第五十話 餓者髑髏
目の前の山が動きだした?!
何かが出てきた!!
第五十話 餓者髑髏
北に向かって朝日の中を飛んでいく。 既に太陽は全貌を現し美しい山や森に輝きを与えていた。
「あの小山を超えると海(日本海)が見えます。 そこから海に沿って西に行きます」
与作が説明してくれた。
この辺りには高い木がなく、美しく咲き誇る花で敷き詰められていてとても美しい。
今は、幽鬼を恐れる要素は一つもないのだが、やはり集まってくると面倒なので低空飛行をしている。 それと慶臥対策でもある。 一番肝心な与作の心は慶臥に読まれるので、無駄な努力と言えなくもないが、しないよりましだろう。
綺麗な花の絨毯の上を低空飛行するのはとても気持ちいい。
その時、目の前の山がブオンと動いたように見えた。
「ん? 目の錯覚か?」
みんなも感じたのだろう、全員が止まる。
「見たか?」
「うん、何かしら?」
見ていると先程の小山が盛り上がってきて、巨大な何かが地面の下から頭を出す。 頭の上に綺麗な花々を乗せたまま出てきたのは髑髏だった。 しかも全貌は30m以上ある超巨大な骸骨だ。
「与作はどこかに隠れていろ!」
「はい!」と、少し離れた低木の隙間に潜り込む。
しかし白鈴はそれどころじゃない。 こんな事はあり得ないと叫ぶ。
「どうして朝の季節に餓者髑髏が出てくるのよ!!」
「がしゃどくろ?」
《餓者髑髏 死んだ者の霊が集まってできた妖怪。 動きが早く動く物なら何でも食う》
本当にバカでかいくせに動きが早い。 それも手の爪は2mほどもあり、鋭い刃になっていて危険だ。
向かってくる骨だけの指を斬ろうとしたがまるっきり刃が立たなかった。
「おい! どうなっているんだ?」
「翔鬼! 目の奥に赤い光が見える?」
頭の中の奥の方に赤い光が見える。
「おう! それがどうした?」
「あれを斬れば消滅するわ」
「わかった! 任せろ!」
と言ったものの、ビックリするほど手の動きが早くて目に近付けない。 餓者髑髏が飛べないのだけが幸いだった。
「翔鬼! 私と白鈴で手の動きを封じるからその間に目に飛び込め!」
白狼と白鈴で手に向かって攻撃を続ける、 それぞれの手に意思があるように目ではなく手が別々に二人の動きを追っている。
翔鬼は隙を縫って目の中に飛び込もうとしたが何かに阻まれて頭蓋骨の中に入れない。
この感覚は結界だ。 慌てて飛び上がる。 餓者髑髏は空を飛べないので、高く飛び上がれば攻撃を受けずに済むのだ。
「結界があって中に入れない!」
「やっぱり! だから朝日に当たっても大丈夫なのね。 でもおかしいわね、結界なんて高度な事が出来るはずないんだけど···」
「慶臥か大蛇の仕業か?」
遅れて白狼が空に飛んできた。 朝なので当然白い姿なのだが、やはりこちらの方がカッコいい。
という事は置いておいて···困った。
飛んで逃げれば餓者髑髏は追い付けないだろうが、こんな凶暴な奴をこのまま置いておくわけにはいかない。 三人に飛びつこうとジャンプを繰り返している。 盲目的に翔鬼達を狙っているようだ。
その時、奥にある山が動いた。
「おい! 嘘だろう?!!」
更に二体の餓者髑髏が地面から出てきたのだ。
「知識の本! 何か倒す方法はないのか?」
《目の奥の光を斬るか、朝日に当てれば消滅する···はずなのですが···もしも誰かが結界を張っているとすれば···》
「結界を張った奴が近くにいるか、餓者髑髏に術をかけたかだが···術者の気配はない···という事は?···」
「分かったわ! 体のどこかに結界の札を貼ってあるはずよ、探しましょう」
三人はそれぞれ別の餓者髑髏に向かって行った。
素早い攻撃を躱しながら札を探すのは至難の業だ、それも結界の札など見た事もないのだから、どんなものを探せばいいかよく分からない。
その時、白狼から思念通話が来た。
『胸の辺りの背骨の内側に何か貼ってある!!』
注意して見てみると、白い紙に黒い模様のような何かが描いてある紙が貼ってあった。
···御札って黄色い紙に赤い文字じゃないのかよ···それはアニメで見た情報だからここでは当てはまらないのか···
