第22話 村の改造計画 ⑦ 米バカ先生の試験農場と今後の展望
怖い。
とにかく、怖いのです。
何がって、米バカ先生がです。
井戸の水をなにやら調べまくった米バカ先生、よっぽどお気に召したのか猛烈にあちこちに手紙を書き殴り砂長経由で送りまくっている。
その合間に村の人たちはというと、試験用の畑というか水田作成に駆り出されて慣れない農作業なんかに精を出している。
もちろんオレも影ながらナノマシンで田起ししやすいようにアレコレと手を出しているけど、やり過ぎるとそれはそれでよろしくないのでおおっぴらというわけにもいかない。
そんなわけで、今のところはあちこちに司令塔ナノマシンを送り込んで不毛の大地をこっそりと肥沃化促進させているに留まっていた。
これで試験農場から展開するときに、かなり楽になるはずだ。
かくして、わずか数日で出来上がってしまった田んぼに水が流れ込む。遺跡の街で大切に大切に保管してある苗は、まだ植えられていない。
本当に泥水の沼という感じで、これがなんで畑なんだ……と村人は疑心暗鬼のまなざしで満足そうにうなずいている米バカ先生を見つめていた。
大枚はたいて買い込んだ苗とは別に、米バカ先生は自分で今まで丹精込めていろいろと改良してきた種籾まで持ち込んでいて、これは遺跡の街に作った小さなプールで発芽待ちだ。
「それにしても、米だっけ? 麦とは違うんだろ?」
「まるで違うね。小麦と違って粉にしなくても、籾殻はずして煮ればそのまま食えちまうからね。ずっと手軽だ。ただ、ある程度暖かくないと難しいし、何よりも水がモノを言うからね。王国の北の方じゃ難しいね」
「なるほどねえ。で、どれぐらい獲れるんだい?」
「収穫倍率のことかい? 麦のざっと10倍程度かね。条件次第じゃ、もっと行くよ。アタシが何年か前にやったときは1粒あたり300粒以上とれたからね。麦だと頑張っても7粒とかそのあたりかね」
……米が優れてるってのは聞いたことあったけど、そんなにすげえのか。
あまりの落差に話を聞いていたカレンが驚いた顔で固まっている。
「ただ、手間が桁外れだよ。とにかく世話が大変だ。水は枯らせない、こまめに雑草は取らなきゃいけない、水畑を作る前にはこうして土を起こして粒を揃えておまけにきっちりと平らに均さなきゃいけないしね。おまけに苗は前もって育てとかなきゃ駄目だ。今やってるみたいにね。入れる水も、本当はどっかで寝かしておかなきゃいけないんだ。冷たい水を米は嫌うからね。まあ、ここは暖かいからそんなに問題にはならないけどサ」
「それは人手がかかるね……」
農家の人は大変だ……
「ああ。大変さ。なんでね、あちこちに声をかけたんだけどまるで取り合っちゃもらえなかったよ。休耕させる必要も無いし、狭い土地でも大量に収穫出来るし、条件さえ整えば、こんなに化物じみた作物もそうそうないんだけどね」
「まあ、この村は贅沢なんか言ってる余裕まったくないからね。食べ物が安定して手に入るようになるっていうなら、何でもやるよ。餓死するよりはマシだからね」
「その意気だよ。まあ、最初はこの試験農場からだね。ここの気温なら年に2回。出来れば3回は収穫したいところさね。ただ、とんでもない量の水が要るからねえ。難しいところだ。雨なんかまともに降りゃしないから、とにかく地下水をガンガン流し込むしか無い。そのままじゃ、米に悪いから、溜め池も作らないとね」
おう。そういうのは任せてちょうだい。
どっかにあれだな。こっそりそういう地形を作って、これまた発見して貰うか。
超ご都合主義だけど、ある程度軌道に乗ればあとはみんな自力で頑張れるはず。
「そこまで行くと……人手が心配だね」
