第23話 刺客
この屋敷は地下の街でも一番、奥まった場所にある。地上への入口は3カ所だけ。とは言っても、こんな僻地に野盗もいないわけで見張りなんかはたててはいないし鍵のかかった扉があるわけでもない。
というわけで侵入することは難しくともなんとも無いわけだが……さすがにフィオナの屋敷はそうはいかない。
見張りこそいないものの、戸締まりぐらいはちゃんとしてある。
本当は門番なんかをちゃんと決めたかったというのがカレンたちの本音らしいんだけど、それはフィオナが強硬に反対してお流れになっていた。
どうも、今までにも何回か刺客を放たれたことがあるらしく、それに巻き込まれる村人が出るのを嫌がったらしい。
それはともかく、それを無視して屋敷に誰かが入ってきたとなればただ事では無い。まして、ナノマシンの警戒網が反応しないとなればなおさらだ。
オレは改めて、ナノマシンのネットワークを呼び出した。
即座に指令ナノマシンが周囲のナノマシンを起動。前もって定められた手順に従って探査を開始する。
……その結果、返事の返ってこないナノマシンがかなりの数に上っていることが判明した。ちょうど、その部分だけがぽっかりとした空洞になってしまっている。
そこに何かがあるのはわかるが、何があるかはわからない。
そんな状態だった。
明らかに侵入者だ。
(フィオナ、起きて)
「……ん。どうしたの?」
(侵入者がいる。数はわからない)
オレの言葉に寝ぼけ眼だったフィオナが跳ね起きた。今までにも何回かこういうことを経験しているだけに、反応が早い。
隣室に控えているカレンを呼びに向かう。オレはリアムの部屋。この2人は護衛として、すぐにでも駆けつけられる部屋をあてがわれている。
リアムの部屋を軽くノック。
すぐに返事が返ってきた。
「……ネコか?」
「にゃあ」
「今、行く」
出てきたりアムは鎧こそ身につけていないが、完全な臨戦態勢だった。すでに階下の様子に気がついているらしい。さすがに警戒心が凄い。
「領主様は?」
(カレンと一緒)
「でかした……よく気がついたな」
(耳は良いから。それよりも、やっぱり?)
「大公の差し金だろう。今まで2回襲われてるからな。これで3度目だ……いい加減、諦めたと思ってたんだけどな」
2人して、静かにフィオナの部屋に移動。中に入ると、すでに着替え終わったフィオナとカレンが同じく警戒心むき出しの状態で待機していた。
「どうする、領主様? 逃げるか? 迎え撃つか?」
「……下手に逃げ回って人質を取られたら困る。ここで待つ」
「了解。ネコ、人数は解るか?」
(タスク。人数はわからない。ただ、怪しい場所はわかるよ)
「ネコでもわからないとなると面倒だな……あやしい場所は?」
オレは意識を再びナノマシンのネットワークに集中させた。黒い影の範囲はどんどん広がっていて、こちらに近づいてくるのが見える。今は先頭は階段のちょうど下。
それにしても、ナノマシンを無効化するなんて……魔法なんだろうけど、本当に厄介だな。とっくに精密操作可能圏内に入ってるのに、ナノマシンが上手く反応しない。
……というよりも、正確にはこっちの処理能力が追いついていないというのが正解っぽい。
なんていうか、こちらの操作権限を上書きされている感じだ。
さすがに身体を構成するナノマシンを操作できる、完全支配圏までは上書きされることはないだろうけど……。
シーワンの嘘つき。なにが管理者権限だ。負けてるじゃないかーっ!
