青水晶を託す夜
「大変です!
王様、飛空艇が全部だめになりました」
軍務大臣ルクレツィオは、
中年太りの巨体を揺らし、王座の間に駆け込んで来る。
袖口の乱れを気にする、
いつもの素振りは全く見られない。
「何と?
頑強を誇る我が無敵艦隊がか?
何故じゃ!」
老王アガト・イスファは、
王笏に体重を預けるようにして立ち上がると、
鋭い眼光で臣下を睨み付けた。
彼の身体は、玉座の上でわなわなと震えていた。
――老いではない。恐怖でもない。
王としての責任が、骨身に響いていた。
「機関室に何者かが、放火を……」
「十五隻の船が全てか?」
「左様で。
出払っている他の船とも連絡がつきませぬ」
「吸血鬼達は、
既に平民街を闊歩しているというではないか!」
王笏で大臣が打ち据えられんとしたその瞬間、
彼らの間に立ちはだかる大きな影が現れた。
フォーエンである。
微風に金糸のタペストリーが揺れていた。
「偉大な我が王!
どうか、取り乱さないで下さいませ」
「ほほう?
何か策が、あるのであろうな?」
「親交の好に譲られた、
あのガランの青水晶を、お借り出来ませんか」
「魔導による念話か!
よし、そなたにこれを託す」
王が首元から、古びた鍵を取り出した。
恭しく受け取るフォーエンは、神妙な面持ちである。
そのまま、半歩後退り、深く拝礼すると、
風のように立ち去った。
誰一人、引き留める言葉を持たなかった。
その夜のことである。
ノン達がすむ王城地区に、
初めて吸血鬼の出現が報告された。