ちょっとショック。 実は無意識で一生懸命黄色い紙を探していたのだ。
『こっちの奴にも付いてるぞ!』
『私の方にもあるわ!』
あとはそれを剥がせばいいだけなのだが···近付けない···
その時、翔鬼がいい事を思いついた。
「ギン あの札を剥がしてくれ」
「うん! 任せて!」
翔鬼の体から出てきたギンは、スルスルと餓者髑髏の攻撃の隙間を縫って近づく。
黒いのや幽鬼の大群の時も思ったが、ギンは攻撃を受ける事がない。 翔鬼にも仕組みは分からないのだが、【気】が実体化しただけだから、【気】だけになったり実体化したりできるようだ。
出鱈目な動きでギンを追ってくる餓者髑髏の腕をすり抜けて肋骨内に滑り込み、札を剥がした。
その途端、餓者髑髏の動きが止まり、ブワッと体が沢山の小さな光の塊となって少しずつフワフワと空に舞い上がり始めた。
白狼と白鈴が戦っていた餓者髑髏の札も剥がされて、綺麗な小さい光となって空に昇っていく。
気づけば与作も出てきて四人で並び、その小さな輝きが空に昇って行くのを見上げていた。
「なぁ、あれってもしかして、死んだ者達の魂なのか?」
「そうよ···」
「魂が餓者髑髏になって天国に行けずに閉じ込められていたのか?」
「···そうね···」
「そうか···」
翔鬼は思わず両手を合わせた。 父親が亡くなった時の事を思い出したのだ。
···お父さんはちゃんと天国にいるよね···
横を見ると与作が思いつめたような表情で天に昇っていく魂達を見上げていた。
「与作も誰かを思い出したのか?」
少し驚いた顔で翔鬼を見上げた。
「翔鬼様も?···」
「うん···その人は大事な人だったのか?」
「私の命の恩人です」
◇◇◇◇◇◇◇◇
与作は飛びながら話してくれた。
「まだ今のように幽鬼が飛び回る前の事です。
ある時、私は油断をしていて野槌に襲われました。 酷いケガを負ってしまい、もうダメだと思った時に三本角の女鬼に助けられたのです。
彼女の名は藤華さん。 とても優しくとても綺麗な鬼神で、見ず知らずの私を献身的に看病してくれました」
「女性の鬼神もいるのだな」
「はい。 やっとの事で傷も癒えてきてそろそろ御暇しようと思った時に、今度は藤華さんが病気で倒れたのです」
「妖怪にも病気があるのか?」
「はい···妖怪は唯一〈腐滅病〉という病気にかかります。 腐滅病は治療法がありません」
《腐滅病 始めに発病する原因は分からないが血と血の交わりで感染する病気。 妖界の時間で半日ほどの間に体が腐っていき、腐った個所から妖気が漏れていき、最終的には死亡します》
知識の本が教えてくれた。
···腐っていくのか?···
「私は藤華さんの看病に専念しましたが、やはり病気を止める事は出来ませんでした。
病気が進行して寝床から出る事もできなくなった時に、彼女は自分が死んだらこの簪を紫焔という黄鬼に渡してほしいと頼まれました」
与作は手作りっぽくてシンプルだが綺麗な藤の花の模様が彫ってある簪を懐から出して見せた。
「藤華さんと紫焔という黄鬼はこの世界では珍しく夫婦関係にあったそうです。
しかしある日突然『もっと強くなってくる』と言い残してどこかに行ってしまって、帰ってこなかったそうです。
きっと藤華さんが自分より強い鬼神だったのが嫌だったのかもしれないと言っていました。 そんな事は関係ないのにと悲しんでいました。
それで彼女が亡くなってから私は紫焔という黄鬼を探して国中を巡ったのです」
「みつからなかったのか?」
「はい。 そのうち幽鬼が現われだして長旅は諦めました」
「その藤華さんは残念だったな。 そうだ。 せっかくだから黄鬼の事も一緒に聞いて回ろう」
与作の顔がパッと明るくなった。
「本当でございますか?」
「それくらい何も問題ないだろう? 見つかるといいな」
「はい! ありがとうございます!」
気配を消して翔鬼達を尾行していた慶臥は動きを止めた。
そして遠ざかっていく翔鬼達を複雑な表情で見送っていた。
与作が地理に詳しいのは、そういう理由があったのですね(゜_゜;)




