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44話「トリヴァイン王国の終焉〜お人好しの二人が出した答え」




竜型のクヴェルたんの背に乗り飛ぶこと数時間。


黄褐色の土煙に覆われた先に王都が見えてきた。


トリヴァイン王国を旅立ったのは三月の始め。あの時は大地は美しい緑に覆われていた。


まさか約五十日ほど国を離れただけで、祖国がこれほど荒廃しているとは思わなかった。


クヴェルたんの話では、街道や畑や街にモンスターが出現し、井戸や川の水が枯れ、作物も育たず民は困窮しているようだ。


王宮の前には人々が押し寄せ「こうなったのは国王と王太子が水竜様の像を破壊したからだ!!」と抗議しているらしい。


王家に不信感を抱く国民は日を増す毎に増え続け……王家は崩壊寸前だった。


そんなとき、王宮に神々しいまでに壮麗な竜が美しいドレスを纏った少女と共に現れたら……国民はどう思うかしらね?




◇◇◇◇◇◇




「陛下、王太子殿下!

 もう城の門がもちません!!

 お逃げください!」


「逃げるったって……どこに逃げるんだよ!!」


「リスベルンの……リスベルンの国王からの返信を持った使者はまだか……?

 彼らが水竜を保護し連れ戻しさえすれば全ては、元通りになるのだ……」


「もう、ずっとお風呂に入ってなぁ〜〜い!

 臭いし、汚いし、痒いし、それにお腹は空いたし、もう最低……!」


謁見の間には、

生気のない顔でぶつぶつと同じ言葉を繰り返す国王と、

無精髭を生やし苛ついた様子で兵士に八つ当たりする王太子と、

こんな状況でもわがままを言っているイルゼがいた。


「ごきげんよう皆様、相変わらず賑やかですわね」


「人の根本は変わらないものだよ。

 特にこういう利己主義の塊で性根が腐っているような連中はね」


竜型のクヴェルたんはバルコニーに下り立つと、謁見の間に入った。


突如現れた竜と、その上に乗っている私を見て、その場にいた全員が固まっていた。


「何者だ!

 ここを謁見の間と知っての狼藉か!」


兵士の一人が勇ましく槍を構えた。


「ぎゃーー!!

 モンスターだ!

 モンスターがついに城に攻めてきたーー!

 イルゼを食ってもいいが、俺のことは助けてくれ〜〜!!」


「エドワード様、酷い!!

 モンスターさん、食べるならエドワード様から食べてください!!」


王太子は尻もちをつき、ガタガタと震えながら後退する。


彼の横にいたイルゼが王太子をきっと睨みつけ、ヒステリックに叫んでいる。


「バカもの!

 槍を収めよ!!

 水竜様だ!

 水竜神様がお戻りになったのだ!

 やはり神は我々を見捨てなかった!!」


国王が槍を構えた兵士を叱責し、その場で平伏した。


国王が頭を下げたのを見て、その場にいた従者や兵士がそれに倣う。


「おお水竜神よ!

 なんと神々しくも美しいお姿!

 我らを救うために再びこの国に舞い降りてくださったのですね?

 この国は今、未曾有の事態に陥り混迷を極めております!

 どうぞ癒やしと浄化の雨を降らせ、この国をお救いください!

 大いなる神の力をもって、我らに加護をお与えください!」


国王がそう懇願すると、その場にいた全員がそれに倣った。


「「「水竜神よ、この国をお救いください!」」」


彼らは祈るようにそう唱えた。


「断る」


「えっ……!?」


クヴェルたんの言葉にその場にいた全員の顔が凍りついた。


「水竜神よ、今なんと申されました……?」


「聞こえなかったの?

 断ると言ったんだよ」


クヴェルが冷たくそう言い放つと、国王を始め全員の顔が真っ青に変わった。


「それはなぜですか?

 なぜこの国の守り神であるあなた様が我々をお見捨てになるのですか?」


国王が往生際悪くクヴェルたんにすがる。


「なぜかって?

