第七十四話 救出完了
北の町に入ると、大きなイタチがいた。なんとそのイタチは···
第七十四話 救出完了
北の町に入った。
野次馬は増える一方で結構大変な事になっている。
ここでも少しの間、白狼を待っていると、町の者の中にテキパキと指示をしているイタチのような動物が目に入った。
普通のイタチにしては大きく、水色の着物を着てエプロンを付けている。
そのイタチは町の者に「もうすぐこちらにいらっしゃるからここは開けといた方がいいぞ」とか、「大丈夫だ、御仲間がちゃんと見つけて下さるから、彼女の横で手を挙げているように」など、指示と励ましを的確に行い、相手の妖怪も分かりましたと大人しく指示に従っている。
この北の町の中では信頼されているように見えた。
その時「兄さん」という声が聞こえた。 翔斬刀だ。
『もしかしてお前の兄さんなのか? 名前を何と言ったっけ···』
『倒蹴と言います。 石にされずに生きていたんだ······こんなに近くにいたのに気が付きませんでした』
『そうか、見た事があると思ったら、鎌鼬だったんだな。 どうする? 会いに行くか?』
『いいえ、名乗る事もできませんし、八岐大蛇との戦いも控えています。 戦いに勝った時に本来の姿で会いに行きます』
『わかった。 じゃあ、住んでいる場所だけでも聞いておこう』
翔鬼は鬼の後ろでこちらを見ている倒蹴の所に向かった。
そこにいた鬼はもちろん、倒蹴もそこにいた野次馬達も翔鬼が真っ直ぐに向かって来たことで戸惑っている。
鬼の後ろにいる倒蹴に声をかけた。
「君は鎌鼬だね」
「は···はい、そうです」
「さっきから見ていたが、この町の者に信頼されているようだな」
「とんでもございません。 まだまだ新参者です」
「この辺りで店をしているのか? それとも雇われているのか?」
「その道の先で小さな酒処をしております」
「そうか···」
『もう少し詳しく場所を聞こうか?』
『いえ、充分です。 ありがとうございました』
「あのぉ···なぜ私のような者にお声を?」
「ちょっと鎌鼬の知り合いがいたから懐かしくなったんだ」
「そうでしたか···」
倒蹴は続けて何かを言いたげだったが、話し終わると直ぐに人員整理をしている鬼にねぎらいの言葉を掛け、側にいた鬼神の肩を叩いて親しそうに話し、大天狗や七尾狐達に囲まれている翔鬼に声をかける事は出来なかった。
白狼が追い付いてくるなり翔鬼の所に寄ってきた。 翔斬刀が白癒羽に話したのだろう、倒蹴のことを知っていた。
「翔鬼、白癒羽の兄が···」
「うん」
翔鬼は鬼の後ろでこちらを見ている倒蹴の方をアゴで指す。
白癒羽と話しをしているのだろう、頷きながらジッと倒蹴を見ている。
倒蹴はなぜか自分の方をジッと見ている白翼狼に戸惑いながら、ペコリと頭を下げてきた。
白狼も、そんな倒蹴に小さく頷きニッと笑って見せた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
人間の時間で五日ほどかけてやっと村人全員を助ける事が出来た。 残るは影之丞だけだ。
洞窟の方に向かうのだが、相かわらず野次馬もゾロゾロと大勢後を付いてきている。
その時、6m以上ある巨大な土蜘蛛が翔鬼の方に真っ直ぐ飛んできたのを見て「わぁぁぁぁ~~!!」「きゃぁぁぁぁ!!」と悲鳴が聞こえた。
当然それは敬之丞なのだが、その後ろから厳之丞もついてきている。
いつものように敬之丞は目の前まで来てから小さくなって、翔鬼の胸に飛びついた。
「翔鬼! 俺、頑張ったぞ! 褒めてくれ!!」
「話しは聞いた。 大活躍だったそうじゃないか。 よくやったな」
敬之丞は嬉しそうに翔鬼の胸に顔をすりすりしている。
