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魔導想生記 〜いつか英雄になるその日まで〜  作者: 航柊
第3章 魔導士編

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百二十八幕 柊流秘奥

お待たせしすぎました

『私とて厳しい修行を重ねてきた自負があったのだがな。どうやら世界はまだまだ広いようだ。』


向かい合うこの静寂において雑念とも言える刹那の思考。だがそう考えずにはいられないほどに


目の前に立つ者の姿は圧倒的だった。


無いはずの左腕が添えられているのではと幻視する程の一縷の隙も無い美しい正眼の構え。


どれ程の研鑽...そして"実戦"を経ればこれに辿り着けるのだろうか。


最早見惚れつつある私を見兼ねてか、はたまた悪戯にかは分からない。だがそう、何時だって傍観者たる奴によって不意に賽は投げられる。


キィンっと甲高い音が鳴り響き、私とレギ...その丁度真ん中に一枚のコインが舞い上がる。


投げたのは宰相、蓮。そんな(やつ)はこちらの状況なぞ意に介さず私に向けてウインクをする。全く悪い男だ...後で覚えておけ。


だがそう、どれだけ恨み言を思おうとも既に賽は投げられたのだ。そういう意味では最高の仕事をやってのけたと言える。


後はもう、やるしかないのだからな。


氣を鞘に流し、魔力を刀身に込める。大和が誇る"天上五剣"が一振り、真打"緋岸"へと。


そして放つのは晴れの日も雨の日も...朝日が登り、日が暮れるまで振り続けた


"一刀戦心" 居合一の型 【夕星(ゆうづつ)


______________



一瞬の静寂が戦場を支配し、誰かが息を飲む音が聞こえたその時...コインが落ち、向かい合っていた二人の姿が掻き消える。


次の瞬間.....二つの剣閃はコインの上で一条の火花を描き出す。


そして目に映る火花から遅れること一瞬、甲高い金属音が戦場に響き渡った。


戦刀姫(イザナミ)】、柊 斬姫が操るのは音を置き去りにする神速の抜刀術。


本来相反する氣と魔力を完璧な比率で掛け合わせることで爆発的な推進力を生み出す居合"一刀戦心"。



「そんな...あれが防がれるなんて。」


「けっ!どうせ殺さねえように手加減してんだろ。.....そうだよな?」


「いや姉様めっちゃ笑顔だしそんなこと思ってないと思うけど...?」


「レギ様の事は心配ですけれど...それ以上にこの戦い、見逃せませんわ。」


「防がれるか...ははっ!よい!それでこそ斬り甲斐があるというものだ!」


四者四様の表情を見せる妹たちを他所に渾身の【夕星】を防がれてなお、彼女の顔は笑みを浮かべるのを止められなかった。


「"星霜の果て 誰よりも疾く奔れ" 【星原】」


すぐさま繰り出されるのは次なる一手。居合の推進力を膨大な魔力で維持し、辿る軌跡が刃となる高速斬撃。

それは瞬きの間に"英雄"を取り囲む籠の軌跡を描き出し...


「【刀界 白葉(はくよう)】」 そしてそれは主の告げる名によって数多の"刀"となる。


一瞬にして現出するのは刀の結界。数並の剣士、魔導士であれば触れただけで死は免れない絶対の刀界。



その中心にあって....."英雄"もまた、静かに、揺らぐことなくただ一つの名を呟く。


「【真月(しんげつ)】」


その名と共に地に突き立てられたアルカディアが(なにか)を放つ。ヒトの目には映らないそれは全てを調和し、無に帰す真なる月光。


それは柊流 秘奥が一つ。


「なっ...!?」


斬姫が思わず声をあげるのと同時にまるで空に溶ける如く刀たちが一瞬にして霧散していく。


その驚きは【白葉】を防がれたからではなく...その技を彼女は知っていたから。レギの身体を借りているはずの"英雄(だれか)"振るったのは確かな柊流。


だが驚き固まるこちらの事情なぞ構うことなく"英雄"は更なる技をもって英雄たる証を示さんとする。


______________


これは...この剣は間違いなく柊流のものだ。


だが歴代継承者のどの剣とも一致しない。

より鋭く、より洗練されたもの...我々の知らない新しい柊流。


目まぐるしい情報の嵐の中、次にこの両の瞳が捉えたのはよく知っている"型"にして"構え"。


そう、知っていた.....だからこそ、身体は辛うじて反応した。


それはまたしても紛れもない柊流秘奥が一つ、【凪薙(ななぎ)


