第26話 反撃開始!
(フィオナ!)
(ん)
じっとりと脂汗を額に浮かべて、炎弾の魔法を行使していたフィオナが軽くうなずく。
彼女もいっぱいいっぱいなのは百も承知だけど、もう少しだけ時間を稼いで貰わないと。
(もうちょっと、頑張って。頼める?)
(頑張る)
頼もしい。
フィオナの返事を聞きながら、同時にオレの身体を構成するナノマシンに新しいコマンドを与える。身体変容命令。久しぶりの人間体だ。
《身体年齢を再設定してください》
ネコから人に戻る場合、成長過程で随分とナノマシンのあまりが変わってくる。
これは単純に体重の違いから来るもので、例えば本来の年齢だと60kgの体重だけど14歳ぐらいに設定すると40kg代までに減る。
ナノマシン数10kgの差はでかい。
というわけでフィオナと同じ年齢ぐらいの14歳に設定。
即座に身体の再構築が開始される。
「な、なんだい!?」
オレの変化に驚いた女が素っ頓狂な声を上げているけど、当然無視。
フィオナも驚いているが、女ほどではない。
まあ、あれだけ頻繁にお喋りしてれば予想はついても不思議は無いか。
ミシミシと音を立てながら視界が高くなっていくのを感じる。
自分では結構時間が経っているように感じるが、実際にかかった時間はほんの数秒だ。
ポンっと視界の端っこにウィンドウがポップアップ。
【ナノボディ機能制限解除】
力 22→368
防御 25→413
魔力 0→0
速度 239→4500
思考 543→5890
【ナノマシン操作権限】
操作可能エリア:半径25m→半径35m
指示可能エリア:半径25km→半径25km
操作可能質量:15kg+170g
力と防御は単純に身体が大きくなった分だけの許容量アップ。
それよりも、よっしゃ! 思考速度が一気に跳ね上がっている。さすがは人間の脳味噌大まで増やした甲斐があった。
操作可能質量は大きく減っちゃったけど、今を乗り切るのにこれだけあれば問題無い!
「タ、タスク?」
「ん」
ちょっとフィオナの口癖をまねて、にっこりと笑う。
「まさか……人間にも化けられるなんてね! で、それで何が変わるんだい!?」
切れ気味の女が焦ったような声をあげるが……何が変わるって?
人間の脳味噌と言っても実際には、そのほとんどはグリア細胞で出来ている。こいつは要するに神経細胞のメンテ担当でいわゆる知的なお仕事担当ではないらしい。
しかし、オレの場合はその全てが実際にはナノマシンで構築されている疑似細胞なので、その全てをナノマシンの操作にたたき込んでも人間としてのオレの意識はちゃんと確保される。
つまり……。
「こうなるんだよ!」
オレは大きく腕を振りかぶると横に勢いよくなぎ払った。
別にポーズという意味では無くて、まだ身体に慣れてないのでこうやって意識を集中しないと上手くコマンドを出せないみたいなんだよね……半分ぐらいは格好つけだけど。
ともあれ、オレの意思に従い室内のナノマシンの操作権限を本来の管理者にのみ使えるようにセキュリティをオーバーライド。ドミノ倒しのようにオレを中心に全てのナノマシンの権限がオレの元へと返ってくる。
それまで黒塗りで何の情報も返してこなかったナノマシンたちから、一斉に情報が送られるようになり一気にクリアに。
「な!?」
擬似的な操作権限でも一切の操作ができなくなったことは理解出来るのか、一気に女の顔色が変わる。
……さすがに女が掌握しきっているナノマシンまでは操作権限を奪えないか。
いくつかオレの掌握しているナノマシンと連携のとれないナノマシンが確認出来る。と言っても、その分量はざっと6g程度。
これだけでも正直、相当なことが出来るんだが……その機能をフル活用しているとは言いがたい感じだ。
精霊使いとか言ってたから、たぶんナノマシンは別種の魔法のように今は思われてるんだろうな。だから、呪文のように決まったことしかできない。
ナノマシンはそんな不自由なもんじゃないぞ? もっと自由で、だな。
ま、それは今はいいや。
これで第一段階はクリアだ。
いよいよ第二段階、女のナノマシンを力押しで制圧する!
