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飛び子  作者: いまっく
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■ゆうの助、太、家路

最終回。

 ゆうの助はこの荒れ狂った風雨を全身に受け、小刻みに揺れながら飛んでいる。冷たい雨が滝のように叩きつけ、体全身にしたたりおち、ゆうの助の体は氷のように冷たくなっていた。岸まであと半分くらいの距離だ。

「太、しっかりしろ! もう少し、もう少しだ」

 太の力強くたくましい腕もしびれだし、ゆうの助の首から流れるように離れていった。

「太っ! しっかりしろっ!」

 しかしもう遅かった。太はとうとう荒れ狂った海へと真っ逆さまに落ちてしまったのだ。太の体が暗い海に飲み込まれるのが見えた。次の瞬間、ゆうの助が叫んだ。

「太ーっ!」

 ゆうの助は太の落ちたところへ向かって飛び込んだ。巨大な波がまるで大蛇のように大きく口を開けてゆうの助をのみ込む。そして太を追ったゆうの助は海の底へと消えていった。

 真っ暗な海の底は、恐ろしいほど静まり返っていた。海上では嵐が吠えているというのに、ここだけ別の世界のように冷たく、重く、しんとしている。海水が全身に重くのしかかり、暗い海中では一寸先も見えない。肺が焼けるように苦しくなってきた。それでもゆうの助は脚を動かし続けた。師範の声が頭の中に響いた。

(踏ん張れ。もう一回。もう一回だけ踏ん張れ)

 脚の付け根がちぎれそうだった。つま先の感覚がなくなってきた。それでもゆうの助は海の底へと潜り続けた。海の底に伸ばした手の先にかすかに触れるものがあった。人の手だ。それはとても冷たく弱々しかったが、確かに太の手だった。確信したゆうの助はその手を思いっきりつかんだ。そして太の大きな体を背負い上げる。次の瞬間、ゆうの助は海の底から全力で脚を踏み込んだ。海水が壁のように押し返してくる。それでもゆうの助は海水の塊を蹴った。蹴り続けた。筋肉が悲鳴を上げる。肺の中の空気が限界を超えた。それでも脚だけは動かし続けた。そして、飛んだ。海の中を飛んだのだ。どんどん海面が近づいてくる。そしてとうとう海から上体が飛び出した。思いっきり息を吸い込むゆうの助は、その勢いのままさらに海面を蹴った。ゆうの助と太に大粒の雨と荒れ狂った風が容赦なく吹き荒れる。大蛇のような大波が大きく口を開け、その巨大な牙を見せつけるかのように襲いかかってきた。ゆうの助はその荒れ狂った波をかわしながら、高く強く、漆黒の大空へと飛び上がったのだ。


 それからゆうの助は、暗い空の中を飛び続けた。横殴りの雨が頬にあたる。息をするのがやっとだ。薄れゆく意識の中、ゆっくり目を開けてみると、遠くの方に微かに灯る明かりが見えた。雨に滲んだ光がじわりと暗闇に浮かんでいる。それは今にも消えてなくなりそうな小さな光だったが、ゆうの助の目にはしっかりと見えた。誰かが、火を掲げていた。港はもうすぐそこだ。岸辺で村人たちが迎え火を焚いていてくれたのだ。

「ああーっ! ゆうの助だーっ。太を背負っているぞ。がんばれーっ!」

 村人たちが叫んだ。ゆうの助の耳に微かに聞こえてきた。それは夢ではない。みんなの気持ちが聞こえてきたのだ。今飛んでいる力はゆうの助だけの力ではなかった。待ってくれている人たちがいる。その人たちの想いが、ゆうの助の体を動かしていた。ゆうの助は朦朧とした意識の中、最後の力を振り絞り、夜空を駆け抜けた。そしてとうとう港へと降り立った。ゆうの助と太は帰ってきたのである。ゆうの助は太をゆっくり背中から降ろすと、ガクッと膝を着き、地面につんのめるように倒れ込んだ。村人たちが急いで駆け寄ってきた。ゆうの助たちを囲むように人だかりができた。その輪の外から、ゆっくりと師範が近づいてきた。鬼瓦のような顔をわずかに緩め、倒れたゆうの助と太を見下ろしながら、ぼそりとつぶやいた。

「よくぞ戻った。……及第じゃ。いや、及第点以上じゃ」

 ゆうの助の目頭と頬が少しゆるむ。師範の隣にいたサヨリは、手に握った松明を傍らの地面に立てかけると、ゆうの助の冷えた手を両手で握りしめ、体を思いっきり抱きしめた。

「ゆうの助くん! 大丈夫?」

「た・だ・い・ま……」

 ゆうの助はそう言うと、安心した表情を浮かべ、眠るように気を失ってしまった。


 ゆうの助が目を覚ましたのは、それから3日後の病院のベッドの上だった。

「ゆうの助君、大丈夫?」

 女の子の声が聞こえた。遠くでセミが鳴いている。ゆうの助はゆっくりと目を開いた。サヨリだった。

「あれ? もう勝負は終わったの? 僕、負けちゃったの?」

「……ゆうの助君。あなたは勝ったのよ」

「え?」

 ゆうの助は少しずつ嵐の日のことを思い出した。

「太は? 太は、大丈夫?」

「ええ、もうすっかり元気になって……。さっきまでここに来ていたのよ」

 ゆうの助は病室を見まわした。すると、窓のところに太が大切にしていた飛行機のおもちゃがたくさん並べてあった。ゆうの助はそれをしばらくじっと見つめていた。窓の外には青い空が広がっている。

 ゆうの助、12歳の最後の夏だった。


 おわり

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