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Veil lady ~転生美少女は、異世界にえっちな衣装を広めたい~  作者: 緑茶わいん
第五章

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【後日談】そして、百年後の世界で……

 王都の冒険者ギルド一階にある酒場は、今日も多くの人で賑わっていた。

 冬に向け、北の公爵領で雪狼が目撃され始めたとか、南の伯爵領で運よくグリフォンの羽根を拾えれば他国の商人に高く売れるとか、あれこれと噂が飛び交い。

 依頼を張り出した掲示板の前には何人も立って、ああでもない、こうでもないと言いあっている。


 けれど、殴り合いの喧嘩や怒鳴り合いのような光景はどこにもない。


 近年、都周辺の治安は極めて良好だ。

 昔は近隣でも魔物が発生することがあり、貧民やスラムの住人が食い扶持を求めて冒険者になることも多かった。

 殴り合いでの強さがそのまま冒険者としての格に繋がるみたいな風潮があり、そのせいで荒くれの声が大きかったらしいのだが、今はもう、冒険者というのはそういう職業ではない。

 都に張られた大結界と、大神殿の巫女たちによる浄化作業によって、都の近辺で魔物が生まれることはほぼない。

 強い魔物に脅かされるのは都から遠い領地、特に山岳部や深い森の奥などが多く──そうした場所に希少素材、あるいはロマンを求めて赴くのが、今の冒険者の在り方として大きな一つとなっている。


 あとは、小さな村や街の周辺に散発的に現れる雑魚退治。

 薬草取りの付き添いや、人間の野盗を警戒した商人の護衛なども行う。

 国は、平時の魔物掃討を大部分冒険者ギルドに委任しており、その分、騎士団は有事の際の備え、それから都の治安を守る存在として力を発揮するように。

 つまり、現在の冒険者とは夢追い人であると同時に、やっかいごと解決の専門家でもあるのだ。


「良い時代ですね、本当に」


 彼女はそう呟くと、酒場の入り口あたりから座れそうな席を探した。

 冒険者になったほうが、あちこちでいろいろな人を助けられる──そう思い、神殿を出てから二年。

 最初はこの喧騒に戸惑ったものの、今となってはむしろ居心地よく感じる。

 深いスリットの入った、薄い純白の衣をなびかせ、谷間に聖印を揺らしながら、きょろきょろと見まわして。


 女性が一人きりのテーブルを見つけ、「すみません、相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」と声をかける。


「ええ、もちろんです」


 にっこりと微笑まれたことに安堵し、微笑みを返しながら席に着く。

 北の教国産の蒸留酒と南の国境領産の羊肉シチュー、揚げたじゃがいもに野菜の酢漬けなどを注文。

 さっと運ばれてきた酢漬けをつまみながら、せっかくなので「あなたも冒険者ですか?」と声をかけてみる。


「いいえ、わたしは……そうですね、見聞を広めるためにこちらへ参りました」

「なるほど」


 ギルドにはさまざまな情報が集まるため、それを得るために訪れる者も多い。

 貴族の関係者か、宮廷魔術師、あるいは貴族学園の教師かもしれない。

 お忍びの可能性もあるのであまり詮索するのは良くないだろう。


「あなたは、とても素敵なお召し物ですね」

「ええ。もともとは都の大神殿におりましたもので、やはり衣が一番落ち着くのです」


 神殿における巫女の衣装と言えば、白い薄衣が定番だ。

 腕の良い巫女になると逆に、肌をぴったりと覆う伸縮素材の保護服を自ら生み出し、維持することもできる。

 こうした衣装を纏うことで奇跡の効果を引き上げたり、消耗を抑えることができるのだ。

 衣は外を歩くには邪魔になることもあるものの、そこはスリットを深くしたり、裾の長さを調節することである程度補える。


「神殿を出た当初は、外で浮いてしまうのではとも思いましたが……案外、冒険者には私のような方も多いようで」

「聖魔術も奇跡と同じく、衣装が効果に影響しますからね」


 かつて魔法と呼ばれていた力は、今から100年ほど前から大幅な改良が始まり、今では、一部に神の力を利用することにより大幅な効率化を行えるようにした「聖魔術」が広く用いられるようになっている。

 改良を主導したのは数代前の王妃セレスティナ。

 また、セレスティナの友でもあった偉大なる大聖女アヴィナの活躍によって、神殿の地位は大きく向上、今では、聖職者にはならずとも「大事な勝負の前に神殿に行って祈る」とか「簡素な聖印を持ち歩いてたまにお祈りする」といった習慣は広く根付いている。


