第十一話
皆さん、こんにちは。北条和花こと、サクラです。
“サクラ”と言うのは、この世界での私の名前。この世界の人達は、私の名前を呼べないみたいなので、自分で考えたのです。
私がこの世界に来て、半年が経ちました。
私は、元気で忙しい毎日を過ごしています。忙しいですが、充実した日を送っていますよ?
何故、私がこの“異世界トリップ”をしたのかはわかりませんが…嘆いても仕方ないので前向きに頑張るつもりです!
そもそも、私がこの世界に来たのは………。
* * * * *
高一の春休み。私は、幼馴染みのお姉ちゃんの家に行く途中でした。
お兄ちゃんとお姉ちゃんが、私の誕生日を祝ってくれると言う事。
お兄ちゃんの名前は、早瀬壱斗と言い“壱兄”と呼び、お姉ちゃんは、佐々倉梨杏、りぃ姉と呼んでいます。
りぃ姉が、私の誕生日を祝ってくれるのは毎年の事だったのですが、今年は違いました。今年は、二人の就職祝も一緒なのです。
私よりも五つ年上の二人は、来月からは社会人。社会人一年目は、忙しくなると思うから、春休み中は遊び尽くそうとりぃ姉と話し合っていたのです。
壱兄としては、大学卒業後直ぐに、りぃ姉と結婚したかったようですが…りぃ姉は拒否したらしいです。理由は、わかりませんけどね。
…へ?計算が合わない?何の計算でしょう?
……あぁ!計算すると、二人は大学三年生じゃないのかと…。
はい、二人は大学三年生です。間違いないですよ!
大学三年生で就職するのは間違いではないのか?そう思いますよね?
私も、そう思いました!
で、疑問に思ったところ聞いてみたら…。
「“正社員”ではなく“準社員”だから」
…と、答えがきました。
壱兄、それでは、わかりません!もっと詳しくお願いします!
そう抗議すると、りぃ姉が答えてくれました。
壱兄、面倒臭いって顔をするの止めてくれません…よね…。
「えっと…。壱君は、壱君のお父さんの会社に勤めるのは知ってるよね?」
はい。将来は、社長さんなんですよね?
「うん、そうだよ。でね?壱君のお父さんが、社会勉強として、本社に入る前に子会社で働けって話になったの」
「あぁ!つまり、バイトみたいなものですね!でも、それなら“就職”にはならないんじゃ…?」
はて?どういう意味なんでしょうか?
「う、うん、そうなんだけど…ね。バイトと言われたら、バイトなんだけど…」
どうしたのでしょう?
何故か、言いにくそうにしていますが…?
「りぃ姉?」
首を傾げて、りぃ姉の顔を覗き込みます。すると、りぃ姉の目が潤んできてるではないですか!
「えっ!?どうしたんですか!りぃ姉!」
何故、泣かれるのでしょうか!?
私、泣かせるような事を言いましたか!?
「これには、海より深い事情があるんだよ」
「え?」
振り向けば、壱兄がいました。
いつの間にいたのでしょうか?
相変わらず、気配の無い人です。
…って、壱兄の事は、置いておいてですね!
「りぃ姉?事情があるのですか?」
壱兄からりぃ姉の方に向き直れば、りぃ姉の顔から血の気が引いていました。
「りぃ姉!?」
青い顔のりぃ姉に狼狽えていると、壱兄がりぃ姉の肩を叩き微笑みました。
「ね?そうだよね?」
く、黒いです!黒いですよ、壱兄!!
「……はい、そうです…」
壱兄の笑顔に、より一層青くなったりぃ姉は、力なく項垂れました。
……うん。もう、聞くのは止めます。
そんな事があり、誕生日と就職のお祝いをする事になったのです。
理由は、闇の中です。聞くと、りぃ姉が哀しみそうなので聞きません。
素直に、誕生日を祝ってくれると言う二人に甘える事にしましたので。
そして、祝ってくれると言う日に、私は、異世界トリップをしたのです。
その日は、普通の日でした。
いつもの日常と、何ら変わりもない日。
会場場所である、壱兄の家に行くところまでは覚えています。
ただ、その後が思い出せないのです。
いきなり目眩がしたと感じたら、草と土の匂いがして、目を開けると…畑でした。
「……ここは?」
明らかに、地元ではない場所。
一瞬、誘拐かと思いましたが、それは無いと考え直しました。
社長の息子である壱兄の知り合いなら、誘拐される確率はあるかも知れないのですが…。
私が目眩を感じた場所を考えると、有り得ないのです。何故なら、壱兄の家の敷地内にいましたから。セキュリティは、しっかりしているんですよ。
それに、敷地内、門の中に入ったなら、りぃ姉がいつも玄関まで迎えに来てくれるのです。それが、今回ありませんでした。
え?無いなら、誘拐の可能性もある筈じゃないかって?
いえ、逆です。りぃ姉の迎えが無いと、逆にセキュリティが強化されるのですよ。はい?理由はありますよ?
壱兄に捕獲されてるりぃ姉が心配するので、迎えに行けない時は強化されるのです。
敷地内は勿論、塀の外まで。
りぃ姉が迎えに来てくれる時は、壱兄(護衛)がついて来ますので普通のセキュリティになります。
そんな理由で、誘拐ではないと確信しましたが…確信しても、現状を把握しなくては意味がない事に気が付きました。
現状把握の為に、周りを見渡しますが…畑です。
畑しかありません。
どんな場所かも解らず、危険なのかも判断できないでいました。
少し歩いてみようと、歩き始めた時、前方から人影が見えたのです。
少し身構えた私に、近付く人。
「誰?何処の子?」
近付いてきたのは柔らかい笑顔の女性。
これが、私とシルビィアさんとの出会いです。