その時、今度は野次馬の後ろの方からザワザワと声が聞こえてきた。
野次馬を鬼達が押しのけて道を開け、その間を通って翔鬼達の所に来たのは堂刹とぬらりひょんだ。
八人衆が全員揃った。
「二人ともどうしたんだ?」
「土蜘蛛達に労いの言葉でもかけようと思ってな。 敬之丞、厳之丞も大変だったな。 ありがとう」
「いち早く知らせてくれた事もそうじゃが、半数近くの幽鬼の侵入を防いでくれた事にも感謝しておりまする」
堂刹とぬらりひょんに礼を言われて、厳之丞は「もったいない」と頭を下げ、敬之丞は「ヘヘへ」と嬉しそうだ。
「それより影之丞を助けてやらないと。 どこだ?」
「あそこだ」
敬之丞は洞窟の方を指差した。
洞窟の手前は大きなクレーターのようになっていて、以前は鬱蒼と木が茂っていたはずなのだが、幽鬼に生気を吸い取られて枯れた木ばかりになっている。 そのため分かりにくかった洞窟の入り口が露わになっていた。
その洞窟の入り口のすぐ横に大きな石があった。
みんなで飛んで降りたが、野次馬は崖の上で鬼達に止められていて並んで下を見下ろしている。
翔鬼が直ぐに影之丞に触り、元の姿に戻ったのを見て野次馬達から歓声が起こった。
声を聞いてみると、翔鬼に、八人衆に、そして土蜘蛛達への感謝の言葉を投げかけているのが聞こえてきた。
しかし、口には出さなかったが翔鬼は思った。
···幽鬼は俺を狙って町に入って来たんだ。 俺のために大変な目にあったのだから感謝してもらう資格はないのだが···
しかしあれだけ生い茂っていた葉を幽鬼が枯らしてしまい、クレーター内が閑散として洞窟の入り口が丸分かりになっているのを見て胸が痛んだ。 そしてまた町が幽鬼に見つからないかも心配だ。
「なあ···ぬらりひょん。 江の坂町の結界を強化しなくてもいいのか?
結界の向こう側も木は枯れているんだろう? 幽鬼がまた入り込んでこないか?」
「それなら清宗坊殿があちら側に天狗蔦を張ってくれたので大丈夫ですじゃ。
特殊幽鬼限定の結界幕を重ねて張っておいたので、あの幽鬼がこの町に入って来る事は二度と出来んじゃろう」
「結界幕?」
「天狗蔦に張れる結界なのじゃが、特殊な結界なので、わしと清宗坊殿とでどうにか張る事が出来ましたのじゃ。 下手をすると誰も天狗蔦から出入りする事が出来なくなってしまう事があるのでな」
「わぁ···俺が寝ている間に色々やってくれていたんだな」
「白狼殿ではありませんが、翔鬼殿が御強いので、我らは我らで出来る事をしなければと思いましてな、フォフォフォ」
敬之丞が八人衆に向かって「そうだ! 忘れてた」と言って、手を前に差し出す。
その手の上に、ザワザワと小さな七匹の土蜘蛛が出てきた。
「チビ敬たちだ。 みんなに一人ずつ」
敬之丞が一人一人に渡していく。 今までの活躍ぶりを知っている者たちは喜んでいるが、宝蘭が「なにそれ、いらないわよ」と言い出した。
確かに宝蘭には毒の属性もあるのだが、それを使いこなすにも訓練がいるはずだ。
白狼が宝蘭の前に立つ。
「前に言っただろう? どれだけチビ敬に助けられたか。 必要なければそれに越した事はない。 受け取るだけ受け取っておけ」
「でも私には毒の属性もありましてよ」
「進化したばかりだろう。 訓練はしたのか? 毒の精製は出来るのか? 解毒剤は作れるのか?」
「それは···」
「受け取っておけ」
「わ···わかりましたわ···」
宝蘭は緊張した様子で前に出した手の上に小さい土蜘蛛が飛び乗ってきた時、小さな声で「ヒッ」と言うのが聞こえ、体の毛が逆立つのが分かった。
···もしかすると、蜘蛛が嫌いだったのか···
声には出さないが、皆は笑いをこらえていた。
宝蘭にも苦手な物があったのですね!
ちょっと可愛い( *´艸`)




