前編
人口10万人にも満たない小都市、近くの都市に行くのには電車で1時間ほど田舎ではあるが自然豊かではないそこそこの田舎の町の路地裏、そこは昼間でも人通りもなく誰の目にもつかない不気味な場所だった。
そんな路地裏で男二人が紫煙を燻らせ、たむろしていた
「バトル漫画あるある、主人公が特殊な力を持って戦いの日々になりがち」
「ああ、あるあるだ、あんまり認められてない感じのやつね」
「そう、なんか最初は上層部に秘密にされるのね」
「秘密の力ね、あとヒロインはツンデレが多い」
「わかるわ、最初はあんたのことなんか認めないって感じの、100ツンでだんだん認めてやってもいい的な感じにデレてくるパターンね」
「命救って急に惚れるパターンもありがちね」
「あるある、主人公の力が実は敵の力的なのもあるよな」
「闇の力ね、暴走してヒロインが止めるんだよ」
「若しくは師匠キャラが死ぬパターンかクソ強くて余裕で止めるパターン」
「あるわー」
くだらない会話で盛り上がっていると路地裏の奥が日が差していない場所とはいえ不自然に暗く空気が静まり返る
その変化を見逃さずに慣れた手つきでタバコの火を消し空き缶の中に吸い殻を突っ込む
「来たっぽいわ」
「今回は当たりだ」
不気味な空気が流れる中、二人は待っていたかのように身構え、一人は背中の服を捲り隠していた折りたたまれて収納されていた刃渡30センチほどのナタを取り出し
もう一人は携帯を操作してどこかに電話をし空いた片手でシャツを捲りベルトに隠していたハンドガンを構える
「あ、もしもし、こちら佐藤と山田コンビです、あ、はい、そうです接敵しました。はいこれから討伐です。はい場所は変わらずで、はいじゃあ終わったらまた連絡で、はい、お疲れ様でーす」
「おっけー?」
「オッケー、さてといつも通りでやばかったら言って」
「うっす、はあこの世界にもいるのかね主人公は」
「東京あたりの高校生が適性高いよ」
「ああ、わかるわ、さて田舎の成人男性も頑張りますか」
路地裏を見ているといつのまにか人型のより黒い影が現れる
その黒い影はぶつぶつと何かを呟きながら影から出ようと近づいてきていた
影から出るとその人型の姿がはっきりと見える
それは頭が異様にデカく目を見開いた190センチほどの異形の化け物だった
「きもいなー、見たことは?」
「ない、範囲的認識は低めかな」
“さんきゅ、さんきゅ、さんきゅ”
「そら!」
ナタを構えた、やたらと装飾品をジャラジャラとつけた黒髪の男、名前を山田
山田が素早く異形の懐に入り込み首を狙いナタを振るうと胴体と頭が分かれて頭は地面に転がり、胴体は立ったまま固まる、すぐさま異形から距離を取り油断せずに異形を見続けると頭が不自然に転がり山田を見ていた
“さんきゅ、さんきゅ”
「うわまだ生きてるわ、何食ったらこんなの思いつくんだろ」
「それな、多分無駄に不死属性もあるね」
頭が地面でニヤリと笑うと立ったままの胴体が山田に向かって走り出す。
ハンドガンを持った、金髪の洒落た格好をした男、名前を佐藤
佐藤が走ってくる胴体の心臓に当たる部分に性格に銃弾を打ち込み、すぐさま両足に二発打ち込むと胴体は倒れて動かなくなる
“さんきゅ、さんきゅ”
「これはもう現代日本の闇の化身だな」
「嫌な世の中になったものだね、人の心が弱ってる証拠だよ」
動かなくなった胴体を踏み越え山田はまだ喋り続けている頭にナタを2、3度振り下ろすと頭からドス黒い血のような液体が溢れ、原型を留めていない頭は言葉を発するのをやめた
「死んだ?」
「だね、処理班呼ぶね」
佐藤は電話をし山田は少し離れタバコに火をつけた
「ふぅー、腹減った」
架空の生物、ドラゴン、悪魔、吸血鬼から妖精、妖怪、幽霊、神話から始まり都市伝説に至るまで幻想と思われている生物は実在する
その生物は幻想生物と呼ばれ人々に認識されるほど強くなり、人々がいると信じると産まれる
そんな幻想生物を密かに討伐、管理、保護する機関が各国に存在する
ここ日本では幻想省と呼ばれその幻想省の中でも幻想生物を討伐することで生計を立てる者たちをハンターとよぶ
これは首都ではなく、地方で細々と目的も目標もなく日々ダラダラと過ごす二人のハンターの物語である
幻想生物を討伐した二人は死体を処理してくれる業者を呼び手続きをし現場を任せ路地裏を後にしそこそこ人通りのある通りを歩いていた
「結局何だったんだろうね」
「あいつ?さあ、病んだ人が考えたオリジナルバケモノじゃない?」
「ある程度広まらないと顕現しないでしょ」
歩きながら先ほどの幻想生物について話していると背後から小学生の集団が二人を追い越し、すぐに赤信号で止まり元気よく会話を始める
「ねえしってる?サンキューさん」
「何それ?」
「たかしくんが言ってたんだけど頭が大きくてありがとうって言わないと食べられちゃうんだって」
「そ、そんなのいるわけねーじゃん!」
「でもいてもいなくてもありがとうっていい言葉だから言ったほうがいいよ!」
「そうだね!」
その会話を聞き二人は顔を見合わせ立ち止まる
その隙に信号が変わり小学生たちは走って去っていった
「…ずいぶんできた小学生だな」
「道徳の教科書みたいな会話だったね」
「まあたかしくんが原因で現れたサンキューさんってことだな」
「ちょっといい感じの理由じゃん、病んでるのは僕たちの心の方かもね」
おそらく子供達にありがとうの大切さを教えるための教訓めいた都市伝説が小学生の中である程度噂になり幻想生物として顕現したらしい
一般的には幻想生物は秘匿されている、それはどの国も同じ理由で本当に存在すると、全ての人間が深く認識してしまうと幻想生物たちは大きな力を持ち人間には太刀打ちができなくなるからだ。
認識の深さ、広さイコール幻想生物の強さであり、有名な生物ほど強い、それが幻想生物の一般的な認識だ
「飯食っていくか、なんか異様に腹減ったわ」
「いいねー、あ、でも僕この後髪切りに行くから美容院付近がいいな」
「いつものモールの中のとこ?」
「そう」
「ならサイセだな、あそこの一階にあっただろ?」
「最高、やっぱりサイセよな」
二人は少し歩きショッピングモールまで行きまっすぐ良心的な値段でイタリア料理を提供するファミレスへ、昼時なこともありそこそこ混んでる店内だが待ち時間はなくスムーズに案内されて席に着く
普段からよくきているため特に悩むことなく注文を決めてスマホをいじりながら料理を待っている
「なんか、割のいい仕事ないかなぁ」
「さっきので今月余裕で黒字だから良くね?」
「それで先月痛い目見たじゃん、月初に割と稼いで仕事しなかったら月末になって支払いがやばくなってさ」
「ああ、慌てて仕事入れまくったのな、どっかの馬鹿が生活費まで手を出したせいでな、確かにその馬鹿、存命だから余裕持ったほうがいいかもな」
「あの時はごめーんね?」
佐藤はスマホを置いて手を合わせて上目遣いで変な声を出して山田に言った、それを見た山田は真顔で答えた
「うわ、クソムカつく、女でもギリむかつくのに犬系で男とか殺意でしかない」
二人は基本、ハンター専用のアプリで仕事を掲載している掲示板から依頼を受けたり、いい仕事が掲示板にない時は、独自の調査で幻想生物が現れやすい場所に幻想省からの許可を得て、一般人に認識されない結界を張り狩場としてその場所で幻想生物が現れるまで待機したりしていた。
先ほどのサンキューさんを討伐した場所も二人の狩場の一つで、そんな狩場が街に多数点在している。
しかし都市伝説の幻想生物が顕現する詳しい条件も人からの認識ということで研究があまり進んでいなく、どこまで知られたら顕現するのかも感覚に頼るしかなく顕現して間もないサンキューさんを討伐できたのはかなり運が良かった。
