第六十一話 リサの休日②
リサは今まで自分が女性と話す機会が少なかったという経験の少なさを埋めるべく行動に移す。
これまで上手く女性とコミュニケーションが取れていなかった原因は自分が女性と会話する上で立場をハッキリとさせていなかったからではないかという一つの仮説をたてる。
友人として女性と親しくなりたいリサと、異性として一定の距離を取り接しようとしている相手の女性との間で自分が距離感を間違えたのではないのかと。そのことが彼女たちを不快にさせてしまっていたのではないのかと、そう考えた。
「たとえそれが事実だったとしても……私は一体どうすればいいの……?」
少し答えに近づいたような気持ちになり、リサは固く結んでいた自分の口元が少しだけ緩んだように感じたが今だ心の中にはモヤモヤとした感情が広がっている。
考えを巡らせながらも彼女は広場に敷設された木製のベンチに腰をおろし周囲を見渡し始める。
それは何か周囲の男女の行動を見ていれば自分にも何か思いつくのではないかと思っての行動だった。
夕暮れにも関わらず人通りはまだ多く、道行く女性に声をかける若い男の姿もチラホラと見られる。
恐らく対面する女性は初対面の相手だろうが、声をかけた若い男は初対面とは思えないほど物おじすることなく女性へ向けて数々の甘い口説き文句を並べていく。
時に拒絶されないと見ると女性の肩や手に軽く触れ、軽口で会話を盛り上げる。
殆どの女性は笑いながら手を振り払いその場をやり過ごすが、会話が弾みそのまま二人で人込みに消えていく男女の姿もあった。
そんな様子を見ているとリサは自分の体が硬直し、口が開いたままになっていることに気づく。
「いやいやいや……無理よ…!…あれは私には無理…。…まるで同じ人間とは思えないわ.......全くどういう神経をしていれば知らない人にあんな図々しく話しかけることができるのかしら…!!」
リサは目を白黒させながら若い女性に声をかける男たちの姿を見ていた。
もちろんそんな男女の光景を目にしたのは初めての経験では無かったが、今までリサは自分が話かける男性側の人間になるなどと思いもしていなかったのだ。
それはまるで人前で歌を奏でる吟遊詩人を見ているのと、実際に人前で歌うことほどの圧倒的な立場の違いと言えなくもない。
今リサはこれが自分が女性と会話できるようになる為の訓練だと頭で分かっていても、自分に飛び越えられないほど高いハードルだと気づき座りながら手を組み、うつむき気味に自分の拳を見つめた。
リサがそんな悩まし気な表情を浮かべて座っていると、自分の視界の上のほうで対面のベンチに座る少女がこちらを見ていることに気づいた。
チラチラとこちらを見る少女の様子はどうにも落ち着きが無い。
リサはふと普段自分の周りにいる男性の仲間たちのことを思い出す。
彼らと一緒に街を歩いていると、彼らは若い女性とすれ違う際にはチラリと視線を向けて見てはいなかっただろうか、ということだ。
(そうね…!まずは私もマネして女性を見る所から始めましょう…!あんな風に話かける前に出来ることだってあるじゃない…!それにきっと今まで上手く行かなかったのも私が彼女たちのことをちゃんと見て、観察していなかったのが悪かったのよ…!)
「確かこんな感じだったかしら…こんな感じで見ていればいいのかしら……?」
リサは公園のベンチの対面に座る少し年下の少女をワザとらしくジロジロと見てみる。
リサの覚えている限り、彼らは顔、胸元、下半身に至るまでジロジロと見ていたような気がするが彼女は最終的にどこを見ていいか分からなくなり、少女の顔をジっとみることにした。
茶色の髪が綺麗に分けられている可愛らしい少女であったが堂々とこちらを見ているリサの視線に気づくと、彼女は周囲をキョロキョロと見まわし始める。
まさか見られているのは自分なのだろうか、と確かめるように周囲を見ていたようだったが本当に自分が見られていると確信すると、手に残っていた飲み物を焦るように両手で持ち、モジモジと飲みほしていく。
それでもまだリサが視線を反らさず、自分を見つめ続けていることに気づくと少女は髪を手で整えたり、服の襟や裾を直したりしてはチラリとリサのほうを見返す。
(……これで良いのかしら…!良くわからないけど確かこんな感じに上から下まで隅々まで見るようにしていたわよね……!)
少女は自分の服をパタパタとして顔を赤くし始めたがリサはそんな様子に気づくことなく少女を凝視し続ける。
そんな時ふと、少女の足元に布切れが一枚落ちていることに気づく。
リサは無意識にベンチから立ち上がると数歩歩いて少女に近付くとその布切れを拾い上げると少女に向かって優しく差し出した。
「ハンカチ、落としていましたよ。貴女のモノではありませんか?」
「ふぇっ…!?あ、あ、あのっ...!はいっ…!!」
話かけるつもりは無かったのだが自然と体が動いてしまったことに自分でも驚いたリサだったが、どうにも少女の様子がおかしいことに気づく。
少女は素っ頓狂な声を上げると顔を真っ赤にして目を合わせてもくれないのだ。
「あ、あの……大丈夫ですか?どこか具合でも…?」
そう言うとリサはグイと顔を少女に近付けると黒色の瞳をした少女の目を覗き込む。
(顔色は悪くないけど、動悸が激しいわね……。何か病を患っているのかしら…?)
「ああっ…!あ!ありがとうございましゅっ!!」
少女はリサの手に持ったハンカチを急いで受け取ると、顔を真っ赤にしたままベンチから立ち上がり足早にどこかへ走っていってしまった。
「えっ…!!?ええっ!!?」
リサは状況を良く理解できず、その場に固まりつく。
自分がやったことと言えばあの少女に落とし物を渡しただけだというのに、この仕打ちは何だろうかと彼女なりに考えを巡らす。
しかし彼女に考えつく限り一刻も早く自分から離れようとしていた、ということしか理解できない。
(…良くわからないけどきっとまた私は嫌われてしまったのね…。一体何が悪かったのかしら……。)
そう結論づけるしかできなかった。
その後も周囲の女性を見続けてみたが、何故かその行動は幾度となくトラブルを引き起こすだけであった。
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「あ、あの!なんなんですか…あなた!さっきからこっちジロジロみてますよね!?」
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「あそこの彼……絶対ワタシのことみてるって。」
「いやいや、わたしっしょ!」
「いやいや、ワタシだから!!」
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「おいっ!兄ちゃん!俺の女になんか用か!?ああぁ!?」
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「なんで!?どうして!?私はただ他の人がやっているようにただ道行く女性を見ているだけなのに!?」
リサはこのやり場の無い虚しさをぶつけるように、トボトボとペガサス通りの裏道を一人歩く。
自分はただ女性を見ただけなのにどうしてこうもトラブルに巻き込まれてしまうのか。
もう日は落ちてしまい、魔道具による街灯が道を照らし始めていた。人通りも先ほどに比べ減ってきたように感じリサも不思議と疲労を感じ始めるのだった。
幾度となくトラブルが続き、何が悪いのか今のリサには見当も付かない。
「なんで見ているだけでなんでこんな目に…!それに彼女たちと会話しようとしても全然上手くいかないし…何故か嫌われてばかり…今日はもう諦めて帰りましょう……きっと私がこんなことするのは早かったんだわ。……………ん?……あれは……??」
その時、今日一番うつむいた顔となって歩いていたリサの視界に一人の女性の姿が飛び込んできた。
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