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紅き炎は王を選ぶ――王とは血か、覚悟か。それとも炎か  作者: 忍び猫
第2章「イスファの悲劇――赤月の夜」
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王都を焼いた

空を見上げれば、城の回廊の軒先に留まる、奇妙な生き物がいた。

鷹の羽をもつ、場違いなほど身なりの良い女だった。


ようやく涙がこぼれたように、しくしくと泣きながら、

割れた椰子の実を、子供のように啜っている。


「貴女は誰? こんな所で何をしているの?」


不思議だった。

邪悪な気配が感じられない。

ノンは思わず呼びかけた。


「フェイネ! これでも、中区の食堂では、看板娘だったんだ」


ノンは噴き出してしまう。

張り詰めていたものが、ふっとほどけたのだ。


「あのね――」


彼女の頭を、椰子の殻が掠めた。


「ごめんなさい……。からかうつもりはなかったの」


「そういうあんたは、ノン王女? パレードで見たことがある……」


眼前に降り立つ鳥人は、ゴシックな青のドレスに身を包んでいた。


フェイネはノンの手を握りしめる。


「良かった。たった一人きりのお城の生き残りだ」


「……やっぱり、皆死んだのね」


ノンは唇を噛みしめ、目を背けた。


鼻を突くような血の匂いしかしない。

眩暈がする。


フォーエンに咬まれてから、嗅覚が鋭くなったようだ。


「城中を、徘徊したのだけど、ひどい有様だよ?」


無邪気にはしゃぐフェイネに、ノンは眉をひそめた。

その違和感に、ハッと我に帰る。


「何故、貴女からは血の匂いがしないの?」


「あれれ? 王女様もかー。咬まれたけど、意識は正常」


「街はどうなの? 他に生きてる人はいないの?」


「私たちみたいな人なら、まぁね。見てて」


突如として、信号弾が黄色い軌跡を描いた。

啞然として月を見上げる。


するとどうだろう、小型の飛空艇が、頭上に現れたではないか。


「……縄ばしご。これを登るの?」


「その通りよ。ノン王女さま、さあ、こちらへ」


ノンの紅い民族衣装が風に揺れる。

彼女は、決して下を見ないことにした。


甲板の縁に手を掛けると、強い力でぐっと引き上げられる。


「ようこそ。アッシュ・ムーン号へ。って、姫様?」


「ルクレツィオ? 貴方、なぜ」


「ずっと、この船を直してたんです。そしたらこの獣人どもが……」


年端もいかない子供たちが、機内で鬼ごっこをしていた。

ノンの顔は綻んだ。


「貴方だって、その顔は……」


「あだ名と変わらないとおっしゃるのでしょう、止めてくださいよ」


和やかに周回するアッシュ・ムーン。

束の間の空中飛行を楽しんだ矢先のことだった。


「さて、王女様には、重大な決断をして欲しいな」


眼前に舞い降りたフェイネ。

彼女の声はいつになく真剣だ。


「それは、つまり――」


「王都シーラを、焼いて欲しい。もう生き残りは、いないんだ」


「貴女もあいつと変わらないの?」


拳を握りしめて、声を押し殺す。

夜風は身を切る様に冷たい。


「……誰のことを言ってるのか、わからないけど、吸血鬼、拡散しちゃうよ?

イスファだけじゃすまないかもよ?」


顔を上げる。

新たな女王として、祖父の仇を討たなければならない。


「油ね。用意の良いこと。それだけあれば、私など不要でしょうに」


「その手と足、誤魔化せないな? 《《女王陛下》》♪」


フェイネは、不敵に笑った。船が、王都へと帆を進めると、


はちきれんばかりに、油の詰まった酒樽が、

煉瓦の外皮を持つ王都の屋根へと落とされる。


巧みに乱高下しつつ旋回するムーン号。


ノンは、火球を機関銃の如く、王都に撃ち続けた。

石の壁に守られていたはずの街は、

内部の木組みと油を燃料に、内側から炎に喰い破られていく。


シーラを包んだ炎の奔流は、

大海の大波のように街を覆い尽くした。


それでも、イスファを救えなかったのだ。


以上がノン・アガトがアガト・イスファの名前を継いだ日のことである。

イスファの悲劇の生き残りは22名。

皆、強烈な魔導の力を獲得し、吸血鬼の毒に耐性を持つ身体になっていた。


「全世界の吸血鬼をせん滅する。

そしてまたイスファを再興しよう!

我らの祖国イスファを!」


ノン、いや今代のアガト・イスファが松明を掲げると、

残りの21人はアガトを中心に、同じく松明を掲げた。


復讐に燃える「アガトの一族」。

それこそが、裁定者フォーエン最大の誤算!!

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