54 伝統の刺客
ガラスペンの個展から一週間後。私はいつも通り引導を終え、オフィスに戻っていた。前に引導した例の亡霊の引導数の影響なのか、課長から『引導はしばらく控えめに』と注意されてから早一週間だ。
「ツムギ!ツムギ!!」
「ん?っうお!?」
トアはまさかの大ジャンプでツムギの顔面とぶつかっていた。痛そうだ。
「ってぇ~!!!と、トア!顔は勘弁してくれよ……いてて」
「テヘペロ☆」
「……はいはい、お決まりのね。で、ミラ?前に言ってた設計図の件だけど……」
一週間も経っていたのに、私はツムギにカイトの存在を伝えるのをすっかり忘れていた。
「あぁ、そうそう。設計者が見つかったぞ。ミラーメトロの設計図も描いてもらう。ミラーメトロのことも説明した。……理解したかどうかは保証できないけど。」
「え、えぇ!?見つかったのか!!いつの間に!?」
ツムギは驚いている。あれだけ苦労していた設計図だ。嬉しいだろうな。
「たっだいまぁ~っ!!ねぇねぇ今からさっ……」
アリスだ。元気そうに帰ってきた。
「”彼岸屋に行こうよ”って言う気だろ?そうだよねアリス?」
「カイトカイトカイト~ッ ッテキコエル」
アリスの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「カイト?そういう名前なのか?てかなんでそんなに心の中でカイト連呼してんだ?」
反撃決まった。ツムギについてはカイトのことをまだ何も知らない。知らないことは末恐ろしい。
「ちょ、ちょっとあんた達~っ!!」
こういう時の私たちのスタンスは良く揃うのだ。
「事実を言っただけだ。当たってただろ?」
「エ ソウヤッテキコエタヨ?」
「素朴な疑問です」
アリス以外の3人はスンとした様子であっさり言い返した。3対1とは分が悪そうなアリスだった。
「もーーーーっ!!!!」
おそらくこれ以上煽るのは野暮だろう。私はいつも通りの顔に戻しておいた。
「あははっ、ごめんごめん。で、彼岸屋に行くんだろ?ツムギをカイトにも会わせたいし。行っていいか?」
アリスはまだ少し拗ねながらも頷いた。私達はオフィスを出て、彼岸屋へと向かった。
——その日、とんでもないことが起こっていたとは知らずに——
「あ!カイト!やっほ~…………ってえぇ!?」
アリスの顔が固まっている。
「……ん、……アリスか。よっ」
「よっ、じゃない!!」
後ろにいた私たちもカイトの方を見た。カイトの頬には痛々しい傷が。白いテープやらなんやらが貼ってある。
「ど、どういうことなの顔!?!!」
アリスがカイトに駆け寄っている。あんまり焦ってはいないカイトだ。トアとツムギは顔を見合わせている
「コレ?……大福一気に口に入れすぎて口が裂けてよぉ~参ったぜ☆」
「いや下手くそか。もうちょっとマシな嘘つけよ」
間髪入れずに私は言い放った。さらっとあいつトア直伝のウィンクマスターしてやがる。アリスは縁台に座っていたカイトのそばにしゃがみ、カイトの頬を手で確認しようとしている。
「な、なんで嘘だと分かった?すごいなミラ!」
「騙される方がおかしいって」
そのタイミングでトアがツムギの肩から降りてきた。
「ナンダ ダイフクデクチガサケタワケジャナ……」
そう言いかけた途端ツムギが咄嗟にトアの口を塞いでいた。何か小声でトアに伝えているようだが、意外と丸聞こえだった。
(お、おいトア!い、言うなっ!恥ずかしいだろっ!!)
(デモ ソウキコエタ……ムググッ)
(き、聞こえたからって何でも言っていいわけじゃねぇっ!大体なんでこの絶妙なタイミングで音を拾うんだよっ!?)