そして幻想省に所属していることでさまざまな制約があり、管理がしやすく、仕事も出来高制なため金回りの管理も含めて楽ということで二人は幻想省が管理する物件で一緒に住んでいる
「最近聞かないよね犬系彼女」
「流行り廃り最近激しいから、何よりも世間が犬系彼女はむかつくだけってことに気がついて抹殺に動いたんじゃね?」
「抹殺以外は共感できるね」
二人は性格も趣味も違うが何故か馬が合い共同生活も一年以上続きなんだかんだ楽しく暮らしていて、内容こそくだらないが会話に詰まることもなく、無言の瞬間も気まずくならないほど仲が良かった
しばらくすると食事が運ばれてきて二人は無言で食べ進め隣の席の会話が聞こえてくる
隣は若い女性の3人組で彼氏がどうだの、学校がどうだの、会話をしているらしいが二人は興味がなくほとんど聞いていなかったが、職業柄ある単語が聞こえてくると無意識に会話に意識が入ってしまう
「ねえ、知ってる?しろしろさんって言う都市伝説」
「あー、知ってるSNSで回ってきた」
「なにそれー、あたし知らなーい」
その問いに、一人は知っていて知らないもう一人は、興味深そうに先を促す
「えっとね、全身真っ白で人の形してるんだけど目も口も鼻もないんだって」
「きもーい」
「なんか、整形に失敗した人の成れの果て的な?知らんけど」
「でも、真っ白ってちょっと可愛くない?」
「可愛くないよー」
「てか、ホーム変えたのみる?」
「ほんとだー、彼氏?」
「ちがうー、推しにしたのー」
すぐに都市伝説の話が終わり二人の興味も無くなり、お互いに顔を見合わせてため息を吐く
「情報ふわっとしすぎだろ、しょうがないこととはいえ安易に新しい都市伝説を広めるのは勘弁してほしいよな」
「まあ、適当に考えたお化けが現れるなんて夢にも思ってないだろうからね」
「お陰で俺らが食いっぱぐれないからいいんだけど、んん゛」
山田は言葉を区切りやや演技がかった素振りをして拳を握ると、咳払いをする
「人が死んだら大変じゃないか!俺たち正義のために働いているんだから!」
やたらハキハキと語る山田を佐藤は目を細めて胡散臭いものを見る目で見る
「うわ、知らないアフリカの子供の生死なんてどうでもいいって1円たりとも募金しない男がなんか言ってるよ」
「俺の正義感に文句があるようだな」
「君に似合わない言葉は正義と平等と勇気と愛だよ、よっアンチヒーロー」
「Z世代だからな」
「Z世代に土下座してほしい」
食事を終えて佐藤は散髪のためにモールに残る為二人は一旦解散することに
「それじゃ、買い物するから帰りは多分夜」
「おっけ、んじゃ」
佐藤は美容院に、山田はすぐにモールから出てバスに乗りそそくさと家に帰った
山田は家に着くと慣れた手つきで鍵を開け扉を開けると玄関の傘立てにナタをしまい靴を脱ぎ短い廊下を歩きすぐにリビングに辿り着き、流れるようにソファに寝転がり、ポケットからタバコやライターなどの小物を取り出し、テーブルに置き、装飾品を全て外し、最後にスマホを取り出し、見るとちょうどよく電話が来て電話先を確認すると幻想省と表示されており、顔を顰めつつ仕方ないと思いながら電話に出る
「はい」
『お世話様です、幻想省東北本部の東田というものなんですが山田様のお電話で間違いないでしょうか?』
「はい、山田です」
『本日はですね先ほど佐藤様の方から討伐の連絡をいただいておりました幻想生物のことなのですが、掲示板に依頼を出す直前の生物でして手続きの関係で報告書が必要で、制作をお願いしたいと言う趣旨の連絡でした』
「はあ?ちょっと待ってください、俺ら討伐前にも連絡しましたよね?それで問題ないってことだから討伐したんすけど」
幻想生物の討伐にも手続きが必要で掲示板に依頼がある生物は幻想省が要注意ということで討伐と調査、更に討伐した時の詳細が必要な生物であり、討伐後に書類が必要になってくる。
掲示板に記載される討伐対象の情報も明確な情報はあまりなく、出現予想地域や文面での特徴のみで討伐対象を判断しなければならない。
しかし依頼を出される前だと討伐した死体から幻想省の本部が自ら報告書を作る為ハンターの負担が減る
今回もサンキューさんは依頼にあがっておらず更に佐藤が討伐前に連絡も入れて許可をもらったため山田達が報告書を書く必要が無いはずだった
『えーと、その報告は誰にしましたかね?』
「いや、それは佐藤が連絡したから俺は知らないっすけど」
『あー、そうですかぁ、佐藤様の方は?』
「いや、今いないっす、そもそも俺らに連絡する時佐藤の方にかけてくれるよう頼んだはずですけど?」
山田は人と関わるのが嫌いで、何よりも電話が嫌いなので、基本的に佐藤に連絡を頼んでいた
『申し訳ありません、佐藤様が出られなかったので山田様の方に連絡させていただきました』
「それってそんな急なことなんすか?わざわざ俺にかけなきゃいけないほど」
『そうですね、こちらの方で依頼を出す直前にお二人が討伐した生物が届いたものですから、少しでも早く報告書が必要になってしまいまして』
その発言に違和感を覚えた山田は言い返す
「んなことあります?そんな後出しで報告書必要とか言われても、討伐前に言っといてくれればいい話じゃないっすか?」
『しかしその報告を受けたものがわからないとなりますと、こちらとしてもですね討伐した場所も把握していなくてですね』
「はあ?それはおかしいでしょ、俺らそういうのがめんどくさいからわざわざ狩場の許可を取ってるしなんならそのことも報告書で出した覚えあるんすけど」
『そう言われましても…』
「つーか、そっちが連携取れてないだけじゃないんすか?」
何故か自分たちが悪いような雰囲気を出されだんだんイラつき始めるが、なんとなくどんなことが起きてるのか理解し始めた
おそらく本来出すはずだった時間にサンキューさんの討伐の依頼を出すのを忘れてそのことを誤魔化すために山田達に報告書を書いてほしいのだろう、自分たちで報告書を作ってしまったら依頼を出すのを忘れたことを認めることになってしまうから、それに気が付かずおとなしく報告書を書いてしまう馬鹿だと舐められているということだろう
『何事にもですね、何かしらの報告が必要になりまして、それは申し訳ありませんが討伐したものの責任になってしまいまして』
「だから、その報告書を書くのがめんどくさいから俺たちは事前に確認して、場所についてもぐちぐち聞かれないように場所もずっと前に報告してんすけど」
『それは報告書を書く必要があるなら幻想生物を討伐せずに見過ごすということでしょうか?』
「そういうことじゃなくて、ちっ!」
こっちを悪者にするスタンスに思わず舌打ちをしてしまう、感情的に暴言を吐きたくなったためタバコに火をつけ落ち着くと会話を続けるのがめんどくさくなってしまう、電話をいち早く終わらせる為に反論を諦めることにした
『山田様?』
「はあ、わかりました、報告書はこっちで書きます、ただそんな小一時間で終わらないんで明日本部に届けに行くでいいですか?」
『明日、ですか。わかりました、しかしメールで送ってくださっても』
「いや、直接行きますよ、用事もありますし」
山田は食い気味で答える、山田が言う用事は直接文句を言うことだった
『かしこまりました、ご足労おかけいたします、では明日よろしくお願いします。失礼致しま』
相手が言い切る前に無言で電話を切る、そして大きな舌打ちをして大きくタバコの煙を吸い込み吐き出すと同時にため息と文句を吐き出す
「はあぁぁ!クソが、ああめんどくせぇ」
山田は不機嫌さを隠すこともせずにパソコンを開き報告書の作成を始めた
幸い調査をせずともサンキューさんという名前が偶然判明し、小学生の中で噂されていたことも知っていたため詰まることはなかった。
しかし時間がかかることも事実で、処理をしてもらった業者に死体の写真を送ってもらい
