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終わりなき塵  作者: Nick Occam


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第十四章 白い帰路

村長の言葉。雪の上の血。山へ戻っていく足跡。


それらを見たあと、マルクスの内側には、つい先ほどまで疑いが住んでいた場所が残っていなかった。すべてが明らかになったからではない。ただ、別の感情がそこを押しのけていた。


冷たく、重く、辛抱強いものだった。


まるで魂の奥で、昔ひどく歪んだまま癒着した縫い目を探り当てられ、そこをゆっくりと引かれているようだった。引く側は知っている。いつか必ず、肉は裂ける。


一歩ごとに、子供たちの叫びが頭の中で響いた。


何より悪いのは、その声のどれひとつとして、他人のものだと言い切れないことだった。顔も、名も、年齢もない。あるのは、罪悪感と、かつて空気も時間も助けも足りなかった声が、ひとつに練り固められた記憶だけだった。


ときおり、背後で誰かが小さな裸足で凍った雪を踏み、走ってくるような気がした。転び、息を詰まらせ、それでもまた追いつこうとする。だが振り返れば、そこに残っているのは風と、白さと、吹雪が少しずつ食い荒らしはじめた道だけだった。


胸の下の痛みは、燃え上がりもせず、刃のように裂きもしなかった。


もっと別のやり方で働いた。粘りつくような執拗さで、ゆっくりと奥へ沈んでいく。まるで氷の鉄片を体の中に置かれ、ときおり誰かがそれを、怒りも急ぎもなく回しているようだった。


遅かった。


見抜けなかった。


嘘を見落とした。


ありのままを見るよりも、自分がまだ生きていけるものを見ようとした。


言葉にされずとも、その痛みはそう告げていた。


村長の家を出ると、彼はすぐ歩きだした。温かいものも、眠りも、短い休息さえも自分に許さなかった。立ち止まれば、またあの惨めな人間の部分が顔を出す。その部分はいつでも、許されるはずのない者たちではなく、自分自身のために言い訳を探す。


帰り道は長かった。


かつてこの道は、彼を山へ導いた。まばらな家々、傾いた納屋、森、そして白く空いた土地。そこでは距離というものが、いつしか距離であることをやめ、ひとつの過ちのようになっていった。


今は、すべてが違って見えた。


足の下の固い雪は、雪ではなく、泥と灰と砕かれた骨を押し固めた粉のようだった。道の両側に立つ森は、重く暗い。深く地に凍りついた巨人の死骸から、焼け焦げた肋骨だけが外へ突き出ているように見えた。


風は吠えなかった。時おり途切れ途切れに押し寄せるだけだった。まるで土地そのものが、病んだ胸で、裂けかけた息を吸っているようだった。


山から離れるほど、彼の周囲の空間は変わっていった。


犬はもう吠えなかった。


彼が曲がり角に姿を現す前から、細く鳴きはじめた。耳の裂けた黒い犬が、傾いた柵の下から道へ飛び出してきた。だがマルクスを見るなり、前足から崩れるように伏せた。鼻先で見えない壁にぶつかったようだった。


犬はかすれた声で鳴き、後ずさり、尾を巻いた。そして目をそらせないまま、這うようにして縁の下へ戻っていった。


井戸のそばでは、灰色の頭巾をかぶった女が凍りついていた。手には桶を持ったままだった。


はじめは、ただ見ていた。


次に、その顔がゆっくりと引きつった。記憶が、どこで同じ影を見たのか必死に探しているようだった。指がほどける。桶が雪に落ちる。女は自分の肩を抱いたまま、その場から動けなくなった。


手袋もない。顔は白く、体は固まっている。目だけが、もう他人の悪夢に触れられてしまった者の目だった。


マルクスは何も言わなかった。


沈黙だけが、この道を進む唯一の方法になっていた。言葉は出来事を人間の秩序へ戻してしまう。だが、その秩序そのものがすでに歪みはじめていた。


何かが一度に崩れたわけではない。音を立てて割れたわけでもない。ただ世界が、静かに関節から外れていく。肉にまだ繋がれているのに、本来の場所にはもう戻らない脱臼した骨のように。


