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魔導想生記 〜いつか英雄になるその日まで〜  作者: 航柊
第2章 学院生活編

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第三十七幕 精霊後始末part2

ちょい長いかもです。




〜アルカナ 執務室


シリウスは要請された演習室の鍵をティナーシャに渡す。


正直気乗りはしないし頭痛が止まらない。

目的を聞けばリオナが使うと言われたのだ。

だがそれでも貸したのは感情の起伏が少ないティナーシャが満面の笑みを浮かべていたから。


「リオナめ...一体何をするつもりだ。

いや、なにかしたのはアルフェニスか?」


そこまで考えてシリウスは諦める。


「あの馬鹿の事など考えるだけ無駄だな。それよりも念の為あいつも呼んでおくか...。」


胃痛までしてきた。


「はぁ...。私はよくやってるよなぁ。誰か私を慰めてくれてもいいと思う。」


誰にも聞かせることが出来ないシリウスの偽らざる本音である。


シリウスの隣に立ちたいと願う者は男女問わず多い。けれども皆シリウスの背を追うばかりで誰も隣に立ってはくれないのだ。

もう少し肩の力を抜くべきなのだろうが20年慣れ親しんだ生き方を今更変えられるわけもない。


「リオナは似て欲しくない所ばかり似てしまったな...。あいつにあれこれ言っておいて私自信は孤独を感じているのだから恥ずかしい限りだ。」


執務室の窓から少しばかり覗ける空を見ながら1人呟く。


「よし。」


ふぅっと深呼吸をする。


気がつけば儚げな魔導士の影はなく、"至高"、"閃光"を拝命する超越の魔導士が立っていた。


するとノックの音がする。

相変わらずこちらから呼べば来るのが早いやつだと感心と呆れの混ざった表情を浮かべる。


「入れ。」




〜リオナ 自室


「カレン!着いてこい!演習室へ行くのじゃ!」


「待て待て、どうしてそうなる。」


開口一番にそんなことを言うルームメイト兼主に声を発するのはカレンである。


だがカレンは主の姿を一目見ると驚愕し、そして喜びと諦めの表情を浮かべた。


何故か。それは主の表情がかつて幾度となく見た、そしてあれ以降なりを潜めていた悪巧みを思いついた王女にあるまじき笑顔を浮かべていたからである。


「久しく見なかった顔だな...。全く最近のお前には驚かされてばかりだよ。」


だが溢れ出る思いとは別にカレンは一筋の不安を感じる。不意に"傷"が痛む気がした。


「はっ!顔に不安が出ておるぞ?そしてお前の不安は正しいものじゃ。妾は"傷"を乗り越え、お前の呪いを断ち切る。」


カレンの幻痛はリオナの言葉と共に確かなものに変わっていく。


痛い 痛い 言うな 触れるな やめてくれ


傷が疼く度にカレンの脳裏に決して口にできない言葉が浮かんでは消えていく。


「リオナ......。いや何を言ってもお前は止められないのだろう。だが一つ聞かせてくれ。」


「...なんじゃ。」


「怖くないのか?」


カレンはただ一言問う。


それを問に込められた意味をリオナは余すことなく理解している。

親友(とも)が苦しみに苛まれ続けている事など本人より知っているつもりだ。

毎朝自らの背中に流れ落ちる雫の意味も。


「怖くないとは言えぬ。だかそれよりも恐ろしいものを知ったのじゃ。いや...思い出したというのが正しいかのう。」


そう言い放つリオナの表情はどこか晴れやかなものであった。



カレンはその表情にどこか眩いものを感じる。直視できない...何故そんな顔が出来るのか理解できない。

苛立ちにも似たものがカレンの口から飛び出す。



「何故だ!あれ程の傷を負い、お前は死にかけた。なのに何故!一体何があった!?私は...あの日から止まったままなんだ。毎日毎日後悔ばかりなのに...。」


その苛立ち、その悔恨はリオナに向けたものなのか、或いは自らに向けたものなのか。その両方か。


「簡単なこと。妾はさっき死んできたのじゃ。」


「なんだと?」


カレンは理解できない。当然だろう。何を言っているんだという感想しか出てこない。リオナでなければふざけてるのかと張り手のひとつでもかましたかもしれない。


そんなカレンを気にもとめずにリオナは続ける。


