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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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204/208

第四部 200話 同調する者

「同調する者です」

白い人影がそう名乗った瞬間、背後にいた二十人あまりの人々が一斉に僕たちを見た。

視線が揃う。

呼吸まで完全に同じというわけではない。

けれど、そこにいる全員が同じ何かを見て、同じ結論へ向かおうとしていることだけは分かった。

『アオト、認知判断傾向への干渉が継続しています』

リムの声が頭の内側へ響く。

「強くなってる?」

『僅かに上昇しています』

視界の端に警告表示が残っている。

自己境界維持機構。

外部干渉疑い。

この表示がなかったら、僕は自分の中に生まれた考えを、本当に自分だけのものだと思っていたかもしれない。

「セリナ」

「ええ」

隣に立つ彼女も、白い人影から目を逸らさなかった。

「少し下がって」

「嫌よ」

「そう言うと思った」

「なら聞かないで」

こんな時なのに、少しだけいつものセリナだった。

そのことに安堵しかけて、僕はすぐに意識を戻す。

今は、その安堵さえ本当に自分だけの感情なのか確認しなければならない。

「リム、僕の思考に変化があったら全部知らせて」

『了解しました』

「小さいものでも」

『はい』

僕は右腕を下げた。

黒い素材が腕の外側へ集まり、青白い光を伴いながら可変刃を形成する。

白い人影は動かない。

逃げようともしない。

「戦う必要はありません」

「それを決めるのは僕だ」

「あなたは、すでに戦うという答えを選びました」

「自分でね」

地面を蹴る。

SMUが僕の踏み込みを読み取り、脚部の構造を瞬時に変化させた。

石畳が砕ける。

身体が前へ弾き出された。

四十メートルほどあった距離が、一気に縮まる。

白い人影はまだ動かない。

右腕を振り上げる。

肩。

腕。

刃。

SMUが僕の動作を途切れなく補助し、最短の軌道を作る。

「っ!」

刃を振り下ろす直前、視界の端で別の影が動いた。

セリナだった。

僕の右側から、同じ白い人影へ向かっている。

さらにその奥からカイ。

バルドも動いていた。

「なんで!?」

僕は刃を止め、身体をひねる。

その瞬間、四人の進路が狭い一点へ重なった。

『衝突予測』

リムの警告と同時に、SMUが姿勢を補正する。

僕は地面へ刃を突き立てるようにして軌道を変え、セリナのすぐ横を滑る。

カイが寸前で足を止め、バルドは肩から地面へ転がった。

「くそっ!」

バルドが起き上がる。

「何やってる!」

「それはこっちの台詞だよ!」

僕は振り返った。

セリナも驚いた表情でこちらを見ている。

「私は、アオトを援護したほうがいいと思って」

「俺もだ」

カイが言う。

「一気に仕掛けたほうがいいと思った」

「俺も似たようなもんだ」

バルドが舌打ちする。

全員が、それぞれ自分で判断していた。

命令されたわけじゃない。

僕が呼んだわけでもない。

それなのに、四人ともほぼ同じ瞬間に、同調する者へ攻撃を仕掛けようとしていた。

白い人影が僕たちを見る。

「効率的でしょう」

「どこがだよ」

「目的が同じであれば、行動も近づきます」

「今ぶつかりかけたんだけど」

「まだ近づきが足りないのです」

その返答に、背筋へ冷たいものが走った。

失敗したからやめる。

そういう発想ではない。

もっと同じになれば失敗しない。

この人物は、本気でそう思っている。

『アオト』

「分かってる」

『戦術選択傾向の類似度が急上昇しています』

「どれくらい?」

一瞬の間。

『現在、八十二・四パーセント』

「高い?」

『通常の複数人戦闘において、役割の異なる者同士がここまで近似した判断を継続することは不自然です』

「セリナたちも?」

『私はアオト以外の認知情報を直接取得できません』

「そうだった」

僕にはSMUがある。

自分の中で起きている偏りを、外から警告してくれるリムもいる。

けれど、セリナたちには自分の判断がどこまで寄せられているのかを数値で知る手段はない。