内側でも、同じことが起きていた。


それはもう議論ではなかった。戦いでもなかった。


むしろ、終わりのない審理に近かった。裁く者も、期限も、自然に静まる権利もない。意識の端で、マルクスは長い暗い部屋を見ていた。壁も出口もない部屋だった。


そこに人間はいなかった。


立っていたのは、ずっと彼の内側に棲んでいた力たちだった。今まで形のないざわめきだったものが、ようやく輪郭を得て、前へ出てきていた。


最初に立ち上がったのは、憐れみだった。


その声は静かで、かすれていた。血と他人の痛みが何度も通り抜け、それでもまだ生きた震えを残している声だった。


まず知れ。


主の名を待て。


血は何も清めない。


次に、怒りが響いた。


短く、断ち切るように。間を置かない。怒りは論よりも打撃を好み、その言葉は喉へ叩き込まれる拳のように落ちた。


恐怖なら清める。


奴らは痛みなら理解する。


それ以外では足りない。


そのあとに、残酷さが入ってきた。


熱も叫びもなかった。ほとんど事務的ですらあった。だからこそ、その冷たさは怒りよりも深く沈んだ。


肝心なものは自分から出てこない。


引きずり出すものだ。


善は待つ。迷う。そして遅れる。


さらに奥で、罪悪感がうごめいた。


声はなかった。


言葉もなかった。


ただ息だけがあった。重く、粘り、周囲のすべてを汚染していく息だった。


マルクスは、そのどれもを聞いていた。


だが、どれにも最後までは身を渡さなかった。


憐れみの言うことは正しかった。血は何も清めない。だが憐れみは、いつも遅すぎた。もう起きてしまったものへ手を伸ばし、死んだものを悼む。生きている源へ間に合うことは、ほとんどなかった。


怒りも嘘をついてはいなかった。恐怖は働く。だが怒りにとっては、結果さえ出るなら、誰を壊すかなどどうでもよかった。


残酷さがいちばん恐ろしかったのは、その明晰さのためだった。熱も、狂乱も、復讐への渇きもない。ただひとつの認識だけがある。悪が本気で根を張った場所では、禁忌や憐れみだけでは足りない。


マルクスは、その考えを自分の中に入れなかった。


それでも、その考えと並んで歩いていた。


空の納屋のそばで、十歳ほどの少年と出会った。痩せた体に、濡れた木片の束を抱え、片手には鉄の桶を持っていた。


マルクスを見ると、少年はあまりにも急に立ち止まった。森から人間ではなく災いそのものが出てきたとでもいうように。


木片が腕から滑り落ちる。桶が揺れる。少年は一歩下がり、歪んだ壁に背中をぶつけ、そのまま固まった。落としたものを拾うことさえできなかった。


顔は白くなり、唇が震えた。目には、子供特有の湿った恐怖が溜まっていた。そのあと涙が来ることもある。けれど、来ないこともある。


マルクスは通り過ぎた。


納屋が背後に遠ざかったころ、ようやく遅れた息づかいが聞こえた。少年はやっと、息の仕方を思い出したのだ。


憐れみが疲れた声で言った。


今のお前は、ああ見える。


救いを待つ相手ではない。


災いを連れてくる者だ。


怒りがすぐに返した。


あの子がもっと前に、雪と血の奥でお前を見ていたなら、


災いがお前であれと祈ったはずだ。


マルクスはその言葉に答えなかった。内側に残したまま、先へ進んだ。


少し行った半ば雪に埋もれた下り坂に、荷車をつけた馬が立っていた。馬はその場に根を下ろしたように動かず、前の道は空いているのに一歩も進もうとしなかった。


御者は手綱を引き、罵り、革紐で馬の首を打っていた。マルクスに気づくと、その声は途中で途切れた。


マルクスは横を通り過ぎた。頭さえ向けなかった。


それだけで足りた。


馬は前脚から崩れ落ちた。目の前に底なしの穴が開いたようだった。御者は後ろへよろめき、均衡を失い、雪の中へ転がった。顔をそりの縁に打ちつける。


頭を上げたときには、割れた鼻と裂けた唇から血が流れていた。男は、氷の穴から引き上げられたばかりの者のように、空気をつかもうとしていた。


マルクスは歩みを緩めなかった。


内側で起き上がったものは、彼の明確な決断より先に、すでに世界へ触れていた。そこにこそ、直接の残酷さより恐ろしい危険があった。直接の一撃なら、まだ自分の意志で行うものだ。だがこれは、勝手に広がっていく。