「妾はあの馬鹿、レギが召喚した悪精によって死に触れたのじゃ。まあ死んではおらん。さっきのは言葉の綾じゃ、死にはかけたがな。」


「悪精だと...?それがレギに付いていた精霊だというのか?」


「そういう事じゃ。それには流石の妾も驚かされたわ。悪精については心配いらぬ、明日からも変わらず接してやるとよい。」


「話が急すぎて脳が追いつかないぞ...。それでお前はその... 死に触れて何を見たんだ。」


「見たというより感じたが正しいのう。己の全てが消えて無くなる喪失感、自分が自分で無くなるような感覚じゃ.....。あれに比べれば妾達の傷などかすり傷に過ぎぬ。"死ぬ"のと"死にかける"では比べ物にならぬのじゃ。」


リオナは両の手で自らの身体を抱き少し震えながら語る。





私、カレン・アストリウスは自惚れとは遠い存在であると自覚している。

上には上がいると理解しているからだ。まだ15歳のくせにと言われるかもしれないが他人の評価などどうでもいい。自分がそう思っていればいいのだ。


そんな私が一つ誰よりも優れていると思う所がある。それは主であり親友、リオナの事を誰より理解しているということ。

この一点に関してならば私は自惚れているかもしれない。


だからこそ


気丈な主がその記憶だけで震えるという信じられない姿に私は息を飲む。そしてその事実が嘘偽りでないことを理解する。




「お前はそれでも....それでもやれると?何故そこまで...。」


震えるリオナを見て私の不安は更に膨らんでしまう。


「のうカレン。あの馬鹿は自らを信じて、いや信じてなどおらぬのかもしれん。だがそれでも己を賭けて悪精を召喚したのじゃ。悪精じゃぞ?それをあの馬鹿は二つ返事で返しおった。」


それはレギの心が強いからだ...。と言いかけたが私は何も言えない。言えるわけが無い。

ならリオナの心は弱いのかということになる。そんなことは有り得ない。それは私が誰より知っている。


「あの日から妾たちは止まったままじゃ。幾つ日を重ねようともあの日のことを忘れることは出来ぬ。だがそれでは前に進めぬ。妾に選択肢など元から有りはせぬのじゃ。死を乗り越えて前に進む以外にはな。あの魔法はそういうものなのだと確信を得た。」


風など吹いてはいないのに私の髪を風が揺らした気がした。

そう語るリオナは私が見たことない程の自信に満ち溢れていた。

いや、私はこの顔を見たことがあった。

忘れていただけ、思い出したくなかっただけかもしれない。

その顔はあの絶望に落ちた日、リオナが新しい魔法を開発したと私に告げた時と同じ顔だった。


「なるほどな...。もう何も言うまい。その顔をしたお前を私は止めることができないだろう。お前が歩みを始めるならば私も立ち止まっている場合では無いのだろうな。」


「はっ!今ならこう言えるのじゃ。そこに道があるならば進め、道を前に立ち竦む足など切り落としてしまえとな。なあに死ななきゃいい話なのじゃ。今回は姉上達もおるしのう。」


あまりに適当な事をリオナが言い始めた為思わず私は笑ってしまった。


「それは流石に軽すぎるだろう。シリウス様だってお前のことを心配しているはずだ。」


「ふん。お前も一度死に触れてみればこうなるわ。死ななきゃどうとでもなるのじゃ。もしかするとあの馬鹿はここら辺の倫理が破綻しておるのかもしれんな。」


全く...お前はいいかもしれんが周りはそうもいかないだろうに...。

それは元からだったな。こいつは周りの事など考えないのだ。


「はあ...。この学院に来てから溜息が増えて仕方がないな...。」


「お前は気にしすぎなのじゃ。力も地位も顔も良い。だからもっと偉そうにしておけばよいのじゃ。」


「私なりに頑張ってはいるのだがな。」


「長話が過ぎた。姉上を待たせておる、さっさと行くぞ!」


これから何が起きようとも私はリオナを信じよう。

そう心に誓い共に部屋を出る。




〜アルカナ


「起きなさい、ティナ。」


「んんっ。やっときた?」


「そのようだ。」


演習室に置かれたベンチの上でティナに膝を貸していたシリウスが立ち上がる。


「シリウス様、では展開致します。」


「ああ、手筈通り結界を頼む、ルーカス。」


結界を担当する魔導士の名はルーカス。


アルカナにおいて3人が名を連ねる魔導十傑。その序列10位の座を頂く魔導士。


与えられた二つ名は"栄光(ザ・グローリー)"