それでも聞きたくなるほど、目の前で起きていることは異常だった。

白い人影が一歩こちらへ近づいた。

背後の人々も一歩進む。

一人ずつではない。

ほぼ全員が同時だった。

「止まって!」

セリナが叫ぶ。

人々は止まる。

白い人影も止まった。

「なぜ止めるのですか?」

「危険だからよ」

「何が?」

「あなたが」

「私は誰も傷つけていません」

「今のままなら、ね」

「これからも、その必要はありません」

白い人影は本当に穏やかだった。

「全員が同じものを望めば、争う理由はなくなります」

「だからって」

セリナが言い返そうとする。

その直前、後ろで兵士の一人が動いた。

剣を抜いたわけではない。

ただ右へ歩いただけだ。

その一人につられるように、残りの人々も右へ歩き始める。

バルドがすぐに進路へ入る。

「戻れ!」

人々が止まる。

数秒後、今度は左へ動く。

カイがそちらを塞ぐ。

「そっちは駄目だ!」

また止まる。

すると今度は後ろへ向きを変える。

「待て!」

バルドとカイが別々の方向へ走った。

その瞬間だった。

僕の中に一つの考えが浮かぶ。

二人を手伝ったほうがいい。

僕も行くべきだ。

『警告』

リムの声。

足が止まる。

『判断偏向を検出』

「……今のも?」

『はい』

僕は拳を握る。

自分では当たり前に思えた。

仲間が困っている。

なら助ける。

何がおかしい。

けれど今の僕は、白い人影を止めるために前にいる。

全員が同じことをやれば、目の前が空く。

「そうか」

僕は呟いた。

「アオト?」

セリナが僕を見る。

「こいつ、同じ動きをさせてるんじゃない」

「え?」

「僕たちがそれぞれ考えた『一番いいこと』を、同じ方向へ寄せてる」

白い人影が静かにこちらを見る。

「僕は攻めるべきだと思った」

「セリナは援護したほうがいいと思った」

「カイも」

「バルドも」

「みんな違う理由で考えたのに、最後に同じ場所へ来た」

セリナの目が僅かに見開かれる。

「じゃあ」

「最善だと思うものを近づけられてる」

『アオト』

リムが続ける。

『推測としては整合します』

「だったら」

僕は白い人影を見る。

「全員で一つの正解を選ぼうとしちゃ駄目なんだ」

カイが眉を寄せた。

「何言ってる」

「自分の仕事だけやって」

「仕事?」

「僕を助けようとしないで」

「は?」

「僕もみんなを助けようとしない」

バルドが思いきり顔をしかめる。

「お前、それ作戦としてどうなんだ」

「多分、今はそのほうがいい」

「多分って」

「同じ正解を選ぼうとすると、向こうに寄せられる」

僕は白い人影を指す。

「だから、みんな自分で決めて」

セリナが黙って僕を見る。

「目的は?」

「同じでいい」

「行動は?」

「違っていい」

セリナの口元が僅かに緩んだ。

「最初から、そうでしょう」

「そうなんだけど、意識してやらないと引っ張られる」

「分かったわ」

セリナは一歩下がった。

僕の隣から離れる。

それだけで、不思議なほど胸の奥に引っかかりが生まれた。

そばにいたほうがいい。

一緒に戦ったほうがいい。

離れる必要なんてない。

『警告』

「分かってる」

僕はその考えを振り払う。

セリナは人々のほうへ向き直った。

「私は、この人たちを見ます」

カイが周囲を確認する。

「じゃあ俺は退路を確保する」

「俺は兵士を止める」

バルドが剣を鞘へ戻し、両手を空けた。

「斬ったら後味悪いからな」

エリーナは少し離れた場所へ移動する。

「私は全体の流れを見ます」

「全員違うな」

僕が言うと、バルドが鼻を鳴らした。

「今さらだろ」

白い人影が僕たちを見渡す。

初めて、その表情にほんの僅かな変化があった。

「なぜ分かれたのですか?」

「必要だから」

「同じ目的なのでしょう?」

「そうだよ」

「ならば、最も効率のよい行動へ揃えるべきです」

「それを決めるのも、それぞれだ」

「非効率ですね」

「そうかもね」

僕は可変刃を構える。

「でも、今はその非効率のおかげで、僕たちは僕たちのままでいられる」

白い人影の目が細くなる。

「理解できません」

「僕も全部分かってるわけじゃないよ」

SMUが脚部へ力を集める。

「でも、違うままで同じものを守ることくらいはできる」

地面を蹴った。

今度は誰もついてこない。

僕だけが前へ出る。

