6:赤井絵美
「さぁ、どうぞ召し上がってください。お口に合えばいいのですが」
「あ、ありがとう」
赤井絵実。18歳、大学1年生。
か、軽い冗談のつもりだったんだけどな〜
こんな本格的な料理つくってくれるなんて・・・
友人と訪れたレストランで働いていた男。
冗談で言った一言で、自分のためだけに手料理をご馳走してくれた。
原田大貴。21歳、料理人。
「ぅ、わ おいし」
何っ!!このホワイトソース!!
甘くてふんわりして心地よく重みがあって、でもこってりしてないからいくらでも入る!
「気に入っていただけましたか」
「やっバイですよコレ。めちゃくちゃおいしい」
「簡単ですよ。今度レシピを教えましょう」
大貴は照れたように笑った。
つられて絵実も照れてしまう。
「・・・あ、は 作れるかな」
「女性の舌は繊細ですからね。多分僕なんかよりずっとニュアンスの効いた料理ができると思いますよ」
う・・・む、難しいな。
大貴は皿を片付けながらテキパキと机の上をきれいにする。
「もし、お腹がいっぱいでなければもう一品あるのですが」
「ぜひ!!」
よかった、とにっこり笑う大貴に、絵実は顔を真っ赤にしてしまう。
め、めちゃくちゃかっこいい・・・
以前レストランに行った時、大貴はコックの着るような白いユニフォームだったのだが、
今日は普段着。
黒い大き目のシャツにタイトなジーンズ、黒いくるぶしまである前掛け。
細めの体に、引き締まった腰がたまらなくセクシーに見える。
まだ若いのに、オトナだー。
「どうぞ」
絵実が大貴に見とれているうちに、大貴は二品目を持ってきた。
差し出された大き目の皿には花びらをかたどったサーモンと肉のミルフィーユ。
「わーきれい!!」
「サーモンと肉の間の緑色は大葉です。大丈夫ですか?」
「細かくなってるから全然平気!」
鴨肉・牛肉・生ハムをごくごく薄く切りにし、その上に千切りにした大葉、
その上にまた薄く切られたサーモン、が2層または3層になっている。
それぞれは冷たいが、鴨肉用に熱々のソースが添えられている。
「このソースは鴨肉用ですが、牛でもいけますよ」
絵実はくるんと器用にフォークで肉を掬い取り、ソースにつけてみる。
冷たいままだと、さっぱりしていて前菜、と言った感じだが、
熱々のソースをつけるとまた味もずいぶん変わり、
一口サイズであるにもかかわらずそれだけでメインディッシュだ。
「うわー、この差別は凄い!」
ん?何か自分でも評論家みたいになってるような・・・
「ふふ、ありがとうございます」
つられて絵実も笑顔になる。
うーん。すっごいまったりしてる。
「デザートいかがですか?」
「もちろん!ところで大貴さん。何で敬語なんですか?」
皿を片付けながら大貴は困ったような顔で考える。
「んー、これ、地なんですよ。皆には落ち着きすぎておっさんくさいって言われますけど」
顔は若いが、雰囲気が落ち着きすぎていて、年を上目に見られる。
「そうなんですか」
「そうなんですよ」
・・・どうしよう、ものっすごく好きだわ、この人。
どうしよう。
どうしよう。
どー・・・・
「大貴さん!」
「はい」
大貴はにっこりと笑い返事をする。
はっ。また口が先にっ
「・・・」
「どうしました?・・・お腹壊しました?」
どーしよーどーしよー
「・・・」
「絵実さん?」
えぇ〜いっ
「・・・くっ・・・こっ」
声が裏返った!!
「??」
「好きです!!付き合ってください!!」
顔を真っ赤にしてうつむく絵実に、大貴は困ったように微笑みかける。
絵実はその表情を見て、肩を落とした。
ふ、雰囲気に流されて告白しちゃったのかな私。
恥ずかしー
何か言ってよ
「・・・デザートお持ちしますね。ちょっと待って下さい」
へ??
何それ
しばらくたって大貴はデザートを手にしてやって来た。
デザートを・・・
デザート・・・
「桶・・・ですか?」
「・・・ギャグです」
桶・・・おけ・・・おけ・・おっ・・・け・・・
「O.K??ですか」
「はい」
「ほんとですか」
大貴は真っ赤な顔で改めてデザートの皿を差し出した。
「僕は一目ぼれだったんですよ」
皿に乗っていたティラミスは、ハート形に模られていた。
――――――――――――――――――――――
「お前の妹さ、何かオトナっぽくなったよな」
「あ?あぁ、彼氏が出来たらしいぜ」
「えー!俺狙ってたのに」
「ヤだよお前なんか」
「お前と付き合うわけじゃないんだぜ」
「わかってるよ!!馬鹿はイヤなんだよ!」
「おまっ、お前苗字でてんだぜ」
「はっ、そうだった。」
「ちぇ、いいよなー、ア・カ・イ君」
「苗字だけだろ」
「っはー?!俺なんて苗字すら出てないっての!!」
「気にすんな今度出るって」
「本トか?」
「・・・作者に聞けよ」
「ホンとか??作者!!」
・・・
「コラ、作者?!」
・・・
「無視決め込んでるな」
「しどいー」
・・・・・・・・・・・・・・
おしまい