場所も以前報告書に書いた狩場だと嫌味ったらしく書く
(クソ、嫌なこと思い出した)
久しぶりに最悪の気分で報告書を書き過去の嫌な出来事を思い出しますます機嫌が悪くなる。
しかし、手を止めることなく報告書を書き進める
一方佐藤は、予定通り美容室にいて若い女性の美容師に髪を切ってもらっていた
「そういえば佐藤さんお仕事何なさってるんですかぁ?」
「ああぁ、正義のヒーローですかね?」
「なんですか、それー、あ、警察官とか?」
美容師は手を止めずに佐藤に質問し続け、佐藤は返答に困ってしまう。基本的に幻想省で働いていることは一般人に伝えてはならない為、誤魔化すために言葉を絞り出す
「じゃ、ないんですけど、正義のために日々活躍的な?あ、、金もらえるボランティアって感じ」
「へえー、よくわからないですけどいいお仕事してるんですね」
「うん、結構気に入ってる仕事ですよー」
苦しい言い訳だったが美容師が佐藤が聞いて欲しくないだろうと空気を読んで話を終わらせた
「いいですねー、あ次シャンプーで移動お願いしまーす」
「はーい」
佐藤は若干の返答に困る問いに焦りはしたが、山田とは対照的に平和に過ごしていた
その日の夜、散髪の後買い物などをして佐藤が家に帰ってきた、それと同時に山田も報告書の作成を終えてソファで寝っ転がっていて、佐藤が帰ってきた気配を感じて起き上がる
「ただいまー、どう?」
「おかえり、いいじゃんやっぱ襟足ない方がいいわ」
「だよねー」
「いい報告と悪い報告とお願いがあります、悪い報告から行きまーす」
「選択権ないパターンあるんだ」
佐藤は荷物を置き、物を片しながら話を聞く
「今朝倒したサンキューさん、報告書が必要って言われました」
「ええ!何それ!めんどくさい!え、でもおかしくない?」
山田の言ったことに疑問をぶつける
「ちゃんと事前に連絡したのにね、クソだよクソ、んでいい報告がその報告書、俺がたった今終わらせました」
「うおー、神、マジで助かる天才」
「もっと褒め称えよ」
調子に乗った山田はソファの上で立ち上がる腰に手を当てて胸を張り始める、それを見た佐藤はその場で膝をついて声を出す
「かっこいい!しごでき!イケメン!」
「気分いいわー、んでお願いが明日報告書を本部に届けることになったから俺の代わりに文句言って、一緒には行くけどあんま他人と喋りたくないから」
山田は普通にソファに座り直して佐藤も普通に立ち上がる
「全然全然、むしろそれぐらいこっちからやりたいぐらいだよ、ていうかそっちに連絡きたの?」
「そう、お前に通じないからって」
「確かに連絡きてたけど髪切ってて気づかなかったから放置してた」
「勘弁してほしいよな」
「でなんでそんなことになったの?」
「それがさ、クソみたいな話なんだけど」
山田は先ほどの経緯を伝えて、直接文句を言うためにメールじゃなくて本部に届けに行くことにしたと伝える
「うわー、くそだ、おっけーめっちゃ文句言うね」
「任せた、ああ、腹減ったー飯食った?」
「食ってない、コンビニ行く?」
「うわ、あり」
山田はそそくさと準備を始め佐藤は帰ってきたばかりで特に準備の必要がなくスマホを見ながら待っていた
「1番困る質問、なんの仕事してるんですか説を提唱したい」
「ああ、わかる、言ったら追放だしな」
「僕なんかさっき美容室で聞かれてわかんなくなって正義のヒーローって答えちゃったよ」
「わはは!正義のヒーロー!いいじゃん名乗ってけよ、自称正義のヒーローの成人男性」
山田は手を叩いて馬鹿にしたように笑い、佐藤は苦い顔をする
「痛すぎる、なんて答えるのが正解?」
「俺は他人とそんな深い話したくない、まあでも言うとしたら適当にフリーランスでやってる的なこと言うわ」
「なるほどね、ちょっとかっこいいじゃんよくわからないけど」
「何やってるかわからない仕事ランキング堂々一位フリーランスな」
「詳しく聞かれたら?」
「ぶっ飛ばす、おけ準備できたおまた」
「ぶっ飛ばしちゃダメでしょ、詳しく聞かれたら詰みと」
コンビニへ向かうために外へ出てすぐに二人はタバコに火をつける
「そもそも俺できるだけ人と会話したくないし、会話を切り上げる技術クソ高いから平気」
「マジ?じゃあ、お仕事何なさってるんですか?」
「ああ、フリーランスで色々」
「へえー、具体的にはどんなことですか?」
そう聞いた瞬間山田はノータイムで佐藤にパンチを喰らわせる
「いたっ!え?ぶっ飛ばすって会話を切り上げる技術だと思ってる?」
「ほら、会話終わったろ?」
「終わってんのは頭でしょ、会話は終わるけど事件が始まるよ」
「死人に口なしってな」
「コミュ障極まりすぎでしょ」
ため息混じりに言った佐藤の言葉に山田は反論する
「俺はコミュ障じゃない、話そうと思えば話せる、ただ、話したくないだけ」
「一緒、一緒」
反論ともいえない反論に佐藤がめんどくさそうに返すと山田はヒートアップして更に続ける
「いいか?コミュ障は会話が苦手で俺は会話が嫌いなの、例えるならうんこ触れって言われたら嫌だろ?」
「めっちゃ嫌」
「ただ、怖くはないじゃん、100パー幽霊でる心霊スポットに行けって言われたら嫌だろ?」
「めっちゃ嫌」
「そんでめっちゃ怖いじゃん?俺ら幽霊に勝てねーし、俺にとって会話はうんこってこと、幽霊じゃなくて、嫌だけど怖いとか苦手ってわけじゃない、キモくて無理ってだけ」
山田の力説になんとなく理解したが、佐藤は変わらないテンションで返す
「つまり人嫌いね、いつか困るよ」
「困ったらお前がいるじゃん?」
「僕のこと大好きかよ」
「愛してるぜー」
その後二人はテンションが上がりコンビニで豪遊し眠りについた
次の日
朝から電車に乗り少し離れた幻想省の東北本部へ向かって二人は歩いていた
「俺、マジ一言も喋らんわ、チャレンジ」
「いいよ、めっちゃ不機嫌そうにキレてますって顔して威圧してて」
「得意分野だわ」
山田は腕を組んで目つきを悪くする練習を始める、そんな山田を見ずに佐藤は続ける
「一言でも喋ったらジュースね」
「お、じゃあ建物出るまで喋らなかったら土下座な」
「すご、軽い賭けでこんなに性格の悪さって出るんだ」
「あら、ここだっけ?」
山田が指差した場所はそこそこ大きくそこそこ小綺麗なビルだった
幻想省は各都道府県に一つは本部を設置している、そしてここは二人が住んでる県の幻想省本部兼、東北地方全てを統括する本部、幻想省東北本部だ、幻想省は四つ部署に分かれており本部で仕事をするのは基本的に管理課の職員のみで、文字通り幻想生物の書類面の管理とハンターのバックアップをメインの仕事としている
本部は市役所のような形態で運営している
ちなみにハンターは討伐課に所属する人間の通称で二人は分類的には国家公務員に当たる
「滅多に来ないもんね本部、敷地内入ったらスタートね」
「おっけー」
「あ!まずい!報告書忘れた!」
佐藤がわざとらしく慌てた演技をするが山田は黙ったまま佐藤を睨みつける
「……」
「騙されないかぁ」
山田はそのまま無言で、佐藤も特に話さずに本部に入り受付で用件を伝え番号札を渡され近くのソファでで待つこと
3時間後
「…」
「…」
待たされすぎて二人とも不機嫌になっていた。
その間も山田は喋らず、佐藤も最初は山田を喋らそうとしていたが待ち時間が長すぎて無言になっていた。
いい加減文句の一つでも言ってこようと佐藤が立ち上がるとそれを見越したかのように受付から声がかかる
「佐藤様、お待たせいたしました6番カウンターまでお越しください」
「遅すぎね、全くほら行くよ」
「…」
山田に声をかけ二人でカウンターに向かい、カウンターに着くと二人は無言で席に座ると、対面には中年の男の職員が待っていた
「はい、すいませんお待たせいたしました、東田です。今日は報告書を持ってきていただけたと言うことですよね?」
