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102 危険な朝食



 緊張感を保ちつつ、油断なく、異変があればすぐ起きられるように気を張っていたつもりだったのだが。


 気がつけば熟睡してしまっていた。


「………………」


 目覚めて、深く反省した。


 どれほど安らぎ、幸福感をおぼえ、指と指の感触に心を舞い上がらせたとしても。


 これはいけない。


 油断しすぎ。

 ご主人さまも、自分も、安楽が許されない状況だったというのに。



 ――ともあれ、朝だ。


 首輪、あり。

 中身、あり。


 ご主人さま――()()


 夜明けどきの、淡い光が少しだけ窓から入ってきている。


 ぼろ布のかたまりが、隣にいる。


 動かない。

 眠っている。


「…………」


 自分の方が先に起きたのは初めて。


 胸が高鳴った。


 見つめる。

 無防備に横たわるフィンが、この布の中にいる。


 ドキドキする。

 ()()()、ドキドキする。


 昨晩、新しいことを知ってしまったせいもあって、顔がみるみる熱くなってくる。


 見ようと思えば、今なら、顔を見られるのでは。

 布の中の体にしがみつくことだってできるのでは。


 だが――。


 今までのカルナリアだったら、試みていたかもしれないが。

 今のカルナリアは、そうしようとは思わなかった。


(いけません。何もできない、お荷物の「ルナ」には、ご主人さまが見せようとなさらないものを、見る資格がないのです)


 自分が、フィンの顔はもちろん、色々なことを知ってしまったら。

 他人に訊かれた時、情報を漏らしてしまう。読みとられてしまう。鞭打ちや拷問をやられ続けて、それでも吐かないでいることは絶対に無理。だからこそ、知らないでいることが、自分のためにも、フィンのためにも、最も良い。


 最初からフィンがちゃんと言っていたではないか。

 知らない方がお前のためだ、と。


 今の自分には、知る資格がないのだ。


「ルナ」が強くなり、頼れるようになり、大丈夫だろうと信頼してもらえたら、その時はフィンの方から見せてくれるだろう。


 カルナリアは起き上がり、静かに寝台を降りた。


 洗面器、水、布。

 顔を洗う支度をする。

 自分ではなく、ご主人さまのために。


「…………朝か」


 寝台から、けだるげな声をかけられた。


「はい。おはようございます。今日も晴れそうですよ」


 目を覚ましたのならいいだろうと、窓を開け外光を入れる。


 暗かった室内が、朝空の光に淡く照らされた。

 最も高い塔に日が当たる時の、朝の鐘ももうじき鳴らされるだろう。


 自分の中の(よこしま)なものも、かき消されていった。


「起きますか。まだ寝ていますか。顔を洗いたいのでしたらこちらに。何か飲まれます?」


「………………」


「ルナ」の仕事ぶりについて何か言いたそうだったが、言葉にはしてくれなかった。


「異常は…………ないか?」


「私にわかる限りでは、おかしなことは起きていないみたいです」


 魔力も、いつものぼろ布の魔力以外、室内に感じるものはない。

 壁や窓に『透過』がかけられていたり、魔力あるものが部屋の隅にひそんでいるというようなことも感じなかった。


「そうか…………それなら…………いい…………」


「今日は、どうなさいますか? ご予定は?」


「……色々ある……………………めんどくさい……」


「できることなら、私がやります」


「無理だ…………私の、色々な、道具が……届くから……確認しないと…………お前の、服や、ものも、そろそろ……」


 昨晩入手するはずだった魔法具や、薬、その他色々なものをそろえて、自分の旅支度も。

 いよいよバルカニア行きが近づいてきた。


 グリ川をさかのぼり、三つの城を通過して、国境の後詰めである大兵站基地サーヴァの街へ。

 そしてグライル山脈に唯一開いた地峡である「風神の息吹(ナオラルフューラ)」とそこを封じるグラルダン城塞へ。


王の(カランティス・)(ファーラ)』を追うガルディス、その部下の切れ者セルイが手配して、レンカのような恐ろしい者たちが待ち受けていることは間違いない、いわば決戦の地へ、この後、踏みこんでゆくことになる。


(どうやって移動するのでしょう)


