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意外と肉食系彼女


 「うん…あれここ何処よ?」


 ディザイアの攻撃で意識を刈り取られていた仁乃が目覚めて最初の言葉がそれであった。

 周囲は見慣れない風景、先程までは外に居たはずが今は誰かの部屋のベッドの上でいつの間にか眠っていた。辺りには漫画本やゲーム機などが無造作に置かれている。


 「おっ、起きたな。おはよ」


 聴き慣れた声の方へと視線を向けると部屋のドアを開けて加江須が安堵の息と共に入ってくる。

 

 「ここってもしかしてあんたの部屋?」


 「ああ、あの後中々お前が起きなかったから運んだんだ」


 「そうだわアイツはどうなったの。あの傘女は…?」


 意識が覚醒すると真っ先に浮かんでくるのはあの女ゲダツのことであった。

 自分たちの前に現れた初めての上級タイプのゲダツ。その実力はあまりにも圧倒的でほとんど抵抗できずに自分の意識は闇に沈められてしまった。だがみたところ自分にもそして加江須にも目立つ外傷はない。

 まさか自分が寝ている間に加江須が独りで倒したのかと尋ねると彼は首を横に振った。


 「情けない話だが見逃してもらったと言うべきなのかもな。まあそもそもアイツには俺たちを殺す気がなかったらしいが……」


 「……私が気を失っている間に何があったの?」


 ゲダツが自分たちを見逃すと言う事がにわかに信じられずに事の詳細を鮮明に求める。

 どうにもあの傘女は初めから自分たちを殺す気などなくただ少しからかっただけらしい。どうやら初めから自分に向けて殺気やら敵意やらを向けて来た事が気に入らずおちょくったそうだ。そして一通り嘲るとそのまま姿をくらましたそうだ。


 「随分と私たち蘇生戦士も舐められたもんね」


 「ああ…あのディザイアとか名乗っていた女、どうにも胡散臭い。俺たちを殺さずそのまま消えた事を考えると腹の中が読めねぇな……」


 「そうね…でもあの傘女もそうだけどソイツが最後に言った事も重大だわ。まだこの町中にアイツと同種の上級タイプが潜んで居るなんて」


 ゲダツの言う事なんてどこまで信用すべきか分からないがその気になれば自分たちを殺せたはずのところを見逃した事を考えるとあながち嘘とも言えない。

 

 「あのディザイアとか言う女はまだ謎の部分が多いが俺たちを殺さなかった事を加味すると今は放置でもいいだろう。それよりもその廃校に居るゲダツを対処した方がいいかもしれない」


 「そうよね。上級タイプのゲダツの潜伏先を知っておいて放置と言う訳にもいかないわよね」


 とは言えハッキリ言って自分たちだけでディザイアから教えられた廃校に向かうのは少し戦力的な不安が残る。何しろつい先ほどに同じ人型タイプに手も足も出ずやられたのだから。

 出来る事なら他にも協力者を取り付けてからその廃校へと向かうべきだと考えていると加江須の頭の中には一人の少女の姿が思い浮かんだ。


 「なあ仁乃、ここは黒瀬氷蓮に協力を申し出て見ないか?」

 

 加江須の口から出て来た人物の名前に彼女は苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

 あからさまに嫌そうな顔してるなぁ。まあでもあの相性の悪さを考えると当然か…。


 以前の共闘では仁乃と氷蓮はたびたび言い争っていた。恐らくだが互いの性格的に本能的に相容れないのだろう。

 だが彼女は自分たちよりも戦闘経験が豊富なベテランでもある。自然公園で読心の力を持つゲダツと戦っている時もかなりの鋭い動きを見せていた。味方として考えるのならばかなり頼もしい存在だ。


 「でもアイツが私たちに手を貸してくれると思う? どう考えても断られると思うわよ。前に私たちが協力してあげた事を持ち出しても『いつまでも恩に着せるな』とか言ってバッサリ斬り捨てそうだし」


