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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第76話 アルヴァ砦再進軍

 アルヴァ砦の爆発から、一夜が過ぎた。

 谷の外に設けられた野営地では、まだ煙の匂いが残っていた。

 負傷兵のうめき声。

 簡易の担架。

 包帯に染みた血。

 戦場の余韻は、静かに広がっていた。

 軍議用の天幕の中。

 カイが地図を見ていた。

「被害は……」

 副官が報告する。

「戦死者四百名」

「重軽傷、百六十」

 沈黙が落ちた。

 アルヴァ攻略戦は、勝利ではなかった。

 誰もがそれを理解していた。

 セリナは黙って聞いていた。

 拳を強く握っている。

 やがて静かに言った。

「……もう一度、アルヴァへ向かう」

 天幕の中の視線が集まる。

 バルドが腕を組む。

「姫様」

「俺も同じこと考えてた」

 カイも頷く。

「同感です」

「昨夜の爆発で砦の戦力は壊滅している可能性が高い」

「今なら、占拠できる」

 エリーナが不安そうに言った。

「でも……」

「あの黒いものは」

 カイは短く答える。

「わからん」

「だが」

 地図を指す。

「放置するわけにもいかない」

 ここを押さえなければ、レグノルにはいけない。

 セリナが頷く。

「行く」

 それだけで十分だった。

 昼。

 レグノル軍は再び谷へ入った。

 昨日と同じ道。

 だが――

 戦場の空気は違っていた。

 崩れた城壁。

 焼け焦げた石畳。

 倒れた塔。

 アルヴァ砦は、半壊していた。

 兵の姿はない。

 聖導軍の気配もない。

 バルドが周囲を見回す。

「……静かすぎるな」

 カイも同じことを思っていた。

 兵に指示を出す。

「警戒しろ」

「罠の可能性がある」

 だが。

 何も起きない。

 レグノル軍は、抵抗もなく砦の中へ入った。

 中央制御塔。

 崩れた石を乗り越え、セリナたちは中へ入る。

 そして。

 全員が足を止めた。

 魔導炉があるはずの場所。

 そこにあったのは――

 巨大な空洞だった。

 床が抉り取られている。

 まるで、何かが下から持ち去ったように。

 魔導炉の残骸は、どこにもない。

 エリーナが呟く。

「……なくなってる」

 カイがゆっくりと床を見下ろす。

 その穴は、地下へ続いていた。

 闇。

 底は見えない。

 ただ。

 奥から、微かな風が流れてくる。

 バルドが低く言った。

「昨日の黒い奴……」

「ここから出てきたのか?」

 カイは答えなかった。

 ただ、床の縁に手を置く。

 石の表面をなぞる。

 削られている。

 爆発ではない。

 何かが――

 通った跡だ。

 セリナが穴の奥を見つめる。

 その時。

 胸の奥に、あの言葉がよぎった。

 ――世界は、動いている。

 リンシアの声。

 あの静かな瞳。

 セリナは小さく息を吐く。

「……まだ終わっていない」

 谷の外では、風が吹いていた。

 アルヴァ砦は落ちた。

 だが。

 戦いは終わっていなかった。

 その地下深く。

 黒い染みは、ゆっくりと移動していた。

 レグノル王城の方向へ。

 テンレア同盟情報局執務室。

 夜だった。

 窓の外で、旗が風に揺れている。

 ジュリア・マクミルランは、机の上の報告書を読んでいた。

「アルヴァ砦」

「中央制御塔、崩壊」

「魔導炉、消失」

ジュリアは紙を机に置く。

指先で軽く叩いた。

「……消失?」

それは、爆発の結果ではない。

報告書の記録。

床の穴。

地下へ続く痕跡。

まるで――

何かが持ち去ったような跡。

ジュリアは立ち上がる。

壁の地図へ歩く。

リーデル。

グラナス。

アルヴァ。

指でその三点をなぞる。

その線は――

レグノルへ向かっていた。

「……おかしい」

ジュリアは小さく呟く。

これは計画にない。

アルヴァの爆発は

「空城の計」

そのはずだった。

だが。

盤面に

知らない駒がいる。

ジュリアは、ゆっくり笑った。

だがその目は笑っていない。

「面白いじゃない」

窓の外を見る。

「世界が――」

少しだけ間を置く。

「動いている」

遠く。

レグノルの方向。

ジュリアの視線はそこに向いていた。

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