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運命の影  作者: AkiraNox


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12/31

名もなき村への侵攻

――四日が過ぎた。


名前なき村には、変わらない穏やかな日々が流れていた。


新しい家。


家族との食卓。


友人との笑い声。


そして、明日も同じ一日が続くという当たり前の安心。


六歳のカイレンにとって、それが世界のすべてだった。


しかし――


村から遠く離れた場所では、すでに運命の歯車が動き始めていた。


南方王国アート。


その軍勢が、静かに進軍を開始していた。


目的地は――名前なき村。


まだ誰も知らない。


今夜まで続くと思われていた穏やかな日々が、もう二度と戻らないものになることを。


そして――


村を包んでいた静寂は、やがて戦争の鐘によって引き裂かれる。

そして、日々は同じように過ぎていった。


四日後。


早朝……


名前なき村は、また新しい穏やかな一日を迎えていた。


太陽がゆっくりと木々の向こうから昇り、薄い霧が村の周囲を包んでいた。


しかし、気温が上がるにつれて、その霧は静かに消えていく。


人々はいつものように仕事を始めた。


小さな店を営む者たちは店を開き、農民たちは畑へ向かい、女性たちは料理の準備や家の整理を始める。


すべてが……


いつも通りだった。


……


エルドレインの家では……


カイレンは早くに目を覚ました。


ゆっくりと目を開け、しばらく周囲を見渡す。


そして……


笑顔になった。


ここは……


新しい家で初めて迎える朝だった。


ベッドに座り、カイレンは枕元に置かれた鉄の首飾りを見る。


ノルンからもらったもの。


それを手に取る。


「お母さんがくれたもの……」


そして、壁に掛けられた剣を見る。


微笑む。


「それから……お父さんがくれたもの」


カイレンは勢いよく立ち上がり、部屋を出た。


……


一階では……


ノルンが朝食を作っていた。


「おはよう、カイレン」


「よく眠れた?」


カイレンは元気よく頷く。


「うん!」


「僕の部屋、すごくいい!」


ノルンは笑った。


「そう言うと思ったわ」


カイレンはテーブルへ座る。


しばらくして……


エルドレインが入ってきた。


朝早くから村の様子を確認しに出ていたのだ。


「おはよう」


カイレンは答える。


「おはよう、お父さん」


エルドレインも席につく。


それは何気ない時間だった。


しかし……


そこには穏やかな安心感が満ちていた。


……


朝食の後……


カイレンは村へ出た。


新しい家を持ったことが嬉しくて、友達にすべて話したかった。


大きな木の近くで、フシハラを見つける。


「フシハラ!」


フシハラが振り向く。


「カイレン!」


彼は近づいてくる。


「新しい家で寝たのか?」


カイレンは笑顔で答える。


「うん」


「すごくいいよ」


フシハラは冗談っぽく言った。


「じゃあ、もう偉い人になったんだな?」


カイレンは不思議そうに見る。


「なんで?」


「だって新しい家があるじゃないか」


カイレンは笑う。


「それだけで偉くはならないよ」


フシハラも笑った。


「冗談だよ」


……


子供たちはいつものように遊び始めた。


村中を走り回り、様々な遊びで競い合う。


カイレンとフシハラは競争をし、他の子供たちは二人を応援していた。


笑い声が村いっぱいに広がる。


少し離れた場所では……


何人かの村人が、微笑みながら子供たちを見ていた。


一人の男が言う。


「この村が、ずっとこんなままでいてくれるといいな」


別の男が答える。


「ああ」


「子供たちには、穏やかな人生を送ってほしい」


……


エルドレインの家では……


ノルンが最後の片付けをしていた。


窓の近くに、小さな花を飾る。


そこへエルドレインが入り、その姿を見る。


「まだ、そんな細かいところまで気にしているのか?」


ノルンは微笑む。


「家はただの壁や木じゃないわ」


「小さな部分こそが……」


「そこを家にしてくれるの」


エルドレインは彼女を見る。


そして微笑んだ。


「その通りだな」


……


夕方……


カイレンが家へ帰ってきた。


その顔は幸せに満ちていた。


両親の隣に座り、今日起きたことをすべて話す。


フシハラと遊んだこと。


競争したこと。


明日やりたいこと。


ノルンは時々笑い声を漏らす。


エルドレインは静かに息子の話を聞いていた。


そして……


言った。


「カイレン」


彼を見る。


「なに?」


「この日々を楽しめ」


「何気ない瞬間こそ……」


「多くの人が戻りたいと願うものだからな」


カイレンには、父の言葉の意味を完全には理解できなかった。


それでも……


笑顔で答える。


「分かった、お父さん」


……


その夜……


名前なき村は静かに眠りについた。


窓からは明かりが漏れ、煙突から煙が上がり、人々の声は少しずつ消えていく。


しかし……


遠く離れた暗闇の中では……


別の音が響いていた。


多くの足音。


動く馬の音。


そして……


近づいてくる鎧と兵士たちの音。大勢の足音……


動く馬の音……


そして……


近づいてくる兵士たちの鎧の音。


名前なき村から遠く離れた場所で……


月の淡い光だけが照らす、暗い夜空の下。


大勢の兵士たちが静かに進んでいた。


馬は大地を踏みしめながら進み、その後ろには砂埃が舞い上がる。


兵士たちは緑色の鎧を身に着け、様々な武器を携えていた。


ある者は剣を。


またある者は槍を。


そして隊列の中には……


戦闘の準備を整えた魔法使いたちの姿もあった。


彼らの顔には、何の感情も浮かんでいない。


彼らにとって……


これはただの任務の一つに過ぎなかった。


