第27話 決着!
ナノマシンを使って、空気中の分子の振動を押さえ込む。その結果、出てきた熱はバケツリレーの要領で別のナノマシンを経由して外の空間に放出。
冷蔵庫なんかと同じ原理を猛烈な速度と量でもって繰り返す。
分子単位で物質を操作できるナノマシンだから出来る芸当だ。
そうやってキンキンに冷やした分子を暴走したナノマシンによって加熱された空間にぶち込んで、そのまま熱平衡へと持っていく。
「はっ。熱するだけじゃなくて、冷やすことも出来るのかい!」
自身のナノマシンが発する熱気を浴びながら、女が嘲笑う。
「大したもんだ! 大した化物だよ、アンタは!」
「お褒めにあずかり、そりゃどーも!」
「最後の最後にこんな大物を灼けるなんてね! アタイはついてるよ!」
ジリジリと自分の肌が焼けていくのも構わずに、女が哄笑する。
……完全にタガが外れてやがる。
オレが熱を押さえ込んでいるから、まだ軽いやけどですんでるけど。
もし、オレが押さえ込んでなかったら今頃は女もろともこの部屋は灼熱の大気の中でドロドロに溶けちゃってるぞ。
自殺行為をまるで気にしてない。
「さあ、どうした! もっと猛り狂いな、アタイの精霊共!」
女の声と共にさらにナノマシンが過剰なまでに周囲の大気の分子に熱を与えていく。
くっそぉ……こっちは気温の制御までやんなきゃなんないから、そんな簡単にはいかないんだってば。
だけど、こっちにはとにかく数がある。
ナノマシンによってほとんど絶対零度にまで冷やされた冷気が女のナノマシンの発する熱を奪い平均化させていく。冷気はせいぜいマイナス200度に届かないし、暴走ナノマシンによる加熱は数千度に達する。
常識的に考えれば、まるで追いつくレベルじゃ無いが……こっちには数がある!
女の操る数gのナノマシンに対して、オレがコントロールするナノマシンは実に10kg以上。シンプルな数の暴力でもって、むりやり押さえ込む!
戦いは数なのだよ!
「やるねえ……」
「やるだろ?」
熱が上昇する側から冷却されるといういたちごっこ。
暴走しているとは言っても完全に制御不能というわけではないらしく、女はさらにナノマシンにコマンドをたたき込んでいる。
制御不能な暴走というよりもリミッタを解除したって感じだな。
「なあ、精霊使い。あんたみたいな化物がなんで、あんなお姫様にくっついてんだい? こんな砂漠のど真ん中で砂まみれになって、ご苦労なこったよ! もっと、楽しくやってこうとはおもわないのかい?」
「思うよ、そりゃもちろん」
女の軽口に軽口で答えるオレ。
言葉は軽いがやってることは結構、真面目。
ただのお喋りのように見えるけど、実はナノマシンの制御に集中させないようにするための場外戦術だからね。
ただし、そこはオレも同じこと。
むしろ、場外戦術は脳細胞が全部ナノマシンなオレの方がずっと有利だ。無意識下でもナノマシンを制御出来る、人間形態のオレにとっては何かをしながらナノマシンを操作するのはそんなに難しいことじゃない。
「なら、精霊使い。アタイと一緒にきなよ。大公はいけ好かないやつだがね。その息子はなかなか話の分かるヤツさ。奪っても殺してもお咎め無しの好き放題。どうだい? たまらないだろ?」
……たまらないね。
そんなナチュラルボーンキチ○イみたいな上司は願い下げだよ!
