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幻想省活動記録  作者: 長野原
ファントムプライド

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7/14

ep3

渡辺夫婦の依頼から3日が経過した。

我部は幻想省の掲示板である依頼を見つけ、菊名と日野を呼び出した



「珍しく幻想省からの幽霊絡みの依頼だ。討伐対象の幻想生物が心霊スポットに逃げ込んだらしい、依頼を受けたハンターは心霊スポットに足を踏み入れた瞬間に体調を崩して、その隙に幻想生物の攻撃を受け重症だそうだ」


「幽霊でたら逃げ帰ってくるのダサいっすね」


「こら、沙羅ちゃん、適材適所だよ。見えない人からしたら幽霊なんてすごい脅威ですからね」



霊視が出来ないハンターが幽霊を相手することはかなり厳しい。討伐対象の幻想生物を野放しにも出来ない、そんな状況に幻想省は幽霊を討伐対象にする依頼を出すことが多い



「幻想生物に対しては別のハンターが相手をするから、幽霊を除霊するだけでいいはずだよ。日野さんに頼みたいんだけど」


「私一人ですか?」


「うん、日野さんは星5ハンターだし、幻想生物にも対応できるし」



そういい我部は菊名を見る、日野もつられて菊名を見る



「それに菊名さんは、他のハンターがいる依頼には向かないから」


「ああ…」



菊名の言動を思い出し、菊名が行けば事務所の評判は悪くなるだろうと日野も納得する。

その反応が気に入らない菊名は不服そうにする



「なんすか?喧嘩ですか?」


「菊名さん、愛想よく出来る?」


「したくないです」


「落書きとかしない?」


「しようと思ってました」


「ね?」



菊名の返答に日野は苦笑いをする。我部も問題しか起こさないとわかっているので最初から日野に頼んだ



「わかりました!任せてください!」


「お願い、私の方から連絡して日取りが決まったらまた言うよ。場所は旧進苓トンネルだって」


「えー、結構有名な所ですね」



旧進苓トンネルは都内で有名な心霊スポットでかなり知名度があり、事務所の全員が知っている



「田中くんも色々調べてくれてるみたいだから、後で聞いてみて」


「はい」



その後、我部が日取りを確認し依頼は2日後に決まった。



その間特に依頼もなく時間が過ぎ依頼当日、日野は事務所に寄らずに依頼に行き、事務所には我部と菊名が残る。

その日は特にやる仕事もなく菊名は帰ろうと立ち上がる



「やることないんで帰りますねー」


「せっかくだし日野さん帰ってくるまで待たない?」


「待ちませーん」



菊名は事務所の扉を開くとそこには制服を着た少女が立っていた。

人がいるとは思わず菊名は少し驚く



「っ!びっくりしたー、なんすか?」


「え!あ、あの、幽霊の相談に乗ってくれるって聞いて…」



威圧的な菊名の態度に少女は俯き答える、そこに我部が割って入る



「はい、ご相談ですねこちらへどうぞ、菊名さん?」


「分かってますよ、タイミング悪いっすね」



我部は少女を案内し、菊名も文句を言いながら戻る。

少女と我部は向かい合ってソファに座り、菊名は無言で缶ジュースを少女の前に置いて我部の隣に座る、その様子を見た我部は菊名に目線を向ける



「菊名さん…」


「気遣いっす、どうぞー」


「あ、ありがとう、ございます」



菊名の態度に注意しようとしたが我部は諦めて少女に向き直る



「我部霊相談事務所へようこそ、責任者の我部です。隣は従業員の菊名です。本日はどう言ったご用件ですか?」


「えーと、桜井です…その、もしかしたら何ですけどわたし、呪われてるかもしれないんです」



それを聞いた菊名は興味をなくしたように目線を外し、我部は詳しく聞く為に優しく語りかける



「なぜ呪われてるかもと思ったのでしょうか?」


「…1週間前にクラスメイトが交通事故で死んじゃって、それから体調を崩すようになって…夜も眠れなくなって…」


「なるほど…」



死んだばかりの幽霊が生きている人間の近くにいると体に悪影響を及ぼすことがあり、それを霊障と呼ぶ、しかし桜井の近くには幽霊は居らず、幽霊の影響はないように思える。



「そのクラスメイトと何かあったんですか?」


「……」



呪われてるかもと言った割にそのクラスメイトとの関係を詳しく言わない桜井に違和感を持った我部は質問するが、桜井は答えずにいた。

しばらくして意を結した様に桜井は口を開く



「いじめ…られてたんです。その子に…その日わたし呼び出されてて怖くて逃げたんです。そしたら、その子に見つかって追いかけられて…逃げ切ったと思って…振り返ったら…」



