幕間(後編) レグノルの残響
レグノル王都。
王城が消えたその日、街は沈黙に包まれていた。
だが、完全に崩れたわけではない。
城壁の外では兵士たちが瓦礫をどかし、負傷者を運んでいる。
広場には簡易の治療所が設けられ、回復魔法の光が絶え間なく灯っていた。
王城は消え、周囲はクレーターになり黒煙を吐いている。
しかし王都はまだ残っている。
◆
城壁近くの仮設指揮所。
崩壊した城壁の内側に張られた天幕の中、セリナは地図を見つめていた。
「被害状況は? ……それと、ヴォルコフは」
カイが答える。
「王城は完全に消失」
「周辺の建物も全壊が多い」
だが続ける。
「それでも王都の機能は維持できています」
「ヴォルコフは捜索中です」
セリナは一瞬、悲痛な表情を見せた。
だがすぐに切り替える。
エリーナが報告する。
「避難民の誘導は順調です」
「残存騎士団も動いています」
セリナは静かに頷いた。
王城は失われた。
だが王国はまだ終わっていない。
そのとき、腕を組んでいたバルドが言った。
「……妙だな」
カイが視線を向ける。
「何がだ」
バルドはクレーターの方を顎で示した。
「七聖だ」
「奴ら、急に退きやがった」
「まだ戦えただろ」
カイも頷く。
「確かに。アルディアスには余裕があった」
エリーナが小さく言う。
「でも……撤退しました」
セリナは空を見上げた。
煙の向こう。
雲の奥。
七聖は、何かに呼ばれたように去っていった。
「……何が起きている」
◆
その時だった。
遠くから馬の蹄の音が近づいてくる。
「伝令!」
兵士が天幕へ駆け込んだ。
全身に土埃をかぶった早馬だった。
「リーデルより緊急報告!」
天幕の空気が張り詰める。
「各地のダンジョンで異変が発生!」
カイが眉をひそめる。
「スタンピードか?」
兵士は首を振る。
「それ以上です!」
「魔物の出現数が急増!」
「すでに村が襲われています!」
天幕が静まり返った。
セリナは一瞬だけ目を閉じる。
そして開いた。
王の瞳だった。
「国内の安定を優先します」
カイが頷く。
「了解」
「避難民の保護」
「王都の復旧」
「各地の警戒を強化」
セリナは続けた。
「七聖の動きも気になりますが……」
視線を遠くへ向ける。
「今は民を守ることが先です」
◆
その頃。
テンレア同盟。
七つの巨大ダンジョンで――
スタンピードが発生していた。
そして。
その混乱の中で。
一つの城塞都市が、静かに危機へと近づいていた。
テスラ城塞都市。
冒険者ギルド。
そこに集められたのは――
Sランクパーティー。
白狼の牙。
これが、
秩序が崩れ始める最初の兆しだった。