「あいにく、そういう趣味は無いんだ、オレ」
「つまらない野郎だね。そんだけの力を持ってれば、なんだって出来るだろうさ! その気になれば国を乗っ取ることだって、アタイとアンタなら可能さ。精霊ってのはそれだけの力があるからね!」
ゴウっと熱風が吹き荒れる。ナノマシンが女の昂ぶりに呼応するかのようにさらにその能力を解放させて周囲の熱を上げていく。
国を乗っ取るねえ。
「面倒臭いな、そんなこと!」
「はん。小さいね」
うっさいな。小さいんじゃなくて、この身長で設定してるんだよ。
「それだけの力を持ちながら、誰にも指図されない世界を欲しいとは思わないのかい!?」
あ、そっちか。器が小さいってことね。
けど、それを言うなら国を乗っ取るってのもみみっちいと思うんだよね。
というと、鬼のような形相で睨み返された。こわっ。
「だったら、アンタには何が出来るっていうんだい!?」
今、フィオナたちがやろうとしていることは砂漠に街を作り畑を作り、人を根付かせることだ。
そっちの方がよっぽどワクワクするけどね!
つまり。
「国を造る」
と一言で答えた。
その途端、ポカンと女の顔から表情が抜け落ちる。
何が刺さったのかわかんないけど、とにかく今がチャンス。
一気に女の制御から離れたナノマシンを制圧する!
数十個のナノマシンでもって、一個のナノマシンを押し包んで命令が行き届かないようにブロックをかける。こうしてしまえば、女のコマンドは届かないしナノマシンの分子制御も行えない。
その一方で、無制御状態の加熱されっぱなしの空気分子は冷却をかける。
さすがにここまで複雑なことすると、結構キツいな。脳味噌がチリチリする。
「……今、なんて言ったんだい?」
「国を造るって言ったんだけど?」
「この砂漠に? は。冗談だろ?」
「冗談じゃ無いよ。この砂漠の地下には莫大な地下水が眠ってる。今でこそ砂漠になっちゃってるけど、大昔はここには国があって水と緑に溢れて、大勢の人が暮らしてたんだ。それをちょっと再現するだけ」
と言いつつも、女のナノマシンを完全に制圧完了。暴れられても困るし自決されてももっと困る。というわけで、山賊さんと同じように身体の自由を奪わせて貰う。
女はとくに抵抗すること無く、なされるがママにオレのナノマシンによる拘束を受け入れた。
「そんなこと出来るわけが……」
「出来るよ。邪魔さえ入らなければ。ま、邪魔が入ってもオレが片付けるけどね」
「出来るもんか、そんなこと」
「出来るさ。出来なきゃ、こんな街なんかつくらない」
「……なんだって、この遺跡をアンタが?」
あ、しまった。口が滑っちゃった。
「つくづく化物だね……アンタ」
「それで、降参してくれるよね?」
まあ、完全に拘束しておいて降参もへったくれもないんだけどね。
もうちょっと抵抗するかなと思ったけど、女はあっさりとうなずいた。
「はっ。今さらアタイに何が出来るってんだよ。わかったよ、降伏してやるよ。それで、何が望みなんだい? 何か目的があるんだろ? 殺さない理由がさ」
単に人殺しなんかしたくなかっただけ、とは言いにくいなあ。
まあ、黒幕についていろいろと聞かせて貰うとかそれなりの処遇はあるか。
「お、終わったのか? ネコ?」
すっかりと静まりかえった部屋にリアムとカレン。そしてフィオナが隣室から入ってきた。
「終わったよ。ちょっと焦ったけど、何とかなった」
「……あんた、あのネコかい?」
カレンが胡散臭そうにオレを見ている。まあ、そうだよね。普通は。
「ん。タスク。間違いない」
一方、オレが変身するところを間近で見ていたフィオナだけはいつもと変わらない調子でオレの隣へとやってきた。
そのまま、オレを頭ごとぎゅっとハグする。
「ちょ、フィ、フィオナ?」
「ん。ネコさんの時と同じ。暖かい」
……今は人間モードなんだから、もうちょっと、その、恥じらいとか持って欲しいなあ。
と思ったのはもちろん秘密。
ひとまず、刺客を無事に捕獲することは出来ました。
後始末や今後の対策、それに肝心の米作りとやることは目白押しです。
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本年二回目の更新です。
本年もひきつづきよろしくお願い致します。