今は訳あって学院外での業務に勤しんでいるがその魔法が必要な場合はこうして呼び出される事が度々あるのだ。


結界が演習室を覆うのと同じタイミングでドアが開く。


現れるのは当然この部屋を借りるよう指示を出したリオナその人だ。そしてカレンが申し訳なさそうに続く。


「シリウス様、未熟な我が身をこのような場所への立ち入りを許可して頂き感謝を。」


カレンが深々と頭を下げる。


「頭を上げなさいカレン。貴女は主に従っただけ、仮に責められるとするならばそれはリオナよ。」


「そうじゃぞカレン。お前はもう少し力を抜くがよい。」


「お前は少しリラックスし過ぎだ。

それで、お前は何故演習室を借りたのだ。説明してもらうぞ。」


「姉上も人が悪いのう。"栄光"まで呼び寄せておいて気がついていない訳があるまい。」


「私の取り越し苦労であって欲しいのだがな...。どうやらそうはいかないらしいな。」


「使うぞ、あれを。」


リオナは真っ直ぐにシリウスの目を見てそう告げる。


「そう。本気なのだな。ならば私はお前を信じよう。もしもの時は私とティナが対応する。だが失敗は許さん、その時は処罰を下すぞ。」


姉妹としてでは無く、マスターと一人のギルドメンバーとしてそう言い放つシリウス。


「それで構わぬ。異論は無い。」


それだけ言うとリオナは帯刀する剣を鞘から抜き放つ。


王剣ミーティア


それが純白の刀身を持つこの剣の銘である。


「これが噂に名高い国宝の一つ、王剣ミーティアか。なんと美しい。」


ルーカスはそれを見て感嘆の意を示す。


主の意を受けミーティアはその刀身に魔力を胎動させる。


リオナの魔力に呼応するように周囲の気温が下がり始める。


そっとリオナは目を閉じる。




心臓の音がクリアに聞こえる。

昂っていた自分の身体が少しずつ静寂に支配されるのが分かる。

体温が下がりゆっくりと身体が死へと向かっていく。

そしてその逆に魔力は高まり続ける。


そして辿り着く。死線へと。


これを越えなければこの魔法は発動しない。


だが妾の足はそこで一度止まる。

リオナをヒトたらしめている理性が本能が死線を踏み越えるなと警告を発している。


覚悟はしていたはずなのに...。どうしようもなく足が竦むのだ。二度死に触れ、より理解したからこその恐怖。そして心は染められていく。





シリウスはその様子をただ見つめる。


仕方がないのだ。ヒトであれば死線の前にして足が竦むのは。それを容易く踏み越える者はヒトとして破綻しているのだ。


だが我々魔導士、その一部。超越へと至る魔導士達はそれを越えなければならない。

強き力にはそれ相応の代償が必要なのだ。


踏み出せない妹を制すべく声を掛けようとする。



だがその時、居るはずの無い声が扉が開くと同時に響き渡る。



「落ち着けリオナ。心に乱れが見えるぞ。」



現れた人物にティナーシャ以外は驚愕に染まる。

そしてやれやれと言った様子を見せながらルーカスが口を開く。


「また貴方様は...。責任は取れるのでしょうね。」


リオナは閉じていた目を開け、その声の人物を認識する。


「兄上.....。」


居るはずの無い人物。それは現王国魔導騎士団団長にして"聖盾(パラディン)"の2つ名を持つ男。


デュナミス・ノア・エルフィニア


リオナの兄にしてシリウスの弟である。




...が次の瞬間

ドヤ顔をキメるデュナミスに閃光が嘶く。


神速の如きシリウスの一閃。それをキィィィンという甲高い音ともに抜刀した剣で受け止めるデュナミス。


そこから繰り広げられる剣戟にカレンは言葉を忘れ、リオナも剣を置き呆れつつも静かにそれを見つめる。


幾度となく繰り返された光景でありリオナにとっては見慣れたものである。


けれども幾度目にしようとも色褪せることの無い至高の剣戟。



