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第13話 灰の街に灯るもの(セリナ視点)

 目を覚ましたとき、最初に感じたのは――静けさだった。

 あれほど空を震わせていた飛空艇の駆動音も、

 魔導砲の低い共鳴も、もう聞こえない。

 代わりにあるのは、瓦礫の隙間を抜ける風の音だけ。

 その静けさが、かえって現実を突きつけてきた。

 私は、崩れた市庁舎地下の仮拠点で膝をついていた。

 目の前には、横たわるアオト。

 浅い呼吸。

 義手の光は弱く、ほとんど脈動していない。

「……まだ、眠ってる?」

 思わず声が小さくなる。

「気絶に近いな」

 カイが短く答えた。

「脳と神経にかなり負荷がかかっている。今は休ませるしかない」

 私は唇を噛む。

 彼は、街を守ろうとして倒れた。

 それなのに、私は――

「セリナ」

 バルドが声をかけてくる。

「自分を責める顔じゃねぇぞ、それ」

 図星だった。

「……分かってるわ。でも」

 言葉に詰まる。

 その時。

「はいはい、湿っぽいのは後!」

 軽い声が割り込んできた。

 エリーナだった。

 煤だらけの頬で、腕を組んで立っている。

「生きてるんだから、まずは動こうよ。復興、復興!」

「復興……?」

「そう。ここ、もう私たちの拠点でしょ?」

 エリーナは瓦礫の向こうを指さした。

「だったら、ボロボロでも“街”にしなきゃ」

 その言葉に、胸の奥が少し温かくなる。

 復旧作業は、想像以上に地道だった。

 倒壊しかけた壁を支え、

 通路を確保し、

 使える資材を集める。

 バルドは瓦礫撤去の中心になり、

 カイは即席の警戒網を組み、交代制の見張りを敷いた。

「王女様、ここは通れるようにしておいた」

「ありがとう、カイ」

「礼はいらん。役目だ」

 彼は相変わらず無口だが、動きに迷いがない。

 一方。

「アオト、まだ起きないの?」

 エリーナは何度目か分からないくらい、彼の様子を見に行っていた。

「ちょっと、セリナ。あんまり近くない?」

「え?」

「だってさ。ずっと隣にいるじゃん」

 エリーナは頬を膨らませる。

「私だって心配してるんだけど?」

 私は思わず苦笑した。

「エリーナ……」

「なに?」

「ありがとう」

 一瞬、彼女はきょとんとして、それから視線を逸らした。

「……別に。空中伝令として当然だし」

 でも耳が赤い。

 分かりやすい。

 夕方近くになって、アオトが目を覚ました。

「……セリナ?」

 掠れた声。

 私はすぐ駆け寄る。

「大丈夫? 無理しないで」

「うん……まだ頭がふわふわする」

 彼は苦笑してから、周囲を見回した。

「……街、どうなった?」

「最低限の安全は確保できたわ。完全じゃないけど」

 アオトは小さく息を吐く。

「よかった」

 それだけ言って、また目を閉じかける。

「アオト」

 私は、そっと彼の手を握った。

 思ったよりも冷たかった。

 それでも、その温度は確かに生きていた。

「あなたが守ってくれた」

 彼は少し照れたように視線を逸らす。

「……みんながいたから」

 その時、エリーナが割り込んできた。

「はいはい感動はそこまで! 患者は安静!」

 アオトが苦笑する。

「厳しいな……」

「当然です。あなた、無茶しすぎ」

 そう言いながら、毛布をかけ直すエリーナの手つきは優しかった。

 夜。

 私は瓦礫の上に立ち、灰色の街を見渡す。

 焚き火の光。

 作業灯の光。

 仲間たちの光。

 その光は、かつてレグノルで見ていた灯りよりずっと小さい。

 それでも――胸の奥の痛みと一緒に、確かな温度を持っていた。

 ここは廃都。

 焼かれ、捨てられた場所。

 でも今は――

 確かに、生きている。

「ここから、始めましょう」

 誰に向けたでもない言葉。

 レグノルの再生。

 そして、七聖に抗う小さな国。

 灰の街に、確かに灯は生まれた。

 それはまだ弱い。

 でも――消えない。

 この灯りは。

 私たちの未来だから。

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