昼近くになると、雪の照り返しが目を切るほど鋭くなった。


前方の野は、もう野には見えなかった。凍った雪の下にあるのは土の塊ではなく、滑らかで、隙間なく組み合わされた骨の板のようだった。


灰色の家々がまばらに立っている。窓の近くまで吹雪に埋もれ、白さの中から、古い顎に残った腐りかけの歯のように突き出ていた。暗い窓の奥では、誰かの顔が現れては消えた。一目で十分だった。人々はすぐに身を引いた。


過去は、物語として戻ってきたのではなかった。


それは引き裂くような閃きとして入り込んだ。短く、痛みを伴う光。そのあと、冷たさだけが長く内側に残った。


最初に浮かんだのは、作業場の裏にある炭の地下室の少女だった。黒く汚れた頬。擦りむけた膝。もう泣く力の残っていない目。泣くということさえ、あまりにも早く無駄だと知れば、いつか終わってしまう。


次に、一本の道が戻ってきた。二人の兄弟が、ほとんど肩を寄せるようにして歩いている。一方の一歩が、もう一方をこの世に繋ぎ止めているようだった。少し離れた後ろを、荷馬車が進んでいた。遅く、忍耐強く、まるで家事でもこなす者のように一定だった。


その車を操る者は、最初から知っている。道は長い。足は疲れる。恐怖が初めにどれほど鋭くても、いつか必ず息切れする。


その先には農場が立ち上がった。


記憶が保っていたのは、叫びではなかった。痛みを与えることを、もはや特別なことだと数えなくなった者の、あの恐ろしい手際だった。同じ顔で柵を直し、釘を打ち、階段の埃を払う。


次に、食堂が来た。炉の火。ひとつの言葉のまわりで凍りついたような顔。その言葉にしがみつく人間。黒い水の中で最後の板を握る者のように。


それから、拳銃を持つ手が現れた。


記憶が返してきたのは銃声ではなかった。悲鳴でもなかった。戻ってきたのは、重く湿った砕ける音と、そのあとに自分の体が動いた感覚だった。あまりにも正確で、あまりにも速い動き。頭が決めるより先に、体がすべてを選んでいた。


その先の過去は、もう場面としては来なかった。


地下室。


廊下。


扉。


急いで目をそらす顔。


沈黙に、恐怖ではなく習慣の匂いを染みつかせた人々。


記憶は何も説明しなかった。ただ、他人の人生の欠片を、皮膚の下に刺さったままの破片として戻してきた。歩く時間が長くなるほど、ひとつの事実だけがはっきり浮かび上がっていった。


獣は、山の奥だけに棲んでいるのではない。


それはもっと近い場所で生きることを、とうの昔に覚えていた。


食卓のそばで。


炉の前で。


屋根の下で。


食べ、眠り、言い争い、鏡の前で服を直し、まるでもう何も背負っていない人間の顔で床に就く者たちの中で。


憐れみが、ほとんど囁くように言った。だがその言葉は深く入った。


今そこへ入れば、


お前はもう探さない。


ただ裁くだけだ。


残酷さが、間を置かずに答えた。その平坦さは、どんな叫びよりも冷たかった。


そうしなければ、奴らは嘘へ逃げる。


そうしなければ、また弱い者が支払う。


マルクスは一瞬、目を閉じた。


そして自分自身を外から見た。


黒い服をまとい、長靴に雪をつけ、顔から生きた温かさをほとんど失った男。


救い主でもない。


英雄でもない。


復讐者でさえない。


ただ、境界のすぐそばに立つものだった。悪の値段をまだ覚えていながら、その悪にあまりにも近づきすぎ、境界そのものが境界でなくなりかけている。


再び目を上げたとき、家は前方にあった。


最初に刺さったのは、貧しさでも、惨事の痕跡でもなかった。


それらが、まったくないことだった。


掛け布の向こうには、穏やかな黄色い灯がともっていた。煙突からは静かな煙が上がっている。戸口には磨かれた長靴が並んでいた。古びてはいるが、手入れされていた。ただ生き延びただけではなく、もう一度そこに暮らしを築き直した者たちの靴だった。


