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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第55話 決起の旗は、まだ折れない

 夜明け前のファランシアは、静かだった。

 だが静寂は、停滞ではない。

 都市は修復と同時に、再編成を始めている。

 中央広場。

 かつて市民が行き交っていた石畳の上に、いまは五百ほどの兵が整列していた。

 旧レグノル騎士団の残党。

 王城守備兵。

 迷宮帰還の冒険者。

 農民出身の若者も混じる。

 統一された鎧はない。

 旗もまだ、古びている。

 だが――目だけは、死んでいなかった。

 前に立つのは、セリナ。

 銀の髪が、朝風に揺れる。

「……呼びかけに応じてくれて、ありがとう」

 声は強くない。

 だが、広場に確かに届く。

「二日で、これだけ集まった。――それだけ皆、七聖に抗う理由を抱えていたということよ」

 ざわめきが走る。

「レグノルは、滅びていません」

「私は、生きています。王家の血も、意志も、まだここにある」

 胸元に手を当てる。

「奪われたものを、祖国を取り戻す。

 それが復讐でも、誇示でもないことを――私は証明したい」

 沈黙。

「まずは、ロスヴァルを落とします」

 明確な目標。

 広場の空気が変わる。

 ロスヴァル。

 レグノル王都へ続く前哨拠点。

 小規模砦だが、王都進軍の喉元にあたる場所。

 ここを落とさねば、進めない。

「七聖は、私たちを見ていない」

 その言葉に、何人かが顔を上げた。

「歯牙にもかけられていない。

 それは悔しい。――でも、今は好機です」

 カイが一歩前へ出る。

 いつもの無駄のない声。

「敵守備兵は通常聖導軍。約三百。

 魔導砲は二門。空域監視は簡易型だ」

 地図の要所を指で押さえる。

 戦場の形が、皆の頭に流れ込む。

 エリーナが地図を広げた。

 声は小さいが、言葉は早い。

「北側崖沿いに死角があります。

 夜間侵入は可能。ただし、魔力感知結界あり。……上空の流れも、読めます。私が先に見ます」

 バルドが、肩を鳴らした。

 笑っているようで、目は笑っていない。

「正面は任せろ。

 派手に暴れてやる。――次は、誰か一人に背負わせねぇ」

 兵の間に、小さな笑いが生まれた。

 その笑いは、恐怖を押し戻すためのものだった。

 セリナは、ゆっくりと続ける。

「これは無謀な戦いではありません」

 一拍。

「私たちは、ただ守られる存在ではない」

 視線が広場を巡る。

「アオトは眠っています」

 空気が締まった。

「彼は、私たちを守りました。

 次は、私たちが守る番です」

 誰も異を唱えない。

 この二日で、皆が見た。

 共鳴の代償を。

「進軍は明日夜。

 本隊三百、機動部隊二百」

 カイが補足する。

「勝てば、噂は広がる。

 兵は増える。――ロスヴァルは、その最初の踏み台だ」

 バルドが拳を上げた。

「まずは勝利だ!」

 その声に、兵たちの胸が震える。

 七聖から見れば、蟻にも見える小さな軍。

 だが、確かに意思と熱を持った軍だった。

 医療区画。

 透明な保存槽の中で、アオトは眠っている。

 リムが静かにモニタを見つめた。

「……動き出しましたね」

 誰にともなく呟く。

 都市深層で、わずかな同期値変動。

《都市管理層:部分応答》

 ファランシアは、まだ完全ではない。

 だが、外で動く意志に呼応するように、微弱な光を放つ。

 眠る少年の指先が、ほんのわずかに震えた。

 雲海の上。

 観測艦オラクル

 赤い点が、わずかに増える。

「……レグノル地上軍移動」

 ノクスの声は淡い。

「五百。誤差範囲」

 脅威ではない。

 まだ。

 だが、仮面の奥で視線が止まる。

「……記録対象からは、外せない」

 短い言葉。

 それだけで、何かが確かに“始まっている”と分かった。

 七聖は、まだ本気では動かない。

 象は、ひよこを見ない。

 だが。

 ひよこが群れ、歩き、勝利を積み上げた時。

 風向きは変わる。

 これは、そのための最初の一歩。

 夜明け。

 セリナは城壁の上から、ファランシアを見下ろした。

「……待っていて」

 誰に向けた言葉かは、わからない。

 アオトか。

 レグノルか。

 それとも、自分自身か。

 だが一つだけ確かなことがある。

 今回は。

 彼一人に背負わせない。

 旗は、上がった。

 ロスヴァルへ。

 五百の軍が、静かに動き出そうとしている。

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