第三十九幕 死精騒動 part1
土日に更新するつもりがずっとゲームしてました。少し短めです。
王国魔導騎士団
それは先代国王が設立し魔導国エルフィニアに属しながらもその国の法に縛られず国に仇なすものを討伐する組織である。
二代目団長である"聖盾"デュナミス・ノア・エルフィニアを筆頭に様々な実力者を多数有している。魔導学院の卒業生も所属しておりルーカスのように在学中にも関わらずその腕を買われて所属する者もいる。
普段は親を失い孤児になった者達を保護し、その中から才ある者を育成する孤児院を経営している。
今回はそんな孤児院出身ながらその才能を見出され17歳ながら高等魔導士の位と騎士団副団長の座を預かる一人の少女...エヴァのお話をしよう。
エヴァはベージュ色の髪をポニーテールに結び同じ色の瞳を持つ可愛らしい少女だ。口数も多い方ではなく、じっとしていればお人形のようだと称されることも多い。
だがその容姿に騙された者は数知れず、その少女は可愛らしい見た目とは裏腹に非常に高い戦闘力、そして苛烈な攻撃性を持ち合わせているからだ。
そんな彼女だが意外にも騎士団の中での実力は下から数えた方が早い。では何故、彼女が副団長の位に座るのだろうか。簡単な話だ。一重に彼女愛されているのだ。
孤児でありながらも剣に打ち込み続け強くなり続けるその姿は騎士団のじじい共に娘のように扱われ、孤児院出身の団員たちからは羨望の眼差しを向けられている。
だからこそ、その無限の可能性を秘めた彼女をデュナミスは副団長に指名した。
そんな彼女の剣術は現在では珍しい双剣使い。言葉にするならば攻撃こそ最大の防御を体現したような剣士である。
そしてエヴァの兄弟子でありながら現在師として彼女を見守るデュナミスは彼女の剣を速さ=強さであると称している。
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そんな彼女が今回命じられた指令は悪精の討伐、しかもそれが死精なのだから当の本人も多少の驚きを隠せないでいた。
エヴァは死精は善にも悪にもなりうる存在だと言うことは知識では知っている。
「倒していいの?それに精霊って事は...。」
その真意を...エヴァは問いかける。
「殺せ。どう転ぶかは誰にも分からん。だから先に殺す。被害が出てからでは遅いからな。」
淡々と、団長であるデュナミスは告げる。
「そう。」
それだけ告げるとエヴァは二本の剣を帯に装備する。銘はレーヴァとテイン。
本来はデュナミスが留学先の国王から下賜された双剣であるが、デュナミスには合わなかったためエヴァに譲渡された神が分かたれた姿と言われる名剣である。
「手筈はいつも通りだ。あいつらが認識阻害を張ったら突入しろ。後はお前の魔法ならなんとかなるだろ。まあやばかったら誰か呼べばいい。死ぬ事だけは避けろ、生きてこそだ。」
「殺せと命じておいて私には生きろと言う。
デュナミスは酷い人。」
「当たり前だ。お前たちは俺の手足だからな。勝手に死んでもらっては困る。」
「ふーん。ま、そういうことにしといてあげる。」
『まあ何にせよ私はいつも通り仕事をするだけ。』
私の剣は亡き義父に、亡き義父が愛したこの国に捧げられているから。
対象が何であろうと、誰であろうと関係ない。命令されたなら私は斬るだけ。
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そう思っていた。
だが今回は初めてだった。
確認したターゲットはなんと年下の少年だった。正確にはその少年が契約している悪精なのだがまあ大抵の場合契約者も無事では済まないから同じようなもの。
可哀想。私の脳裏に哀れみの感情が浮かぶ。けど学院に認識阻害結界が貼られたのを感じるとそんな感情は自然にどこかへ行ってしまった。
右目にレンズ状の魔導具をセットする。
騎士団が開発した疑似魔眼だ。その効果はヒトならざるものを見通す力。そして視た。その少年の周りを飛び回りながら喋っている二匹の精霊の姿を。
同時に生まれて初めての戦慄を覚えた。
そのうちの一匹、黒い羽根を持つ精霊が真っ直ぐに此方を見ているのだ。話しながら、飛び回りながらも私を探すみたいに。
そして私の視線とぶつかり目が合う。
それは笑ったのだ。その瞬間身体が震えた気がした。
ああ、こいつが死精か。これは殺さなきゃと。無意識にそう思い僅かながら殺気が漏れてしまった。
その殺気に気がついたのか死精は笑みを崩すと契約者たる少年に話しかけた。
すると少年の雰囲気が変わる。警戒されてしまったようだ。失敗だった、私は自らの未熟を恥じる。けどそれと同時に少しの感動を覚えた。それは少年の放つ剣気が普通じゃなかったから。まだ荒削りではあるが洗練さが垣間見える。