窓辺には、乾いた枝を挿した土の花瓶が黒く見えた。


その家の中にあるものは、どれも悲しみを語っていなかった。習慣を語っていた。いつもどおりに進む夕べを、とうに元の軌道へ戻った生活を語っていた。


だからこそ、いちばん強く胸を打った。


汚れなら、理解できた。


貧しさも、理解できた。


荒れ果てていれば、それはまだ真実を語っただろう。


だがもっと悪かったのは、整っていることだった。満ち足りた家庭の静けさがそこにあった。記憶がまだ焼けつくべき場所で。


嫌悪は、彼の内側でゆっくりと重く持ち上がった。ほとんど力を必要としなかった。まるでその瞬間を待って、ずっと影の中にいたかのようだった。


悪に住みつく時間を与えれば、こういう顔になる。


温かな灯。


清潔なシャツ。


食卓の夕食。


そして、不要なもののように遠ざけられた記憶。


彼は戸を叩かずに入った。


二人はすぐに理解した。


家の主は食卓についていた。肘で卓を支えている。炉のそばでは女が洗濯物を畳んでいた。きちんと、慣れた手つきで。その動きは、一日や一週間で身につくものではなかった。


二人とも顔を上げ、彼を見て、動きを止めた。


勇気があったからではない。恐怖があまりにも正確だったからだ。そこにはもう、叫ぶための余地さえ残っていなかった。


「な……何があったんですか。あなたは……」


女が言いかけた。だが声はすぐに途切れた。彼の目と合った瞬間に。


家の主は立ち上がろうとして、すぐに座り直した。足が体を支えられなかった。


「もう全部話しました」男は呟いた。「たぶん、家を間違えています」


返ったのは沈黙だった。


背後で戸が静かに閉じる。


もう一歩、前へ。


女の顔が完全に白くなった。


「私たちじゃありません。もっとひどい人たちは他にいます。ここじゃない。あなたが行くべきなのは、別のところで……」


男がすぐに割り込んだ。


あまりにも早く、あまりにも用意されていた。その用意のよさ自体が、すでに汚い匂いを放っていた。


「村長のところへ行ってください。川のそばの連中でもいい。私たちは関係ありません。私たちは息子を愛していました。嘆きました。私たちは……」


そのとき、本当に冷えた。


理由は言葉そのものではなかった。その滑らかさだった。言葉はあまりにもたやすく足元に落ちた。ずっと前から用意され、何度も舌の上で転がされてきたもののように。


その嘘には、ほとんど取り乱した気配がなかった。


あるのは技術だった。


手でこすられ、角を丸められ、もう信じてもいない祈りのように身近に置かれた技術。次の災いに備えるためだけに。


そして、もうひとつ。


子供の名は、一度も出なかった。


今この瞬間でさえ。


彼の視線の下で。


恐怖があまりにも濃く部屋に垂れこめ、呼吸できそうなほどになっていても。


名前は出ない。


生きた言葉はひとつもない。


もしその名を声に出して呼べば、炉も、卓も、灯も、女の手の中の洗濯物も、この温かく住み慣れた静けさそのものも、たちまちひび割れるように思えた。


近づくと、家の主の体がびくりと跳ねた。妻の指の下で、布が白い皺を作った。


「私たちは愛していました」女が、さっきより低く息を吐いた。


その言葉には、ひどく空っぽなものがあった。信仰がとうに焼け落ちたあとで、記憶だけで繰り返す祈りのようだった。


マルクスは黙っていた。


その沈黙の下で、部屋が変わっていった。炉の熱は同じだった。灯は安定していた。洗濯物も卓の上にそのままあった。それなのに、もう家庭のものには見えなかった。


