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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第57話 盤上を差配する黒魔女は、微笑まない

 旗艦《アーク=テンレア》情報層。

 壁一面に広がる投影盤に、赤と青の点が浮かぶ。

 その一つの青が、静かに消えた。

 ロスヴァル外縁監視砦。

「……陥落?」

 低く、乾いた声。

 ジュリア・マクミルランは、ゆるやかに扇子を開いた。

 報告官が跪く。

「通常聖導軍守備隊、制圧されました。

 敵兵力、およそ五百。レグノル王女の旗を確認」

 沈黙。

 室内の温度が、わずかに下がる。

「五百……」

 ジュリアは笑わない。

「七聖の名を出さずに落とされたのね」

「は、はい。直属部隊の派遣は――」

「必要ないわ」

 即答。

 扇子が、静かに閉じる。

「彼らは“見られていない”と判断した。

 それを利用しただけ」

 投影盤の前をゆっくりと歩く。

 消えた青点の位置に、細い線を引く。

「問題は規模ではない。

 動いたこと、そのものよ」

 視線が、わずかに上を向く。

「王女は、旗を掲げた」

 それは軍事行動ではない。

 思想の宣言だ。

 別室。

 アルディアスは、静かに報告を聞く。

「誤差だ」

 一言。

「放置しますか」

「まだだ」

 それだけ。

 だが、完全な無視ではない。

 判断は保留。

 秩序は揺らがない――今は。

 再び情報層。

 ジュリアは椅子に腰を下ろす。

「直接、私が出向くわ」

 報告官が息を呑む。

「ご自身で?」

「盤面は遠目では読めない」

 扇子の先が、ロスヴァルの座標を叩く。

「勢いだけで落とせる場所ではない」

 目が細くなる。

「誰が配置を組んだのかしら」

 王女か。

 それとも――

「……眠る鍵」

 小さな呟き。

 だが、都市側から大規模反応は出ていない。

 同期値は低い。

「動いていない?」

 そこが、引っかかる。

 報告官が続ける。

「戦闘中、異常魔力の検出はありません」

 ジュリアは頷く。

「“ありませんでした”ではなく、“検出できませんでした”でしょう?」

 沈黙。

 怖いのは、見えるものではない。

 見えないものだ。

 ロスヴァル砦。

 夜明け。

 兵が倒れた石壁を片付けている。

 崩れた塔の根元に、黒い煤のような痕跡が残っていた。

 焼け焦げではない。

 侵食のような、微細な染み。

 誰も気づかない。

 風が吹く。

 その黒が、ほんのわずかに揺れた。

 まるで――呼吸するように。

 旗艦甲板。

 ジュリアは外套を羽織る。

「準備を。

 今回は“叱責”で済ませない」

 微笑はない。

 ただ、冷たい決意。

「王女に会いましょう。

 ――どちらが盤を動かしているのか、確かめるために」

 旗艦が、わずかに進路を変える。

 雲海の下。

 レグノル奪還戦は、次の段階へ入る。

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