「そうですね、報告書出して終わりかと思ったんですが、ずいぶん忙しいようで」
「いやー、申し訳ありません結構待たせてしまいましたよね」
「もう少しで日を改めようと思ってたところです」
「ははは、申し訳ないです、では早速報告書の方を」
あまり悪びれもせず報告書を受け取ろうとするが佐藤は報告書に手を置き受け取れないようにし話を続ける
「少しですね、言いたいことがありまして、昨日の電話の件なんですが山田に聞きまして」
「ああ、はい」
「昨日の幻想生物を討伐する前に掲示板に依頼がないことも確認して、そちらに連絡も入れたはずなのにこっちで報告書を作らなくてはいけないのはなぜかと思いましてね」
「先日山田様にもお伝えしたのですが討伐者としての責任がですね」
「それは連絡をして処理までこっちで頼んだのである程度の責任は満たしていると思ってます、報告書を作ることには何の不満もないんですよ、ただ事前に知ってるのと知らないのではかなり違うと言う話です」
昨日の電話で山田が丸め込まれた事を言おうとした東田を遮り冷静に詰める
「報告書を作成にあたって実物の観察や写真を撮り調査する必要があるんです、そちらでもそれは同じでしょうけど、死体から報告書を出すのと違ってこっちは幻想生物の名前や顕現した原因、場所や認識の規模も今後のために必要なんですよ。それを倒した後に死体も写真もない状況で作れってのは少し無理があります、だから事前に調査のために報告書が必要かどうかを知りたかったわけで、決して報告書を書きたくないから討伐しないなんてことはありません、山田の方が少し言葉足らずでめんどくさいと口にしたみたいですが、調査がめんどくさくなると言うことなんですよ」
「は、はい」
「今回に関しては山田の調査力と経験で全て補えましたが、今回はかなり運が良かったから問題なく作成できました。そして、場所についてですけど、こちらとしてもそちらと上手いこと連携を取るために自分たちが幻想生物を討伐する場所は以前に報告書をあげているはずですので確認さえすれば場所がわからないなんてことはないはずです、そもそも事前にこの場所で討伐しますと一報入れました。こちらは十分に情報を共有しているのにわからないと言われると、申し訳ないんですけど、そちらの連携不足としか思えなくてですね」
佐藤の反論の隙がないマシンガントークに東田は狼狽えることしかできなかった
「…申し訳ないです」
「後、そちらに連絡したのは自分なので連絡を受けた人に確認もしておきたいんですよ、金森さんという方もお願いできますか?」
「え、金森ですか?いやー、少々手が空いてるか…今後とも気をつけますので今回は…」
「いえ、こちらに至らぬことがあったかもしれませんので連絡した金森さんにも直接お話ししたいんですよ。まさか一日経ってるのに金森さんに話がいってないなんてことはないと思うので」
嫌味ったらしく言った佐藤、東田は観念したように立ち上がった
「…かしこまりました、少々お待ちください」
二人は無言でハイタッチをした
前日の電話で山田は結局報告書を書く羽目になったが最初から佐藤が電話に出ていたら書くことはなかっただろう。
交渉や会話などは山田よりも圧倒的に佐藤が優れている。
佐藤の見立てだと東田は完全にこのことを個人で終わらせて誤魔化す気だったのだろう。
なので話が通じて面識もある金森を呼ばせた。
数分経ち東田と共に眼鏡をかけた男、金森が慌てて来た
「佐藤様、山田様、この度は誠に申し訳ありませんでした!話は東田の方から聞きまして完全にこちら側の不手際でした!」
「どうも金森さん、やっぱり知らなかった感じですか?」
佐藤と金森は知り合いで基本的に佐藤は金森に報告をしていた為、二人の事情には詳しかった
「恥ずかしながら、さっき東田に聞いて初めて把握しました。任務を掲示するのを忘れておりまして、そこで勘違いがですね、起きてしまい報告書の提出と言ってしまいました。
本来ならこちら側のミスですのでお二人に報告書を書いてもらうなんてことはありませんでしたが、こちら側の連携不足でこのようなことになってしまいました」
「まあ、報告書は書いちゃったんでもういいですよ。こっちも昨日電話で色々言っておけばよかったんですけど、うちの山田がコミュ障なもんで、いてっ!無言で蹴るな」
「…」
金森にも立場があり配慮をしているが非を認めてくれたのでもう何もいうことはなかったが、今後棘が立たないように軽く、山田のせいにしたら無言で蹴りを入れられた
「本当に申し訳ありませんでした。今回は報告書も書いていただけたということなので、依頼料金ということにいたします、処理費用もこちらで負担させていただきます」
「いいんですか、ありがとうございます」
ただの討伐と違い掲示板の依頼は報酬が少し多い場合が多く今回も例外ではない、依頼を受けたわけではないが依頼と同じような仕事量をこなしたため、そのような措置になる、それを見越してたため特に驚きもなく受け入れる
「当然です!お二人の報告書は見やすく大変助かっておりますので、今後ともよろしくお願いします、東田さん!」
少しバツの悪そうにしていた東田も金森に促されて頭を下げる
「この度は申し訳ありませんでした」
「今後ないようにしてくれればこっちは大丈夫なんで、ただ金森さん、少しねいい感じの依頼とかあったら」
「ええ、信頼のおけるお二人にお願いします」
「こちらからもね今後ともよろしくお願いしますね」
佐藤は報告書を金森に渡して軽く会釈をしてカウンターから離れる、その間金森はずっと頭を下げ、東田の頭が上がらないように腕で押さえていた。
佐藤から先に建物から出てすぐに伸びをする
「はぁー、長かったー、何だよあの東田ってやつ嫌なやつだったー」
それに続いて山田も建物から出ると一定のリズムで手を叩き佐藤に近づく
「ほら!土下座土下座!」
「お前マジで喋んなかったね!まずありがとうじゃない?」
「そりゃあね、まあ土下座は冗談としてチャレンジ成功だな。ありがとう!君のネチネチした正論パンチで相手がタジタジになっていくの見るのは気分が良かったよ、性格悪くてありがとう」
やたらと爽やかに言い放った山田に、佐藤は不貞腐れた顔をする
「うわー、気わる、報酬もアップしたしいい依頼も二、三回は回してくれるでしょ」
「さすが、頼りになるぅ」
山田が軽く褒めると、佐藤は自信満々に胸を叩く
「任せてほしい、ただ思ったより時間かかったね、どうする?」
「んー、飯食って帰る?」
「せっかくだしさサウナとか行って帰りに酒買って飲もうぜ」
「うわー、最強プランじゃん、行くしかないわ」
「よし、じゃあ風呂いって帰りスーパー寄って電車で帰ろう」
二人は足取り軽く本部を後にした
その後喫煙所でタバコを吸い、サウナに向かうが山田は人通りが多い場所が嫌いなのである程度人通りがない道を歩く若干遠回りになるが急ぐこともないためゆっくりと二人は歩く
「最近痰がやたら粘度をもってるんだよ」
「タバコのせいだよ、僕も痰絡むし、体力落ちた気がするもん」
「は?お前タバコが体に悪いとか思ってる?それ都市伝説だぞ?ほとんど陰謀論」
「やば、フラットアーサーみたいになっちまった」
「タバコは人体に何の影響もないって精神論的に証明されてるから」
「お前、語彙力すごいくせによく言いくるめられるよね、今回も報告書書いちゃってるし」
「いやー、面目しかない、なんかめんどくさくなっちゃって」
「面目あるんかい、報告書書く方がめんどくさいんじゃない?いや、お前にとっては会話続ける方がめんどくさいのか」
「そゆこと、あら?」
山田が前方に視線を向けると、少し前を歩いていた制服を着た少女が突如変な影に引っ張られて路地裏に消えていった。
それが何かわかってしまいめんどくさそうな顔をする