と言ってみたところで、今はどうにもならない。
とにかく、なぜこちらの操作権限が上書きされてしまっているのかを調べないと、どこでどう足を掬われるかわかったもんじゃない。
操作圏内で生きているナノマシンに隣接するナノマシンを相互に監視させる。これで操作権限が奪われた時点で何が起こってるのかわかるはずだ。
黒いもやが階段を上り始めた。
上りきったら、部屋までは目と鼻の先だ。
(今、階段にいる)
「おう。どうする、カレン? こっちから突っ込むか?」
「バカ。人数がわからないんだ」
2人が作戦を立てている間も近づいてくる黒いもやの正体を必死で探る。どうも……ナノマシンが誤作動? してるっぽいことまでは読み取れた。
オレではなく、別の誰かを管理者として勘違いしている感じだ。管理権限を乗っ取られたとかいうんじゃない。それならば、操作不能では無く完全に制御を奪われているはずだし。
向こうもナノマシンを操作しきれていない。だからハッキングだとかクラッキングだとかでナノマシンに介入しているわけではないみたいだ。
そうではなくて、ナノマシンが侵入者をオレと誤認しているが、肝心の侵入者はオレのようにナノマシンを操作するスキルを持っていない。
だから、何も出来ずに信号途絶で待機状態に移行している。という風に見える。
誤認させる魔法ってやつを使ってるんだろうな、これは。
あと、数メートル。
というところで、ふっと圧力が消えた。
なんだ? と思ったところで、いきなり今までオレが探知したことのない別種のナノマシンの群れが出現する。
なんだ? と思う間もなく、急速に壁の分子配列が猛烈な勢いで組み替えられていく。
マズイ! っと思ったとたん、扉が吹っ飛び鋭い石の矢が無数にこちらに放たれるのが見えた。
†
「ミスティオ様。こんなに堂々と入ってバレやしないんですか?」
「バレないよ。安心しな。ここまでも誰も気がついちゃいないだろ? それより、アンタたちはきっちり護衛を潰すことに専念するんだ。お姫様と……精霊使いはアタイが始末じゃない。始末して良いのは精霊使いだけだったね」
遺跡の街に忍び込んだクラーダの刺客は特に声を潜めるでも無く、ならず者に指示を出した。
当初の計画ではカムリという人買いが隙を見て、フィオナを拐かす予定だったのだが彼女の仲間に精霊使いがいるらしいということで急遽、同じ精霊使いであるミスティオが指名されたのだった。
緑溢れる大公領から砂漠の辺境まで、およそ半月。面倒この上ない仕事ではあったが、世話になっているクラーダ直々のご指名とあっては是非も無い。
なによりも元とは言え、大公息女がクラーダのおもちゃになる……というのはミスティオにとっても実に楽しみなことだった。
「それにしても……まさか本当にアタイ以外に精霊使いがいるなんてね。どこで見つけたか知らないけど、面白いじゃ無いか」
「ミスティオ様。その精霊使いってのは何なんですか? やっぱり魔法で?」
「アンタたちは知らなくてもいいよ。死にたかないだろう?」
精霊使いの秘技はミスティオの家系に伝わる秘伝である。彼女の一族に伝わる魔法はどこにでも存在する精霊を騙すことが出来るというものだった。
精霊の主だと自分を思わせることで精霊を使役するのだ。それゆえに自分の意思を持つような高位の精霊を操ることは出来ないが、自意識を持たない低位の精霊はある程度操ることが出来る。
さらに何世代もかけて、じっくりと魔法をかけてきた精霊に至っては完全に従属させるにいたっていた。
その精霊は厳重に小瓶の中に封じ込めてある。
見えはしないがかすかに感じ取れる精霊たちはミスティオ以外の人物の支配下にあるようだった。
ただし、その支配権はさほど強くは無い。ちょっと誤認させてしまえば、混乱して動きを止めてしまう程度だ。
大したことはないね、と鼻で笑いつつもその一方で完全な支配権の元に正しく動いているらしいことは無視出来ない脅威だった。
まだ、不慣れなのだろう。
精霊の本当の力を理解していない。そんな感じだ。
であれば、覚醒する前に一気に決着をつけなくてはならない。
「さ、始めるよ」
ミスティオは扉を前にすると小瓶の蓋を開け放つ。目には見えないが、確かに感じ取れる完全に支配された愛しい精霊たち。
「何がおこるんで?」
「ま、見てな」
呪言と共に床が壁がまるで目に見えない何かに囓られるように削り取られていく。精霊の顎によって、壁や床が作り替えられて、鋭い矢へと姿を変じる。
「し、信じられねえ」
「だろうね。おっぱじめるよ。ぬかるんじゃないよ?」
ヘイっと声を揃えるごろ付きの声を背に、ミスティオは宙に浮かんだ槍を解き放った。
いよいよ、本格的な戦いになります。
大公との全面対決の時はもうすぐです。
続きが少しでも気になったり、ちょっとでも続きを読みたいなと思われた場合はブックマークをしていただけると励みになります!
また、評価もしていただけますと今後の展開などの参考とさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
PS さすがに毎日投稿が厳しくなってきましたのでペースが少し落ちるかもしれませんが引き続きよろしくお願い致します。