 この屋敷を使わせてくれている、フィンの協力者たちが、ガルディス側の者たちの目をかいくぐる何らかの手はずを整えてくれるのだろうか。


 しかし、タランドン侯爵は『王の(カランティス・)(ファーラ)』をガルディスに渡すべきだという考えである。

 つまりはサーヴァ市もグラルダン城塞も、すべてカルナリアの敵、『王の(カランティス・)(ファーラ)』を狙う側に回ったということ。


 そんな状況では、侯爵を敵に回してまで守る義理はさすがにないと、このタランドン市を出たところで協力は終わりと放り出されても文句は言えない。


(どうするのでしょう。私に、できることはあるのでしょうか。何をすればいいのでしょう。何もできないこの身でも、何か……そう、自分の身を守ることができるだけでもご主人さまの負担は減るはず……人を刺す覚悟、傷つける覚悟を持って……)


「ふむ」


 ぼろ布が、いきなり動き出し――寝台の上からずるりと床に滑り出てきた。


「?」


 まさかの行動。ずっと動かないと思っていたのに。


 見守るうちにも、近づいてきて、伸び上がって、つまり自分の前に立った。


 手が出てきた。


「え……!?」


 頬をつままれた。

 左右両方。


 そして少し上へ引っ張られる。


「おかしなことを考えず、笑っていろ」


 口角をあげた、笑みのかたちにされる。


「体を動かし、しっかり食べて、やれることをやって、前を向いていろ」


「前を…………」


「お前は私のものだ。お前を守るのも、支えるのも、私の義務なのだから、お前が沈んでいるなら引っ張り上げるのも私の義務だ………………だが、めんどくさい。手間をかけずにすむようになれ」


「………………はい」


 感動していいのか、あきれていいのかわからない。


(まったく、このひとは…………)


 気がつくと笑っていた。


「よし」


(励ましてくれた……ということにしましょう!)


 どうせ考えても答えは出ない。

 聞いても教えてくれない。

 それなら、自分が一番いいと思う解釈をしておく。


(それに、多分一番困難な、寝台の上から引っ張り出すということに成功したのです!)


 そこに気がついたので、たまらなく愉快になった。


「……あの子たちに声をかけてくれ」


「はいっ!」


 フィンが起きた、ということを、外で待機しているだろう少女達の誰かに。


 もちろん、いきなりドアを開けるような真似はしない。

 今まで教えられたことをしっかり守るのだ。


 できるだけ静かに、そっとノブを回し、わずかな隙間を空け――部屋の外の様子をうかがう。


 大丈夫。異常は感じない。


 何かあれば即座に部屋に逃げ戻れるように、そろそろと顔を出していって……。


「あの……ご主人さまが目覚められました」


 待機していた四人のひとりに声をかけた。


 じきに、着替えや朝食を持って現れるだろう。


()()()……!)


 フィンも、昨夜戻ってきてそのまま眠ったわけで、旅の途中ならともかくこういう場所では、服を替えるだろうし……その手伝いは、当然、自分もさせてもらえるはず!


 振り向くと――。


 フィンが、顔を洗い終えて、ぼろ布をかぶったところだった。


「!!」


 やられた。


 カルナリアが廊下に顔を出した隙にすませられてしまった。

 というか、それを狙って呼ばせたのだろう。


「……ご主人さま、もしかして、楽しんでません?」


 返事はなかったが、ぼろ布の中で、フィンが笑ったような気がした。





 ノックされた。


 朝食が運ばれてきた――のかと思ったが、違った。


「お客様です。急ぎの用です。お願いします」


 マルガの声がした。


 カルナリアはフィンを振り向く。

 ん、と許可をもらって、念のためフードをかぶって顔を隠してから、扉を開けた。


 男性が入ってきた。

 見たことのない人物。


 フィンは何も反応しない。警戒する気配も感じない。知っている相手のようだ。


「朝からすまない。困ったことになった」


 男が言って、カルナリアはぎょっとしてフィンを振り向いた。

 ぼろ布に動きはない。


「あんたに会いたい、もう一度見たい、雇いたい、弟子入りしたい、囲いたいという騎士や戦士や傭兵団なんかが、いたる所で情報あさってる。

 城の、かなり上の方々もその目的で動いてるし、よその領主があんたを確保しようと自分の手の者を呼び寄せたのもわかった。

 魔導師連中も、昨日のやつらみたいなのは論外だが、城の真っ当なやつも何とかあんたに接触できないかと動いてる。

 正直、あんたを隠し通すのは今日が限界だ。まずそのことを伝えておく」


「ふむ。では、移動は今夜か」


「そのつもりで準備してくれ。ご要望の装備は全てそろわないが、移動先に運びこむことで足取りを掴ませないように手配しているものもある。とにかく外のやつらに見つからないことを優先してほしい」


