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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第58話 広がる火種、静かな観測

 ロスヴァル陥落の報は、想像よりも早く広がった。

 砦に掲げられたレグノルの旗。

 夜明けとともに街道を行く商隊が目撃し、

 半日で噂は周辺の村へ届く。

 ――王女は生きている。

 ――ロスヴァルは落ちた。

 それだけで十分だった。

 人は、理由よりも象徴で動く。

 ロスヴァル砦、南門前。

 簡素な机が置かれ、即席の募兵台が設けられていた。

 農具を抱えた男。

 槍を握る若者。

 かつて騎士団に属していた老兵。

 家族を失った者。

 帰る場所をなくした者。

「王女に従う」

 その一言で名が記される。

 カイは淡々と数を確認する。

「……三日で、八百」

 最初の五百は、すでに千に届きかけていた。

「二日でこれだけ集まったのは奇跡だ」

 低く呟く。

「奇跡じゃないさ」

 バルドが腕を組む。

「皆、ただ黙ってただけだ」

 火種は、もともとあった。

 ロスヴァルは、その火に風を送ったにすぎない。

「勢いで戦うな」

 カイが釘を刺す。

「兵が増えれば、補給も統制も重くなる」

 歓声の裏で、軍は静かに形を変え始めていた。

 塔の上。

 エリーナが空を見上げる。

「上空魔力、わずかに変化」

 微細な揺らぎ。

 自然ではない。

「観測されています」

 セリナは静かに頷いた。

「ええ。分かっているわ」

 七聖は動いていない。

 それが、逆に不気味だった。

 見られている。

 評価されている。

 まだ“相手”と認められてはいない。

 夜。

 砦の一室。

 地図の上に、三つの印。

「王都まで、あと三拠点」

 補給線、小砦、街道封鎖。

「ロスヴァルの勝利は象徴よ」

 一拍。

「でも、象徴だけでは王都は落ちない」

 その声に揺らぎはない。

「……覚悟はできている?」

 問いではなく、確認。

 バルドが無言で頷く。

 カイが補給線を書き込む。

 エリーナが空域を示す。

 アオトはいない。

 だが軍は、止まらない。

 彼に守られたままでは終わらない。

 旗艦《アーク=テンレア》。

 観測室。

 リンシアは投影盤を見つめていた。

 ロスヴァルの座標。

 増え続ける青の点。

「……増えていますね」

 背後から報告。

「ジュリアが動きました」

「そうでしょうね」

 焦りはない。

「彼女は盤面を揺らす」

 だが視線は、別の数値へ。

 微弱な誤差。

 検出限界ぎりぎりの揺らぎ。

「……揺らぎは、彼らだけではない」

 ロスヴァルの石壁。

 黒い痕跡。

 記録されない異常。

 リンシアはそれを、見逃していなかった。

「世界が、動いている」

 誰にも届かない声。

 ロスヴァル城壁。

 夜明け前の空が、薄く白む。

 兵は増え、

 噂は広がり、

 七聖はまだ静観。

 だが盤は、確実に進んでいる。

 火種は広がった。

 それが戦火になるのか、

 それとも世界そのものの揺らぎなのか――

 まだ、誰にも分からない。

 ただ一つ確かなのは。

 レグノル奪還戦は、もはや止まらないということだった。

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