↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界戦国記~戦国の世に大うつけ者で戦闘スキルが無いと追い出されたけど天下布武やっちゃうよ~  作者: ボルトコボルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/323

第72話 【秘宝の試練】牧場の主と吉乃の運命

 俺たちは鼻息荒く先を進む信清の背中を追い、広大な生駒家牧場の奥へと向かって歩みを進めていた。


 その少し後ろでは、おっとりとした歩調で歩く養徳院と生駒家当主・生駒家宗が、何やら密やかな会話を交わしているのが聞こえてくる。俺はそっと耳を澄ませた。


「家宗様、吉乃ちゃんをねぇ、うちの信長様の側室にお迎えするのはどうかしらぁ。吉乃ちゃんは確かまだ十九歳でしょう。若くて素晴らしいお娘さんじゃないのぉ。信長様はまだ十三歳ですけれど、これから益々凄まじく伸びるお方で、将来性も抜群ですよぉ」


(おおおっ!? 養徳院、なんてナイスな援護射撃だ! 最高すぎる!)


「それは私どもにとっても、願ってもないほどのお話でございますな。こうして実際に信長様とお会いしてみれば、噂に聞く『大うつけ』などとは程遠く、溢れんばかりの覇気をお持ちだ。まさに百聞は一見にしかず。連れておられる家臣の方々も、一人ひとりが恐ろしいほどの一騎当千の猛者ばかり。信長様は卓越した商才をお持ちだと思っておりましたが、これほどの圧倒的な武力と人を惹きつけるカリスマまで兼ね備えておられるとは……。親としてぜひにと思う気持ちは強いのですが、こればかりは『主様ぬしさま』が認めてくださらないことには、私の一存では何とも言えませんで……」


(おおおおおおっ!? マジか家宗殿! やったああああああっ!)


 思わず心の中でガッツポーズを決める。要するに、その生駒家の『主様』とやらを俺の【テイム】スキルで一瞬で従わせてしまえば、吉乃を側室として迎えられるということじゃないか!


「まあまあ、それは良かったわぁ! 『主様』に認めてもらえさえすれば良いのですねぇ。だったら何も心配いりませんわぁ、絶対に大丈夫ですともぉ」


 養徳院は穏やかに微笑みながら自信満々に頷いた。俺が異世界のあらゆる強力な魔獣を服従させる規格外の【テイム】能力を持っていることを、誰よりもよく知っているからだ。


「はは……養徳院様がそこまで仰るのなら……。うむ、もしも『主様』が信長様を認められ、信長様が追放されたまま織田の主家に戻られないようであれば、そのまま我が生駒家に婿養子として入っていただいても一向に構いませんな」


(婿養子!? それもそれで面白そうだが……いやいや、俺を信じて付いてきてくれた最強の家臣たちや、志賀城で待つ仲間たち、そして帰蝶のためにも、俺は尾張に戻って天下布武を成し遂げなきゃならないんだ!)


「あらぁ、それは魅力的なご提案ですけれど残念ねぇ。信長様は必ず主家に戻り、信秀様の後を立派に継がれますわぁ」


 養徳院が即座に優しく、しかしきっぱりと断ってくれた。


 背後で繰り広げられる大人の密談に聞き耳を立てつつ、俺は隣を歩く吉乃から牧場の歴史を聞いていた。


「信長様、実は昔、生駒家の御先祖様が、戦で酷い傷を負った『主様』を偶然見つけ、心を込めて手厚く介抱したことがございました」


「ふむふむ、なるほど」


 俺は歩きながら、吉乃の透き通るような美しい横顔をまじまじと凝視して話を聞く。そのすぐ横では、帰蝶が俺を吉乃に取られてしまうのを本気で恐れるように、俺の右腕にギュッと細い腕を絡めて身を寄せてきていた。すさまじい執着心と愛おしさが伝わってくる。


「その後、生駒家が重なる不運で財政難に陥り、滅亡の危機に瀕した際、傷の癒えた『主様』が何頭もの見たこともない素晴らしい馬を連れて、恩返しに現れてくださったのです。その馬の一部を売って危機を脱し、残りを大切に育てて増やしたのが、今の生駒家牧場の始まりでございます」


「へぇー! まさに恩返しの物語だな。素晴らしいじゃないか」


「はい。『主様』は今でも、この広大な牧場へ自由に気ままに出入りされております。時には数十年、あるいは数百年の間、姿を消されることもあったと聞いておりますが……思い出したように素晴らしい馬や、馬の姿をした強力なモンスターの群れを率いて、ふらりと戻って来られるのです」


「自由に放浪している魔獣というわけか」


「はい。昔、この牧場におりました折、『主様』が強く反対された婚姻を無理に強行した者がおりまして、その後に大変な悲劇が起きたそうなのです。それ以来、『主様』が牧場に滞在しておられる期間は、『主様』のお眼鏡にかない、認めていただいた婚姻のみを執り行うのが我が生駒家の絶対の掟となっております」


「そうだったのか……」


「私が前夫に先立たれ、傷心でこの牧場へ戻った直後、まるで合わせるかのように『主様』が牧場へお現れになりました。ですから私は現在、『主様』が去られるか、あるいは『主様』が認めたお方以外のところへお嫁に行くことは固く禁じられております」


「えっ……でも吉乃、本当にそれで良いのか? 家の掟とかじゃなくて、自分が本当に好きになった男のところへ嫁に行きたいとは思わないのか?」


 現代の感覚で思わず尋ねると、吉乃は不思議そうに細い眉をひそめた。


「何を仰いますか、信長様。婚姻とは家と家を結ぶ厳格な儀礼。武士や商人の娘が、家のために嫁ぐのは当然のことでございますわ。好きという感情は、嫁いだ後に旦那様と時を重ね、じっくりと育んでいけば良いのです」


 吉乃の言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせた。


 そうだ、ここは異世界戦国時代。現代のような自由恋愛など存在せず、武家や商家の婚姻はすべて政略結婚が当たり前の世界なのだ。男子は家を繁栄させるために何人もの妻を娶り、多くの子供を作る。男の立場からは好きになった女子を側室に迎えられるが、嫁ぐ女子の側からすれば選択権など最初から無いに等しいのだ。


 ふと、俺は自分の左右にいる少女たちに目をやった。


 右腕にしがみつく帰蝶と、左側から「僕も信長様のお嫁さんになるんだからね」と言いたげに不安そうな瞳で見つめてくるゆず。二人とも、俺が他の綺麗な大人の女性に夢中になって放置されるのではないかと、本当に心配そうな顔をしている。そして少し後ろでは、人化した美しきアラクネクイーンの直子が、珍しい牧場の風景に興味津々でキョロキョロと首を巡らせていた。


 この子たちは、政略や家の事情を超えて、純粋に俺という人間を信頼し、惚れ抜いてこの過酷な異世界戦国を共にしてくれている。


(――よし。女子側の想いに、男として絶対に全力で応えてやらなきゃな!)


 俺は心の中で固く誓い、帰蝶の頭を優しく撫でながら、前方を歩く信清の背中へと視線を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。