「心配しなくても、上手くいけば人なんてワラワラ寄ってくるサ。安心しな。それよりむしろ……人が増えたあとが問題だね。ぼやぼやしてたら、あんたら乗っ取られちまうよ?」
カラカラと笑いながら、楽しそうに試験農場の泥をに手を突っ込む米バカ先生とは裏腹にカレンは難しそうな顔つきで頭を掻いていたのだった。
†
その日の夜、村の中核メンバーのみんなが寄り集まって今後のことについてウンウンと唸っていた。
メンバーはというと、まず村のリーダーであるフィオナ。
そして、側近のカレン・リアム・リックス。
ここまではオレも馴染みのある面子。
実際にあちこち動き回る、機動部隊ってところだね。
そして、村のまとめ役となっている村長さんみたいなのが、街が発見された時に駆け寄ってきた爺ちゃんとその息子さんのミズーノ爺ちゃんとオーリクおじさん。
みんなが留守の時はこの2人が村を纏めてくれているらしい。
この2人は皆の信頼が厚いらしく、ある意味では今後も村を切り盛りしてもらうことになるので役目としては大変だ。
「オラとしちゃあ、今の人数ならなんぼでも面倒は見るが、余所もんが増えるとちっと自信はねえなあ」
「何を情けないことをいうとるか。姫さまに恥ずかしいと思わんのか、このバカ助が」
爺ちゃんは勇ましいことを言ってるけど、オレはオーリクのおっちゃんの気持ちがわかるなあ。
今のみんなは、ちょっと数は多いけどみんな親戚みたいなものだ。けど、米バカ先生をはじめとして、これからもし人が増えると、そうも言ってられなくなる。
本格的な領地の経営みたいなことをしなきゃいけないわけだ。
たぶん、ちらっととでもその空気感を理解しているのはフィオナぐらいしかいない。
ウカウカしてると乗っ取られちまうぞ、という米バカ先生の言葉は脅しでもなんでもないのだ。
コアを確保しないと。
オレの目的はフィオナをはじめとしたみんなの生活基盤の確率であり、もっと言ってしまうとみんなが楽しく暮らせることだ。
彼らが追い出されたんじゃ、本末転倒になってしまう。
別に他の人も一緒に良い暮らしが出来るのはまったくもって問題無いけど、そこから彼らが弾かれては困る。
……今度は政治家がいるな。
そこまで大げさで無くてもいいけど、とにかくそういう経験が必要だ。
これも砂漠ネットワークかな……
けど、そういう有能は人がちゃんとみんなを尊重してくれるかは難しいところかもしれない。
これはフィオナと要相談だな。
彼女自身がまとめ役になれれば、一番良い。
結局、その日は要検討……ということでお開きになった。
そのまま、いつものように地下の街の中で、一番奥まった区画に作ったフィオナというかいつもの面子用に作った屋敷に向かう。
ここは将来的に王宮みたいになればいいなあ、と思いながらつくったのでちょっと気合いが入っている。
といっても、ちょっとした屋敷程度だけど。
何しろ、一番奥まった場所にあるし、何気にトラップも設置してあるのに万が一、フィオナを追放した貴族が攻めて来ても立てこもれるようにもなっている。
その一番、奥の部屋でいつものようにフィオナがベッドに潜り込む。
オレはベッドの下。
ネコとはいえ、礼節はわきまえているのだ。
……単にフィオナの寝相が良くないからとも言う。
真夜中。シンっと静まりかえった屋敷の中で、オレはピクンと耳を立てた。
聞き覚えのない足音だ。
なのに、ナノマシンネットワークが反応……していない。
いやな予感。
米バカ先生、絶好調です。
村人たちやフィオナたちも遺跡の街に引っ越し完了。
いよいよ試験農場が出来ました。といってもまだこれからが大変です。
そして、少し不穏な気配。
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