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異世界戦国記~戦国の世に大うつけ者で戦闘スキルが無いと追い出されたけど天下布武やっちゃうよ~  作者: ボルトコボルト


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第40話 筆頭家老の冷眼と拒絶の壁

 新しく配下に加わった木下藤吉郎、そしてテイムしたアラクネこと直子を我が家に迎え入れた俺は、すぐさま次なる課題に取りかかることにした。


 それは、膨らみ続ける家臣たちの俸給を確実に確保し、南蛮から最新式の鉄砲を大量に買い付けるための莫大な資金源を作り出すことだ。


 幸いにも、今回の『蟲の洞窟』の完全攻略によって、二つの強力な資金獲得ルートの目処は立った。


 一つは、アラクネと配下の蟲たちが吐き出す粘着性のない最高級の極上シルク糸を用いた、全く新しい機織り布の生産。そしてもう一つは、蜂たちが生み出す激レアな高品質の蜂蜜と、ドロップしたモンスター素材の売却だ。


 これらを実行に移すべく、俺は那古野城の政務を管轄する筆頭家老・林秀貞へと提言を行うことにした。


 俺はまだ十歳の子供であり、公式に領地の直接統治を行う権限がない。実質的な城下の行政や財政の指揮を執っているのは、筆頭家老である秀貞だからだ。


 だが、林秀貞は昔からどこか俺を冷ややかな蔑みの目で見ている節があり、個人的にはどうにも苦手な相手だった。そのため、俺の全幅の信頼を置くじいや・平手政秀に同席を頼むことにした。


 評定の間に座す林秀貞の前に腰を下ろし、俺はまず第一の経済政策として『楽市楽座』の導入を提案してみた。


 だが、案の定、秀貞は眉間に深いシワを寄せて苦々しい顔をした。


「吉法師様、そのような政策は断じて出来かねますな。南近江の六角氏が導入し、一定の成果を上げていることは聞き及んでおります。確かに規制を撤廃すれば商業が活発化し、一見すると領内の収入が増えるように思えるでしょう。……ですが、それは長年我が織田家を支えてきた寺社仏閣や特権商人たちの既得権益を直ちに侵害し、彼らを公然と敵に回すことを意味いたします。信秀様が領地拡大のために各所で死力を尽くして戦っておられるこの緊迫した時期に、寺社や商人どもを敵に回すことがいかに危険か……お分かりになりませぬか? 仮に提案されても、信秀様が断じてお許しになるはずがございません」


 秀貞の付け入る隙のない論理的な反論に、同席していた平手政秀もぐうの音も出ず、黙り込むしかなかった。


(うむ……甘かったか。そう簡単に変革を受け入れられるような世の中ではないのだな。俺がこの家のトップに立ち、絶対的な権限を握らなければ実行できない政策か……。だが、林秀貞も織田家の安全を第一に考えている。流石は筆頭家老と言うべきか)


 俺は思考を切り替え、第二の提案を口にした。


「では、こうだ。モンスターの糸を吐く蟲を使役し、その糸を織り上げることで、これまでにない極上の新布を大量生産する。その布を他国へ売り捌いて膨大な収入を得るのだ。これならどうだ!」


「……はぁ、モ、モンスター使役、でございますか? ……呆れて言葉も出ませぬな。吉法師様、お話になりません。仮にそのようなおぞましい真似が出来たとして、化け物の糸で商売をしているなどと周囲の国々に知れ渡れば、織田家は天下の笑いものになりますぞ。そもそも、領主たる武士が商売の真似事など考える必要は一切ございません。戦国の世であればこそ、ひたすら武芸を磨き、合戦で勝ち進むことのみをお考えくだされ!」


「しかし秀貞! 戦を執り行うには莫大な金子が必要不可欠だ! 領内の収入を増やす新たなる手立てを模索することも、領主として重要な務めであろう!」


 見るに見かねた平手政秀が、俺を庇うように強い口調で反論してくれた。


「政秀殿。現時点において、財政や政の裁量権は我ら家老の領分。元服を終え、然るべき成長を遂げられた若君ならいざ知らず、未だ十歳の幼少であられる吉法師様におかれましては、余計な浅知恵を絞る前に、ひたすら武芸と学問に励んでいただくことこそが最重要課題にございます」


(むむむ……林秀貞の言っていることは、建前としてはぐうの音も出ない正論だ。俺はまだ十歳の子供なんだからな……)


「それに、そのような外道の如き怪しげな政策は、織田家の嫡男であられる吉法師様の格式に到底相応しくありませぬ。どうしてもおやりになりたいのであれば、政秀殿の志賀城の領内で勝手におやりになれば宜しい」


(外道、か……。やはりモンスターを使役して産業を起こすという発想は、生粋の武士階級には受け入れがたい抵抗感があるのだな。これじゃあ蜂蜜の養蜂ビジネスも一蹴されるのが目に見えているな……)


 溜息を吐く俺に対し、林秀貞はさらに追撃するように、冷酷な眼差しをこちらへ向けた。


「吉法師様、恐れながら言わせていただきます。吉法師様が最近城下から連れ込み、勝手に抱え込まれた破落戸どもは目余るものがございます。者共を養うにはそれ相応の俸給が必要なのです。城の財政には、そのような役立たずのクズどもを養う余力など一切ございませぬ!」


「破落戸……クズだと!?」


 俺は激怒し、林秀貞を強く睨みつけた。


 だが秀貞は俺の鋭い視線など全く意に介さず、冷淡な声で淡々と話を続けた。


「そうではございませぬか。剣豪として名高い富田勢源殿や愛洲小七郎殿はまだしも、それ以外の者共は破落戸以外の何物でもございませぬ」


「秀貞! 言葉が過ぎるぞ!」


 俺は思わず立ち上がりかけたが、秀貞の言葉は止まらない。


「いいえ、今日は徹底的に言わせていただきます! まずは家柄も素性も分からぬ身分卑しい百姓ども!」


(高坂昌信と木下藤吉郎のことだな……)


「片目が潰れ、足の不自由な醜い男!」


(山本勘助のことか……!)


「派手で奇抜な、見るに耐えん奇行の服を着た男!」


(前田慶次のことだな……)


「粗暴で身だしなみも整えぬ、武士らしからぬ暴漢!」


(新免無二と鐘捲自斎のことか……)


「以前、信秀様を言葉巧みに誑かそうとした、インチキ幻術師の怪しい老人!」


(果心居士のことだな……!)


「口も開かず、最低限の礼儀作法すら知らぬ無礼な男たち!」


(佐々木小次郎のことだな……もしかして林崎甚助も含まれているのか? あいつらは極度の無口でコミュ障なところがあるからな……)


「そして、真っ昼間から酒を食らい、泥酔してくだを巻いている酔っ払いども!」


(杉谷善住坊は確定として、あとは山本勘助か……他にも誰か飲んでいたか……?)


「これを破落戸と言わずして、一体何と呼ぶべきでありましょうか!」


 林秀貞は冷ややかな蔑みの笑みを浮かべ、俺の集めた最高の英傑たちを、木っ端みじんに切り捨てたのだった。

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