白い人影との距離が縮む。

右。

そう判断しかける。

『偏向検出』

左へ変える。

次の瞬間には左が最善に思える。

『偏向検出』

「面倒だな!」

僕はどちらも選ばなかった。

正面。

最短距離ではない。

回避にも向かない。

けれど、今の僕が意識して選んだ道だった。

白い人影が腕を上げる。

背後の人々が一斉にこちらへ向く。

「来る!」

セリナの声。

人々が僕の進路へ入り始める。

攻撃してくるわけではない。

ただ、そこへ立つ。

僕が斬れない位置へ。

「リム!」

『経路再計算』

視界に複数の線が浮かぶ。

どれも人が入る。

「ワイヤー!」

左腕を振る。

黒い素材が伸び、崩れた建物の上部へアンカーを打ち込んだ。

巻き取り。

身体が斜め上へ引かれる。

人々の頭上を越える。

「アオト!」

セリナの声が下から聞こえる。

僕は空中で身体をひねった。

SMUの姿勢制御が働き、落下軌道を調整する。

白い人影の真上。

向こうも僕を見る。

「それも、あなた一人の判断ですか?」

「そうだよ!」

可変刃を振り下ろす。

白い人影が後ろへ下がる。

初めて避けた。

刃先が白いローブを裂く。

肩口。

浅い。

でも届いた。

白い布の下から赤いものが滲んだ。

「血……?」

人間と同じ色だった。

白い人影は自分の肩を見る。

驚いているようには見えない。

ただ、初めて見る現象を確かめるように傷口へ触れた。

「痛くないの?」

僕が聞く。

「痛みはあります」

「じゃあ下がって」

「必要ありません」

「どうして」

「役割を継続します」

やっぱり。

名前もない。

自分がどうしたいのかも言わない。

役割だけ。

その瞬間、一人の兵士が僕の前へ出た。

「武器を収めてください」

「え?」

僕は足を止める。

王城跡を警戒していた兵士だった。

その目には意識がある。

怯えてもいない。

「これ以上の戦闘は危険です」

「こいつを止めないと、みんなが」

「今、負傷者を出しているのはあなたです」

僕の言葉が止まった。

兵士の視線が、同調する者の肩口へ向く。

赤い血。

僕がつけた傷。

「待って、それは」

「戦闘を止めるべきです」

別の兵士が前へ出る。

「そうです」

さらに一人。

「ここには避難者もいます」

「武器を下ろしてください」

声が重なり始める。

さっきまで同調する者へ向いていた人々が、今度は僕へ向かってくる。

「違う、こいつらは」

『アオト』

リムの警告。

『周辺対象の行動一致率が再上昇』

「これもか!」

兵士の一人が僕の右腕へ手を伸ばした。

刃ではない。

装甲の前腕部。

武器を下ろさせようとしている。

僕は反射的に腕を引いた。

別の男が左から近づく。

さらに後ろから二人。

攻撃ではない。

誰も僕を傷つけようとしていない。

だからこそ厄介だった。

「危険です!」

「戦闘をやめてください!」

「落ち着いて!」

皆、自分は正しいことをしていると思っている。

僕が振り払えば、普通の人間なら簡単に怪我をする。

「最悪だ……」

僕は後退する。

白い人影は、その向こうで静かに僕を見ていた。

「彼らはあなたと戦っているのではありません」

「分かってるよ!」

「危険を止めようとしているだけです」

「それを同じ方向に寄せたのは、あなたでしょう!」

「彼ら自身の判断です」

否定できない。

少なくとも本人たちはそう思っている。

「アオト、下がって!」

セリナの声が響いた。

僕は跳び退く。

セリナが人々の前へ出る。

「あなたたちは今、何を守ろうとしているの?」

突然の問いに、兵士たちの足が止まった。

「何を?」

セリナは繰り返した。

「戦闘を止めたいのは分かったわ」

「でも、何を守るために?」

最初の兵士が答える。

「周囲の人々を」

別の男が言う。

「王都を」

避難者の女性が口を開く。

「ここにいる子どもたちを」

別の兵士は眉を寄せた。

「持ち場の安全を」

答えが違った。

ほんの僅かに、空気が揺れる。

セリナはそこを逃さなかった。

「なら、同じことをする必要はないでしょう?」

兵士が黙る。

「王都を守る人」

「避難者を見る人」

「持ち場へ戻る人」

「戦いから離れる人」

セリナは一人ずつ見る。

「守りたいものが違うのに、どうして全員でアオトの腕を止める必要があるの?」