清潔すぎる。


整いすぎている。


都合よく収まりすぎている。


本来なら腐りはじめていなければならないものの上に、皮を張ったようだった。


視線はゆっくりと、卓を、畳まれた布を、男の手を、戸口の長靴を、そして悲しみがとうに秩序へ席を譲ったこの家を見ていった。


嫌悪があまりにも重く持ち上がり、怒りさえ一瞬、道を譲るように退いた。


怪物ではない。


怪物に自分の仕事をさせておきながら、そのあと夕食へ戻ったものの顔だ。


マルクスは卓へ近づき、板の上に手を置いた。そして動きを止めた。目の前の人間ではなく、部屋そのものの空気へ耳を澄ませているようだった。


先に動いたのは家の主だった。


妻はさらに強く布を握りしめ、指の下の白い皺が深くなった。


残酷さが、ほとんど穏やかに言った。


顔はまだ保っている。


手のほうが多くを語る。


憐れみが、低く、疲れた声で答えた。まるでもう遠く後ろを歩いているようだった。


そのあとでは、何も戻らない。


肝心なことを知れば、お前は自分の中の何かをまた失う。


マルクスは二人を見ていた。


火事のあとの家を見る目だった。もう救うには遅い。あとは、火が先へ移らないよう、何を壊すべきか決めるしかない。


やがて彼は家の主の手を取った。


男が抵抗したときには遅かった。掌が卓の上に伏せられ、指が板に広げられる。


次の瞬間、人差し指が下へ折れた。


ゆっくりと。


ほとんど振りかぶりもなく。


関節はありえない角度に反り、短く鈍い音を立てた。乾いた枝が長靴の下で折れるような音だった。


叫びが天井を打った。


女が立ち上がった。


マルクスは頭さえ向けなかった。空いた手で女の髪をつかみ、鋭く下へ引いた。彼女は再び長椅子へ崩れ落ち、頬を卓の角に打ちつけた。


部屋は一瞬で、重く獣じみた呻きに満ちた。


人間が本当に理解したときだけ喉から出る声だった。


ここに慈悲はない。


彼は黙っていた。


だからこそ、なおさら恐ろしかった。


怒りが、わずかに笑ったようだった。


これで信じた。


ここからが本題だ。


憐れみはもう反論しなかった。ただ退いた。マルクスはそれを、望んだ以上にはっきりと感じ取った。


闇の勝利ではない。


つい先ほどまで彼の手を押さえようとしていた魂の一部が、疲れて後ろへ下がっただけだった。


家の主は言葉に溺れた。誓い、もがき、他人の名を挙げ、あらぬ方を指した。村長。隣人。川のそばの誰か。誰かの古い罪。何でもよかった。ただ次の痛みを自分からそらせるなら。


マルクスは長く聞かなかった。


パン切り包丁がそばにあった。


やがて親指の付け根の細い皮膚が、刃の下で裂けた。血はすぐに、鮮やかに、ためらいなく流れた。


男は新しい叫びに崩れた。


そのとき、女が折れた。


最初、体の内側から反り返るようになった。


それから喉から言葉が飛び出した。


「私たちは……望んだわけじゃない。聞いて……。あれはただの猶予だと言われたの。期限をずらせるって。あとで……」


女は自分で言葉を止めた。


そして恐怖に満ちた目でマルクスを見た。もう戻れない場所へ自分が足を踏み入れたと、理解した顔だった。


家の主も理解した。


「黙れ!」


痛みに溺れながら、男が嗄れた声で吐いた。


マルクスは男の後頭部をつかみ、短く重い正確さで、顔を卓へ叩きつけた。血が跳ねた。男は崩れ、空気と呻きを一緒に飲みこみ、もう叫ぶにも邪魔をするにも間に合わなかった。