「なあ、前のJK失踪案件」
山田がそう言って前を指さすと佐藤も前を向く
「え?ほんとだいなくなってる、どっかで曲がった?」
「いや、見えちゃった、はあーめんどくせぇ」
「何見えたって?パンツ?」
「だったら良かったんだけど、あのクソネズミだわ」
山田嫌そうな顔で言ったクソネズミという単語に佐藤も同じ顔をする
「まじ?助けなきゃじゃん」
「俺ナタ持ってきてねーよ」
めんどくさそうに少女が消えた路地裏に入る二人、少し進むとすぐに横たわった少女と1メートルほどの小汚い色のネズミがいた
「うわ、ほんとに旧鼠だ」
「討伐、救出義務ってマジでめんどくせえ」
幻想生物は広く知られるほど強くなる、しかし全て力が上がるなどのパワーアップをするわけではない
窮鼠猫を噛むということわざがある、これは日本人ならほとんどが知ってるほど有名なことわざだ。
しかし、追い詰められたネズミの窮鼠がネズミの妖怪「旧鼠」であり、その妖怪旧鼠を知っているものは少ない
認識される範囲は広いが深さは浅過ぎるそんな幻想生物旧鼠は強くないが数が多い
幻想省は旧鼠を見かけた際には討伐し被害者がいたら救助しなくてはならないという義務をハンターに与えていて、二人は少女の救助しなくてならない。
1匹しかいなかった旧鼠はよく見ると壁に地面にざっと見て10匹はいた
「なあ、銃は?」
「もってまーす」
佐藤はシャツを捲りベルトに挟まっているハンドガンを山田に見せてから手に取る
「うわ、天才じゃん、いけそう?」
「まあ、報告書書いてもらったしねこれぐらいは僕が一人でやりますよ」
「助かる、任せた」
山田は一歩離れてタバコに火をつける
佐藤はポケットからサイレンサーを取り出して銃身に取り付け、銃を構えると一瞬のうちに少女の隣にいた旧鼠の眉間に弾を打ち込む
「さて、パパッと終わらせますか」
“ぢゅう、ぢゅう”
銃声を聞き周りの旧鼠が佐藤に向かって走ってくるが近づいた旧鼠から順に正確に眉間に弾を打ち込む、洗練された動きで一瞬のうちに狙いを定め2匹、3匹と倒していく
佐藤の家は幻想省と関わりがあり、幼い頃から幻想生物のことを知っていた、家は佐藤をハンターにさせる気はなかったが、自衛のために銃火器による戦闘訓練を幼い頃からさせていた、そのため佐藤は基本的に全ての銃火器の扱いができかなりの腕前を持っている
それこそ、旧鼠程度なら20匹が相手でも問題ないほどに
“ぢゅう!”
壁にいた旧鼠が降ってくるが後ろに飛び空中で銃を放ち壁に張り付いていた旧鼠も飛びついてきた旧鼠も力なく倒れる
死体を踏み越え前進しながら旧鼠を倒し少女に辿り着く
「おーい、生きてる?気絶してるね」
“ぢゅう!”
少女の意識確認をしている佐藤の背後から旧鼠が襲いかかるが視線も向けずに銃を構え引き金を引くと弾は眉間に吸い込まれ旧鼠は倒れる
近くにはもう旧鼠はいなかった
「これで最後っぽいね、ねえ!この子そっち運んどいて!」
「へいよー」
タバコを吸い終わった山田が死体を踏み越えて近づき少女を抱えて死体のないところへ雑に降ろす。
その間に佐藤は処理班に電話をしていた
「はい、佐藤です、旧鼠見つけちゃって、えーと11匹ですね、救助者は一人で意識はありません、はい、そっちも処理お願いします、場所がですね東北本部近くの路地裏です、えーと、住所が…あ、いけます?はいじゃあ表に出ときます、お願いしまーす」
「待ち?」
「そう、すぐ来るって、JK意識戻りそう?」
「いやー、わからん、ちょい待ち」
地べたに転がってる少女の顔を覗き込み後頭部を確認し、頭を軽くペチペチたたく
「もっと丁寧にやってあげなさいよ」
「頭打ってるわ、クソネズミに襲われた時に打ったか、さっき俺が雑に落としたから打ったかまあどっちにしろ命に別状はない、すぐ起きんじゃね?」
「なら僕ちょっと路地裏から出て処理班迎えに行くからその子見てて」
「ええ、いいけど」
めんどくさそうに了承し佐藤は路地裏から出て行く、山田は壁に背を預けタバコに火をつけた
火をつけて直ぐに少女は意識を取り戻し目を開くと山田を見て固まる
「んん、、え?だ、誰ですか?」
「うわ、起きた、めんどいな…ああ、とりあえずそっち見ない方がいいっすよ」
山田は少女が旧鼠の死体を見ないように指を刺し言うが、逆効果で少女は直ぐに指を刺された先の光景を見てしまう
「え⁉︎ね!ネズミ⁉︎でか!え?死んで?え!」
「見るなって言ったのに、どうするかね」
死体を見てパニックになってる少女をよそに落ち着いてタバコを吸い続ける
「あの!これってどういう状況なんですか⁉︎」
「…」
「え?すいません!」
「…」
少女が声をかけるがめんどくさがって無視をしスマホで佐藤にメールを送る
その様子を見ている少女は状況が飲み込めずパニック状態で立ち上がることもできていなかった
「あのー…」
「…」
すぐに佐藤が路地裏に戻り状況を見て山田の頭をスパーンと叩く
「かわいそうでしょ!何とか言ってあげなって!」
「えー、だってめんどくさくて」
「もう僕がやるから表で処理班待ってて」
「へいよー」
山田はタバコの火を消してJKに一瞥もせずに目の前を通り路地裏を後にした
その様子に佐藤はため息をつきしゃがみ込みJKに話しかける
「ごめんね、悪いやつでは…ないと思うんだけど、君名前は?」
「いえ、えーと、柴田です」
「柴田ちゃんね、実は僕たち害虫駆除業者でこのネズミいるじゃん?こいつらを退治してるの」
「はあ、こんな大きいものなんですか?」
「普通はこんなデカくならないんだけどたまに成長し過ぎることがあってね、そのネズミにぶつかられて驚いて倒れて頭打って気絶しちゃったんだと思うよ」
「そうなんですか?」
適当な説明だとは本人も自覚しているが目撃した少女は処理班がきたら記憶を消されることになるので今騒がれなければそれでいいため多少強引でもなるべく優しく語りかける
「それで、このネズミかなり珍しいからさ感染症とか色々心配じゃん?だから今救急車呼んだからちょっと待っててもらってもいい?」
「は、はい、わかりました…」
「ありがとう、怖かったかと思うけど悪いネズミはやっつけたから安心してね」
「あ、助けてくれたんですよね?ありがとうございます」
「……いやー、気にしないで、当然のことをしたまでだよ」
直前まで助けるのがめんどくさいと少なからず思っていたため純粋に感謝されると少し胸が痛んだ。
その後は少女を安心させ、騒がせないために優しく会話を続け数分が経つと山田が処理班を連れて戻ってきた
「こっちすね、はい、後そこの佐藤に話聞いてください、俺何もしてないんで」
「おう!ありがとなにいちゃん!」
処理班の豪快なおっさんに背中を叩かれ山田は背中をさすりながら路地裏を後にした
すかさず処理班が数名路地裏に入ってきて旧鼠の死体を片付け始める
「相変わらず愛想ねーなあのにいちゃんは!おう!待たせたな!」
「すいません、わざわざありがとうございます剛田さん」
「気にすんな!そういえば昨日大丈夫だったか⁉︎死体持って行ったら本部のやつに変なこと言われたんだけどよ!あのにいちゃんからも珍しく連絡きたと思ったら死体の写真くれって言われてよ!」
山田は昨日、報告書の作成のために剛田に連絡していた、そのことを思い出した剛田は心配そうに佐藤に問いかける
「ああ、ちょっと本部のミスがあってさっき行って対応してたんですよ、と言うかあいつから剛田さんに連絡してたんですか、珍しいどころか初めてじゃないですか?」
「あんちゃんと会う前は連絡くれてたんだよ!一人でやってて心配してたんだけどよ!二人になってて安心したよ!相変わらず愛想はねーけど、何となく元気そうになっててよ!ありがとうな!」
自分と出会う前の山田の話をされて少し以外そうな顔をする佐藤