 初代女王レディアと僕が交わした契約を君が破ったからだよ。

 契約を破ったのは、国王と王太子の二人だから君達と言った方が正しいかな」


国王には思い当たる節があるようで、クヴェルから視線を逸らし、俯いてしまった。


「国王もしくは王太子は、水竜の像を三日に一度磨く。

 それが僕が水竜としてこの国を守る為の条件だった。

 だが、国王も王太子もその条件を破り、一度も僕の像を磨かなかった。

 それどころか像を破壊した。

 だから僕はこの国を去ったんだ。

 僕の像を毎日のように磨いてくれたこのアデリナとともにね」


クヴェルたんはそう言うと、人型の姿に戻った。


クヴェルたんが変身を解いた瞬間、広間にブワッと風が吹いた。クヴェルたんが風魔法を使って起こしたんだと思う。


クヴェルたんの神秘性を高める良い演出だ。


大人の姿に戻ったクヴェルたんは私の腰にしっかりと手を回し、冷酷な瞳で国王達を睨みつけた。


クヴェルたんはこの日の為に、私に内緒で自分の服と私のドレスを用意していた。


彼は青のジュストコールの上に白のマントを羽織っていて、どこから見ても貴公子だ。


私は真っ白なシルクのドレスと、魔石のブレスレットとネックレス、金のティアラとイヤリングを身に着けている。


いつもよりは淑女らしく見えている……と思いたい。


「おお、なんと……水竜神が人間の姿に!」


「水竜神の横にいるのはアデリナなのか……?

 綺麗だ……」


「何でお姉様がここにいるの?

 相手の男はエドワード様よりかっこいいし!

 お姉様の身に着けているアクセサリーもドレスも私のより高価そうだわ!

 お姉様が私より幸せだなんて許せない!」


国王はやつれた顔で目を大きく見開き、クヴェルたんを凝視している。


王太子はアホ面でぽかんと口を開けたまま呆けている。


イルゼは眉根を寄せ口をへの字に曲げ地団駄を踏んで悔しがっていた。


異母妹は自分より私が優遇されたり目立つのを嫌っていたので、着飾った私を見てさぞ腸が煮えくり返っていることだろう。


いい気分だわ。少しだけ溜飲が下がった。


「水竜神様ですよね!

 私、ブラウフォード公爵家のイルゼといいます!

 お姉様なんか止めて、私と付き合いませんか?

 お姉様より可愛いし、健気だし、尽くすタイプですよ」


イルゼがクヴェルたんに近づこうとすると、イルゼがビタンと転んでそのまま地面に張り付いたまま動かなくなった。


「いったぁい! 何するんですか!」


顔を上げ、イルゼが睨んでくる。


「重力を操る魔法だよ。

 僕に近づかないでくれる。

 酷い臭いだ」


クヴェルがゴミを見る目でイルゼを見た。


「臭いだなんて酷い!

 ……それ私に言ってるんですか?」


「お前に言ってるに決まってるだろ。

 何日風呂に入ってないんだ?

 服からも凄い悪臭がする。

 ごみ溜にいる気分だ」


そう言ってクヴェルは鼻を摘み、イルゼから視線をそむけた。


「きぃ〜〜〜〜!

 何よ〜〜!!

 ちょっとイケメンだからって〜〜!!」


イルゼが鬼のような形相でクヴェルたんを睨んでいた。


まぁ、実際のところ酷い臭いよね。


井戸も池も川も枯れたから、飲水優先で洗濯やお風呂なんて贅沢だっただろうし。


「おい! イルゼ!

 お前は俺の婚約者だろ!?

 よその男に色目を使うな!」


王太子がイルゼに近づくと、彼も見えない圧力に潰されるように床に倒れ込んだ。その格好は馬車に轢かれたカエルのようだった。


「何よ!

 エドワード様だって着飾ったお姉様に見惚れてたじゃない」


えっ? そうなの? キモい。


「煩い!

 美人に見惚れるのは男の性だ!

 実際、着飾ったアデリナはお前より何倍も美人じゃないか!」


「はぁ?!

 私よりお姉様が美人だなんて、そんなことあり得ないんですけど!」


「いや、あり得るね!

 幼児体型のお前と違って、アデリナは背が高くて、出るところが出ていて……、ぐばっ……!!」


クヴェルたんが王太子にかけている重力魔法を強めたようで、王太子は大人しくなった。


元婚約者にそんな目で見られていたのかと思うと悪寒が走る。


クヴェルたん、よくやってくれた!





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