攻め立てているのは確実にシリウスだ。

閃光に例えられる剣閃は美しさすら覚える。


だがそれを性格無比に弾き続けるのはデュナミス。

"聖盾"をの名を冠する通り守りに関してはリオナの知る限り右に出る者はいない魔導剣士。



だがそれでも至高の魔導士、シリウスはそれを上回る。

右、左、上、下、あらゆる方向からの剣閃とフェイントに徐々にデュナミスの体勢が崩れていく。


そしてシリウスの剣がデュナミスを捉えるというタイミングでデュナミスは身体を翻す。


「ストップ、ストップだ姉貴。俺が悪かった。」



「はぁ...。」


リオナはため息をつく。これもいつもの光景だ。


「質問に答えろ愚弟。何故貴様がここに居る。父上の警護はどうした!」


シリウスの隠しきれない怒りが言葉からにじみ出る。


「何も無断って訳じゃないさ。一応仕事のついでだよ。相変わらず姉貴は口より先に手が出るな。」


飄々とした態度のデュナミス、あれだけの剣戟を繰り広げておいて息一つ乱れないのは流石の一言である。


「普段の貴様の行いが招いた結果だろう。ならばとっとと仕事へ行け。ここにお前は必要ない。」



いつもこうだ、この一歳差の姉と兄は。共に偉大な尊敬出来る魔導士ではあるのだがこの2人は水と油なのだ。リオナは諦めと共にそんなことを思うのだった。


「そういうなよ姉貴。貴重な兄妹の再開なんだぜ?ずっとこの国にいた姉貴と違ってこっちは留学してたからよ。」


「はっ、国を追い立てられた屑が何を偉そうに。」


「そこまで。2人とも、従者の前で見苦しいのじゃ...。」


再び一触即発な雰囲気をかもし始めた2人に割って入るリオナ。



「ん。そろそろ喧嘩終わった?」


「シリウス様。主に代わってお詫び申し上げます。」


ティナとルーカスがそれぞれ口を開く。


「ん。リオナが可哀想。邪魔なのは2人共。」


一切の含みを持たないストレートなティナーシャの言葉が2人を貫く。



「すまない...。取り乱した。」


「邪魔したとは思ってないぜ?だってあのままなら魔法の制御に失敗してた。そうだろリオナ。」


2人の言葉は正反対のものであったがリオナ自身は正しいのは兄の言葉であると理解している。そして恐らく姉もそれには気がついていることも。


そしてその言葉にリオナは沈黙でしか返すことができない。


だがそんなリオナにデュナミスは近づき手を伸ばす。


そしてわしゃわしゃと頭を強く撫でる。


「死の恐怖は乗り越えなければならない。お前が上を目指すのならば。」


リオナはその言葉に顔を歪める。


「まあ待て、そんな顔をするな。死の恐怖は乗り越えるものであって忘れていいものでは無い。特に氷魔法を使うお前はな。お前が作り出した魔法のように氷系統は一歩誤れば命を落としかねない魔法が多い。だからあれでいいんだよ。」


そう言うとデュナミスはそっとリオナの頬に触れる。


「誰より死を恐怖しろ、誰より死を理解しろ。それが成った時、お前は憧憬に並ぶ、それを超える魔導士になれるだろう。」


「!? 兄上!知っておるのか!あのお方がどこにいるのか!」


兄の思わぬ言葉に大声を上げてしまうリオナ。それもそうだ、どれだけ調べようとも見聞を広げようともリオナの憧憬にあたる人物の事を知ることは出来なかったからだ。


「ああ知ってるぜ?実際に会ったからな。それに、お前のことを覚えていたぞ。流石に口調や魔法まで真似したと聞いた時は笑っていたがな。」


淡々と事実を伝えるデュナミス。

だがその言葉一つ一つがリオナにとっては福音なのだ。


「そしてお前に伝言を預かってる。『魔導の頂きにて妾はお前を待つ。』だそうだ。これ以上の事は言えないし詮索はするな。いいな?」


自身にとって神にも等しい者の言葉をリオナの心は万感の思いで受け止める。


脳内再生余裕なのじゃ!神よ!初めてそなたに感謝するぞ!


