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傘の女


 学園を出てから加江須と仁乃の二人は日課の町の中のパトロールをしていた。とは言え加江須の腕に抱き着きながら歩いている仁乃の姿を見ると傍から見れば町の警護の為と言うよりもただのバカップルのデート風景にしか見えないだろう。

 まあ実際にそもそものゲダツが一般人には視認も感知もできないのだが。


 「歩いている感じは今日は特に異状無さそうねぇ」


 未だに腕を組みながら歩いている仁乃がそう言った。

 少なくともこの付近ではゲダツのあの独特な気配が感じられない。


 だがゲダツ以外にも悪感情を町に振りまく害悪は存在する。


 「おらいいから付き合えよ!」

 

 「どうせ暇してんだろ? 俺たちと一緒に遊ぼうぜ!」


 「や、やめてください!!」


 パトロールの道中で二人の視線の先では頭の悪そうな2人組の男が1人の少女に嫌な絡み方をしていた。しかも見たところ被害を受けている方の少女は自分たちの学校の制服を着ている。

 

 「本当、何でああいうヤツって絶滅しないんだろうね?」


 今まで上機嫌だった仁乃の表情が明らかに不快感に彩られる。それは大好きな人との時間に水を差された事もあるがそれ以上に女としてああ言うタイプの男が許せないと言う想いもあった。

 怒りに任せてあの頭の軽そうな軟派な男どもに言い寄ろうとするが彼女よりも先に動く人物が居た。


 「おいいい加減にやめてやれよ。嫌がってるだろ」


 「ああん? 何だテメェは?」


 いつの間にか加江須が先に飛び出ており少女に絡む男たちへと詰め寄っていた。

 当然だが自分たちにいきなり無粋な横やりを入れて来た彼に対して男たちは凶悪そうな顔面を近づけて来て脅しをかけて来る。

 

 「見てわからねぇか。俺たちは今この娘と楽しくお喋りしてんだよ。邪魔すんじゃねぇぞ」


 「どう見ても嫌がってるだろ。ダサいことしてないで離してやれよ」


 誰の目から見てもあの女子生徒がこの連中と和気藹々としていたようには見えないだろう。その証拠に絡まれているあの少女は助けが来たと思って自分にこの状況を何とかしてほしいと涙目で訴えかけてきている。

 

 まったく仁乃の言う通りだよ。どうしてこういうヤツって未だに見かけるのかな?


 無駄に派手な髪形や恰好、見るからに頭の軽そうなこの格好も自分を強く見せる為の虚勢だろう。しかし本物の化け物と何度も戦っている加江須からすれば今更こんな張りぼてみたいな不良崩れなど恐れるに足らない。

 適当に追っ払おうと考えていた加江須であるが目の前の二人組の視線の行方が自分から後方へと移動した。


 「おいおいよく見たらここにも美少女発見。しかもめちゃくちゃエロいスタイルしてんじゃん」


 「いいねぇ。じゃあ俺ら二人とこの娘たちの二人で今からダブルデートでもするか?」


 「………あ?」


 今まで横から声を掛けられて不機嫌な顔つきだった馬鹿二人が下卑た笑い声を上げながらそんなふざけた事を加江須の目の前で宣いはじめたのだ。


 「とゆーわけでお前をボコって今から俺たちはダブルデートの予定が出来たからここでボロ雑巾にしてやんよ」


 「心配しなくてもお前の女も可愛がってやるよ。この後はすぐにホテルに直行して運動会だ」


 このセリフで加江須の頭の中で何かが切れる音が聞こえた。


 そんな少年の怒りになど気付かず片割れの男が加江須の胸倉を掴むと空いているもう片方の拳を固めて今にも殴りつけようとする。

 その光景を見ていた絡まれていた少女は凄惨な光景を予想して思わずギュっと目をつぶる。だが対照的に仁乃は男共に対して憐れみの瞳を向けていた。


 何故なら加江須の瞳から光が消え完全に彼を怒髪天状態にしてしまった事を悟ったからだ。


 「お前…あろうことか仁乃に手を出すって言ったか? 寝言は寝て言うから許されんだよ。起きている時にそんなこと言ったら駄目だろ?」


 そう言うと加江須は自分の胸倉を掴んでいる男の手を掴むと容赦なく手の骨を握りしめてバキバキに破壊する。


 「え…何…?」

 

 何やらポキポキと小気味いい音が聴こえたかと思うと加江須の胸倉を掴んでいたはずの自分の手はいつの間にか彼を解放していた。いやもう胸倉を掴めなくなっていたと言うべきだろうか。何故なら――彼の指は5本すべてがあらぬ方向へと捻じ曲がっていたのだから。


