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異世界戦国記~戦国の世に大うつけ者で戦闘スキルが無いと追い出されたけど天下布武やっちゃうよ~  作者: ボルトコボルト


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第81話 【暗躍の影】信秀の深謀遠慮と那古野奪還

 養徳院の楽しそうな熱望に押され、平手政秀は少し恐縮しながらも、朗々と節をつけて続きの歌を口ずさみ始めた。


「『それでは失礼いたしまして……。

 信長様が率いてる、信長二十四人衆!

 合わせて僅か二十五人、二千の今川蹴散らした!

 戦慄の神馬に乗った信長は!

 縦横無尽に突き進み、敵の陣列踏み荒らす!』」


「う〜ん、とっても素敵だわぁ。実に胸がすくわねぇ」


「最高ですねッ! 政秀さん、もっと続きを聞かせて!」


 養徳院と帰蝶が目を輝かせて拍手を送ると、政秀は調子を良くしたように身乗り出して言葉を紡ぐ。


「『大将首をあげたのは、暴風起こす二刀流! 狂乱の武士、新免無二だ!

 物干し竿を振り回し、並みいる敵を斬り殺す! 無言の剣士、佐々木小次郎!

 長い朱槍で突き倒す! 天下御免の傾奇者、滝川慶次ここに有り!

 巨漢の坊主が鉄の棒、敵の鎧を打ち砕く! 根来の杉谷善住坊!』」


「ねぇねぇ政秀。うちのツネちゃんの活躍を歌った場面はないのかしらぁ?」


 養徳院が可愛らしく首をかしげて尋ねる。ツネとは、本日も敵陣で豪快な両断を見せた池田恒興のことだ。


「は、はいッ! もちろんございます! ツネ殿の歌は――」


「政秀、もうそれくらいにしておけ。養徳院、ツネの活躍は評定の詳しい報告が終わった後にじっくり聞いてくれ」


「えぇー、残念だけど……そうね。大事なお話が先よね」


 養徳院は名残惜しそうに引き下がり、政秀も姿勢を正した。


 俺は腕を組み、不意に湧き上がった違和感を口にした。


「……しかし、何だかおかしいな」


「確かに……解せませんな」


 俺の呟きに即座に反応したのは、車椅子の軍師・山本勘助だ。鋭い片目を光らせている。


「何がおかしいのぉ?」


 養徳院が不思議そうに尋ねると、俺は顎に手を当てて言った。


「戦勝報告の舌の根も乾かぬうちに、古渡の城下にこんな噂が広まって歌まで作られているなんて、あまりに早すぎるだろ」


「御意。合戦の噂が講釈師の耳に届き、民衆の間で流行歌として広まるには、早くても半月、通常であれば一ヶ月はかかりますな」


 勘助が静かに補足する。


「……つまり、何者かが事前にこの展開を予測し、裏で噂を仕込んでいたとしか考えられませんな」


 快川紹喜が数珠を繰りながら静かに口を開くと、隣に坐す知謀の名将・真田幸隆が確信に満ちた目で深く頷いた。


「仕掛け人は、まず間違いなく大殿……織田信秀様でしょうな。自らの手で『信長様の圧倒的武威』を城下に一気に知らしめることで、将来的に信長様が正式な家督継承者となった際、反発する勢力を封じ込める算段にございます」


「ふむ……道理で何かおかしいと思ったんだ。あの武略に長けた信光叔父きが、年下の柴田勝家の風下に立って合戦に参加していること自体、違和感があったからな」


「確かに左様でございますな。本来ならば織田家の格からしても信光様が大将を執るべき局面。それをあえて勝家に指揮を執らせたのは、弟の信行様の実力を極限まで測るため……そして、信行様が崩れかけた際に信長様が乱入すれば、その大功を林秀貞や土田御前様が隠蔽できないよう布石を打っていたのでしょう」


 勘助が明晰な頭脳で状況を紐解いていく。彼は味方以外の織田一族に対しても冷徹に『信光』『信行』と呼び捨てる。天下布武の道筋において障害となり得る者は、すべて冷静な観察対象として捉えている証拠だ。


「くっ……親父の手のひらの上で踊らされていたってわけか。もし俺が出撃しなかったら、信光叔父きが持ち前の精鋭で敵を蹴散らし、今川軍の背後を挟撃して一人で手柄を持っていく手筈だったんだろうな」


「なるほどぉ……流石は大殿ねぇ。どこまでも一枚上手だわ」


 養徳院が感心したように吐息を漏らす。


「ところで平手殿、肝心の論功行賞はどうなったのだ?」


 勘助が話を本筋へと戻した。


「ハッ! 信長様には那古野城の領主としての権限が即座に完全返還されました! 一方、後見人として不手際を重ねた林秀貞殿は筆頭家老の任を解かれ、居城である田幡城への謹慎・蟄居が命じられましたぞ!」


「ふ〜ん……で、代わりに筆頭家老に就いたのは誰なんだ?」


「それが……新たな筆頭家老の指名はございませんでした。『信長にはすでに出来のいい重臣や参謀が揃っておるようじゃから、今後の仕置きはすべて信長に任せる』との大殿からのお言葉でございます」


 政秀の言葉に、大広間がふっと和やかな空気に包まれた。


「これで晴れて、那古野城と周囲の領地は信長様の自由になりますな」


 沢彦宗恩が朗らかな笑みを浮かべ、快川紹喜も満足そうに頷く。


「志賀城で成功した富国強兵と政策を、那古野の城下町にも即座に適用させましょう」


「ところで信長様、形だけでも筆頭家老の役職は誰かに与えておいた方がよろしいかと。空席のままでは外部との折衝で何かと不都合が生じます」


 東信濃の豪族であった海野棟綱が、熟練の政治的観点から俺の顔を見つめた。


「そうねぇ、しっかりした家老を決めておかないと、色々と言いがかりをつけられますものねぁ」


 養徳院も同意する。俺は静かに目を閉じ、腕を組んだまま家臣たちの意見を待った。


「家老の役職であれば、海野殿がもっとも順当でしょうな。この志賀城での政務を某と共に執り行ってきたゆえ、尾張の行政や財政の仕組みもすでに完璧に把握されておられる」


 平手政秀が白髪の顎髭を撫でながら推薦すると、勘助も「うむ」と力強く頷いた。


「某も賛同いたします。海野殿の行政手腕と貫禄であれば文句のつけようがございません」


「よし……では当面の間は、仮の筆頭家老として海野棟綱に任せる。幸隆、棟綱と一緒に、田幡城へ引っ込む林秀貞から引き継ぎと帳簿の押収を徹底的にやってくれ」


「「ははっ! 謹んでお受けいたします!」」


 海野棟綱と真田幸隆が力強く頭を下げた。


 出仕停止は解除され、宿敵であった林秀貞は失脚。俺の手元には、最新技術と無敵の家臣団、そして完璧な自治権を持つ那古野城が戻ってきたのだ。


 俺の天下布武に向けた真の快進撃は、ここから本格的に幕を開ける。

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