 確かに彼女の性格を考慮すると普通に助っ人を要請しても断られるだろう。だが彼女にも旨味があると言うならまだ望みはある。


 「上級タイプを討伐した際には5千万の報酬が払われる。その大半をあいつに譲る事を条件にすれば意外と協力してくれるかもしれない」


 「まあそれならまだ可能性あるのかな。でもアイツの連絡先も知らないしどうするのよ?」


 「今度の休日にアイツの縄張りである吹雪町に行こうと思う。とは言え手掛かりはほとんどないから見つけられるか分からないが……」


 こうなるとあの時に連絡先を無理にでも交換すべきだったかもしれない。とは言え今更悔やんでも後の祭りだ。終わった事をいつまでも気にしても仕方がない。

 こうして氷蓮と何とかコンタクトを取る事を決めた加江須を見て仁乃はやれやれと首を振ってその考えに同意する。


 「あのいけ好かないヤツとはもう顔を合わせたくなかったけどこの町にゲダツが居ると分かっている以上は仕方ないわね。付き合ってあげるわよ」


 とりあえず今後の目的が定まった事でこの話は一旦ここで終了となった。


 それにしてもここが加江須の部屋かぁ。それに今私が座って居るベッド、ここでいつも加江須が寝ているのよね。


 ゲダツ関連の話題が終わると仁乃の興味は必然的にこの部屋へと傾いてしまう。

 自分の愛する人が毎日過ごしている空間だと考えるとこんな物が乱雑している空間でも胸がときめいてしまう。


 このベッドの上でいつも加江須が眠っている。だからかな、加江須の匂いが染み付いている。


 無意識に彼女は布団を握り顔を近づけて臭いを嗅いでいた。完全に無意識の行動だがすぐに我に返ると気まずそうに目を逸らしている加江須の姿が映る。


 うぐっ…やっちゃった。もしかして変態だと思われてないかな…。


 だが恋人の部屋でしかもその本人と二人っきりと言う状況で何も意識しない方が仁乃からすれば無理な話だった。しかも今までの天邪鬼な時とは違い今の彼女は加江須と交際している事で自分の気持ちに素直な部分が大きい。


 それ故に少々だが大胆さも醸し出す様になっているのだ。


 「ねえ加江須…その…今二人っきりだよね?」

 

 「ああまあな。まだ親も帰って来ていないけど…」


 一体何の話をしているのだろうと思っていた彼であるが彼女の様子が明らかに変化していることに気付く。

 何と言うか少し熱っぽく瞳は潤んでおり、そして何やら自分とベッドを交互にチラ見しているのだ。


 「その…もう恋人同士だし必要以上に我慢する事ないんじゃないかなぁ~…なんて。私はその…加江須が望むならそう言う事してもいいよ」


 「……いやちょっと待て」


 自分のベッドの上に座りながら隣の空いている場所をポンポンと軽く叩く。その仕草と頬を染めている彼女の様子から何を言っているのか分かってしまい彼の顔は急激に真っ赤に染まる。

 しばらくベッドの上で加江須が寄ってくるのを待っている仁乃であるが一向にこちらに来ようとしない彼に不満げな顔をする。


 「私ってそんなに魅力ないかな? スタイルも悪くないと思うんだけど。それともあまり性欲ないの?」


 「それは…まあぶっちゃけあるよ。それに本音を言うなら仁乃とそう言う事もしたい。でも…こう心の準備と言うか付き合って早々すぎると言うか……」


 自分で言っておいて情けなさが込み上げてくる。だが据え膳食わぬは男の恥と理解しつつもさすがにいきなり肌を合わせる事は緊張してしまう。

 そんな風にその場でモジモジとしていると仁乃が小さく吹き出してしまう。


 「もう子供みたいよあんた。あーあ、何だか私の熱も冷めちゃった」


 「うぐ、ごめん」


 「まあ私も少しガツガツしすぎたわね。だから――今はこれだけで我慢する」


 そう言うと彼女はベッドから降りるとそのままキスをしてくる。

 互いの唇が触れ合い続け十数秒すると離れる仁乃。そして彼女は耳元で甘い声色でこう囁いた。


 「でも私だってこう見えて我慢弱いからさ、いつまでもキス止まりだと暴走しちゃうかも♡」


 自分の恋人が実は意外と肉食系の女子だったと知って今後もこのような誘いがあると思うとどこか気が気ではない。全然嫌ではないのだがやはり心の準備を整える時間くらいは欲しい。

 こうして結局その日は二人は加江須の親が帰ってくる直前までいちやいちゃするだけ、最後の一線を超える事はなかったのだった。

 


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