女はその直後に話しはじめた。


その声は、恐怖だけで保たれていた。内側の最後の仕切りがついに破れた者の声だった。


支払うべきだったのは、自分たちだった。


自分たちの罪のために。


ずっと前から自分たちの名に結びつき、時間でも、新しい屋根でも、温かい炉でも消えなかったもののために。


期限は動かせると言われた。


報いそのものは消えない。だが、日付だけなら先へ送れる。


代わりのものを差し出せば。


別の勘定を受け入れれば。


口にするほうが、実行するより恐ろしい支払いに同意すれば。


彼らは叫びや脅しでそこへ導かれたのではなかった。


むしろ、穏やかで、ほとんど気遣うような囁きによってだった。人間に最後の一歩を自分で踏ませるときの声だった。


最初は夢だった。


次に、あの者たちの名で語る者が来た。


さらにそのあと、彼ら自身が現れた。


悪霊。


魔物。


地獄の使い。


どう呼んでもよかった。


残酷さが、勝ち誇りもなく平坦に言った。


最初は取引。


次に都合。


最後に忘却。


女はさらに縮こまった。


それでも言葉は止まらなかった。重く、乱れ、内側でとうに腐っていたものが、今になって外へ出てきていた。


すぐに同意したわけではない。


はじめは時間を稼いだ。


他人の説明にすがった。


一度譲っても、自分たちはまだ壊れずに残れるのだと信じようとした。


そのうち、その考え自体に慣れた。


次に、猶予に慣れた。


生活は元の軌道へ戻った。


食卓の食事。


温かい服。


炉。


口論。


静かな夕べ。


出費。


習慣。


小さな用事。


日常を形づくるものすべて。


借りの記憶は消えなかった。


だが少しずつ遠くへ押しやられた。いつか取り出さなければならない物を暗い隅へ押しこみ、今日だけはその力がないと言い訳するように。


そうやって生きた。


日ごとに落ち着いて。


日ごとに確信を深めて。


日ごとに、自分たちの猶予が何によって買われたのかを忘れていった。


家の主が、それでも立ち上がろうとした。


「黙れ、この馬鹿が……」


マルクスは男の胸を蹴った。


椅子が壁へ飛び、体が二つに折れる。今度の叫びは、始まる前に喉で潰れた。


女は目を固く閉じ、止まらずに話し続けた。もう何も選んでいるのではなく、ただ落ちていく者の声だった。


子供は、自分たちで差し出した。


狂気の中ではない。


発作の中でもない。


人間が恐怖のせいにできる瞬間でもなかった。


最初に量った。


次に、自分たちを説き伏せた。


そして、実行した。


そのあとで、彼らは生き続けることができた。


食べた。


眠った。


仲直りした。


言い争った。


家を直した。


洗濯物を畳んだ。


長靴を磨いた。


眠る前に蝋燭を吹き消した。


まるで最も恐ろしいことはもう背後にあり、一度なされた選択も、日々の暮らしの下に隠せば、灰を薪の下へ隠すのと同じくらい確実に見えなくなるとでもいうように。


マルクスは黙って聞いていた。


言葉が増えるたび、彼の内側では怒りより重いものが深く沈んでいった。


悪がもはや外から来るものではなくなる地点。


それは、他人の破滅を代価にして、自分だけがその後も生きていくという、ごく普通の人間の能力に見えはじめる地点だった。


憐れみが、かろうじて聞こえるほどの声で言った。


これだ。


今、お前は知った。


残酷さが、同じ平坦な声で答えた。


それで十分だ。


部屋の中央に立ったまま、マルクスは重く息をしていた。空気さえ、力ずくで引き出さなければならないようだった。


頭の中ではまだ子供たちの叫びが響いていた。


だが今、その叫びには家があった。


戸口があった。


卓があった。


温かな灯があった。


そして、はるか昔に、冷静に、取り乱すこともなく、自分たちの選択を終えた二人の大人がいた。


そのあと、すべては簡単になった。


そして同じだけ、恐ろしくなった。


マルクスは身を起こした。


家の主はもう飛びかかってこなかった。


女は長椅子に身を押しつけていた。


二人は、牢の扉を見る囚人の目で彼を見ていた。開くとしても、それが外へ通じる扉ではないと悟った者の目だった。


その瞬間、家の空気が変わった。


最初に、沈んだ。


次に、さらに重くなった。


やがて二人の背後、ついさっきまで粗い木の壁があった場所に、巨大な門の輪郭が浮かび上がった。


高く、二枚扉で、この世のものではなかった。


それが導く場所を考えること自体が、異物のようだった。


口にされた真実が、もう道を呼び寄せてしまったかのように見えた。


女が泣き叫んだ。


男は這って逃げようとした。


マルクスは長いあいだ門を見つめた。


それから二人へ視線を移した。


そして、この間ずっと初めて、声を出した。


「お前たちは、俺と一緒にあの者たちのところへ行く」


彼はゆっくりと、重い息を吸った。


内側で、最後に残っていた何かが決定的にずれるのを感じた。


安らぎへではない。


光へでもない。


ただ、もう中間などまだ存在すると装えない決断へ。


「俺は、必要な選択をした」

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