「僕も楽しくやってますよ、めんどくさいやつですけどね」
「がははは!言うじゃねーか!」
「あのー?」
「ごめんな!嬢ちゃん!おーい!担架もってこい!」
置いてけぼりにされた柴田が声をかけると剛田は部下に指示を出し担架を持って来させ柴田を担架に乗せる
「嬢ちゃんいまから検査!病院に運ぶからもう大丈夫だぞ!」
「あ、ありがとうございます、あのほんとに助けてくれてありがとうございました」
「あー、気にしないでー、お大事にね」
柴田は担架で運ばれて路地裏を後にした
一般人が幻想生物に遭遇してしまった場合は処理班が幻想省と提携している病院に運び必要があれば治療し、特殊な方法で幻想生物の記憶を消し、違和感のないように事故に遭ったとカバーストーリーを作りしばらく入院させることになってる、柴田も例に漏れず今日のことを思い出すことはないだろう
「いいことしたな!」
「義務があったから助けたのであんな純粋に感謝されるとちょっと心痛いですけどね」
「助けた事実は変わんねーんだ!胸張れって!」
「あざす、後書類書きますよ」
「悪いな!ほら!」
佐藤は書類とバインダーを受け取り書き始める
幻想生物を処理する業者は幻想省に属しているわけではなく一般企業という扱いになる、そのため、処理するときの費用はハンター持ちになり後日請求が来る、しかし幻想省からの依頼や義務だと幻想省から補償があり、ハンターの負担がなくなる、そのため幻想省に提出する書類が必要になりその確認をハンターがしなくてはならない
「あ、昨日の幻想生物あれも依頼って形に落ち着いたのでそれの分の書類も欲しいです」
「お、そうなのか⁉︎わかった!」
剛田はもう一枚書類を出し続けて書き始める
サンキューさんの時は特に書類を書かずに討伐報酬から処理費用を出すはずだったが、依頼になったので書類が必要になる為もう一枚貰った。
ほとんど確認なので数分もしないうちに書き終わり、書類を返す
「はい、お願いします」
「はいよ!確かに!昨日のやつも一緒に幻想省に提出しとくからな!」
「お願いします、なんか手間取るようだったら僕に電話ください」
「おう!そんときはよろしくな!後いいぞ!」
「じゃ、後よろしくお願いしますね」
「おうよ!」
処理を任せて路地裏を出るとすぐそばで山田がスマホをいじりながら待っていた
「終わった?」
「うん」
二人はそのまま歩き出し話を続ける
「あざ、つーかささっき担架で運ばれてきたJKにお礼言われちゃったわ、俺何もしてないのに」
「えー、何なら酷い扱いしてたよね」
「なー、申し訳なくなったわ、今度あったら無償で助けてやろう」
「そうしな、お前他人の扱い雑過ぎるから直した方がいいよ」
「それはそう、今回はちょっと反省したわ」
「珍しい、雨でも降るな」
「失礼な、俺も反省はするわ、いやーにしてもJKも人間なんだな、話が通じるとは」
「何だと思ってたんだよ、失礼に失礼を重ねるな、まあでもいい子だったよ」
「そうだな」
その後二人は予定通りサウナに行き買い物をして電車に乗り最寄駅に着く頃にはすっかり夕方になっていた
二人は明らかに買いすぎた買い物袋を一つずつ持ち物理的に重い足取りで家まで歩く
「重い」
「それな、ビニールだとはちゃめちゃに手に食い込むから重いよりも痛え」
「絶対買いすぎたよね、飲み切れるこの量?」
「余裕2秒で飲むわ」
「急性アル中まっしぐらじゃん、まあ最近家で飲んでなかったからね」
「俺は酒すら飲んでないまである、最後に飲んだの2週間前ぐらいじゃね?」
「そんな飲んでないっけ?」
「あんま飲まないからな俺、お前は昨日も飲んでたな」
「お前が付き合ってくれないから一人で飲んでたね」
「だって酒入ると映画にもゲームにも集中できなくなるから、たまにでいんだよ」
「そういうもん?」
「そう、はあ、着いたぁ」
家に辿り着きお互いに片手が塞がっているため少しごたつきながらも無事家に辿り着き荷物を置き部屋着に着替え、山田はつまみを作るためにキッチンへ、佐藤は買ってきたものを分けて今必要なものだけテーブルに並べ、テレビをつけて面白そうな番組を探す
30分ほどで準備を済ませて二人は定位置に座り缶を開ける
「はい、おつかれー」
「うぃー」
乾杯をしてから1時間ほどで二人とも出来上がりめんどくさい酔っ払いが完成し、この家はこの世の地獄と成り果てる
「うわー、やめてー俺のそばがー、おっぱいじゃねーか!」
歩き回っている佐藤からカップ麺の蕎麦を守りながら意味も無く叫ぶ山田、山田は歌い始めて佐藤は窓を開けてタバコを吸い始める、外は雨が降っていた
「さぁ!雨降ってんじゃねーか」
「雨降ってジアルフィー、メンヘラー?」
山田はメンヘラと呼びかけると佐藤は首を勢いよく山田に向けて真顔で言う
「私悪くないみんな死ねばいい」
「うわー、メンヘラだぁ」
「雨降ってる病む、タバコ濡れる死ぬわ、死ねぇぇ!」
佐藤は叫び、何故かタバコを外に置き窓を閉めまた歩き回る、それを聞いた山田は大声で笑う
「わははははは!」
「本当死ね!全員死ね!」
佐藤の発言を聞いて山田は真顔になり答える
「俺は生きる、ノアになる」
「本当人類壊滅しねーかな」
「俺ノアに改名するわ」
成立してない会話をしながら山田は笑う
「は?死ねよ」
「めっちゃ雨強くなってるじゃん」
山田が外を見ると雨はますます強くなっていた、それを聞いた佐藤が何故か外に置いたタバコを見る
「は?タバコがびしょ濡れ、はああああ!」
佐藤がソファにダイブしソファに置いていた海苔が宙を舞う
「うわー、海苔がぁ!あははははははは!」
「え?醤油大丈夫?」
「え?醤油置いてないよ」
「急に冷静になるのやめろって、やめろって!」
「痛い痛い!まじ痛い!千葉ロッテ」
佐藤が山田にのしかかりそれを笑いながら痛がると佐藤は置いてあった靴下を壁に投げつける
「醤油床にあるわ」
「ういー」
山田が上裸になり縦型の扇風機を抱えながら暴れそれを見て爆笑しながら写真を撮る佐藤
二人ともすでにグダグダで何をやっても笑う状態になっている
酔っ払うと収拾がつかなくなる、この家のいつもの光景だった、家は賃貸だが職業上聞かれてはならない会話もあり防音は異様にしっかりしているためいくら騒いでも誰にも迷惑をかけない、二人もそのことを理解し、お互いに一切気を使わないため大の大人がこのまでは目を外すことができる。
ただ客観的に見るとかなり終わってる部類の飲み会だった
夜中まで飲み会が続き二人はいつのまにか眠りにつく
次の日の昼電話の着信音で山田は目が覚めすぐに頭痛に顔を顰めて頭を抑える、目を擦りながら辺りを見渡すと、散乱した酒の缶、散らかったゴミ、つけっぱなしのテレビ、タバコの煙でやたらと空気の悪い部屋、何故かスーツを着た佐藤が地面に転がっており、自身は上裸だった
昨日何が起きたのかは若干覚えているがなぜこんなことになったのかは謎だったが、今は着信音の発生源を探す
それは案外すぐに見つかりテーブルの下に落ちていた佐藤のスマホだった、画面を見ると幻想省からで佐藤を起こそうと足でこづく
「おーい、電話」
「ううー、代わりに出て…」
それだけ言うと佐藤は動かなくなる、こうなるとしばらくは役に立たないことを理解していた山田はため息を吐きながらタバコに火をつけ電話に出る
「はい」
『お世話になっております、幻想省の金森です、佐藤様の携帯でお間違い無いでしょうか?』
「あい」
山田は換気のために窓を開け外の空気を吸いながらタバコを吸い、酒焼けでガラガラになった声で返事をする
『あれ、もしかしたら山田様でしょうか?』
「ああ、すいません、佐藤が今寝てるんで代わりに俺が出ました、佐藤に用事でした?」
『そうでしたか、いえ、お二人にお伝えしたいことがありましたので、今大丈夫でしょうか?』
「大丈夫っす」
