元パーティーが訪ねてきた。ざまあ……の前に呪いにかかってるって本当?
彼らが来たのは、朝靄がまだ森に残っている時間だった。
俺が水路の落ち葉を取り除いていると、木が教えてくれた。
『人間が四人、こちらに向かってきておる。若いのに、疲れた顔をしとるな』
「ありがとう。わかりました」
立ち上がって待っていると、しばらくして茂みをかき分けて四人が現れた。
エリク。
回復魔法使いのシーナ。
斥候のカイン。
重戦士のバルドだ。
一年間、一緒にダンジョンを潜り続けた四人。
追放してきた四人でもある。
全員、顔色が悪かった。
エリクの金髪は艶を失い、目の下に隈がある。シーナは頬がこけている。カインは左腕を庇うように体をひねっていた。バルドはあの巨体がひとまわり小さくなったように見えた。
四人は俺の顔を見て、立ち止まった。
先に口を開いたのはエリクだった。
「……久しぶり、アルト」
「久しぶりです」
「元気そうだな」
「おかげさまで」
沈黙が落ちた。
鳥が鳴いている。風が葉を揺らしている。
エリクが手に持っていた包みを差し出した。
「土産だ。王都の菓子職人のやつ。お前、甘いもの嫌いじゃなかったよな」
「ありがとうございます。せっかくなので、一緒に食べましょうか」
四人が顔を見合わせた。
「……いいのか?」
「どうぞ。立ち話も何ですし」
俺は小屋に向かって歩き出した。
四人が、おずおずとついてくる。
*
小屋に入ったとたん、シルフィアと四人が鉢合わせた。
シルフィアが四人を見た。
四人がシルフィアを見た。
シルフィアの目が、すうっと細くなった。
「……あなたたちが、アルトを追放した人たち?」
エリクが「な、なんで知って——」と言いかけた。
「精霊から聞いたわ。この森にアルトが来た経緯は全部」
シルフィアの声は穏やかだったが、温度がなかった。
「ご用件は何かしら。まさかまた都合よく連れ戻しに来たとか、そういう話じゃないでしょうね」
「シルフィア」
俺が呼ぶと、シルフィアが「何よ」と振り向いた。
「とりあえず話を聞いてから」
「……」
シルフィアは不満そうだったが、壁際に寄って腕を組んだ。
監視する気満々の立ち位置だ。
俺は茶を淹れて、土産の菓子を皿に出した。
四人は座るように言われても、なかなか座らなかった。
最終的に、エリクが床に膝をついた。
そのまま、頭を下げた。
「アルト。謝りに来た」
俺は茶を注ぐ手を止めなかった。
「聞いてます」
「俺たちは最低だった。お前のスキルを馬鹿にして、報酬も払わずに追放して……言い訳のしようもない」
エリクの後ろで、シーナとカインとバルドも頭を下げた。
「でも——」
エリクが顔を上げた。
その目は、かなり必死だった。
「頼めた義理じゃないのはわかってる。それでも、お前しか頼れないんだ、アルト」
*
話を聞いた。
追放の翌日、四人はダンジョン最奥部の踏破に成功した。
ところが最奥部に祀られていた古代の祭壇に触れた瞬間、全員が奇妙な呪いにかかった。
体力の上限が日に日に削られていく、消耗の呪いだ。
放置すれば、三ヶ月以内に全員が寝たきりになる。
王都の解呪師に駆け込んだ。手も足も出なかった。
神殿の神官に祈ってもらった。効果がなかった。
古文書を漁り続けて、ようやく一行の記述を見つけた。
——この呪いを解くは、万物の声を聞く者のみ。
「俺に解呪しろ、ということですか」
「頼む」
エリクが再び頭を下げた。
俺はカップに茶を注ぎ終えて、四人の前に並べた。
壁際のシルフィアがこちらに刺すような目を向けていた。
口には出さないが、全身で「断れ」と言っている。
俺は少し考えた。
怒りは、あるか。
……正直に言えば、ほとんどない。
追放されたとき「やっと自由になれる」と思ったのが本音で、あれ以来ここでの生活が楽しくて、恨む暇もなかった。
困っているか。
目の前の四人は、明らかに困っている。
答えは、出た。
「解呪できるかどうかは、呪いを見てみないとわかりません。でも、試すことはできます」
エリクが顔を上げた。
「……いいのか」
「ただ、条件があります」
「何でも言ってくれ」
俺は四人を見回した。
「報酬はいりません。そのかわり——謝罪は今日で最後にしてください。ずっと頭を下げられても、俺が落ち着かないので」
四人が、揃って間抜けな顔をした。
シルフィアだけが「はあ!?」と声を上げた。
「ちょっとアルト! そんな条件でいいの!? もっと絞り取りなさいよ! 慰謝料とか、謝罪文とか、二度と近づきませんの誓約書とか——」
「シルフィア」
「何よ」
「茶が冷める」
「そういう話じゃない!!」
シルフィアが声を荒げた。
エリクたちが、びくりと肩を震わせた。
俺はシルフィアを見た。
「ありがとう。怒ってくれて」
シルフィアが、ぴたっと止まった。
「俺の代わりに怒ってくれる人がいるのは、悪くない」
「……っ」
シルフィアが真っ赤になって顔を背けた。
エリクが呆然とした顔で、シルフィアと俺を交互に見ていた。
それから小さく「そうか……」と呟いた。何がそうなのかはわからない。
*
呪いの確認は、午後に行った。
四人に順番に手を当てて、体の声を聞く。
呪いは確かにあった。魔力で編まれた、複雑な干渉だ。
でも——声を聞けば、ほどける糸口がわかる。
「解けます。ただ、一度に全員は無理です。一人ずつ、四日かけて」
「本当か!」
「ここに泊まりますか。エルデ村に宿はないけど、村長に頼めば離れを貸してくれるかもしれない」
エリクが目に力を取り戻して、深く頷いた。
夕暮れ時、シルフィアが俺の隣に立って、村へ向かう四人の背中を眺めた。
「……優しすぎるわよ、あなた」
「そうですか」
「そうよ。あんな連中——」
「シルフィアは、俺がもっと怒ったほうがよかったですか」
シルフィアが黙った。
少し間を置いて、ぼそっと言った。
「……そういうところが、ずるいのよ」
「何がですか」
「自分で考えなさい」
土が以前も同じことを言っていた気がした。
どうやら俺には、考えてもわからないことが多いらしい。




