番外 アイイェナ日和(2)
きょろきょろとアインヤールの姿を探していると、イェナーが行っていたケーキ屋と反対方向から走ってくるのが見えた。
「アインヤール君、どこか行っていたの?」
「あ、イェナーさん……すみません……。その、大事なお話があります……」
「あら、何かしら」
アインヤールは鋭い目をより細めて、長い長い間を挟んでから一輪の花を差し出してきた。
「…………………………………………よければ……受け取って下さい…………」
「これは……」
「……そこのお花屋さんで、急いで買ってきました…………」
「そうではなくて……。どうして私に?」
「それは……。…………えっと…………ぃ、イェナーさんに……似合いそう、だったので……」
気恥しそうに、ぽそぽそと言葉を紡ぐアインヤールを、ただ見つめる事しか出来なかった。あまりに突然の事で、頭の処理が追い付かなかったのだ。
「今日は、本当に楽しい一日でした……。イェナーさんとお話出来て……とても、嬉しかったです……」
「アインヤール君……」
「……自分は、口下手なので……まっすぐに想いを伝える事は苦手です……。でも……イェナーさんを想う気持ちは、誰にも負けない自信があります。……どうか、受け取って下さい」
アインヤールの気持ちは、とても嬉しい。しかしイェナーは、気になって仕方がなかった。
「……アインヤール君。それは……告白と受け取ってもいいのかしら……?」
「………………こ、告白…………?」
ぱちぱち、と目を瞬いて、アインヤールは黙り込んでしまった。またもや長く沈黙した後、言葉の意味を理解したようでアインヤールは小さく息を飲んだ。
「…………………………………………ッ!!!!」
瞬間、アインヤールの顔が真っ赤に染まった。
「ち、違っ……いえ、違わないのですが……その、これはあくまで今日のお礼の気持ちであり、イェナーさんへの気持ちは……でも、その……えっと、す、すみません……言いたい事が上手く纏まらなくて……」
どうならアインヤールは、感謝の気持ちを伝えたかっただけのようだ。しかしそのような反応をされては、からかいたくなってしまう。
「……アインヤール君、実はかなり可愛い人なのね」
「か、可愛い……?」
「ふふっ。ねぇ、答えて。私の事好き?」
イェナーの問いに、アインヤールは更に顔を赤くさせて視線を泳がせた。恥ずかしがって否定するかと思いきや、
「す……き、です……」
と、答えてくれた。
「やった! 私もアインヤール君の事好きかも。お花、勿論喜んで受け取るわ」
「ぁ、あ、ありがとうございます……」
アインヤールはいよいよ、どうしたらいいのか分からなくなってしまったようで、顔を赤くしたまま動かなくなってしまった。そんな彼の手からそっと差し出された花を受け取って、
「それじゃあ改めて、お家まで送ってくれるかしら」
と言って、彼の顔を覗き込む。
「……勿論、です……」
すぐに視線を逸らされたが、その初々しさが可愛くてたまらない。歩き始めた所で、アインヤールの手を握ると、思った通り大きく肩を揺らして動揺を露わにする。
「!!!??」
「手を繋ぐのは初めて?」
「そ、その……き、緊張して…………す、すみません……情けない、ですよね……」
「まさか。新しい一面を見れて嬉しいわ」
「……そう、ですか……」
ひったくり犯を捕まえた時には、圧倒的な強さでねじ伏せていたというのに、手を繋いだだけで動揺しているなんて。思わず笑みが零れてしまう。
しかしアインヤールが手を振り解こうとしないので、手を繋いだまま歩く事数分。街から出た所で、足を止めた。
「ここでいいわ。この先、道が入り組んでるから、アインヤール君が帰れなくなっちゃう」
「……分かりました。どうか、お気を付けて……」
手を離す時、少しだけ名残惜しく感じてしまう。手に残る温もりを感じながら、イェナーは手を振った。
「今日はありがとう。お花、お部屋に飾るわね」
「……こちらこそ、ありがとうございます」
「また四人でも遊べるといいわね。それと、二人でデートもしましょうね。」
デート、という言葉に、アインヤールがハッと目を見開いた。くすくすと笑いながら、イェナーは家に向かって歩き始める。
最後にもう一度だけ振り返ると、アインヤールはやはり顔を赤くして手を振ってくれていた。
(本当に、可愛い人だわ)
アインヤールに手を振り返して、イェナーは一人笑みを深めるのだった。