自分を追いかけている時に事故に遭ったと言うことで桜井は、恨まれていると思ったのだろう。我部は霊障ではなく、桜井自身が責任を感じているせいではと思い質問する



「お父さんやお母さんに相談はしました?」


「あの人達はわたしに興味ないんです…いじめられてる時も迷惑かけるなって言われちゃったし…」



誰にも頼れずにここにきたと言うことだろうと我部は思い、桜井の気が楽になるならと調査をすることに決めた



「わかりました、なんとかしてみます」


「あ!ありがとうございます!」


「調査の為に事故現場に案内してくれますか?」


「う、は、はい…」



とりあえず事故現場に幽霊がいないのなら霊障ではなく、精神的問題である為我部と桜井は立ち上がり事故現場へ向かうことに、我部が菊名を見ると座ったままだったので声をかける



「菊名さん?」


「……先行っててください」



菊名の様子がおかしいが調査にはついてきてくれるらしいので、言われた通り我部は桜井を連れて事務所を出た。

一人残った菊名は過去を思い出してしまった




菊名沙羅は幼い頃から人と区別が付かないほどはっきり幽霊が見えた、そのせいで周りからは変な子供と思われていた。

何もない所を見たり、誰もいない所に話しかけたり、おかしな事と理解しても、人と幽霊の区別がつかない為止めることもできなかった。

そんな菊名を子供も大人も、自身の親でさえも気味悪がって心無い言葉を浴びせる。


「気味悪い」 「嘘つき」 「かまってちゃん」


そんな環境に身を置いた菊名は誰にも迷惑をかけない様に無口な子供になった。

よく言えば手のかからない、悪く言えば可愛げのない、そんな菊名を両親は存在しない様に扱う様になった。そんな中霊視が出来ない普通の妹が産まれて両親は妹だけを可愛がりますます菊名の居場所は無くなった。だが菊名は両親を恨まず迷惑をかけない様に更に無口になった。


中学生になった菊名はやっと人間と幽霊の区別ができる様になり、人との関わりを欲して友達を作ることにした。

しかし、迷惑をかけない様に人と関わってこなかった菊名は頼まれたことを全てやる、都合のいい人間にしかなれなかった


「菊名さん、代わりに掃除やっといて」

「菊名さん、宿題やって」

「菊名さん、私たち友達じゃん?」


友達、その言葉を信じて厄介ごとを押し付けられる菊名がいじめの対象になるのは時間の問題だった。


「菊名さん、髪型オシャレにしてあげたよ」

「菊名さん、暑くない?水かけてあげるよ」

「菊名さん、調子乗ってない?」


菊名の容姿が整っていることもいじめの加速に繋がった。そんな時に女子生徒から人気がある男子生徒が菊名を庇った。しかしそれが気に入らない人間が菊名に暴力を振るう様になった


「調子乗んな!」

「ブス!」

「クソビッチ!」


名前も呼ばれず、友達とも言われなくなったが男子生徒は変わらず菊名を庇い続け、両親にも存在しない様扱われる菊名は自然とその男子生徒に思いを寄せた。


「彼がいるなら、あたしは何もいらない」


しかし、そんな日々は続かなかった。

菊名を庇い続けた彼が周りから無視される様になり、菊名と共にいじめの対象になってしまったのだ。

所属していた部活では居場所がなくなり、友人も離れた。そんな時でも彼は菊名に優しかった


「君のせいじゃない、この程度なんてことないよ」


彼が自分に優しい言葉をかけてくれるたびに、菊名は罪悪感で押しつぶされそうになった。

そんなある日、共に帰る約束をしていた彼が時間になってもこないことを心配した菊名は教室まで探しに行った。そこでガラの悪い男子生徒複数から暴行を受けている彼を見つけた。


