第二部 第79話 軍の再編と王都の影
新生レグノル軍――
聞こえはいい。
だが兵士達の練度の差は大きかった。
この日もアルヴァ砦の訓練は、日が傾くまで続けられていた。
剣の音。
槍の衝突。
怒号。
砦はまるで生き物のように動いていた。
◆
訓練場の中央。
ヴォルコフが若い兵を叩き伏せる。
「甘い!」
木剣が弾かれ、兵は尻もちをついた。
「戦場では今の一瞬で死ぬ」
白髪の騎士団長は息も乱していない。
周囲の兵が固唾をのむ。
◆
その様子を見て、バルドが笑う。
「年寄りってレベルじゃねぇな」
横でカイが言った。
「レグノル第三騎士団長だ」
「伊達ではない」
◆
倒れた兵にヴォルコフが手を差し出す。
「立て」
若者は慌てて起き上がる。
「もう一度だ」
その声には怒りではなく――
誇りがあった。
◆
少し離れた場所。
エリーナが空を見上げていた。
風の流れを読む。
谷の上空。
異常はない。
だが。
胸の奥に、微かな不安が残っていた。
「……あの黒いもの」
昨日の光景が頭をよぎる。
地面から這い出した染み。
兵を飲み込む影。
◆
同じ頃。
中央塔の作戦室。
カイが地図を広げていた。
「現在の兵力」
副官が報告する。
「約九百」
「民兵含め千に届きます」
バルドが口笛を吹く。
「倍以上じゃねぇか」
◆
カイは地図を叩く。
「だが問題も倍だ」
指が補給路をなぞる。
「食料は十日」
「武器は不足」
「鎧はほぼ無し」
そして静かに言う。
「それでも――」
◆
外から歓声が聞こえる。
民兵たちの訓練が終わったらしい。
◆
カイは窓の外を見る。
兵。
農民。
騎士。
混ざり合っている。
「軍になり始めている」
◆
バルドが笑う。
「いや」
「もう軍だろ」
◆
その時だった。
見張り兵が駆け込んでくる。
「報告!」
「北街道に斥候を確認!」
カイが顔を上げる。
「敵か」
「不明」
◆
カイは少し考えた。
そして言う。
「放置しろ」
バルドが眉を上げる。
「いいのか?」
「いい」
カイは静かに言った。
「見せてやる」
「アルヴァの今を」
◆
谷には旗が立っている。
レグノル王家の旗。
その下に集まる軍勢。
◆
その様子を遠くの丘から見ている者がいた。
黒衣の影。
七聖聖導軍の斥候だった。
◆
ジュリア直属の斥候が呟く。
「情報は正しい……本当に軍の形になり始めている」
ジュリアに報告するため、踵を返す。
◆
報告はすぐにジュリアへ届く。
新生レグノル軍。
その存在が――
ついに七聖の前に突きつけられる。




