表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/84

エピローグ

 夕陽が、薄紅のカーテン越しに差し込んでいた。

 ヴァルディスや、側近たちも私を休ませてくれたらしい。



「……セレスタ……」



 彼女の姿が、まだ“あのまま”だ。

 頭にこびりついて離れない。

 誰にも何も言わず、ただ私の炎に身を任せ、頭を下げたあの姿が。


 私が取り戻したのは、彼女の命だけだったのではないか――


 そんな不安に喉を締めつけられる。



「……戻さなきゃ……」



 すっと身体が動く。

 なんとなく軽い。

 あんなにぼろぼろになったのに……。昨日セレスタから貰った温かい”蒼い焱”のおかげか。



 その時――



「……起きちゃったんですか? もう少し寝てていいですよ」



 ひょっこりと顔を出して、扉がそっと開かれた。

 入ってきたのは、白銀の髪をした少女。

 青空色の瞳が、いたずらっぽく笑っている。



「……セレスタ……?」



 思わず呟いたその声に、彼女はきゅっと笑った。



「はい。竜のままだとお話できないので、頑張って戻ってきました」


「……えっ」



 あまりに自然に言われて、私は一瞬言葉を失った。

 セレスタは、人の姿に戻っていた。

 髪は月光のように淡く、白いガウンの裾をふわりと揺らして、ベッドの脇へ。



「叔父様の魔法、ずーっとかけられてたから、体が勝手に覚えてたみたいで……。あ、あと加護も、竜のほうがしっかりしてるっぽいです。便利ですね、竜」



 ぴょん。

 ベッドが沈んだ。


 セレスタが、私の隣に飛び込んできたのだ。



「ちょっと……! おまえは……!」



 慌てて体を起こすも、彼女はお構いなしに私の胸元へすり寄ってくる。

 憑き物が落ちたかのようだ。

 バリストン邸へ行ってしまう前の彼女が戻ってきた。それよりも、もっと明るく暖かいセレスタ。



「だって、久しぶりに戻ったんですよ? ご褒美くださいよ、陛下」



 可愛らしく下から見つめられる。

 竜だった時のように頭を近づける。

 下から目線の彼女がここまでの破壊力だとは……。



「こ、こら!」



 そう言いながらも、私は彼女の髪に手を伸ばしていた。

 ああ、本当に――帰ってきたのだと。



「ほ、ほんとは、名前でいつ呼ぼうか……迷って……」



 ふわりと、セレスタが私を見上げる。



「……アッシュ様」



 その声音が、やけに甘かった。

 頬が熱を帯びるのを感じながら、私は口を開く。



「……おまえなあ……」



 けれど、叱るように吐いた言葉は、すぐに笑みに変わった。

 涙が滲みそうになるのをごまかすように、彼女の頭を抱き寄せる。



 私はようやく、心の底からこう言えた。



「――おかえり、セレスタ」



 そのとき、ふと視線を落とす。




 ベッドサイドの陽だまりの中。

 静かに並べられた二つの耳飾りが、朝の光を受けて柔らかく煌めいていた。


 かつて交わした、ただの“偶然”の記憶。

 けれど今、それは確かな“約束”となったのだと――私は、知っている。




以上で一幕完結です。

まず、この作品、キャラクターたちを見つけてくださり、本当にありがとうございます。

ここまでお読みいただいたこと、感想、ブクマなどとても励みになります。


以降、6/21、7時に一幕後の外伝をnoteにて。

7/7に二幕(完結済み、投稿のみ)

三幕でシリーズ完結(10月以降の予定)

というスケジュールになっております。二人の物語を最後まで見届けていただけたら、嬉しいです。


また、noteにて、本編外の小話(https://note.com/fire_thyme7838/n/na0c1de3866c9?sub_rt=share_b)を置いてます。

よかったら、こちらもぜひ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