「逃げろ!」


彼が叫びガラの悪い生徒がニヤニヤと菊名に近づいてくる、菊名は動かなかった。


そして気がついたら教室が半壊しガラの悪い生徒が血を流して倒れていた。

怯え切った彼は菊名に言い放った


「ば、化け物!」


彼は逃げていった。

菊名はフラフラとその場を後にした。

彼の怯えた表情に傷ついた菊名は藁にもすがる思いで家に帰った。いじめのことを親に話そう、心配してくれるかもしれない。

しかし、そんな都合のいいことにはならなかった。

家に帰り泣きながら全てを話した、そんな菊名に両親はため息混じりに呟く


「はぁ、なんであんたは面倒ばかり起こすの?」


それを聞いて菊名は泣きながら家を飛び出した。もう味方は誰もいないと、泣き崩れそうな時、菊名は悲しみよりも怒りが込み上げた。


「あたしが何したの?そんなに迷惑だった?誰もあたしに優しくない、人間なんて、クソ喰らえだ」


菊名は道端にあった石を自分の家に投げつけた。窓が割れて両親の悲鳴と怒号が聞こえた。


「あ、あははははは!何に気を使ってたんだろ!あたしに何も与えてないくせに、なんであたしがここまで我慢しなくちゃいけないの⁉︎」


菊名は生まれて初めて心の底から笑いながら自分の生まれた家に石を投げまくった。

怒った両親が家から出てきて追いかけてきたが菊名は逃げながら石を拾い、他の家にも投げて窓を割る


「あははは!あたしは菊名家の娘!追いかけてくるのが両親!あははは!誰かぁー警察呼んでぇ!あははは!」


菊名は両親が困ればいいと思い、自信満々に名乗って回る、今迷惑をかけているのは菊名沙羅だと、関わりたくないと思った娘のせいで方々から怒られればいいと。

近所の家を荒らし、店を荒らし、騒いだ菊名は当然警察に捕まった。しかし警察にも臆さずに騒ぐ


「あはははは!あなたその制服似合わないね!あなたは耳の形めっちゃ変!馬鹿っぽい顔ってよく言われない?見てよ!あれがあたしのお母さんとお父さん!めっちゃ頭下げてる!ウケる!」


菊名は両親から殴られたが止まらなかった、家に連れ帰ろうとしても帰らずに暴れ続け、留置場に入れられた。

暴れ疲れた菊名は眠り起きたら、幻想省の職員に囲まれていた。

菊名はそこで異能力の話や幻想生物の話を聞き、ハンターとしてスカウトされ、両親のもとに帰ることはなかった。


桜井の話を聞き自分と重ねて、菊名は過去のことを思い出し、立ち上がった。




我部は桜井の案内で事故現場に到着し、ついてこない菊名に一応場所を送った



「ここですか?」


「…はい」



なんの変哲もない交差点、電柱に花が供えてあり、確かにここで事故があった様だ。しかしどんなに見渡しても幽霊は見当たらない



「少し調べさせてください」



我部はそういい、歩き回り幽霊をしばらく探したが見当たらない



(これ、幽霊は関係ないかな、やっぱり)



不安そうに我部を見つめる桜井にどう伝えるか悩んでいると、菊名が歩いてくるのを見つけた



「菊名さん、遅かったですね」



我部の言葉を無視して交差点を見渡す菊名、そして口を開く



「幽霊なんていない、あなたの思い過ごし」



そう言い放った菊名に我部と桜井は驚愕する



「ちょ、菊名さん!」


「…そんな」



なんの配慮もない菊名に我部は注意しようとするが菊名は続ける



「いい?あなたが思ってるよりも誰もあなたに興味ないの、死んでまで関わろうと思わないの、なのになんで勝手に死んだやつのことを考えてるの?ラッキーって思えばいいじゃん、あたしをいじめたから死んだんだざまぁみろって」



菊名の発言を聞き我部は黙って見守ることにした。そんな菊名に桜井は



「そんなこと、だってわたしのせいだし…」


「自惚れないで、あなたがいじめられてるのは周りの人間が終わってるから、両親に興味を持たれてないのは、あなたの両親が親として終わってるから。あなたは誰にも迷惑かけないようにしてるだけ、あなたはやさしくなんてないし強くもない、そんなあなたを誰が気にするの?誰があなたのせいにするの?」


「そ、それは」



詰め寄る菊名に口籠る桜井、菊名自身厳しいことを言い返されることも考えての発言だ、しかし桜井は菊名の顔色を伺うばかりで、桜井の表情からは怒りも悲しみも何も感じられない、ただ自分を責めている。それが菊名にはわかった。かつての自分を見ている様で腹が立った