「それは」

一人が口を開く。

続かない。

別の兵士が同調する者を見る。

その隣の男は、自分の持ち場がある方向を振り返った。

揃っていた視線が散る。

『周辺対象の行動一致率、低下』

リムが告げる。

白い人影の周囲で、空気が僅かに震えた。

「私は命令しないわ」

セリナが続ける。

「戻れとも、戦えとも言わない」

一人の兵士が眉を寄せる。

「ただ、自分が何を守ろうとしていたのか、もう一度考えて」

「考える必要はありません」

白い人影が言った。

セリナは即座に振り返る。

「それをあなたが決めるの?」

白い人影が止まった。

「彼らは自ら」

「だったら、考え直してもいいでしょう」

その言葉に、何人かの視線がさらに揺れる。

『アオト』

リムが呼ぶ。

『周辺対象の行動一致率が低下しています』

「どれくらい?」

『六十九パーセント』

下がった。

まだ高い。

でも確実に下がっている。

「セリナ、そのまま!」

「言われなくても!」

少しだけ強い返事が返ってくる。

その瞬間、僕は笑いそうになった。

同じじゃない。

僕なら今、攻める。

セリナは人々に考えさせようとしている。

バルドは一人ずつ兵士の肩を掴み、持ち場を思い出させている。

カイは退路を確保しながら、近づきすぎる人だけを押し返している。

エリーナは戦わず、風と場全体の変化を見ている。

誰一人、同じことをしていない。

白い人影の目が僅かに動いた。

「なぜ」

初めて、その声に迷いが混じった。

「なぜ、同じ目的を持ちながら」

僕は踏み込む。

「別々の行動を選ぶのですか」

「そのほうがいいと思ったから!」

刃を振る。

白い人影が腕で受けようとする。

間に白い薄膜のようなものが浮かんだ。

刃とぶつかる。

青白い火花が散る。

魔力とは違う。

けれど、完全な物理でもない。

「リム!」

『防護反応を解析中』

「時間かかる?」

『継続攻撃を推奨します』

「了解!」

右から斬る。

受けられる。

左へ踏み込む。

また膜。

なら。

可変刃を解除。

右腕の黒い素材を盾状へ展開する。

白い人影が僅かに目を見開く。

「攻撃では」

「ないよ!」

盾で押す。

白い膜が受け止める。

僕はそのまま前へ出た。

SMUの脚部が地面を噛む。

一歩。

白い人影が後ろへ滑る。

二歩。

膜が軋む。

三歩。

「あなたの行動は非効率ですね」

「よく言われそうだね!」

「最適な攻撃ではありません」

「別にいい!」

盾を畳む。

同時に左腕からワイヤーを射出する。

狙ったのは本人ではない。

足元。

ワイヤーが石畳へ突き刺さる。

巻き上げる。

砕けた石が跳ね上がり、白い人影の視界を塞ぐ。

一瞬。

それで十分だった。

僕は右へ飛ぶ。

いや。

右が最善だからじゃない。

僕が今、右を選んだ。

『偏向検出なし』

「よし!」

白い煙を抜ける。

白い人影がこちらを見る。

遅い。

可変刃を再形成する。

刃を横へ振り抜く。

白い膜が展開される。

けれど、僅かに遅れた。

刃が膜を裂く。

そのまま白い人影の脇腹へ入る。

深くはない。

けれど、身体が大きく揺れた。

赤い血が飛ぶ。

人々の足が一斉に止まる。

白い人影が膝をついた。

「まだ」

手を地面につく。

「同じに」

立ち上がろうとする。

周囲の人々が、また一歩動く。

その瞬間。

「戻れ!」

バルドの声。

「自分で決めろ!」

カイの声。

「考えて!」

セリナの声。

そして。

エリーナが叫ぶ。

「アオト! 今、風の動きがばらけました!」

僕は地面を蹴る。

白い人影が顔を上げ、僕を見る。

「人は」

「うん」

「違うままでは」

僕は刃を構える。

「争います」

「そうかもしれない」

「傷つきます」

「そうだね」

「間違えます」

「うん」

僕は止まらない。

「だったら、なぜ」

白い人影の声が初めて揺れた。

「違うままでいようとするのですか」

答えは、もう決まっていた。

誰かに決められたものじゃない。

僕が今まで見てきたものの中から、自分で選んだ答えだ。

「間違えたら、また選び直せるからだよ」

刃を振る。

白い膜が展開する。

今度は薄い。

刃がそれを砕いた。

青白い光と白い破片のようなものが散る。