とはリオナの内心である。


「ふっ。ならばこんな所で足踏みしてる場合ではないのう。感謝するぞ兄上。」


たった一言。それだけで自信に満ち溢れていく。

そんな妹の姿をみて腕を組みうんうんと頷くのはデュナミスそしてここぞとばかりにとある話題を切り出す。


「それでいい。妹よ。だからな?こんなに優しい兄の頼みを聞いてはくれまいか?」


嫌な予感しかしないのだがリオナは仕方なく聞き返す。


「聞くだけは聞いといてやるのじゃ。」



「頼むリオナ。一度でいい!"お兄ちゃんと呼んでくれ!!!"」


それはそれは見事な土下座だった。


リオナの魔法を使用していないのに空間が凍りつく。


そう。これこそがこの兄、デュナミス・ノア・エルフィニアが国を追われた理由である。

この男、重度のシスコンなのだ。そしてその愛情は妹であるリオナのみに注がれている。


「そ、それはのう...。」


流石のリオナもこれには苦笑いするしかない。せっかく昂った魔力が霧散して行くのを感じる。


「我が主よ、リオナ様は引いておられます。ドン引きです。嫌われてしまいますよ?」


助け舟を出すのはデュナミスの付き人でもあるルーカス。


「嫌われるのは困るからな。この辺にしておこう。」


スっと何事も無かったかのように佇まいを正す。二重人格を疑うレベルの切り替えの速さである。


「貴様は王族として恥を知れ。」


その言葉と共に鞘でデュナミスの後頭部が叩かれる。


「兄が妹を愛して何が悪いんだよ。まあもう邪魔はしないさ。可愛い妹の成長を見届けないとな。」


「リオナ、邪魔をしたな。続けるも続けないもお前に任せる。だが無理をするな、それだけだ。」


「姉貴は心配症過ぎるぜ。もっと信頼して見守ってやれ、リオナは"俺たち"の妹なんだからよ。」



その言葉にリオナは笑う。


俺たち とはな。なんだかんだ言って兄上も姉上の事は認めているのじゃろうな。


偉大な姉兄達に負ける訳にはいかぬのじゃ。



「引くわけにはいくまいよ。それだけの啖呵をカレンの前で切ってしまったからのう。」



「よく言った。ほんの少しだが愛する妹の背中を押してやろう。


"不撓不屈の意思 それは全てを退ける盾たらん"

護心(ライオットハート)


頑張れ、リオナ。」


それだけ言うとデュナミスはベンチに腰かける。



心の火が兄の魔法を受けて燃え上がるのをリオナは感じる。


守られているという安心感に包まれる、

何がほんの少しの後押しじゃ。これで成功させなければ妾が馬鹿ではないか。

過保護な兄じゃ全く。

だがそれすらも利用しよう。差し伸べられた手は掴むのが我々ヒトなのだ。

まあこれはティナ姉の言葉なのじゃが...。

はぁ... まあ礼ぐらい言ってやっても良いのう。


「感謝を。..............お兄ちゃん。」



パタリと。デュナミスはベンチに倒れる。

それはそれはいい笑顔だったと後にルーカスは証言している。


「邪魔者が静かになったな。」


シリウスが頭を抑えながら一言。




まさか気絶するとは思っていなかった兄に乾いた笑いを浮かべるがすぐに意識を切り替える。



恐怖はあっても既に震えは無い。

ミーティアを持つ手に力を込める。

取り戻した自信、それが兄の手によって確信へと進化する。

先程とは比べ物にならない程洗練された魔力が集まっていく。

そして最も信頼する精霊の名を呼ぶのだ。


「来い、アイシス。」


「ふふ。今のリオナ、今までで一番輝いてるわ。」



カレンは主の背中に王の姿を見た。

その視線は羨望、そして嫉妬を含んでいた。


私は何が出来るのか。だがその問いには誰も答えてはくれない。



「ルーカス。」


「どうかされましたか?」


「もう一段階結界を強くしろ。」


「これ以上となりますと私は静止せねばなりませんが...。」


「構わん。お前の身はティナに守らせる。」


「ん。ルーカス、大船に乗ったつもりでいて。」


「分かりました。では。」


"汝 栄光に祝福されし 輝きの聖歌隊

歌われるは永久なる賛美歌 響き渡れ"