その剣気は一朝一夕で身に付くものでは到底無かった、私自身と同じようにこの少年は剣にその身を捧げてきたのだと、私は少年に親近感を覚えてしまっていた。
その時のエヴァは悪い癖が出ていた。と後に本人もそう述べている。エヴァは強い剣士に目がないのだ。挑まずにはいられない。そのせいでターゲットを逃がしそうになったことが数回あるのだ。他の騎士団員はそれを悪い癖と言う、エヴァ自身もそう思っている。
だが亡き義父、そしてデュナミスだけはそれを剣を極めるのに必要な才能と言った。
だから気がつけば走り出していた。
そしてエヴァにはその立ち会いを可能とする魔法があったのだ。
「レギ、君は人気者だね。つけられてるよ。」
「え!?何処どこ!全然分からないんだけど!ルクスあんた凄いわね。」
「はぁ...。嫌われ者が正しいぞルクス。それとニア、声が大きいぞ。」
わざとらしく言うルクスに俺はお前分かってるだろと言わんばかりの視線をぶつける。
それにしても嫌われてる自信はまああるが狙われる程恨まれる記憶は無い。
「ルクス、どういう相手かまでは分かるか?」
「確証がある訳じゃないけど多分あの紋章は王国騎士団だね。」
「何故王国騎士団が俺を?」
「レギ、キミはたまに馬鹿だね。いや、君の場合はただのお人好しか。」
「レギは馬鹿じゃないわ!ちょっと鈍感なだけよ!」
「それはニアの言う通りだ。まあ簡単だよレギ。王国騎士団の狙いは君じゃない、ボクだ。」
ルクスは笑う。まるで自分が狙われているのを楽しんでいるかのように。
だがレギにとっては笑っていられる場合ではない。
せっかく契約できたルクスを手放す気も見捨てる気もないからだ。悪精でも死精でも利用すると決断したのは自分だ。こうなることも予期していなかったといえば嘘にはなる。まあ流石に今日の今日は早すぎたが...。そもそも今ルクスを失えば俺自身にも甚大な被害を被るのは間違いないだろう。ならば抗うしかない。
目を閉じ一度深呼吸する。
いつでも抜けるようにアルカディアの柄を握る。そして空間操作の闇魔法【レギオン】を発動し周りに侵入した者を検知する空間を作り出す。レギの魔法力では長くはもたないが出し惜しみをする理由はない。
そしてそこまでしてレギは連絡を取るべく念話を使う。最も信頼を置いているマスター、アルフェニスに向けて。
「.....。まずいな、念話が通じない。」
そこでようやく気がつく。周りを見渡しても生徒1人として居ないのだ。そしていつの間にか寮を通り過ぎて魔導樹の森まで来てしまっていた。端的にいえば嵌められたのだ。
「まずいわ!レギはかっこいいけど弱いもの。どうしようルクス。」
「どうしようもなにも僕らもまだレギと似たり寄ったりの力しかないじゃないか。それにニア、キミって何が出来るんだい?」
「え?えっとぉ........応援?」
「ふっ。」
ルクスの嘲笑にニアの顔は真っ赤に染まる。
「笑うなぁぁ!ふん!ルクスだって何も出来ないくせに!」
「まあそれはそうだけどね。とりあえず現界はやめようか、レギの魔法力を無駄にする訳にはいかない。」
「そ、そうね!」
二人が光となって消える。ルクスはレギの右眼に、ニアはアルカディアにそれぞれ吸い込まれていく。
「そ、それでどうするの?レギ。」
不安そうな声でニアが聞いてくる。
選択肢は多くない。
敵から逃げながら応援を待つというのが一つ目、だがこれは恐らく結界に覆われているため難しいだろう。そして二つ目は...迎撃である。
まあ実質的な選択肢は一つだけだろう。
「戦うしかないだろうな。戦って、なんとか足掻いて、そしてまあマスターがなんとかしてくれるだろう。」
窮地である事には変わりないが不思議と恐れは無かった。
ギルド ディアボロスの紋章は俺に力を与えてくれる。マスターたるアルフェニス・ジェラキールがいつでも自分を見てくれているという感覚が身体に満ちるのだ。それは例え念話が通じない今この状況でもそれは変わらない。だからこそ自信を持って自らの剣を振るうことが出来るのだ。
そんな中アルカディアは主の危機だというのに相変わらず抜けなかった。ニアが困ったようなオーラを出してるから後でフォローした方がいいだろう。
だが武器なしでは戦えない、そんなの当たり前だ。俺は剣士なのだから。しかも今回の相手は俺たちに放たれた騎士だというから刃の無い剣では流石に無理がある。
そっと虚空に手を伸ばす。そして
【傍観者の玩具箱】
ギルドの腕輪、紋章に魔力を通し詠唱する。
現れた黒い渦に迷わずに手を入れる。
そして俺はその手に触れる感触を確かめると虚空から手を引き抜いた。
握られていたのはロングソードだ。これはギルドの保管庫、まあぶっちゃけでいえばマスターたるアルフェニスが世界中から集めた武具達をしまっておく場所から取り出したものである。