「わかった。だが、それ()()を伝えに来たわけではないのだろう?」


 フィンが指摘すると、男はきわめて言いにくそうにした。


「ああ…………ここにいられるのは今日までということで…………そのせいだろう、ここの(あるじ)が、一度だけでいい、あんたに会いたいと言ってきた」


「むう」


 この屋敷の主。

 思えば、ここの住人らしい人間を一度も見かけなかった。下働きの者すら。

 配慮してくれていたのだろう。


「迷惑をかけるつもりはない、朝食だけでいいから、ご一緒させてはもらえないかと――余計な者も連れてこない、給仕はこちらの者、あの四人だけでいいと」


「ぬう」


「俺たちとしても、断りづらい。第四位の方がそこまで言ってきてるんだ。人柄も、三男みたいなやつじゃない。しごく真っ当なお人だ。どうにか頼めないだろうか」


「むう………………」


 ものすごくめんどくさいと思っているだろうことは容易に推測できた。


 だが、拒否はせず……。


「仕方ないか。これだけよくしてもらっているのだから」


「助かる。すまない」


 男が退出していくと、ぼろ布の内側から大きなため息が聞こえた。




 ほどなくして、少女四人が入ってきて、てきぱきとテーブルクロスを広げ新しい上等な椅子を置き、場をしつらえた。


 四人ともきわめて真面目な顔をしている。

 昨晩のことなどなかったかのように。


「ではフィン様、どうぞ」


 テーブルには賓客(ひんきゃく)たるフィンの席と、向かい合う屋敷の主の席だけが用意された。


 粗末で小さなテーブルと背もたれのない丸椅子が、部屋の隅に設置される。


「ルナは、こちらでお願いします」


 奴隷なら当然の配置、当然の扱い。

 カルナリアの正体を知らない者と同席するのだから仕方ない。

 主人と同時に食べさせてもらえるだけでも破格の扱いと言うべきだった。





「第四位貴族、オーバン・ファスタル・ファス・タランドンだ」


 体格のいい、確かにタランドン侯爵家の血筋だとわかる顔立ちの男性が、本当にひとりきりでやってきた。


 三十歳くらいか、高位貴族なのにかなり日焼けしている。腕も太い。川を使った商売をしているという話だから、本人もよく船に乗っているのではないだろうか。

 侯爵の娘婿(むすめむこ)であり実子ではないのに第四位ということは、それだけこの領内で力を持ち、重きを置かれているということになる。きわめて高い「武」と「商」の才が輝いて見える。血筋だけではない人物だ。


 そんな者の邸宅ならば、確かに、おたずね者をかくまうことも十分できるだろう。


「フィン・シャンドレンだ。()()お目にかかれて光栄だ」


 その言い方からすると、このオーバンも、あのバルコニーの上にいたようだ。


「貴族への礼はしなくていい。病み上がりに無理を言ったのはこちらの方だからな。しかし、剣聖どのに、一度だけでいいので、ちゃんとお会いしてみたかったのだ。お許しいただけて感謝する」


「こちらこそ、滞在させていただいて感謝している。寄る辺なき流浪の身ゆえ、無礼は許されよ。また、この布は、私の大事な守り、防具でもあるので、お目汚しではあるが、剣を携えたままでいることも合わせて、このままをお許し願いたい」


「ああ、構わない。大事なのは服装でも身分でもない。俺はそういうのは気にしないことにしている。どんなに身分が高くても、船の揺れは止められないし、風向きは変えられないし、魚だって釣れないわけでな」