「違う!あなたは怒るべきなの!誰も助けてくれないことに!誰も自分を気にしないことに!見ず知らずのあたしなんかにここまでボロクソに言われてることに!両親には嫌がらせの様に迷惑かければいい!いじめたクラスメイトなんて全員殺してやる気持ちで!怒りをぶつけるの、じゃなきゃあなたが押しつぶされるんだよ?」



我部は発言の全部が菊名なりの優しさだと、桜井に苦しんでほしくないからここまで言ったのだと思った。そんな一見冷たくも感じる菊名なりの言葉に桜井は俯き呟く



「……で…あ…し…」


「声が小さい!」



菊名の声に驚き肩を震わせたが桜井は泣きながら顔を上げ、声を上げる



「なんで!わたしが!あいつなんかのために苦しまなきゃいけないの⁉︎」



周りの目も気にせずにダムが決壊した様に桜井は叫ぶ、桜井の表情にはしっかりと怒りがあった



「わたしが何したの⁉︎水かけられたり!叩かれたり!悪口言われるほどのことしたの⁉︎そんなにわたしが嫌いなの⁉︎なんでわたしは無視するの⁉︎無視するぐらいなら!こんな気持ちにさせるぐらいなら!なんで産んだのよ!わたしに嫌なことしようとして、追いかけて!勝手に死んで!なんでわたしが責められるの⁉︎意味わかんない!」



言い切った桜井は息を荒げながら涙を流す、そんな桜井の頭に菊名は手を置く



「そうだよ、それでいいんだよ、ヘラヘラと人を傷つける奴のためにあなたが傷つく必要なんてない、傷つけられた分だけ傷つけてやればいい、好き勝手生きればいいの、あなたの人生なんだから」


「うん!」



桜井は泣き崩れ、菊名は寄り添い桜井が落ち着くまで頭を撫で続けた。

その様子を見ていた我部は目頭を押さえて上を向いていた



「なんで我部さんも泣いてるんすか、後泣き方がおっさん過ぎます」


「いやね、歳取ると涙腺が緩くて…」



しばらくして落ち着いたら桜井は立ち上がり腫らした目をこすり、笑顔で菊名に頭を下げる



「菊名さん、ありがとうございます」


「あたしなんもしてないよ」


「それでもです、なんかスッキリしました」


「ならいいけど、幽霊全然関係なかったね」


「あ、すみません…」


「ふっ、あはは」



菊名と桜井は笑い合う、我部はそれを優しく見守った



「幽霊のことじゃないなら依頼料なんてもらえないな、桜井さん、君の呪いはもう解けたよ」


「我部さん、くさいっす、セリフも」


「カッコつけたかったんだよ、ん?もってなに?」



自分の服の匂いを嗅ぐ我部を無視して菊名は桜井に聞く



「これからどうするの?」


「んー、とりあえず家に帰って両親に全部話します。殴られたら殴ります!」


「よし!ついでに悪口のコツを教えてあげる、相手が理解しないと意味ないからわかりやすく、それでいて抽象的じゃなくて具体的に言うのがいいよ」


「なるほど…」



菊名のアドバイスを真面目に聞く桜井に我部は苦笑いをする。



「じゃあ、わたし帰ります!」


「うん、自分のことは自分で守るんだよ?」


「はい!」



桜井は手を振りながら去っていく、我部と菊名も振り返り事務所に帰る為歩き出す。

我部はニヤニヤしながら菊名を見てそれに気づいた菊名は我部を睨む



「なんすか?キモいっすよ」


「いやね、やっぱり菊名さんはいい子だなって」


「うざいっすわー、ウジウジしてたのが嫌なだけっすよ」


「ふーん」



菊名は我部の肩を殴り始めるが、我部は照れ隠しだと笑って受け入れた。

菊名自身もスッキリしていた、偽善かもしれないが過去の自分の様に苦しんだ少女に今の自分のことを伝えられ、救えたかはわからないが気持ちは晴れていた。

しかし、空は急に曇り始めた。

突如、背後から大きな音が聞こえ二人は振り返ると、歩道に車が突っ込んでいた。



「きゃー!」


「事故だ!誰か巻き込まれたぞ!」


「女の子が!」


「まさか…」



大きな音と共に近くにいた人々が騒ぎ始め、それを聞いた二人は嫌な予感がし、走って事故現場に向かうと、人だかりの間から血を流し地面に倒れた桜井が見えた



「そんな…っ!」



菊名は人だかりを雑に乱暴に掻き分け桜井に近づき、応急処置をしながら叫ぶ



「救急車!」



菊名の声で野次馬の一人が救急車を呼ぶ



(まだ脈はある)