『それでしたら、お仕事のご案内なんですが、東京の方からハンターさんがいらっしゃいまして、東北支部の管轄内で討伐任務に当たるとのことなのですが、討伐任務の警備の仕事がありまして、その枠が1枠余っているんですよ、お二人ではなくお一人になるのですが、どちらかご都合がよろしければいかがかと思いまして』
「警備っすか」
警備は大掛かりな討伐の際に、幻想生物が逃げないように周囲を守ると言う依頼で、強いハンターと会えるとかなり人気な依頼だ、しかし依頼料は安く山田と佐藤は積極的に受けようとしない依頼だった
『はい、討伐目標の幻想生物が山に生息しておりまして、警備の方は山を囲む形で幻想生物の逃走を阻止していただきたいと』
「…紹介してくれるってことは結構割りがいい仕事ってことっすか?」
『そうですね、拘束時間などは討伐任務に当たるハンターさん次第になってしまいますが、報酬としては50ほどで』
「警備で?破格っすね」
警備は安いと言うイメージがあり、相場からしてもかなり破格な依頼料だった
『そうですね、かなり力を持ったハンターさんの警備でして、こちらも信用に足る人材を派遣したくてですね』
「ああ、なるほどわかりました、受けたいです、いつですか?」
『えーと、日付がですねすいません枠が急に開いたもので明日になってしまいまして』
「明日⁉︎急っすねー」
『申し訳ありません』
日付を聞き驚いたがよく考えれば昨日の詫びということでかなり無理して取ってくれた仕事なんじゃ無いかと考え、むしろありがたいと思う
「結構無理してくれたんすかね」
『いやー、あはは、あ、断ってもらっても全然大丈夫なので、お二人にも予定があるでしょうし、急ということはこちらも理解しているので』
「いや、受けさせてください、気使ってもらってありがとうございます」
『いえいえ、こちらこそ受注していただきありがとうございます、それで今どちらが参加するのかお聞きたいのですが…』
「あー」
佐藤を見るが相変わらず床に転がったまま微動だにしない、明日ということで金森もできるだけ参加メンバーを早く知りたく、最早期限ギリギリなのだろう
「俺が行きます」
『山田様で、よろしいんですか?』
「あいつ寝てるし、どうせ警備ですよね?暦だけは長いんで昔やったことあるし俺で大丈夫だと思います」
『かしこまりました、ありがとうございます、では明日、15時までに幻想省東北本部までお越しください、持ち物などの指定はございません、一応武装だけお願いいたします』
「わかりました、お願いしまーす」
『はい、失礼致します』
電話を切りタバコの火も消して室内に戻る
部屋の惨状にため息を吐き、顔を洗い部屋の掃除を始める
掃除は案外すぐに終わり放置した佐藤を起こすこともなく風呂に入り、買い物に行き、晩御飯を作っていると夕方になっていた
テレビでもつけようとリビングに行くと佐藤が起きてタバコを吸っていた
「やっと起きたか」
「おはよう、なんで僕スーツ着てんの?」
「知らねーよ、俺は上裸だった」
「酒って怖いねー」
「もう夕方だ、二日酔いは?」
「なし、すっきりとした目覚め」
「なら、風呂でも入ってこい、晩御飯は準備してるから」
「スパダリくんじゃん」
「あ、後お前の方に幻想省から電話来ててお前が起きなかったから俺が代わりに出たわ」
「まじ?ありがとう、なんだって?」
「昨日の人からで割のいい仕事紹介してもらえた、いくらだと思う?」
「えー、30!」
「50、警備だけで」
「すごっ!いつだって?」
「それなんだけど、明日で、枠が一人分しかなかったみたいで、お前寝てたし俺が行くって言っといた」
「重ね重ねスパダリくん、マジありがとう、でも警備なんてやったことあるの?大丈夫?」
「舐めんな、ハンター初めて8年だぞ、高校の時に一回やったわ」
「へー、え!てか、そんなに歴長かったの⁉︎同い年だよね、高校生のハンターってお前めっちゃ主人公適性あるじゃん!」
山田が高校生の頃からハンターをやっていたことを知り驚く佐藤
未成年がハンターをやるのはかなり珍しく、事情があったり、直々にスカウトされたり、と理由は様々だ
「適性なかったから今こんなんなんだろ、高校の時は師匠にくっついてただけだから」
「へえー、案外お互いの過去知らないよね我々」
「お前のことは結構知ってるけど」
「え?なんで?」
「ほら半年ぐらい前にお前のお母さんが家に突撃してきたじゃん、そん時に聞いてもないのに色々教えてくれたよ」
「あの、ババア!」
「うちに麦茶を常備したのもお前がすごい好きって聞いたからだしな」
「それはありがとう!」
「ほら、さっさと風呂入って来い、くせえぞ」
「言い方ー」
その後晩御飯食べて山田は眠り、佐藤は起きたばかりで眠れる気がしないと夜の街へと繰り出した
次の日の昼、山田が準備をして仕事に行く時に佐藤は帰ってきて、山田を見送る
「忘れ物ない?」
「ねえ」
「あ、ほらもしものためにこれを僕だと思ってお守りにしてよ」
そう言って佐藤が渡してきたのは少し前にノリで買ってしまった強力な爆弾だった、それを買ってから一人で任務に行く相手に爆弾を渡すという謎のノリが生まれてしまった
山田は受け取りながら文句を言う
「ぜってぇ使わねーよ、警備だぜ?」
「もしも、もしも」
「まあ、いいや行ってくるわ」
「いってらー」
山田は傘立てに入っていた鉄の棒を黒いケースに入れそれを背負い家を出る
山田は一人で電車に乗り本部へ
本部に着くと受付から金森が近づいてきた
「山田様!ご足労ありがとうございます」
「いえ」
「参加するハンターさんがあちらに集まってますので山田様も付近で待機していただいてもよろしいですか、時間になりましたら、用意した車に乗ってもらって現場に行くという形になります」
「わかりました」
「他にご不明な点など大丈夫ですか?」
「んー、大丈夫っす」
「そ、そうですか、では私はこれで」
討伐する幻想生物の詳細や、場所、討伐を担当するハンターなど疑問は色々あるが、警備だけだと鷹を括っているため、知らなくても問題ないと判断して、ハンターが集まっている場所の少し離れた場所に座りスマホをいじり始めた
そんな山田に気がついた一人の中年のハンターが手を振りながら近づく
「おお、山田くん、この依頼受けてたのか」
「うっす、武田さん」
「元気そうで良かったよ!色々大変だったからね、どう?最近は?」
「ぼちぼちっすね、まあ、昔よりは全然」
「なら安心だね、困ったらいつでも言ってくれよ」
「あざす」
有効的に話しかける武田に対して最低限の返事で返すため特に会話は盛り上がらないが武田が山田を気にかけていることはわかる
「武田さーん!ちょっといいですか?」
「おお、今行く、じゃあ山田くん、事務所の後輩に呼ばれたから行ってくる、今日はよろしくな」
「うす、お願いします」
武田は別のハンターに呼ばれて去っていき、山田は微動だにせずスマホをいじっていた
ハンターは基本的に安全のために集団で討伐にあたり、その集団を事務所と呼んでいてほとんどのハンターは様々な事務所に所属している、新人は先輩のハンターに教わりながら仕事ができ、依頼も事務所の方が安定して受けられるというメリットがあるが、依頼報酬は事務所に預けられ給料は事務所が固定給として払う事になる、その為保険などはしっかりしているところが多い
しかし山田も佐藤も別々の事情で事務所に所属していない
武田の方は呼ばれた事に対応し、武田を呼んだハンターは山田の方をチラッと見ると武田に疑問をぶつける
「武田さん、あの人誰っすか?あんま愛想いい感じじゃないですけど」
「ああ、山田くんね、まあ昔色々あったからね、しょうがないよ」
「へえ、山田…どっかで聞いたことあるな」
「あ、もしかしてハンター殺しの⁉︎」
「ああ!そうだ!所属してた事務所のハンターを皆殺しにしたのに、何故か粛清されなかったって」