「ふむ。そのようなことを言う貴族の方とは初めてお会いする」


「剣聖どのを驚かせることができたのなら、それだけでもここに来た甲斐があったな」


 少女たちが椅子を引き、オーバンは席についた。

 身分など大事ではないと言うが、その動作は滑らかで優美、生粋(きっすい)の貴族であると一目でわかるものだった。


 フィンも席についた。


 傍らの少女が戸惑う。これは食事の席だ。誰もいなければ、ぼろ布の中へ手を入れて食べさせるやり方でいけるが、高位貴族の前でそんな真似は。

 しかも用意された食事は、大きめの純白の丸皿の上に様々な料理が美しく盛りつけられた、ぼろ布の中に吸いこんで食べるやり方がきわめて困難なもの。

 狙ったわけではなく、この屋敷の料理人たちがいつも通りに貴族の朝食を用意しただけなのだろうが、どうすればいいのか。


 だがフィンは、自分で解決してくれた。


「顔だけで失礼する」


 布が、円錐形ではなくなった。


 フード状になった。

 前が開いた。


 顔を見せた!


 その状態で席についた。


「おお…………!」


 オーバンの顔が賛美に輝く。少女たちも夢見る瞳に。


 カルナリアは部屋の隅から目をむいた。


 もちろん、奴隷は主人の後ろにいるものだから、顔は見えない。


 この相手を美貌で籠絡(ろうらく)することに意味はなく、むしろ執着されるととんでもなく面倒なことになるから、その狙いはないはず。


 高位貴族にして屋敷の主、自分たちをかくまってくれている相手への感謝と敬意――ということだろう…………が!


「いただこう」


「あ、ああ…………」


 オーバンは明らかに苦労した様子でフィンの顔から視線を外すと、食前のお祈りをした。


 フィンも――手を動かし、何かをやり、何かを小さくつぶやいた。


「それは、あなたの国の作法か?」

「ああ」


 カルナリアには聞こえなかった。


 フィンは、麗しい手もあらわにした。


 スプーンを持ち、スープをひとさじ。


「!!」


 カルナリアはさらに目を見張った。


 この人物がまともに食事するところを初めて見たのだが。

 斜め後ろからでも、動きが洗練されていることがはっきりわかった。


 さらに手が動く。ナイフを持ち、動かす。フォークで料理を口へ運ぶ。その全てが、貴族と遜色ない――王宮の晩餐会に列席しても一切恥をかくことのない、見事な所作!


 オーバンも少女たちも、名高い剣聖がそのように振る舞うことに違和感をおぼえた様子はなく、賛美の目つきのままだが。


 カルナリアは知っている。


 フィンはこれまで、地べたに屋根をかけただけの小屋で、ずっと寝起きしていたのだ。

 そんな生活をしていた人物が、王侯貴族のような振る舞いができるとは!


 いや、確かに、貴族でもそうは持てない魔法具を無数に所有しているあたり、出自がかなり高い人物であるのは間違いないのだが……。


 これまでの野宿や路上での食事などを共にしてきたカルナリアからすると、フィンの振る舞いは驚きそのもので。


()()()!)


 黒々としたものが湧き起こってきた。


(どうして、今まで、そういうところを見せてくださらなかったのですか! 初対面の、どうでもいい相手には見せておいて!)


 カルナリアの頬はふくらんだ。

 どうしようもなくふくらんだ。


「……どうぞ」


 マルガが、「ルナ」の分の食事を持ってくる。


「主人」のものとはまったく違う、料理の余りを適当な皿に載せただけのような雑多な盛り合わせと、切っていないパン、ただの水。


 これまでの食事同様、味そのものは十分に良いのだが、主人たちの卓と比べると差は歴然だった。


 寂しい気持ちになったが仕方なく、カルナリアも手を動かし始める。


 だが。


「……あれが、あの時の子か?」


 オーバンが目をつけてきた。


 あの場にいたなら、カルナリアのことも見ているのは当然だ。


「ああ。私のもので、ルナという」


「そうか。無事なようで何よりだ。あの時は、本当にひどい有様だったからな」


「良い医師を紹介してもらって感謝する」


 あの医師と女戦士も、この人物の紹介か。

 ということは、あの「診療(ごうもん)」もこの人物のおかげということになる。

 フィンの顔を真正面から見ているし、これは、憎んでいい相手ではないだろうか。


「ふむ…………」


 オーバンは何やら考えこむと。


「あの子も、ここで()()()食べるといい」


 いきなり言い出した。


「む」


「えっ!?」


 フィンがうなり、カルナリアは仰天した。


 破天荒な人物であるにしても、ありえない。


「奴隷なのだが、よろしいのか」


「ああ。船じゃ狭い所でみなで食べることはよくある。俺は平気だ。何よりもあなたが、あれほどの口上を言い放ち、()()()()()()()子なのだから、挨拶しないのはむしろこちらの不作法というもの」


(あれほどの口上? 命がけ?)