軍の先頭には……


黒い馬に乗った騎士がいた。


その後ろでは……


南方王国アートの旗が風に揺れていた。


……


同じ頃……


名前なき村では……


全員が眠りについていた。


村は完全な静寂に包まれている。


誰も知らなかった。


危険が、すぐそこまで迫っていることを。


エルドレインの家では……


カイレンが穏やかに眠っていた。


その隣には、鉄の首飾りが置かれている。


別の部屋では……


エルドレインとノルンも眠っていた。


この夜が……


すべてを変える夜になることを示すものは、何一つなかった。


……


数時間後……


空はさらに暗くなっていった。


そして……


村の外れで。


兵士たちの集団が停止した。


指揮官は前方を見る。


そこには、小さな村が姿を現していた。


一人の兵士が言う。


「ここが……名前なき村か」


別の兵士が答える。


「ああ」


「目的の場所だ」


指揮官は手を上げる。


すると、全員が動きを止めた。


「準備しろ」


「時間はかからない」


……


村の西側。


木製の大きな門は、二人の兵士によって守られていた。


一人は剣を。


もう一人は槍を持っている。


夜は静かだった。


その時……


一人目の兵士が、何かを感じ取った。


動きが止まる。


「待て……」


二人目の兵士が彼を見る。


「どうした?」


彼は暗闇を見つめながら答える。


「感じる……」


「地面が……揺れている」


二人目の兵士は周囲を見る。


「何?」


その瞬間……


音が少しずつ大きくなっていく。


ドドド……


ドドド……


大地がわずかに震え始めた。


二人の表情が変わる。


「この音は……?」


二人目が呟く。


一人目の兵士は答えた。


「分からない……」


「望遠鏡を」


二人目の兵士は小さな望遠鏡を取り出し、彼へ渡した。


一人目の兵士は、それを覗き込む。


最初は……


何も見えなかった。


しかし……


さらに距離を縮めて見る。


そして……


目を大きく見開いた。


「何が見える?」


二人目の兵士が不安そうに尋ねる。


しかし……


彼は答えなかった。


目の前の光景から、視線を離せなかった。


大量の馬。


数え切れないほどの兵士。


武装した騎士たち。


そして、その中を進む魔法使いたち。


先頭には……


南方王国アートの旗。


彼の顔色が変わった。


「攻撃……」


小さな声で呟く。


「何?」


二人目の兵士が聞き返す。


一人目の兵士は叫んだ。


「敵襲だ!」


「南方王国アートの攻撃だ!」


二人目の兵士は凍りつく。


「何だと……?」


一人目の兵士は望遠鏡を急いで渡した。


受け取った兵士は覗き込む。


そして数秒後……


身体が震え始めた。


「ま……間違いない」


……


考えている時間などなかった。


一人目の兵士は力いっぱい警報の角笛を掴む。


村の方向へ顔を向ける。


そして……


大きく息を吸った。


次の瞬間……


プォォォォン!!


角笛の音が村中へ響き渡った。


それは、いつもの音とは違っていた。


ただ一つの意味を持つ音。


――危険。


……


数瞬の間に……


村人たちは眠りから叩き起こされた。


扉が勢いよく開かれる。


混乱した顔の男女が外へ飛び出してくる。


「何の音だ?」


「なぜ警報が鳴っている?」


「何か起きたのか?」


そして……


村の大きな鐘が鳴り始めた。


ゴォン……


ゴォン……


ゴォン……


その音が村全体を震わせる。


笑顔は消えた。


子供たちの声も止まった。


そして……


恐怖が人々の間へ広がっていく。


エルドレインは急いで家から出た。


門の方向を見る。


彼は理解した。


守衛たちの表情だけで……


事態が深刻だということを。


そこへ……


ノルンがカイレンを抱きながら近づいてくる。


「エルドレイン……」


「何が起きているの?」


彼は答えなかった。


ただ……


暗闇の先を見つめていた。


……


村の西側では……


一人目の兵士が全力で村の中心へ走っていた。


顔は青ざめている。


そして叫ぶ。


「敵襲だ!」


「南方王国アートの攻撃だ!」


その言葉は村中へ広がった。


そして……


静寂だった村は……


混乱へと変わった。


人々は走る。


子供たちは泣く。


少数の村の兵士たちは戦闘準備を始める。


そして遠くの地平線では……


南方王国の旗が、少しずつ近づいていた。


名前なき村は……


その歴史で初めての戦争へ、足を踏み入れようとしていた。

――プォォォォン!!


警報の角笛が、夜の村に響き渡った。


眠っていた人々が次々と家から飛び出し、混乱した声があちこちから上がる。


子供たちは泣き叫び、大人たちは何が起きたのか理解できないまま周囲を見渡していた。


そして――


村の西側。


暗闇の向こうから、無数の兵士たちが近づいていた。


南方王国アートの旗。


その下には、剣を持つ騎士たち。


槍を構える兵士たち。


そして、魔法を扱う者たち。


彼らは止まらない。


一歩。


また一歩。


名前なき村へと近づいてくる。


エルドレインは、カイレンを抱くノルンの前に立った。


その表情から、いつもの穏やかさは消えていた。


「……逃げる準備をしろ」


ノルンは息を呑む。


「あなた……?」


エルドレインは答えない。


ただ、迫り来る軍勢を見つめていた。


そしてカイレンは――


何も知らず、父の腕の中で夜空を見上げていた。


これから何が起こるのか。


なぜ大勢の兵士が来たのか。


まだ何も知らない。


ただ一つ確かなことがある。


――名前なき村の平和は、今夜で終わる。


そして、この夜が。


カイレンの人生を大きく変える、最初の悲劇となる。

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