【グローリー・テアートルム】



ルーカスは剣と錫杖が一体となった剣杖(ソードスタッフ)を掲げ祈りを捧げるように魔法を発動する。

演習室を更なる光が覆う。


そしてその光たちは中心に立つリオナを照らすのだ。



「行くぞ、アイシス。」


「ええ、いつでも。」



ふうっと一息。


歌うように、祈るように詠唱は紡がれる。

世に二つとして存在しない、世界に一つの奇跡。



"我立つは白氷の園 吹雪くは白銀の風

荊の城の頂きに在り全てを裁く

我が名は白薔薇の女王(おう) その名はフェンリル

我が一歩は大地を停め 二歩で時を停め

三歩のうちに世界を停める 星に仇なす終末の獣

凍てつけ 終れ 罪華に抱かれて 全てを閉せ"


絶対零度(アブソリュート・ゼロ) (グレシャス)女王(レジーナ)



氷気が爆発する。そして世界が凍りつく。


一瞬にして演習室は氷に包まれたのだ。

そこに居た人物達を除いて。



カレンは戦慄を覚える。

まるで規模が違う。これが同じ魔法であると実際に目にしたことがあるカレンは信じることが出来ない。



コツコツコツと


氷煙から現れたのは2つの影。


氷で作られたドレスを纏ったリオナ。

そして氷像に憑依し氷槍を手にするアイシスであった。



「アイシス!誰がここまでしろと言ったのじゃ!部屋が氷漬けでは無いか!」


「貴女が調子乗って魔力を渡してくるからじゃない!こうでもしないとまた前みたいになってたわよ!」



ギャーギャーと口喧嘩を始める2人にカレンはポカーンと眺めることしか出来ない。


どうやら想定外の事が起きたらしいのだが2人からは余裕すら感じる。



「ふん。貴女、自分で魔法組上げておいて気がついていないの?」


「そういうことでは無いわ!...まあよい。」


リオナがミーティアをそっと振るう。


するとどうだ。部屋の氷が一斉に砕けたのだ。そしてその欠片達はリオナの振るう剣に同調するように形を造っていく。


氷片は蝶、鷹、豹となりリオナとアイシスを囲んでいく。


リオナは豹にそっと腰掛ける。


絶対者。氷の女王の誕生である。



「ここまでとはな。我が妹ながら凄まじい。」


「ん。綺麗、凄い。」


「これ程とは...主様は惜しいことをした。」


「なーに言ってんだルーカス。俺が妹の勇姿を見逃す訳ないだろ。」


いつの間にか起き上がっていたデュナミスが3人に並んでそう言い放つ。


「だがな、一番肝心な奴にはまだ駄目だ。ここからだぞリオナ。」


その小さく呟きは誰にも聞かれる事無く視線は妹へと向く。



カレンは立ち尽くしていた。

自分の心配など無に帰すように魔法を披露し更には進化までさせたリオナに言葉を失う。




「カレン。いつまでお前は足を止めている気じゃ。」


主の言葉が理解出来ない。


「どういう意味だリオナ...。」


「妾達は魔導士じゃ。言葉で伝わらぬのなら魔法を交わすしかあるまい。

妾と戦え、カレン・アストリウス。」


魂が凍てつく風がカレンに吹雪く。


「...お前に剣を向けろというのか?」


「それが主たる妾の望みじゃ。」


カレンはこの顔を知っている。


だからこそカレンは剣を抜く。


ミーティアの姉妹剣たる煌剣オラシオンを。


書きたいこと適当に書いてしまったので矛盾あったら土下座します。

まだ続きます!

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