 冒険者の巫女は衣を改造した衣装を好み。

 冒険者の聖魔術師は巫女の衣とは少し異なる、けれどやはりスリットの深い衣装や、身体の各部位ごとに分割することで着脱性を大きく引き上げた保護服を纏ったり、あるいは貴族の水着に近い素材で身体の最低限の部位だけを隠した格好などが多い。

 そうした影響から、戦士や野伏、斥候といった役割の者にも薄着の傾向がある。

 単に軽くて薄いほうが動きやすいというのもあるし、上級の冒険者となると、専門でなくとも奇跡や聖魔術をかじっている者が多くいる。

 肌を多く見せているというのは「その方が強い」「それでも身を守れる」という証であり、冒険者としての実力の証明になっているのだ。


「神の存在を強く感じられるこの衣装を、引き続き纏い続けられるというのはとてもありがたいことです」

「ええ。とても素晴らしいお考えだと思います」


 彼女も、神の教えに見識が深いのだろうか。


「そういえば、あなたはどう思われますか? 一節によると、かの大聖女アヴィナ様は今もご存命で、世界のどこかで私たちを見守ってくださっていると言われていますが……」


 中には「もう天に召されたのだろう」と言う者もいる。

 あるいは、アヴィナに確かに功績はあろうが、その伝説の大部分は他の者の所業が加えられているのだろうとも。

 確かにそのほうが単なる「偉人」としてはしっくりくるが。

 北にはフェニックス、南にはグリフォンが実在していることは周知の事実──特にグリフォンに関しては、代々ヴァルグリーフ家の女子が「グリフォンライダー」として領地と国を守る役割を担っている。

 そう考えれば、偉大な大聖女が本当にその通りの人物で、かつ、今もなお生きていたとしても不思議はない。


 そのようなことを訥々と語ると、相手の女性は嫌な顔もせずに聞いてくれた。


「ああ、どのような方なのでしょう。もちろん、大神殿にもアヴィナ様の像はありますし、直系の子孫の方の中にはアヴィナ様に瓜二つと言われる方もおりますけれど──せめて一度、お姿を拝見できないでしょうか」

「ええ、そうですね。きっと、彼女は今もあなた方を見守っています。……もしかしたら、すでに会っているかもしれませんよ」

「そうですね。もしそうであれば、どんなに良いでしょう」


 微笑み、答えて──彼女はふと、不思議なことに気づいた。

 こうして話をしているのに、相手の姿がいっこうに印象に残らないのだ。

 女性であることはわかるし、いつのまにか自分の警戒も解けているのに、どんな顔をしているか、目の色は、髪の色は、そういった情報がいっさい頭に入ってこない。


 気づけたのは、同世代で一、二を争うという奇跡の才能のおかげかもしれない。


 今の聖魔術は奇跡に通じる部分があるため、優秀な使い手はある程度、その気配を感じ取ることができるのだ。

 おそらく、この女性が用いているのは認識を阻害する効力の魔道具、あるいは神具。

 けれど、これだけ会話をして──しかも、わざわざ自分から匂わせられてようやく「ほのかな違和感」に気づける程度とは。


 もしかして。

 はっとするものを覚えた彼女は、胸に下げた「神の石」の聖印を握り、祈りを捧げながら相手を凝視した。

 すると、おぼろげながら少しずつ相手の姿が露わになり──そこには、彼女とどこか顔立ちの似た、けれど、神の如き神々しさと清らかさを纏った、絶世の美女がいた。


「あ……あなたは、いえ、あなた様は、まさか!」


 ふるふると身が震える。

 まさか、彼女の言っていた見聞とは──自らの成したことの結果を、変えた世界を、この目で確かめたいという意味だったのか。

 感動と興奮で瞳が潤み、呼吸が乱れる。

 そんな中、大聖女はくすりと笑うと、そっと唇に指を当てて。


「他の方には内緒にしてくださいね。大騒ぎになってしまうといけないので」


 一糸まとわぬままに悠然と席を立ち、他の誰にも気づかれぬまま──酒場の入り口からどこかへと消えていった。


「ああ……!! なんと良い日でしょう!」


 そのまま神に祈りを捧げていたら、顔なじみの冒険者に「どうかしたのか」と声をかけられ、素直にあったことをそのまま告げたら「頭がおかしくなったのか」と馬鹿にされた。

 むきになって言い返したものの……これも認識阻害の影響なのか、誰にも信じてもらえず、「信仰に篤いのも考えものだな」と言われてしまう始末。


 けれど。


 彼女は──あの方は、確かにまだ、この世界にいて。

 自分たちをそっと見守ってくれている。

 そのことを知っているだけで、なんだかとても幸せな気分だった。

おまけもこれで終わりです。

あらためまして、ありがとうございました(_ _)

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