菊名が必死に止血をしている中我部は突っ込んだ車に視線を向けていて、そこには運転手と重なる様に幽霊がおり、追いかけようとしたが菊名が叫ぶ



「我部さん!運転手!」


「っ!ああ!」



菊名の言葉で冷静になった我部は幽霊を追いかけずに運転手の介抱を始める。

すぐに救急車が到着して菊名と我部は付き添いで共に病院についていった。


数時間後

菊名と我部が手術室の前で待っていた。

運転手は大した怪我ではなかったが桜井は重症で現在緊急手術が行われていた。

手術室の電気が消えて医者が出てきて、二人に告げる



「なんとか一命は取り留めました」


「はぁぁー、よかった」



我部は力を抜き壁に背中を預け、菊名もホッとした表情を浮かべる



「お二人は?」



医者は二人に桜井との関係性を聞くと、菊名はバツの悪そうに答えた



「友達っす」



医者が去り桜井が病室に移ると聞き我部は菊名に先ほど見たことを伝える



「菊名さん、あの車に幽霊がいた」


「…それ、本当ですか?」


「ああ、桜井さんは本当に幽霊に目をつけられてたみたいだ。ただ事故で死んだいじめっ子ではなかった。大人の男だった」



菊名は立ち上がり歩き出した。我部もそれに続いた。



「とりあえず、田中くんに色々探ってもらってるから事務所帰ろう」


「はい」



病院を後にし二人が事務所に着くと、2階には怪我を負った日野とそれを治療している田中が待っており、日野は二人に気づくと力無く笑った



「ちょっとへましちゃいました」


「日野さん、何があった?」



田中が日野の治療が終わり立ち上がり代わりに答える



「どうやら、心霊スポットにいた霊と幻想生物にやられた様です」


「予想よりも強くて…ごめんなさいなんとか逃げ帰ってきました」



申し訳なさそうに答える日野に我部はフォローしようとすると菊名が口を挟んだ



「任せてくださいって言った割に、そのザマですか?目障りなんでさっさとどっか行ってください」


「……ごめんね…」



菊名の言葉を聞き日野は俯きながら答えた。我部も流石に菊名を止めようとする



「菊名さん、日野さんだって」


「いいっすよ、逃げ帰ってくることを想定してましたから、あたしが代わりに行ってあげますよ」


「菊名さん!」



我部の注意を聞かずにさらに嫌味を続けた菊名に我部が強めに名前を呼ぶが、菊名は気にした様子もない。日野は黙り込んでから顔を上げた。日野の表情にもう笑顔はなかった



「なんで!そんなことしか言えないの⁉︎私はあなたに優しく接して!何言われても我慢したのに!あなたは何も変わらない!私があなたのことを思っても!」



日野は菊名に大声で詰め寄る。日野には嫌味が通じてないわけではなかった、ただ怒りを抑えていただけで怪我をし余裕のなくなった日野は怒りを抑えられなかった。

そんな日野に菊名は言い返す



「それって、あたしがいつ頼みました?いつあたしに優しくしろ、我慢しろって言いました?勝手に自分は優しくした、正しいことしたって、あたしがいつ頼んだの⁉︎」



桜井のことで菊名も余裕がなくなり日野に怒鳴る。我部と田中はその様子を見ることしかできなかった



「あなたが間違ってるからでしょ!私が優しく言っているうちに、人に迷惑かけるのをやめろって言ってるの!」


「間違ってると思うなら勝手に我慢しないで直接思ったこと言えばいいじゃん!勝手にあたしに期待するのやめてくれない⁉︎あたしはこういう人間なの!勝手に関わろうとしないで!」


