第二部 第70話 余韻
リーデル砦は、静かに朝を迎えた。
城壁にはレグノルの旗。
門は開かれ、兵の往来が始まっている。
ファランシアからの補給隊の姿も見えた。
リーデルの勝利は、確実なものだった。
◆
「軍の被害は、良い方向で想定内だ」
カイの報告は淡々としている。
戦死三十二人。
重軽傷百余。
数字だけを見れば、予想より被害は少ない。
バルドが低く頷く。
「上出来だ」
◆
広場では、民が膝をついていた。
涙を流す者。
空を仰ぐ者。
セリナは中央塔の階段を降りる。
「リーデルは、今日より再びレグノルの地です」
セリナの声は、静かに広場へ響く。
兵士や民から歓声が上がる。
その瞬間だけ、世界は整って見えた。
◆
裂けた石畳は、すでに封鎖されていた。
「地盤の歪みでしょう」
技師は言う。
魔導測定も異常なし。
封印層も正常。
数字は、問題を示していない。
◆
「過敏になるな」
カイが、セリナに伝える。
「勝利の直後だ。神経が張っているだけだ」
合理的だ。
否定する理由はない。
◆
夜。
砦の回廊を、セリナは一人で歩く。
風は穏やか。
灯りも安定している。
だが。
足を止める。
床の奥から、かすかな震え。
ほんの一瞬。
誰も気づかない。
セリナだけが、視線を床に落とす。
◆
勝利は確かだった。
だが――
何かは、終わっていない。




