第五十一話 五尾狐
与作が知る村では五尾狐が長をしていた。
第五十一話 五尾狐
翔鬼達は程なく海に辿り着いた。 ここから海沿いに西に向う。 この辺りまで来るとほとんど幽鬼の姿を見ないが、いないというわけではない。 たまに枯れ木の道を見る事がある。
しかし、遠目では見ていたが、妖界の海を間近で見るのは初めてだ。
人間界の海との違いは、なんと言っても波がない。 どんなに凪いでいても海というのは必ず波があるのに、ここの海はプールのようにシンとしている。
「わぁ···波が無いから海に来た気がしないな」
つい声に出して言うと、白鈴はフフフと笑い、与作には「何を言っているの?」的な顔で見られた。
「そ···そう言えば、村が少ないな」
慌てて話題を変える。
「そうですね。 日本海側の海沿いは村が少ないです。 太平洋側の方が、断然多いですね」
確かに村は少なく、立ち寄る村は村人の数も少なくて侘しそうに見えた。
途中、海から離れたルートを取った。 翔鬼は知らないが、石川県の能登半島を横切ったのだ。
その途中に小さな村があるので結界内に入る。
「与作じゃないか! 久しいわね!」
寄ってきたのは綺麗な薄茶色の狐なのだが白狼より少し大きく、尻尾が五本もある五尾狐だ。
「ところで黄鬼は見つかったのかい?」
「残念ながら」
黄鬼探しに来た事を覚えていた。
「そう···ところでお連れさんかい?」
「そうです。 翔鬼様、白鈴様、白狼様です」
「···白狼様···」と呟くのが聞こえた。
「私はこの村の長をしている皐月と言います」
そう言いながら視線は白狼に釘付けになっている。 思うに皐月は白狼に好意があるのだろう、五本の尻尾を嬉しそうに凄い勢いで振っているので、一つの丸い塊に見える。
確か白癒羽が鎌鼬だった時も、目がハートになっていた気がする。
白狼って妖怪から見て美形なんだ
「それで、何か御用事でも?」
皐月の視線は白狼に釘付けのままだ。 しかし答えたのはもちろん与作だ。
「長の皐月様にお願いがあって来ました」
一瞬、やった!と言いたげな顔を見せたが直ぐに真顔に戻る。
「そうかい。 とりあえずお話しを伺いましょう。 私の屋敷にどうぞ」
しかし、感情を読まなくても尻尾と視線で皐月が白狼に気があるのが丸わかりなのがおかしい。
神社の祠のような場所に案内され、扉の中は結界内に造られた屋敷になっていた。
それほど広い敷地ではないが、立派な建物だ。 なんだか近所にあった稲荷神社を思い出す。
板間に通され藁で編んだ丸い座布団に座った。
「それでお願いとはなんですか?」
今度はちゃんと翔鬼の顔を見る。
「石魂刀を知っているか?」
「···名前だけは···」
「何でもいいので石魂刀の情報を持った者がいないか村の住人達に聞いてもらいたい」
「分かりました」
「もう一つ、こんな風に体に勾玉を持った者を知らないか? かなり妖力が高い者の可能性があるのだが」
いつものように白狼の額を示す。
「妖力が高いといえば、私の知る限りでは九尾狐が一番高いですが、いまは妖界にいないという噂です」
「その噂は聞いている。 それで今、七尾狐を探しに行ってもらっている」
「そうですか···それ以外は知りませんねぇ···とにかく何か知っている者がいないか聞いてみます」
そう言い残して皐月は出て行った。
程なく戻ってきた皐月はフェレットような動物を連れてきた。 体の長さが50㎝ほどの薄茶色の動物は〈てん〉というらしい。
···小さな鎌鼬みたいだ···
「この者が石魂刀について知っている事があるというのでつれてきました。 先ほどの話しをこの方たちに」
「へい、 私は勘太といいます。 以前は西の国の大の阪町に住んでました。
そん時に聞いた話ですけど、大の阪町のもっと南の···名前は···思い出されへんなぁ···幽鬼に入り込まれて全滅した村があるんですが、その村にあるお宝を強い妖怪が護っているらしいんです。
それが石魂刀かどうかははっきりしませんが、命がけで護っていると聞いてますので大層なお宝だろうと、もっぱらの噂でした」
「行ってみる価値はありそうね」
「そうだな。 助かった、ありがとう」
翔鬼に褒められて、嬉しそうに飛び跳ねて戻っていった。
「お役に立てましたか?」
「もちろんだ、感謝する。 では、行こうか」
「えっ? もう?」
皐月は分かりやすく明らかに落胆しているが、白狼にはこれっぽっちも脈はなさそうなので、早々にお別れする事にした。 しかしこのままじゃ皐月が少し可哀そうに思えるので、一言おせっかいを···
「白狼からもお礼を言えよ」
そうだなと、白狼が皐月の前に立つと、皐月は五本の尻尾を緊張させてピンと立てて言葉を待っている。
妖怪には結婚制度がないと言っていたが、紫焔と藤華の事もあるし、白癒羽や皐月を見ていると有りじゃないかと思う。 かと言って白狼が結婚しても困るけど······
「世話になったな。 情報も助かった。 元気でな」
白狼より一回りデカい皐月は小さくなって「はい」と、蚊の鳴くような声で答える。
笑えるほど尻尾を振りまくって、また一つの丸い尻尾の塊のようになっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後も海沿いの幾つかの村を回ったが、特に情報はなかった。
今度は大きな湖に沿って南下する。 琵琶湖の東湖岸だ。 その先に大きな町があるそうだ。
京の条町というらしい。
大きな洞窟の先の結界を潜ると、数人の鬼が待機していて、彼らに呼び止められた。
「おい! お前らは旅の者だな。 この町に入るなら入国税を払っていけ」
そう言った後で、翔鬼が四本角であることに気が付いたようだ。
みんなを集めてコソコソと話し合っている。
先ほど偉そうに言ってきた者が、今度は低姿勢で説明しに来た。
「この国は独立しているので、入国するのも出国するのも税金がかかります」
[税金]という言葉は、学校で少し習ったし、お母さんからも聞いた事があったけど、妖界では初めて聞く。
思わず与作を見たが「初めて聞きます」と、首を傾げる。
白鈴も初めて聞くようで、腑に落ちない決まり事に反発する。
「どういう事よ、町に入るだけで金がいるって」
「すみません決まりですので···」
なんだかお役所人間のような返しをしてくる。
「御一人砂金を一摘みです」
別に金に執着はないが、何だか騙されたような気分だ。
京の条町は、何だかおかしい···( ゜ε゜;)