 「い…ぎゃああああああああ!?」


 汚らしい悲鳴を上げながらその場で絶叫と共に蹲る男。

 相棒の方からはツレの指がへし折られた事が死角となっており見えていないのかいきなり絶叫を上げたことに驚いている。


 「指、ゆびぃぃぃぃぃ!?」


 「うわっ! おま、お前それ…!?」


 いきなり叫び出した相方を心配して近づくと彼の指はそれぞれが別方向を向いている。その光景にしばし戦慄する男だがすぐに敵意を剥き出しにして懐へと腕を入れる。もしもの時の為に仕舞い込んでいるナイフを抜き取るためだ。

 だが加江須からすればあまりにも遅い動き。相手がナイフを抜き出す前にはすでに懐に入り込み腕を掴む。そして容赦なくそのままその行儀の悪い腕をへし折る。


 「いでえええええええ!? 腕が折れたぁ!?」


 その場で痛みの余り蹲る事しかできない男どもに対して加江須は冷淡な口調でこう告げる。


 「今すぐ消えるならこれぐらいで勘弁してやる。これ以上まだ俺をイラつかせるようなら――ウラァッ!!」


 「ひいっ!?」


 蹲る男の顔の横を思い切り踏みつけると情けのない悲鳴を上げる二人。あまりの恐怖からかよく見れば男の下半身からは失禁していた。


 「消えろクソ共。殺すぞ」


 殺意を濃く含んだそのセリフに間抜け共はまるで壊れた人形のようにガクガクと首を上下に何度も振ってその場から逃げ出した。

 

 「ふう……おいあんた大丈夫だったか?」


 「ひゃ、ひゃい! ありがとうございます」


 加江須の見せた迫力に圧倒されて呆然としていた少女であったが声を掛けると少し奇妙な返事をする。ただ先程までの彼の纏う雰囲気に気圧されてしまったのか何やら彼女は加江須に対して少しおっかなびっくりと言った感じだ。とは言え助けてくれた恩人に不躾な態度を取るわけにもいかず挙動不審気味になっている。

 そこへ落ち着いた口調の仁乃が割って入ってくる。


 「ちょっと何その娘まで怖がらせてるのよ加江須。ごめんなさいね、心配しなくてもこいつは怖くないからね~」


 そう言いながら加江須の頭をわしゃわしゃと撫でまわしながら場の空気をほぐそうとする。

 まるでペットの様な扱いにむくれる加江須。その姿は先程までのチャラ男を威圧していた時とはまるで別人のようで緊張していた少女の心も平静を取り戻し始める。


 「ちょっとやめてくれよ。その大型犬みたいな扱い」


 「いえ、私の方こそ助けてもらって失礼な態度でしたね。ごめんなさい」


 そう言うと少女の方も頭を下げる。

 それから詳しく話を聞いてみると彼女の名前は花沢余羽(はなざわよわ)と言い1-3所属の同級生だった。

 緑色のボブカットに背丈は仁乃よりも低く少し小動物を連想させる見た目をしている。仁乃とはまたジャンルの異なる美少女と言えるだろう。


 1-3の娘…つまりはアイツと同じクラスかぁ……。


 そこまで考えるとすぐに思考を打ち切る。別にもう関係の無い事だ。


 「あの、本当にありがとうございました。私怖くて何もできなくて…」


 「気にしなくてもいいよ。それに偶然通りかかっただけだし恩を感じることもないさ」


 何度も繰り返し頭を下げてお礼を述べる余羽に少し苦笑気味でそう答える加江須。

 こうして話して見た印象ではとても健気で良い子と言うイメージだ。だからこそあんな腐った連中の毒牙にかからずに済んで良かったと心から思える。

 

 「でも久利さんって凄く強いんですね。あんなアッサリと人の骨を折るなんて鍛えてるんですか?」


 「まあ鍛えていると言えばそうなるかな」


 すっかりと意気投合したようで余羽は加江須の持つ超人的な力に興味を示して色々と質問をしてくる。とは言え無論だが蘇生戦士やゲダツの事は話せないので適当に濁してはいるが。


 「………」


 「いてっ!」


 しばし余羽と話し込んでいると腕に痛みが走ったので視線を隣へと傾ける。


 「む~~…」


 そこにはほったらかしにされてむくれる恋人の姿があった。

 確かに彼女の前で他の女子と話し込むのも少し常識が無かったのかもしれない。


 「それじゃあ花沢さん俺たちはこれで……!?」


 だが余羽と別れようとする直後の事であった。

 背後から信じられない程の圧迫感を加江須と仁乃の二人は即座に感知する。


 「あの…どうしましたか?」


 急に口を閉ざしてしまった二人を疑問視する余羽。だが今の二人はその疑問に答える余裕すらなかった。

 ゆっくりと自分たちの背中を叩く殺気に似た威圧感を確認する為に振り返る二人。


 振り向き視線の先に立っていた人物は雨など降ってもいないこんな快晴の中で黒い傘を差しており、菫色の長い髪を靡かせるどこか妖艶な雰囲気を纏った女性であった。

 


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