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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第56話 崖沿いの影、夜襲の火

夜の帷は、鉄と血の匂いさえ呑み込む。


ロスヴァル北側崖沿い。

月は雲に隠れ、風は低い。


崖下の岩棚に、影がいくつも張り付いていた。


先頭にいるのは、エリーナ。


水色の髪を束ね、浮遊リングの光を最小限まで落としている。

風の流れを読むように、瞳を細めた。


(魔力濃度、一定。結界は三層。……外周は粗い)


ロスヴァル監視砦。

王都への喉元。


城壁は高くない。だが魔導灯と結界が油断を許さない。


エリーナは、小さく息を吸う。


「……行けます」


囁きが後方へ伝わる。


崖沿いの死角。

魔力感知は上空優先。地面近くは薄い。


風が、味方を隠す。



同時刻。

南門前。


バルドは、盾を地面に突き立てた。


「合図が来るまで、待て」


背後に控える百余名。

正面突破隊。


緊張が、静かに張りつめる。


「……来るぞ」


空に、小さな閃光。


エリーナの風刃が、監視灯の魔導管を断った。


一瞬の闇。


「今だ! 開けぇえええ!」


バルドが吼える。


盾が前へ出る。

重装兵が目立つように前進を開始する。


砦の上で、見張りが慌てた叫びを上げる。


「敵襲! 南門――」


その声は途中で途切れた。


崖上から奇襲をかけた機動部隊が、魔導砲と城壁を制圧したのだ。


カイは、動かない。


南門から少し離れた丘。

本隊を三隊に分け、冷静に戦場を視ている。


「第一隊、門突破後に散開。

第二隊、内部制圧。

第三隊は捕縛優先。無駄に殺すな」


冷徹ではない。

計算だ。


ロスヴァルは前哨戦。

ここで民心を失えば、王都は遠のく。



砦内部。


石段を駆け上がる足音。

門を打ち付ける火花。


バルドの斧が、閂を叩き割る。


しかし、内側から押し返される。


だが、背後から流れ込む兵の圧。

門が軋む。


次の瞬間。


エリーナが詠唱を終え、上空から風圧を叩き込んだ。


空気の塊が門を押し込む。


――破砕。


木片が飛び散る。


「突入!」



短い戦いだった。


守備兵は通常聖導軍。

七聖直属ではない。


動きは鈍く、連携も乱れている。


奇襲は成功した。


十数分後。


砦中央塔の上に、レグノルの旗が掲げられる。


夜風に翻る、古びた紋章。


兵の間に、静かな歓声が広がった。


南門前。


セリナは、静かに砦を見上げる。


「……終わったの?」


カイが歩み寄る。


「被害軽微。捕虜二十七。死者三。

我々は七名負傷、重傷なし」


数字は現実だ。


セリナは目を閉じ、息を吐く。


「……よくやりました」


それは兵への言葉であり、

自分への言葉でもあった。



その頃。

雲海の上。


観測艦オラクル


「ロスヴァル外縁拠点、陥落」


赤点が一つ、消える。


ノクスは、わずかに視線を傾けた。


「……想定内」


だが、演算空間の分岐線が増えている。


微細な揺らぎ。


「誤差は、累積する」


七聖は、まだ動かない。


だが、この報告は必ず誰かの机に届く。



夜明け前。

ロスヴァル砦。


兵たちは静かに傷の手当てをしている。


派手な勝利ではない。

だが、確かな一勝。


バルドは、血のついた斧を水で洗った。


「……始まりだな」


エリーナが頷く。


「空域監視は私が続けます。

王都方面に動きがあれば、すぐ」


カイは地図を広げる。


「次は補給線の確保。

勢いで突っ込むな」


セリナは城壁の上に立つ。


遠くに見える王都の方向。


まだ遠い。


だが。


一歩は、踏み出した。


ファランシアの地下で、微弱な光が脈打つ。


眠る少年の夢の中で、都市が応答する。


彼は、まだ目覚めない。


だが。


ロスヴァルは落ちた。


王都は、まだ遠い。

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