表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/183

第三部 第104話 軌道プラットフォームへ

リムの準備は、早かった。


いや――

早くせざるを得なかった。


ファランシアの奥。

普段は閉ざされている区画が、今は開いている。


白い壁。

青白い灯り。

無機質な通路。


その中心を、セリナはアオトと並んで歩いていた。


ヴォルコフは一歩後ろ。

リムはそのさらに前を進んでいる。


「この先です」


リムの声は静かだった。


感情がないわけではない。

ただ、迷いを切り捨てたあとの声音だった。


通路の先には、巨大な扉があった。


大神殿の門にも見える。

だが、近づけば近づくほど違うと分かる。


石ではない。

鉄でもない。


旧文明の遺構に共通する、言葉にしづらい材質だった。


リムが壁面に手を触れる。


淡い光が走る。


直後、低い駆動音が空間を震わせた。


重い扉が、左右に開いていく。


その向こうにあったのは――

巨大な空洞だった。


セリナの足が止まる。


見上げても、天井が見えない。


夜空が、そのまま切り取られたように広がっていた。


いや。

違う。


空が、開いている。


「……これは」


声が漏れる。


ファランシアの地下深くにあるはずなのに、頭上には夜があった。


星が見える。


風が、吹き下ろしてくる。


アオトが短く言う。


「ここから上がる」


その言葉の意味をセリナが理解するより先に、

リムが再び端末に触れた。


光。


音。


そして――


頭上の闇が、揺れた。


「……来る」


アオトの低い声。


夜の空の真上から、一つの影が光を発し降りてくる。


静かな降下だった。


翼の羽ばたきはない。

爆音もない。


ただ、星の間を滑るように、一機の飛翔体が降下してくる。


白銀。


流線型。


鳥にも見える。

だが、生き物ではない。


どこか神聖で、

どこまでも人の手が届かない異質さを持った機体だった。


セリナは、息を呑み、その光景を見つめていた。


「あれは……ハルピュイア」


アオトが、その名を口にした。


機体はゆっくりと下降し、四人のいる場所に着地する。


ハルピュイアの搭乗口が開く。


内部への誘導灯が点灯する。


招き入れるように。


ヴォルコフが小さく息を吐いた。


その顔には、驚きと、言葉にできない警戒が混ざっていた。


「これで……空の外へ行くのか」


リムが振り返る。


「ええ」


短い答え。


「ここから先は、あなた達の常識では測れません」


セリナは、機体を見上げる。


美しいと思った。


同時に、怖いとも思った。


それは魔法とは違う。

祈りでも、奇跡でもない。


人が作ったものなのに、

人の手を離れた神秘のようだった。


アオトが一歩先に進む。


少しだけ足元が揺れた。


まだ本調子ではない。

それでも、彼は止まらない。


セリナも続いた。


足を踏み入れた瞬間、

空気が変わる。


静かだ。


外の風が嘘のように消え、

内部は澄み切った冷たさに満ちていた。


座席に似た構造。

壁に並ぶ見たことのない表示。

細い光の線。


ヴォルコフは入口の手前で止まった。


「……自分は、ここまでです」


セリナが振り返る。


ヴォルコフは背筋を伸ばしたまま、頭を下げた。


「必ず、お戻りください」


その言葉に、セリナは頷く。


「ええ」


アオトが振り返った。


「レグノルを頼む」


ヴォルコフの顔が、わずかに引き締まる。


「承知しました」


短く。

硬く。


それで十分だった。


リムが操作盤に手を置く。


機体の内部が、淡く明るくなる。


「セリナ、座席に座って体を固定して」


アオトが優しく言う。


セリナは一瞬だけ戸惑ったが、

すぐに示された座席の帯を締める。


直後。


ハルピュイアが静かに動き出す。


足元が、消えたような感覚がした。


「……っ」


浮く。


いや、違う。


身体だけが遅れている。


世界の方が先に動き出していた。


ハルピュイアが、上昇する。


静かに。

だが、容赦なく。


ファランシアの発進区画が、下へと沈んでいく。


夜が広がる。


風が消える。


地上の灯りが、遠ざかる。


セリナは息を止めた。


言葉が出ない。


自分の国が、小さくなる。


山も、森も、王都も、

すべてがひとつの地形として沈んでいく。


「……空を、雲を越えてる……」


呟きだった。


アオトは前を見たまま答える。


「まだ途中だ」


静かな声。


けれど、その横顔には以前と違う硬さがあった。


これは彼にとっても、

ただ懐かしいだけの場所ではないのだと分かる。


上昇は続く。


やがて。


夜空の黒が、変わった。


どこまでも深く、

冷たく、

底のない闇へと。


そこに、光が浮かんでいた。


最初は星だと思った。


だが違う。


動かない。

規則的に並んでいる。


人工の光。


「……あれが」


セリナの声は、驚きに満ちていた。


アオトが答える。


「もうすぐ着く軌道プラットフォームだ」


その姿が見えてくる。


巨大だった。


城塞どころではない。

都市とも違う。


世界の外に浮かぶ、もう一つの世界。


輪郭が明瞭になるにつれ、

その奥に、さらに巨大な影があるのが見えた。


暗闇の中に横たわる、方舟のようなシルエット。


セリナは目を見開く。


「あれは……」


アオトも、息を止めていた。


「……ノア=アーク」


少しの沈黙のあと、アオトが言葉を紡ぐ。


だがそれは、地上で思い描いていた“国”とは別次元の存在だった。


ただ大きいのではない。


そこに在るだけで、

文明そのものの質量を感じさせる。


リムが静かに告げる。


「ここから先は、もう後戻りできない」


誰も答えなかった。


答える必要がなかった。


ハルピュイアは減速し、

光の並ぶ外郭へと滑り込んでいく。


軌道プラットフォーム。


その内部の灯りが、三人を迎え入れるように灯っていた。


そして――


本当の意味で、

物語の景色が変わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