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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第38話 七聖の決断(アルディアス視点)

それは、恐ろしく均一で統制の行き届いた、静かすぎる都市だった。

 テンレア同盟アーカイブ国――首都アルケイオン。

 白い石で構築された街路は、寸分の狂いもなく整列し、

 空は常に同じ鮮度を保ち、風は最適な温度で流れているように魔法で調整されている。

 飢えもない。

 争いもない。

 不安もない。

 完全な秩序。

 アルディアス・カグツチは、その中心に立っていた。

 白い塔の最上層。

 七聖専用観測室。

 卓上に置かれた紅茶から、規則的に湯気が立ち上る。

 アルディアスはそれを一口含んだ。

 熱も、渋みも、喉を越える感覚さえも計算された味。

 美味しいが、それはどこか無機質な作業に似ていた。

 その揺らぎすら、計算されたかのように正確だった。

「……美しいな」

 誰にともなく呟く。

 この都市は完璧だ。

 人は守られ、

 導かれ、

 迷わない。

 それが、彼ら七聖が築いた秩序。

 かつて世界を滅びから救い、

 魔王の脅威から、人類を導いた証。

 ――だが。

 投影盤に映る、ひとつの異物。

 ファランシア。

 レグノル王国に属する街は一度は、焼き払った灰色の廃都。

 そこに――

 存在してはならない構造が、確かに存在していた。

「……認証、完了」

 ノクス・アルヴェインの声が、背後から響く。

 感情を持たない声。

 ただ事実だけを告げる声。

 アルディアスは振り返らない。

「確定か」

「確定だ」

 短い沈黙。

「都市は、“新しい主人”を選んだ」

 その言葉。

 それは、七聖の支配の根幹を揺るがす事実だった。

 都市は、道具だ。

 管理されるもの。

 使用されるもの。

 選択するものではない。

 選ばれるものでもない。

 だが。

 ファランシアは選んだ。

 七聖ではなく。

 あの少年を。

 アルディアスの拳が、わずかに軋む。

「……なぜだ」

 問いではない。

 確認でもない。

 それは、拒絶だった。

 ミハイマールが静かに答える。

「適合率の問題よ」

 投影盤に数値が展開される。

 アオト=ミナセ。

 同期率:五十一パーセント。

 異常値。

 ありえない数値。

「彼は都市の構造を理解してきている」

 ミハイマールは淡々と言った。

「理解し、受け入れ、我々との境界を曖昧にしている」

「……危険だな」

 アルディアスの声は低い。

「ええ。極めて」

 だがミハイマールの瞳は、恐怖ではなく興味に満ちていた。

「だからこそ、価値がある」

 アルディアスは沈黙した。

 再び、白い都市を見る。

 完璧な都市。

 完璧な秩序。

 そこには迷いはない。

 だが――

 ファランシアにはある。

 迷い。

 痛み。

 選択。

 非効率。

 非合理。

 そして――

 自由。

(……危険だ)

 それは、理屈ではない。

 本能だった。

 都市が主を選ぶ世界。

 それは、人の支配の終わりを意味する。

 七聖の秩序の終焉。

 世界に再びの混沌が訪れる。

 それだけは、許されない。

 アルディアスは、静かに紅茶を置いた。

 決断の時だった。

「主力を投入する」

 室内の空気が変わる。

 観測ではない。

 試験でもない。

 排除。

「対象は、ファランシア」

 一拍。

「都市の破壊は最終手段とする」

 ミハイマールがわずかに眉を動かす。

「回収を優先するの?」

「違う」

 アルディアスは否定した。

「確認だ」

 彼は投影盤を見つめる。

 灰色の都市。

 そこに立つ、ひとりの少年。

「都市が主を選んだのではない」

 低く、断言する。

「主が都市を支配しているだけだ」

 それを証明する。

 証明しなければならない。

 さもなければ――

 七聖の存在意義が崩れる。

「アルケイオン第一艦隊を動員」

「旗艦《アーク=テンレア》、出航準備」

「全観測層、戦闘位相へ移行」

 命令が連鎖する。

 都市が動く。

 完璧な秩序のもとに。

 だが。

 アルディアスの胸の奥に、微かな違和感が残っていた。

 それは恐怖ではない。

 だが、確実に――

 未知だった。

 都市が主を選ぶ。

 その意味を。

 彼はまだ、完全には理解していなかった。

 雲海の向こう。

 灰色の都市が、静かに彼を待っている。

 戦争が、始まる。

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