幕間(前編) 崩落の底
轟音が消えたあと、残ったのは静かな沈黙だった。
レグノル城の地下。
崩落した玉座の間の階下。
瓦礫の中で、最初に聞こえたのは石が転がる音だった。
「……っ」
セリナはゆっくりと目を開ける。
肺に入り込んだ粉塵。
少しの間、咳き込む。
落ち着いて、辺りを注意深く確認する。
砕けた石床。
崩れた天井。
ここがどこかを理解するまで、数秒かかった。
「……地下?」
体を起こす。
その瞬間、遠くから声が聞こえた。
「セリナ様!」
エリーナだった。
「ご無事ですか!」
瓦礫を乗り越え、エリーナが駆け寄る。
セリナは小さく頷いた。
「大丈夫……」
だが視線は周囲を見回している。
上を見上げると、玉座の間は完全に崩壊した様子だった。
床はなく、巨大な穴が空き、空が見える。
カイが瓦礫を払いながら立ち上がった。
「……なんて威力だ」
バルドも顔をしかめる。
「城が……吹き飛んだぞ」
その時。
セリナは周囲の景色を見て、ふと息を呑んだ。
崩れた石柱。
古い装置の残骸。
苔に覆われた壁。
「ここは……」
小さく呟く。
「私とアオトが出会った場所……」
地下遺構。
あの白いカプセルが眠っていた場所。
エリーナが不安そうに言った。
「セリナ様……」
「上、どうなっているんでしょう……」
誰も答えられなかった。
遠くで石が崩れる音がした。
地下遺構も完全ではない。
量子砲の衝撃はここまで届いていた。
「ここは危ない」
カイが言う。
「早く地上へ出ましょう」
崩れた通路を進む。
一度通った道、幸いにも通路はまだ残っていた。
瓦礫を越え、砕けた階段を登る。
やがて、上から光が差し込んできた。
◆
地上。
そこに広がっていた光景に、誰もが言葉を失った。
レグノル城は――
その姿を消していた。
巨大なクレーター。
地面は溶け、黒く焼け焦げている。
瓦礫の山からはまだ煙が立ち上っていた。
熱気が空気を歪ませている。
エリーナが震えた声で呟いた。
「……城が」
カイが低く言う。
「……跡形もない」
かつて玉座の間があった場所。
そこには今、巨大な穴だけが残っていた。
遠くで人々の声が聞こえる。
兵士。
避難民。
混乱。
レグノルはまだ生きている。
だが――
王城は失われた。
セリナはゆっくりと息を吐いた。
そして言う。
「……戻りましょう」
紫紺の瞳が煙の向こうを見据える。
「王都を立て直す」
◆
その頃。
遥か遠く――
ファランシア保存区画。
アオトは静かに眠っていた。
リムが端末を操作しながら、呟く。
「……無茶をしましたね」
モニターには警告が並んでいた。
《神経負荷 危険域》
《同期率 強制遮断》
リムはアオトの額に触れる。
「脳が焼き切れるところでした」
「少し眠っていてください」
その時。
端末の画面に、新たな波形が現れる。
魔力の異常。
リムの目が鋭くなる。
「……?」
◆
レグノル地下。
崩れた遺構の奥。
暗闇の中。
黒い染みが――
ゆっくりと動いていた。
(幕間 後へ)




