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《ミティ》


 あたしはうんざりしていた。

 スラムで育ったあたしは、生まれ持った特殊能力のお陰で運良く代読屋として収入を得ることができていた。

 それは本当に幸運なこと。

 戦える能力者が評価されるのは知ってるけど、スラム育ちがそれを持ったところで、狙われるだけだ。

 奴隷にされて、死ぬまでこき使われる。

 そんな風になるくらいなら、特殊能力なんて必要ない。


 だからあたしは、特殊能力ってのは言わずに、文字が読めるってだけにして、代読屋として生活していた。弟分のレオンにも教えようとしてみたけど、難しいね。なにせ努力して出来るようになったことじゃないから、あたしからは「覚えて」としか言えないのだ。


 そんなこんなでその日も代読屋としてお客さんを待っていた。今日は歓楽区の馬車受付。もう春だし、冬の間に減った食料とかを買いにきた村人とかが帰るのを狙ってみた。

 ……なんかお嬢様っぽい人がいる。

 歓楽区じゃ絶対に手に入らないような、すごい服をきた2人組。あれ、お貴族様とかが住んでるっていう壁の向こうで買ったやつじゃないかな。銀貨がたくさん必要なやつ。いいな、あれ一着で何ヶ月生き延びられるんだろ。

 着てる人もすっごく綺麗。存在そのものが輝いているような錯覚すら覚える。ものすごい場違い感。


 そんな風に羨望の視線で2人を見ていたら、どうにも様子がおかしいことに気がついた。途方にくれたように立ち尽くしている。

 ……これは、もしかしてお客様?


「やっぱりか……」


 ため息とともにそんなつぶやきが聞こえてきた。

 身分違いの相手に声をかけるのは怖いけど、もしかしたら金ヅルになるかもしれない。

 うーん……ええい、女は度胸!


「お姉さん、文字読めないの?」


「……ええ。どうしようかと思っていたところよ」


 わーお。

 マジでお客さんだったよ。

 こんなに身なりがいいのに。不思議……だけど深くは聞かない。詮索好きは嫌われるんだよ、知ってた。


「制限時間付きの代読なら銅貨2枚。お目当の以来探しなら銅貨5枚。どう?」


 そんな服着てるくらいなんだから、このくらい余裕でしょ?

 と思ったら、銀貨しか持ってないらしい。さすがお嬢様。

 そういえば、壁の向こうじゃ銀貨でのやり取りが普通だなんて話を聞いたことがある。こっちじゃ、腕の立つ傭兵が難しい依頼をこなした時とか、遠出する時に物資を買い込んだりする時しか使わないってのに。

 とはいえそんなことでせっかくのお客さんを逃すわけにはいかない。お釣りで払ってもらえればいいと伝える。


「なるほどね。じゃあ5枚の方でお願い」


「毎度あり!」


 さっすが!

 お大尽!

 ニッコリと笑って依頼を聞く。

 注文は、出来るだけ早く、遠くへと行ける馬車。まるでここから逃げ出したいみたい。もしかしてお嬢様じゃなくて犯罪者?

 ま、いっか。お金くれるんだったらそれでいいや。


「じゃあ……うーんと、コレ!」


 良さそうな便を見繕って木板を手渡す。詳細を説明してあげると、満足そうな笑顔を浮かべた。

 馬車の予約をしたお嬢様たちからお金を受け取る。


「あなた、名前は?」


 うん? 名前?


「ん? ミティだよ」


「そう。ミティ、もう一つ仕事を頼みたいのだけど」


 えっ?

 何だろうか。お金持ちだし、割のいい仕事だと嬉しい。

 あ、けど、ここの代読を勝手に抜けるのもな……。

 まあいいや。聞いてから考えることにする。


「なーに?」


 お嬢様たちの依頼は、買い物に付き合ってほしいということだった。

 なるほどね。安い店紹介してってことでしょ?

 お安い御用だ。


「いくらくれる?」


「言い値で払うわ」


 やる!

 ちょっと待つように言って、馬車受付を飛び出した。

 ひゃっほい!

 代読はレオンに押し付けて、あたしはもっと稼げる仕事をするのだ!


「レオン!」


「わっ、何、ミティ」


「カモン! 仕事!」


「うわあぁぁ!?」


 孤児たちの溜まり場からレオンを引き摺り出し、駆け出す。

 悲鳴あげてるけど無視無視。あたしが読み書き教えてあげたんだから、このくらいは甘んじてしかるべしなのだ。


 ……走りながら、一つのアイデアが浮かび上がってきた。

 あの人たちはお金持ちで、この街から逃げ出そうとしてて、文字が読めない。

 孤児たちを見てきたあたしは知ってる。文字が読めないって大変なことなのだ。それが原因で奴隷にされて、酷い目に遭って死んでいった仲間が何人もいる。親が文字が読めなかったから孤児になった子もたくさんいる。

 みんなそれが当たり前だと思ってるけど、違うんだよ。


 ってことはさ。

 あの人たちに優秀さをアピールできれば、高いお金で雇ってもらって、この街からも連れ出してもらえて、良いことづくめじゃない!?

 あ、なんかすごく良いアイデアな気がしてきた。

 よし、狙ってみよう。


 アピールチャンスは思いのほか早くやってきた。

 お嬢様が買い物のメモを作り出したのだ。

 やっぱり、この国の言葉がわからないだけだったのか。お金持ちだもんね、読み書きくらいできるよね。

 そっと木板を覗き込むが、やっぱり見たことのない文字だった。


 けどあたしには関係ない。

 あたしは、どんな文字だって読めちゃうんだから。


 買い物リストを見て、口を開く。


「油紙とかあった方がいいんじゃない?」

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