そのまま柄を返し、刃ではなくSMUの腕部で白い人影の胸元を打ち抜いた。

鈍い音。

同調する者の身体が浮く。

数メートル先の石畳へ転がる。

白い人影は起き上がろうとした。

けれど、腕に力が入らない。

周囲の人々が立ち止まる。

一人が左を見る。

別の一人が後ろを見る。

兵士が自分の剣へ目を落とす。

女性が隣の男へ問いかける。

「……私、どうしてここに?」

声が重ならない。

次々に違う言葉が漏れ始める。

「持ち場は」

「ここはどこだ」

「俺は確か」

「どうして」

ざわめきが広がる。

同じ声ではない。

同じ方向でもない。

それぞれが、それぞれの場所で戸惑っている。

僕は白い人影の前へ立った。

刃は向けたままにする。

でも振り下ろさない。

白い人影の目が僕を見る。

「役割を」

声が細い。

「継続します」

「もう立てないよ」

「それでも」

身体を起こそうとする。

できない。

「役割は」

その言葉だけを繰り返す。

僕は何も言えなかった。

名前もなく。

望みもなく。

最後まで役割だけ。

侵食する者が頭に浮かぶ。

あの人も、自分を役割でしか説明できなかった。

「……リム」

『生命反応は維持されています』

「能力は?」

『周辺の行動一致率は通常域へ急速に低下しています』

「じゃあ」

僕は刃を下ろした。

「もういい」

白い人影は答えなかった。

目は開いている。

けれど、もう周囲へ何かを広げている様子はない。

セリナがこちらへ歩いてくる。

途中で何人もの人に声をかけながら。

カイとバルドも兵士たちを確認している。

エリーナだけは、少し離れた場所でまだ風を見ていた。

「アオト」

セリナが僕の横へ立つ。

「終わった?」

「多分」

「多分なのね」

「今はね」

僕は倒れた白い人影を見る。

「殺してはいない」

「それでいいわ」

「でも」

「何?」

「この人も、自分の名前を知らない」

セリナは黙った。

しばらく二人で白い人影を見る。

その時だった。

『アオト』

リムの声が少し変わった。

「何?」

『ノア=アークより広域観測データを受信』

続けて、視界の端に時刻情報が表示される。

『同調する者の機能低下を確認した時刻帯と、テンレアで継続観測中の白色巨体の記録を照合』

僕は顔を上げた。

「何かあった?」

『変化を確認しました』

視界の端に小さな観測画面が開く。

遠いテンレア。

七聖たちが戦っている白い巨体。

詳細な戦況までは分からない。

巨大な輪郭と、高出力反応。

その外殻の一部が、不自然に揺れていた。

「これ」

『同調する者の機能低下を確認した時刻付近に、白色巨体の外殻挙動にも比較的大きな変化が記録されています』

「また近いの?」

『はい』

前にもあった。

静寂。

停止。

そして今。

ただし、今までより揺れは大きい。

「同じ時刻?」

『断定できません』

リムはすぐに答えた。

『観測距離、記録方式、時刻補正誤差があります』

「分かってる」

僕は画面を見る。

白い巨体の外殻が僅かに崩れ、別の場所から何かが補われるように動いている。

修復。

いや。

再配置。

そんなふうにも見えた。

「セリナ」

「ええ」

彼女も画面を見ていた。

「これで三度目?」

「近い変化が、ね」

「偶然かな」

セリナはすぐには答えなかった。

やがて、小さく首を振る。

「まだ決めないほうがいいわ」

「うん」

「でも、記録は残しましょう」

「もちろん」

僕は倒れている同調する者を見る。

一つの役割が止まった。

その時、遠く離れた白い巨体にも変化があった。

それが何を意味するのかは、まだ分からない。

ただ。

これまで別々に見えていたものの間に、細い線が見え始めている気がした。

『アオト』

「何?」

『追加観測です』

視界の中で、白い巨体の反応が再び変わる。

さっきまで乱れていた外殻が、ゆっくりと別の形へ組み替わっていく。

失われた何かを補うように。

あるいは。

残った何かだけで、形を作り直すように。

僕は無意識に息を止めた。

戦いが一つ終わった。

そんな気は、まったくしなかった。

むしろ。

何かが、こちらの勝ち方を見ていた。

そんな感覚だけが残った。

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