笑顔です。


「レオナルド様〜」


 僕は飛びつきます。

 レオナルド様は僕を抱き上げます。

 首にしがみついて言います。


「すごくうれしいです。ありがとうございます、レオナルド様」


 遠巻きに見守っていたベニス市民達からも拍手がおこります。


「トキンが喜んでくれて、私も嬉しいよ。さあ、中も見てくれ」


 家人が両開きのガラス戸を開けます。

 精緻な模様が刻まれたオシャレなガラス戸です。

 レオナルド様に続いて入ります。


 店内を見て驚きます。

 シェーナ街にある、僕のお店と同じレイアウトです。


 カウンターをくぐり、鑑定室を確認します。

 さらに奥に続くドアを開けます。

 大きめの作業スペースもあります。

 壁には、天井の高さまで、奥行きのある棚が設置されてます。

 大きめの作業用テーブルもあります。

 木箱が四つあります。

 既に満杯の素材スクラップが入っています。


 さらに鉄扉があります。

 どこに通じてるか確認します。


 外に出ました。

 馬車三台は留められる石畳のスペースがあります。

 そよ風が流れ、潮の香りがします。


 その奥は、幅四メドルほどの水路が横にはしります。

 空き地の左手には、幅二メドルほどの水路が、建物の横まで引き込まれています。


 ゴンドラが係留されています。

 紫に近い艶のある紺色の船体で、ふちは金色に塗られ、品のある可愛いゴンドラです。


「この引き込み水路は、トキン専用水路だ。もちろん、あの小さなゴンドラも君の物だ」

 

 後ろを振り向き言います。


「レオナルド様、ありがとうございます。本当に嬉しいです」


 僕はにっこりでぺこりします。


「専用の荷馬車も用意済みだ。ここベニスの街から『サリンベーニ商会』や『アンティーク通り』への物資をやりとりするといい」


「はい。しばらくお世話になります。レオナルド様」


 レオナルド様が優しく頷きます。


「さあ、帰ってティータイムにしよう」

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