「私は沙羅ちゃんの為を思って」



自分のためを思って、その発言は菊名には我慢ならなかった。誰も自分のためなんかに動いてくれないから、自分で自分を守る。そう考えて来た菊名はその発言は信用できない。

だから、日野からその言葉が出て直ぐに否定する



「そんなの偽善じゃない!人の気も知らないであなたの価値観押し付けないでよ!」


「……もういい、もうやってけない、我部さん、私事務所辞めます」


「日野さん!」



日野はそういい捨て事務所から出て行った。

菊名はそんな日野の後ろ姿を見ながら、その様子を見ていた我部にも噛み付く



「なんすか?文句でもあるんすか?」


「いや、文句はないよ、やるべきことがあるしね追いかけろとも言わない、でも菊名さんも日野さんに思ったこと言えてないよね?」


「全部ぶちまけてますけど?あの人が出てくくらいには」



そう言った菊名に我部は優しく語りかける



「最初だよ、君は日野さんを心配してたよね?本当は怪我大丈夫ですか?早く病院に行ってくださいって言いたかったんだよね?」



我部の言葉に菊名は黙り込む、人を信じきれない菊名は素直に心配ができない。だから発言が攻撃的になってしまい、日野には一切伝わらずに喧嘩になってしまった。我部はそれを理解しているから、菊名の発言が全て間違っているとは言えなかった。

何も言い返さない菊名に我部は伝える



「後で日野さんにちゃんと伝えるんだよ?」


「…はい」



菊名が呟くと空気を読んでいた田中は落ち着いたのを確認して口を開く



「我部さん、菊名さん、急を要するので今報告させてください」


「ああ、ごめん」



田中はパソコンを持って来て話始める



「桜井さんは少し前に例のいじめっ子と共に心霊スポットに訪れていました。その心霊スポットでは一月前ぐらいからある噂が流れ始めたんです。行ったら確実に呪われて死ぬと、ただの噂だと思いましたよ、恐らく幻想省も幽霊の噂だと思い、動かなかったんだと思います」


「でも、実際に桜井さんも幽霊による事故に遭った」


「はい、恐らくそのいじめっ子もそうでしょう。そして渡辺夫婦の息子彰人くんもここを訪れてから交通事故に遭っていたんです」



田中の発言を聞き我部は驚き目を見開く。そんな中菊名は冷静に先を促す



「確かに、一月前に事故でって言ってました」


「ここ最近の交通事故の被害者を調べたら、ほとんどがその心霊スポットに行っていました」


「その心霊スポットってまさか」



我部は今までの情報を整理してある心霊スポットが思い浮かぶ、田中は同意する様に頷き答える



「旧進苓トンネル、日野さんが行ったところです。日野さんの話によると幽霊は一体、しかし異様に力を持っていたそうです」


「死んだばかりだろうね、でも旧進苓トンネルは元はただの幽霊の溜まり場だったはずなんだけど」



旧進苓トンネルは死んでから時間たった幽霊が身を寄せ合う場所だった。ほとんど記憶も薄れた幽霊がたまに来る人間を少し驚かせる程度だった為今まで我部たちも放置していた。

そして菊名はあることを思い出した



「あの旅館、幽霊が多いと思ったけど」


「恐らく、旧進苓トンネルから追い出された幽霊が近くにあった旅館を新しい溜まり場として使っていたんでしょうね。旅館に幽霊が現れた時期も一月前と一致します。そして2日前からある噂が流れているんです」



田中がパソコンを開き菊名と我部に画面を見せるとそこにはSNSで飛び交っている憶測だった


【旧進苓トンネルに現れた化け物の正体は⁉︎】


【人を呪い殺す化け物が旧進苓トンネルにいるらしい】


【旧進苓トンネルの化け物は幽霊ではなく妖怪】


【旧進苓トンネルは以前米軍が残した軍事施設だった⁉︎】


それを見た我部は冷や汗を流し、田中は続ける



「幽霊は隠れ蓑で本命はこういうことでしょうね。誰かが幻想生物を認識の力で強くしています。一カ月前から計画的に」


「一ヶ月前って何が…」



全てが一ヶ月前から始まっていたことに違和感を覚える菊名に田中は答える



「東北支部のしろしろさん事件、あの時の情報統制、僕も手伝ったんです。何故か幻想省の情報統制システムを知り尽くしている様にこっちをかき乱してくる感覚、あの時と同じです」



田中はパソコンを閉じて呟く



「一ヶ月前と同じ人物がこの件に関わってます」

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