音を置き去りにするのではなく...音を凪ぎ、払う薙ぎ払い。波一つ無い無限に続く水辺線が如き真一文字。

己が振るった【夕星】の先にある技。


微かに避けきれず、アルカディアの鋒が髪留めを弾き飛ばす。


『踏み込みが浅くなければ死んでいた。』


その事実と、あまりに濃厚な死のイメージに首に幻痛がはしる。


『技の鋭さに身体が付いてきていない。

一目見ただけで分かる鍛えられた鋼のようなレギの身体に宿っているのにも関わらずだ。一体どれ程の...。』


ここまで使った柊流秘奥は二つ...そして秘奥はもう一つ存在する。彼が使えない訳が無い...この目で見たい、なんとしてでも。


「ふっ、どうせ死にはしないのだ。この命を賭してでも使って貰わねば割にあわぬな。」


目には目を、技には技を。

意を決し、一瞥もすることなく元首たる母、そして宰相"蓮"に告げる。


「母上!蓮!【倉】を開けろ、使うぞ...国宝を。」


「ほほう、"黒剣"に使うのではなかったのか?良いのだな?」


「構わん!この者に比べればあの"黒剣(アシュレイ)"なぞ斬り捨ててくれるわ!」


「久しいですね、贋作(レプリカ)では無く真作(ほんもの)が見られるのは。大和が宰相、漣蓮、承認。」


「まあよい、もう少し踊ってみせい。大和元首、柊殺華、承認。」


【戦刀姫】、斬姫には母、殺華より三振りの刀を下賜されている。帯刀しているのが二振り。共に"天上五剣"、"緋岸"、そして"妖桜(よざくら)"。


そして最後の一振りは国家元首、及び宰相の承認時のみ使用出来る"神刀"が一振り。


「我が名の元に来たれ、"天地別つ黎明の明星" 【天之瓊断(あめのぬのたち)】」


元来の国宝 【天之瓊矛(あめのぬのぼこ)】を殺華が娘の為に改良を加え打ち直した斬姫専用刀(オーダーメイド)遺物(アーティファクト)と最新の魔導技術の融合にして至高の一振り。


なおこの国宝打ち直しを巡って国が割れるほどの論争が起きたのだが殺華が正式な試合で反対派をボコボコにし収めたのはまた別の話。



______________


水底のような深き闇の中、俺は"声"を聴いた。


「懐かしいな。」


それは俺ではない"英雄(だれか)"が零した確かな感情(こえ)


瞬間、一面の闇を照らすが如く光が差し込み..."視界"は晴れ渡った。


この眼に飛び込んできたのは凄まじい魔力を孕む刀を握る斬姫の姿。そしてまるで"神刀(それ)"に応えるように煌々と光を放つアルカディア。


その時英雄(だれか)がアルカディアを強く握りしめるのが分かった。まるで俺自身も"英雄"と同調するかのように...感覚を取り戻しつつあることに気が付く。


そんな時...俺は確かに耳にした。俺では無い俺の声で。


アルカディアを真っ直ぐ斬姫へと向け、英雄が慈しむように...懐かしむように、その"名"を告げたのを。


「来たれ "救世と創園の星剣" 【星薙(アルカディア)】」


"名"を知らずして 其れは成らず

"名"が在るからこそ 成るに能う


最早何回目かも分からない...世界がひっくり返る感覚。そう、またしても今この瞬間から...俺の視る世界は違って見えるのだろう。


______________



「"解放"までやりおるか。やはりこやつ...これは少々急がねばまずいかのう。」


殺華の眼に昔日の景色が重なる。その眼が写すのは遠い記憶の英雄(だれか)か或いは...。


______________


告げられたその"名"、それはずっと聞かされていたもの。そしてそれは私が今日、この場に居る理由。

その剣を振るう"彼"の元へ、その名を告げる為に海を渡ったのだから。


だがそれがどうだ。今、目前でその"名"を告げたのは歴史の裏に立つ名も無き"英雄(だれか)"。


「.....聞きたい事は山ほどある。だがそれは叶わぬのだろう。なればこそ...言葉の代わりにこの刀と、その剣で語り合おうではないか。」


疑念も疑問もある。考えれば考えるほど浮かんでくる。"英雄(やつ)"は誰なのか、それを宿す(レギ)は何者なのか。


そんな思考を、"雑念"として削ぎ落とし、今一度この鞘に仕舞い込む。


何者かなのかはどうだっていい。


我望むはただ一つ、同じ柊流継承者として、己が技を...貴方に刻みたい。

柊流のその先、私だけの秘奥をもって。



「柊流神刀居合 "夜刀神" 一の型【黒白(ブラックスワン)】」

本当にお待たせしすぎました。普通にゲームし過ぎてます。

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