契約って?
ちょっと短いです。
「それで?あなたは誰なんですか?」
私の質問に男はにっこりと蕩けるような顔で答えた。
「竜だよ。菜穂には俺のご主人様になってもらうんだよ」
「はあ?竜?お前人じゃねえか」
男は龍の疑問には答えず、私に後ろからぎゅうと抱きついた。
龍のスラックスを借りた男は、別にオシャレでもない服を着ているにも関わらず、とてもオシャレに見えてくるものだから、美形というのはつくづく得である。前に龍が着ているのを見たけど普通だった。
ただ、龍は身長だけは高いので、180センチはゆうに越えるであろう男が着ても、ピッタリサイズが合っていた。男のほうが筋肉質なので少しキツイようだけど。
「おい、なんで無視すんだよ」
「菜穂に近づく男は全部敵だ」
「はあ?弟なんだから男も女もないだろ」
「……」
「っはああー…もうねえちゃん何とかしてくれよ」
龍は頭を抱えて項垂れた。身長が高いせいでもともと猫背なのがさらに曲がった。
私は意を決してお腹に回された男の手を見ながら口を開いた。
「あのぅ…」
「ん?なに?菜穂」
視界の端で龍が「うわっ甘っ…かゆいんだけど!」と小言を言って二の腕を掻いているのが目にはいる。
「わ、私、人のこと無視する人って嫌いなんですけどっ!!」
私の言葉に「お?いいぞいいぞ」と龍がヤジを入れた。
恐る恐る後ろを振り向くと、男は首を傾げた。
「俺、人じゃなくて、竜だよ」
がくり。私と龍は二人して項垂れた。
「っえっとじゃあ、その…、竜なのに人の姿なのはどうして?」
「竜は人型に変身出来るんだ。大人になるとすごく大きくなるから身を隠すためにみんな人型で暮らすんだよ」
「じゃあ、ご主人様って…?」
「竜は卵の時に気に入った人間をご主人様として契約するときがあるんだ」
「契約ってなんだよ」
「……」
「人のこと無視する竜って嫌い」
「契約って言うのは」
「分かりやすいやつだな、おい」
龍が疲れた様に言うと、男は私を抱き締める腕に力を入れた。
「主従関係を結ぶのと、あとは人間の言う結婚かな」
「「結婚!?」」
私、まだ学生なんですけど。しかもまだ16歳なってません。
「…そ、それで?その契約はどうやって結ぶの?」
男は私をじっと見て、にっこりと嬉しそうに笑った。
「性交渉だよ」
「「……」」
それは…初対面の人になんの恥ずかしげもなく言う言葉じゃないと思うなー…。