「この化物が!」
「うっさい」
傷つくな、もう。
「フィオナ、もうちょっと頑張れる?」
「大丈夫」
フィオナが汗を滴らせながら、オレにうなずき返す。
「ちっ……おい、お前たち。何をボサっと――」
「動くな!」
女が手すきの手下に命令しようとしたのを見て、すかさず山賊さんたちの神経系に介入。
治療も可能なナノマシンを使えば、こうやって……金縛りにするぐらいは朝飯前。呼吸とか心臓とか止まられるとイヤなので介入するのは四肢に限定してるけど。
「う、動けねえ!」
賊の1人が悲鳴じみた声を上げながら、必死にもがく。だが、その信号はというと……全て途中で遮断されている。
やっぱり人間の身体は全然違うな。
ネコだとかなり意識しないと出来なかったことが、ほとんど無意識で操作できてしまう。
「お……なんだ、こいつら。急に動かなくなったぞ」
隣室に押し込められていたリアムの声が聞こえてくる。
「リアム、カレン! もう、大丈夫!」
「だ、誰だ!?」
あ、そういえば肉声で話すのは初めてだったっけ。
「オレだよ。オレ! タスク!」
なんか、オレオレ詐欺みたいな感じになってしまった。まあ、いいや。
「タスク!? ネコか!? お前、しゃべれるのか?」
ああ、もう説明がめんどい。
今は、こっちに集中しないと。
「この化物が……」
女が憎々しげにオレを睨みつける。うわ、こわ。フィオナにはこんな風になって欲しくないなあ……。
「周囲のナノマシン……じゃない、精霊は全部オレが押さえたよ。降参しない?」
ダメ元でそう提案してみる。
「確かに大した精霊使いのようだがね……こっちにも意地ってのがあるのさ!」
「意地張っても仕方ないって」
「煩いよ! お前たち、解放してやるよ! 全部、纏めて灼いちまいな! バーンアップ!」
お前たち、というのが誰なのか。
もちろん、山賊どもじゃあない。
バーンアップ? 暴走?
女の声と共にオレの支配下に無いナノマシンが妙な動きを始めるのがわかった。最初に異変が起きたのはナノマシンの周囲の空気だ。異様に振動数が上昇している。
それだけじゃない。ナノマシンが触れている全ての物質が異常加熱を開始。
ぼ、暴走させやがった! たかが数gとは言え、それが制御しうる物質の数は相当なものだ。その全てを異常振動なんかさせたら……
まずい。この部屋が太陽の中に突っ込んだみたいな騒ぎになる。
急いで押さえないと!
が、一手遅れたのが痛かった。
加熱された空気にナノマシンを突っ込ませると、こっちのナノマシンが灼かれてしまう。
となるとこっちもカウンターでさらに外側の空気分子の動きを押さえ込んで、その振動の低下した空気分子をぶつけて灼熱化している空気分子のエネルギーをもらい中和させるしか無い。
「くっそ! フィオナ、下がって! リアム、カレン! フィオナを頼んだ! 隣の部屋から出るな!」
「お、おう! 領主様、こっちだ!」
フィオナが隣室に引っ張り込まれるのを確認して、こっちもカウンターで周囲の冷却を開始。
炎と氷のせめぎ合いが始まった。
人間形態に戻り反撃開始。しかし、刺客も最後の抵抗を試みます。
次回、刺客編決着です!
続きが少しでも気になったり、ちょっとでも続きを読みたいなと思われた場合はブックマークをしていただけると励みになります!
また、評価もしていただけますと今後の展開などの参考とさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
新年、あけましておめでとうございます。
本年もひきつづきよろしくお願い致します。