……ツムギは騙されたらしい。まぁしょうがないと言えばしょうがない。アリスはポップティアーズで治せないかなと焦ってるが、カイトの話を聞かない限り定義ができないので何もできないだろう。アリスの手が止まっているのが何よりの証拠だ。
「な、何があったのか説明して!カイト!!今すぐ!!!」
アリスは鬼気迫る顔で言っている。あんな顔をアリスがしていることなんか滅多にない。カイトもさすがに少し驚いていた。
「え、あの、その……。あんま良い話じゃないんだ。あのガラスペンもらってからちょっと経って、設計図を描き上げることができたんだ。できたんだが……」
カイトはこの一週間で、描けなかったはずの設計図を無事に描き上げ、課長のもとへ提出しようとしていた。
「親分~描けましたぜ!最近壊れた船の設計図~。どうっすか?」
親分は紙を受け取って確認している。あ、親分の前でぐらいは白の羽織着とかないとまずかったわ。
「素晴らしい出来だぞ!やるなカイト!!」
「やった~ミラのペンすげぇ!お礼考えとかないとな」
「よし、早速この設計図をもとに……ん?来客か。すまんなカイト。君は仕事に戻れ」
「うぃ~、じゃなくて。はい。」
来客はあんまり船頭課には来ない気がするんだけど。なんだろうな。まぁ、いっか。そういや今日弁当にカツ丼持ってきたんだっけ。先に食っちゃおうかな……。
「カイト!すまんが来てくれ!君の師範がいらっしゃったぞ!」
「え、カツ丼……はあとで食えばいっか。今行きまーす」
カツを一切れだけ口にくわえて親分の部屋へ戻った。カツ飲み込んでから部屋に入った。
「久しいなカイト。我らがカツて作った船が破損したと聞いてな。設計図はお前が描いたそうだな?素晴らしい出来だぞ!」
「ありがとうございます師匠。俺、頑張ったです」
「で、課長さん?この船はもちろん我らの徒弟に作らせてくださいよ?この造船の名門家が作った船だったわけですから。そこはしっかり頼みます。では。これで。精進するのだぞカイト。」
「はい。」
師匠は帰っていった。親分は眉間にしわを寄せている。笑っちゃいそうかも俺。
「俺、あの人苦手なんだよなぁ~。……それに困ったぞ。あの造船の名門家出身の社員は今、他の船の修復やらでおそらく手が空いている奴がいねぇ。最近送られてくる魂の数も増えてきてるから船を増やすことも考えて人員配置してしまったし……でもあの師範口うるさいしなぁ……」
「どゆこと?親分」
「カイトが描いてくれた設計図をもとに船を造るのはまぁそうなんだが……お前さんの師匠が、自分の弟子に船を造らせることにこだわってんのよ。名門出身者に造らせたいのだろうが……もちろんその事情はわかる、わかるんだが。今その出身者は手が空いていない。しかし最近送られてくる魂は増える一方だから、さっさと造ってしまいたいところなんだが……。どうしたもんか。」
親分の眉間にさらにしわが寄ってる。笑っちゃいそうな気が失せるほど深刻そうだ。うーん、これ言っていいんかな、でも思いついちゃったしな、口は簡単に止まらない。
「……俺らの名家の製作者に……『リュウガ』ってやつがいる。俺、そいつにちょっと頼んでみるわ。うまくいかない気もするけど、親分のその顔に免じてちょっくら行ってくる。」
「お、おう……。……俺の顔に免じて?え?」
カツ丼はあとで食うことにしつつ、俺は1回会社を出た。とりあえず出てきちゃったけど……正直リュウガの居場所と言っても、思いつかないんだよなぁ。あいつ、今どこにいるかわかんないんだもん。勝手に出て行ったっきりだったし。俺はスゴイ気にしてはいたけど。とりあえず灯篭トンネルを抜けて、目の前の川を渡った。俺の師匠の名家がある土地だ。えーどこにいるんだろ。
「……ん?何だこの紙。張り紙?」
通りすがりの店の窓に貼られている紙が目に入った。これは……
『暴力事件防止!見つけ次第拘束いたします!』
「……暴力事件?」
ピンとこない。何のことだ?まぁいいや。俺は暢気に歩いていた。リュウガ、どこにいるんだろ。……!
「……待って。あれって、リュウガ!!あ、路地裏入ってった!待って!!」
俺多分夢中だった。まさか見つけられると思ってなかったし。でも俺、リュウガが出てってからずっと気にかけてたし、消息も不明になってたから、気がかりだった。こんなうまく見つけられることなんてそうそうない。追いかけなきゃ……追いかけなきゃ!
ご覧いただきありがとう。カイトだ。質問が来てるらしいんだ。作者から。なんだろ。
Q,なんで設計の方がよかったの?
A,俺,組み立てるの苦手だった。でも描くの好きだった。昔生きてた時に虫取りを誰かとしてたんだけど,俺虫捕まえるよりその虫見てる方が好きだった。
じゃ,また見てな。あ,あとなんか作者が,『じれったいし,もう全員分の設定資料アップしたら反響がどうなるか気になってしまった』とかほざいてたぞ。