 好奇心がうずいた。

 もしかすると、マルガたち以上に詳しく正確なことを、現場にいた人物から、聞けるのではないだろうか。


 すぐにカルナリアの席が、オーバンとフィンの横に用意される。


 カルナリアの食べかけの食事も、マルガが先に移動させた。


「ふふ、これはこれで、美味そうに見えるな」


 みすぼらしいはずの盛り合わせにもオーバンは鷹揚に笑う。

 そこに(さげす)みや見下しはまったくない。油断すればつまみ食いくらい素手でやりそうな雰囲気。


 一方でカルナリアは……。


「し………………失礼します…………!」


 興奮と不安、両方を同時に抱きつつ、近づいていった。


 フィンの顔を、見ることができる!


 先ほどは見せてもらう資格うんぬんと考えたが、この状況では、仕方ないではないか。


 しかし一方で、オーバンに正体を見抜かれる危惧もある。


 少女たちが自分のことを知っているのだから、彼に伝えられていても不思議はないが――タランドン侯爵本人から聞かされているかも……このお招きも、王女と知っているからこそなのかも……。


 だが、知らなかった場合は。


 ここにいるのがガルディスが全力で追っている第四王女カルナリアと「初めて」気づいたら、どうするか。


 侯爵ジネールは、カルナリアおよび『王の(カランティス・)(ファーラ)』をガルディスに引き渡す判断をした。

 ではこのオーバンは。


「…………」


 わずか数歩の距離が、果てしないものに感じられた。


 オーバンについていた少女が椅子を引いてくれる。

 貴族が招いた以上は貴族の客、そのように扱うということ。


「あ、ありがとうございます」


 つい当たり前のように受け入れてしまいそうになるが、ちゃんとたじろいでみせた。これでいいのか、こんな扱いを受けていいのかという奴隷らしい態度。


 そしてフィンを振り仰ぐ。


 ほぼ真横。フード状のぼろ布、その中の顔は今は丸見えのはず、見えてきた、ついに、あれは多分鼻のあたま――!


「!?」


 その瞬間、魔力を感じた。

 何か、魔法か魔法具か。それも複数。


 フィンではなく、横から。

 オーバンから濃厚に。

 少女からも。


 腕をつかまれた。

 引っ張られた。


 何かがぶつかってきた。

 強く引かれた。体がねじられる。

 男の手、男の力。


 ぼろ布が――大きく後方へ飛んだ。


 いくつもの音。椅子や人体が倒れる。皿が割れる。ワゴンが吹っ飛んで壁にぶつかる。


 そして動きが止まった。


 フィンは、椅子ごと飛びすさって、そこで身構えていた。

 低い姿勢。顔にぼろ布がかぶさって素顔は見えない。その後ろに、粗い布を巻きつけた長剣の鞘が大きく突き出している。

 腰だめにして抜き放つ態勢。


 かたわらの床の上で、同僚の少女をマルガが取り押さえていた。


 そのマルガが、こちらを見上げて愕然としている。


 カルナリアは、首に太い腕を巻きつけられていた。


 頬に、冷たいものがあてられた。

 ナイフ。


「くくく…………さあ、この子の命が惜しければ、お前の剣をよこせ」


 オーバンが、それまでとまったく違う口調で言い出した。


「…………()()()()()()()()()な。誰だ」


 殺気を放ちつつフィンが言った。






好奇心を抑えることをおぼえたカルナリア。しかしやはり狙われた。自分が明確なフィンの弱点となってしまったカルナリアはどうするのか。次回、第103話「深まる謎」。暴力的描写、性的表現あり。

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