ギルドの紋章を持つ者なら詠唱すればどんな時でも繋がるアルフェニス自慢の倉庫であり魔法なのだ。
そしてこのロングソードは不朽シリーズに属する武器であり切れ味こそ普通であるが絶対に壊れないのだという。
言わば斬る為の剣ではなく使用者の身を護る為の剣と言えるだろう。
「まあ対話で誤魔化せればそれでいいんだけどな、けどもしもの時はルクス、ニア、力を貸せ。」
レギの纏う雰囲気が変わる。
「いいね。それでこそキミだよレギ。自分の力を知り尽くし、それでいて微塵も負けるとは思っていない。キミのその心の強さこそ、ボクが欲したものさ。」
「【風域】なら任せて!誰よりも見てきたから私が発動してあげるわ!」
そんな会話もつかの間、木の影からそれは現れる。
二振りの剣を携えた女騎士だ。
その姿にレギは息を飲む。
「剣士の力量は立ち姿で大体把握出来る。今のお前には理解は出来ないだろうがな。その時がくれば勝手に分かるだろう。」
師、アシュレイの言葉を思い出していた。
そう、女騎士の佇まいは美しかった。
なんと言えばいいのだろうか、そうあれだ。身体にブレが無い。まるで背中に鉄の棒が入っているのではないかと錯覚するほど重心が綺麗なのだ。
剣に己を捧げ、学院最強の剣士に教えを乞うレギは当然理解する。
これには勝てない。
しばしの沈黙が流れる。俺は剣を構えながら真っ直ぐに相手を見据える。女騎士はまるでそれが構えと言わんばかりにただ立って此方を見ている。こちらから仕掛けたら必ず負ける。己の感をただ信じて待つ。相手が動くのを。
一筋の汗が額から頬を伝う。そしてそのまま地面へと落ちていく。その雫が落ちる瞬間に
女騎士の身体がブレた。
走馬灯のように師の言葉が頭を駆け巡る。
「レギ、貴様は弱い。お前がこれから戦う相手は格上ばかりだろう。その時お前はどうする。」
「自分の得意分野、距離で戦うよう仕向けようかと。俺なら魔法ではなく剣で。」
「ふむ、まあ在り来りだがそれでいい。だが一つだけ覚えておけ。どんな格上の相手であろうと初撃だけは必ず防げ。正面からな。避けるのでは無く防げ。魔法を放ってくるならばそれを斬れ、武具で攻めてくるならば打ち払え。それが出来なければお前の負けだ。」
「例えそれが虚勢だとしてもですか?」
「そうだ。虚勢でもいい、例え一回限りであろうと防がれる可能性があると相手に刷り込ませろ。特に命のやり取りをする場面ではな。」
ノーモーションからの居合だった。左手で振り抜かれた剣が俺の首目掛けて迫る。
全てを賭けろ!目を凝らせ!身体を動かせ!
「ー!」己のものか、ニアのものか声にならない声が発せられる。
薙ぎ払われた剣を滑り込ませるようにロングソードで受け止める。
ガギィィンとロングソードから悲鳴を上げるかのような音が鳴りなんとか初撃を防ぐことに成功した。そのまま剣を弾くべく力を込めようとした。
だが次の瞬間強い衝撃と共に俺の身体は魔導樹へ叩きつけられていた。
何が起こったかは見えてはいた。見えただけで反応は出来なかった。
女騎士は左手で剣を振り抜いた勢いのまま残る一方の手で逆手で剣を抜いたのだ。そして防いだ筈の一撃目に二撃目を重ねることで俺の剣ごと身体を吹き飛ばした。二撃で一つの技であった。
「折るつもりで斬ったのに。いい剣ね。」
女騎士はロングソードを拾い上げ、そう言いながらこちらへ近づいてくる。
なんとか立ち上がろうとして失敗する。身体が悲鳴を上げているのだ。
だがその女騎士は無防備な俺を斬る事もせずに魔導樹に剣を突き立てた。
「私は君を斬りにきた。けど私は君の剣に興味がある。だから少し、お話しよ。」
"我らを包み 我らを見放せ" 【断絶結界】
エヴァは歓喜する。この少年は私の全力の一撃目を防いだから。自慢じゃないが私の剣は速い。私の剣を防げる者はあまりいないと思う。それこそ年下に防がれたのは初めての経験だった。だからこそつい本気で連撃を使ってしまった。気絶してないよね?ちょっと焦る。剣を狙ったが少年を吹っ飛ばしてしまった。まだ私は少年と戦っていたかった。
少年は気絶してはいなかった。ただ身体を樹にぶつけたせいで動けないでいた。なら少しだけ待ってあげよう。呼吸が整えるまでお話でもしながら。それにしてもいい剣だ、折るつもりで斬ったのに刃こぼれ一つしてない名のある名剣かもしれない。........欲しい。
そんな事を思いながら私は詠唱する。
何故か私に発現した魔法。けど私にはぴったりの魔法。私と相手、二人だけを世界から隔離し、決闘へと引きずり込む固有空間魔法、【断絶結界】を。
設定増やしすぎて僕もいちいち見返さないと話が分からなくなってきました。ただ書きたいこと書いてると後から大変になってます。