「あれでしょ、上層部と黒い繋がりがあるから何やっても揉み消してもらえるって」
若いハンターが山田に関する黒い噂で盛り上がってしまい、武田は頭を抱える
山田自身この噂が流れても、関わりたくなく特に不利益もないため放置してるが、事情を知らないハンターからの評判は悪くなる一方だった
「あのな、それデマだから、山田くんはいい子だよ」
「え、そうなんですか?ていうか武田さんはどういう繋がりでハンター殺しと関わったんですか?」
「彼を教えてた人と友達でね、昔から知ってるよ、だから彼に黒い繋がりなんてないことは知ってる、あまり根も葉もない噂は信じない、ハンターなんだから噂に踊らされるようじゃ半人前だよ」
「うっ、そうですよね…すいません」
なんとかその場は収めたが、本人が動く気がないのだからただのおせっかいだろう、しかし噂は半分は本当なのだから、山田が他ハンターから何か言われるのが止むことはないだろう
武田は気にせず座っている山田を見てため息を吐く
(ハンター殺し、か…本人が否定する気ないもんな)
数分待つと職員から案内があり車に乗って現場に向かった
1時間ほどで車が止まり現場はかなりの田舎で山自体も小さめで、周りにはちらほら民家がある程度だった
現場に着くと白い装束を着た陰陽師のような格好の若い男が待っていた
「はい、どうも星6ハンターやってます、安倍晴樹いいます、みなさんよろしゅう」
「「よろしくお願いします!」」
ハンターは実績を積むごとに星を貰えて昇格するシステムがある、星は最大6個まで貰え、日本には星6のハンターは5人しかいない
山田は思ったより大物が来て驚きはしたがすぐに興味をなくし、今日テレビでやるはずの映画はなんだったかと、関係ないことを考えていた
色々説明があったのちに、警備が始まりそれぞれ二人ずつ配置されることになり山田は警備の場所に向かうと、相方は若い女性だった
「あ!よろしくお願いします!私真壁と言います!2年目の星2ハンターですが足手纏いにならないように頑張ります!」
「ああ、どうも、タバコ吸っていいですか?」
「どうぞ!」
元気よく挨拶されたが山田は軽く会釈をしタバコを吸い始める、真壁はその様子に戸惑い声をかける
「あのー?お名前は?」
「山田っす」
「山田さん、山田さんの星はいくつ何でしょうか?」
「3すっね」
「ベテランなんですねー」
「まあ」
「……」
とりつく島のない返事に困り果てる真壁、やたらとじゃらじゃらと装飾品をつけた愛想のない男に内心ため息を吐いてしまうが諦めずに話しかけ続ける
「山田さんは今おいくつなんですか?あ!私は20です!」
「23です」
「年近いですね!その若さで星3ハンターってすごいですね!」
「どうも」
「ハンター歴はどれくらいなんですか?」
「……8年っすね」
「え?すごいめっちゃベテランじゃないですか!」
「…」
会話をする気がない山田が黙ると沈黙に耐えきれずに真壁が声をかける
「あのー?」
「はい?」
「もしかして私少しうざいですか?」
「…俺あんま人と関わりたくないんで」
「あ、そうですか…」
明らかな拒絶に肩を落とす、真壁はかなり容姿が整っており、男社会のハンターでは可愛がられてる方でここまで塩対応をさせるのは初めてで、心が折れそうになるがめげずに話しかける
「すいません、もしもの時とかの為に情報交換というか、お互いに何ができるかとか言っておいた方が…」
山田は内心めんどくさがりながらも先日の旧鼠から助けた少女のことが頭に浮かぶ
担架で運ばれているのにわざわざ止めてもらってまで「助けてくれてありがとう」と関わりたくないと拒絶した自分に感謝をしてくれた事を思い出し、少しぐらいは会話してもいいかなと思い始める
「そうすっね、俺は基本的に近接戦闘がメインで、中距離は一応ハンドガンだけ、ただそんなに精度は高くないっす。警備の依頼の経験も昔だけどやったことあるんで、ある程度は大丈夫だと思います、えーと、真部さん?は」
「あ、真壁です」
「すいません」
「私は近距離が苦手で、戦闘の経験もあまりないので、すいません…」
「…じゃあ、もしもが起きたら俺が時間稼いで花江さんが報告に行ってください」
「わかりました!ありがとうございます!真壁です!」
「すいません」
必要最低限の情報だけ与えて山田はまた黙ってしまう、このままじゃ警備の時間気まずいだけなので仕事の話ならしてくれると判断し真壁は会話を探す
「あ、そういえば星6ハンターさんが来る任務なんですけど、私ここの山の話聞いたことないですね、星6ハンターさんが来るってことは結構有名だと思ったんですけど」
「ああ、俺も知らないっす」
「そう、ですか…」
圧倒的な実力者である星6ハンターが派遣されるということは相当な認識の力がある幻想生物なはずだが自身が知らないことに疑問をぶつけるが、特に目ぼしい返事が返ってこなくて消沈してしまう、その様子を見かねた山田は流石に説明してやろうと思い口を開く
「浜辺さん?は」
「あ、真壁です」
「ああ、すいません、認識の力が2種類あるのは知ってます?」
「2種類?」
「はい、範囲的認識と期間的認識です」
「あっ、聞いたことあるかもです」
「まあ、そんなに討伐任務受けないなら知らなくてもいいと思うんすけど、範囲的認識ってのが文字通り広く知られているってことっす、長谷部さんは自分が知らない幻想生物が強いのかって疑問を抱いたのは、広く認識されてないってことっすよね?」
会話をしてくれていることが嬉しくなり真壁は元気よく返す
「そうです!ドラゴンとか、日本だったらすごい強い妖怪とか、名前ぐらい聞いたことあると思ったんです、それと真壁です!」
「ああ、すいません、それで基本的に認識の力はその理解で大丈夫っす、その有名な幻想生物は範囲的認識が高い個体ってことです」
「なるほど、今回は範囲的認識が低いってことなんですね?」
「はい、ただ今回は期間的認識が高い個体の可能性が高いんで、期間的認識は認識されている期間が長いってことで、近代の有名な都市伝説っていうと口裂け女とか知ってます?」
「はい!小さい頃とか怪談番組で見たことあります!」
「口裂け女も幻想生物として顕現したことがあって結構昔なんすけど、顕現して直ぐに討伐されたから、認識されてた期間が短くて有名でも楽に討伐できたらしいっすよ」
「へえー、期間的認識が低いとそこまで強くないんですか?」
「基本的には、ただ脅威だったのは間違いないっす、期間的認識が低いと幻想生物の知能が低い傾向があって、そして長い間認識されるっつーことはその期間に死んだ人間にも認識されていたってことで、今回の場合はこの土地で信仰されていた土地神とかじゃないっすかね、星6ハンターが派遣されたんなら500年ぐらいは信仰されてきたんじゃないかと」
「500年…つまりその期間討伐されていないすごい頭がいい幻想生物ってことですか?」
「まあ、その認識でいいっす」
「ありがとうございます!勉強になりました!やっぱり山田さんベテランさんですね!」
「どうも」
少し話しすぎたかもなと思いつつ新しいタバコに火をつけると、山の方から気配を感じる
その瞬間真壁に向かって長い触手のような木の幹が迫る
「え、きゃ!」
山田はすんだのところで真壁を引っ張り自身の背後に隠して、持ってきていた鉄の棒を構える
「渡部さん?もしもが起きたんで報告に行ってください」
「え⁉︎あ、、はい!真壁です!」
真壁は振り向かずに逃げる、2年目とはいえハンターをやってきた経験はあるようで最善の行動を最速で行えるだけの精神は持ってるらしい
森から現れた人型の着物を着て、顔だけが黒いペンで塗りつぶされたように見えない幻想生物と対峙して山田はため息を吐く
「はあ、割のいい仕事なんてねえな」




