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辺境伯令息は、今日も甘い仮面の下で毒を吐く  作者: 悠木 源基


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第14章 強盗団との遭遇✽過去回想・キシリール伯爵家の後継者✽


 モードリンは幼い頃から美しいものが好きだった。それはドレスや宝飾品やインテリアや食器だけでなく、料理や菓子の飾り付けにまで。

 そんな美的感の持ち主だったので、ミンティアの手作りケーキなど食べるどころか見ることさえ拒否していた。

 ところが二年も過ぎると、ミンティアの作るケーキが料理人の作るものより美味しいという評判になっていた。そして、

 

「あんな美味しいケーキを食べないなんてリンお姉様(モードリン)って馬鹿ですね。

 目を瞑って食べれば、見た目なんてわかりませんのに。というより、今はもうそんなに見た目も悪くないのにね」

 

 とメイシャに言われて食べてみたくなった。しかしずっといらないと言い続けてきたので、今更食べてあげるとは言えなかった。

 ミンティアは我を通す性格ではないので、姉に要らないと言われれて半年ほど経つと、もう食べて欲しいとは言わなくなっていた。

 

 元々メイシャの方は、まだ幼くて食が細かったために、食事に影響が出るといけないと大人に言われてケーキを食べなかっただけだ。だから成長して食事量が増えてからは、美味しい美味しいと言って、自らミンティアにケーキをおねだりをしていた。

 あれは姉へのご機嫌取りなどではなかったのだな、とようやく理解したモードリンだった。

 

 しかし末の妹と違ってプライドの高いモードリンは、素直に貴女の手作りのケーキが食べたいと妹には言えなかった。

 そこで誕生日プレゼントに何か欲しいものはあるかとミンティアに尋ねられた時、これは都合がいいと思った。

 

「そうねぇ。それでは貴女の一番得意な木苺ケーキがいいわ。来年の誕生日には私は王都にいるから、その前に一度貴女の手作りケーキを食べておきたいの。

 そうすれば、都会のケーキとの違いを、姉として貴女にアドバイスしてあげられるでしょう?」

 

 食べたい、作ってもらいたいのに、モードリアンに上から目線でそう言った。すると、案の定素直なミンティアはとても喜んだ。そして、


「お姉様に食べてもらえるなんて嬉しいわ。後一月あるから、練習してもっと美味しいケーキが作れるように頑張りますね」

 

 と言った。

 しかしそのせいで、その後とんでもないことになってしまった。

 何故なら木苺のタルトを作るために森へ出かけたミンティアが、盗賊団と遭遇してしまったからだ。

 

 その日カインツ=キシリール伯爵は、近隣の領主の定期会合に出席していた。

 そこへ、近頃王都を騒がしていた盗賊団が、国境を越えて隣国へ逃亡しようとしているらしい、という情報が飛び込んできたのだ。各自、領内の警備を怠るな!と。

 

 カインツはその場で、急ぎ領地へ帰って領民に注意喚起するように、と家臣に命じた。そして自らも屋敷へと急いだ。

 しかし戻ってみると、妻のグレイスは末の娘メイシャを連れて留守にしていた。妻の妹が予定より早く産気づいたので、出産の手伝いのために妹の嫁ぎ先へ向かったという。

 

 そして家に残っていたモードリンにミンティアとラフェールの居場所を尋ねると、森へ木苺を取りに出かけたという。

 それを聞いたカインツは瞠目し、長女に絶対に家の外へは出るなと厳命して、慌てて屋敷を出て行った。

 

 モードリンは父親の護衛の一人から盗賊団のことを聞いて真っ青になった。もしミンティア達が盗賊団と森の中で出くわしたらどうしようと。

 妹達には侍女と護衛が一人付いて行ったが、盗賊団の前では何の意味もなさないだろう。自分がミンティアに木苺のタルトが食べたいだなんて言ったせいだ。

 

 妹達が心配で堪らず、モードリンは弓と矢を背負い剣を持って、勝手に屋敷を飛び出した。慌てて護衛が追いかけてきたが、庭先の木に繋いであった愛馬に飛び乗ると、一人で駆け出して行ってしまった。

 そしてモードリンが森の入り口に辿り着いた時だった。

 奥から物凄い悲鳴というか咆哮というか、かつて聞いたことのない喚き声がして、愛馬が驚いて歩を止めた。

 

 確かに異様な雰囲気を感じ取ったが、それは魔物ではないとモードリンは思った。

 魔物の森を有する伯爵家の嫡女として育った彼女は、この地を守るという役目を幼い頃から背負っていた。たとえ魔力をほとんど持っていなくてもだ。

 いや魔力無しだからこそ幼い時から剣や弓や武道を習い、これまでも何度も森の魔物退治にも参加してきたのだ。

 それ故に魔物が現れた時の独特な臭いや呻き声は感じ取れるのだ。しかし……

 

 あれは人の声だわ。とモードリンは馬から降りると、身震いしながらも声のする方に近付いて行った。

 そしてこんもりした木々の向こうに広がっていた光景に驚愕した。

 

 あたり一面が真っ赤に染まって、血の海になっていてたからだ。そしてそこには二十名ほどの男達が、人としての形状を留めない姿で倒れていた。

 見たことのない連中だから、おそらく父親が言っていた盗賊団だろうと彼女は思った。

 

 一瞬父がやったのかとモードリン思った。どう見ても魔物ではなく人の手によるものだとわかったからだ。

 しかしそこに父親の姿はなかった。

 まあそもそも、自分より五、六分しか違わないで屋敷を出たのだから、いくら父親が強大な魔力を持っているとはいえ、こんなに簡単にはやっつけられはしないだろう。

 

 おそらくやったのはラフェールだろうと推察した。

 多くの敵に襲われた時は、確実に一人一人仕留めるより、足を狙って全員の動きを止めることを最優先しろ、というのが父の教えだったからだ。

 

 モードリンは震えながらも、冷静になるように深呼吸をしながら、ゆっくりと周りを見渡した。

 するとキシリール伯爵家の護衛と侍女が倒れているのが目に入った。しかし、二人とも動いていたので、取り敢えず命はあるようでホッとした。

 そしてその二人から少し離れた大木の根本に、ミンティアを抱き締めたまま倒れ込んでいるラフェールの姿が目に入った。

 

 モードリンは慌てて二人の元へ駆け寄った。すると二人は怪我もなくただ気を失っているだけのようで、彼女は脱力してその場に座り込んだ。

 良かった。なんとか無事で。

 

 そしてモードリンは徐ろにスカートポケットから、父親の作った魔道具の狼煙を取り出してそれを作動させたのだった。

 

 

 ✽✽✽

 

 

 あの男達はやはり王都やその周辺で強盗や殺人を繰り返していた凶悪犯のグループの男達だった。

 どうにか全員命を取りとめたが、皆体に酷い損傷を受けていたので、今後はもうまともな日常生活を送るのは難しそうだった。

 そもそも正気を保っていたのはたった二人で、その他は完全にイカれていた。

 

 しかしそれは好都合だとキシリール伯爵は思った。事情聴取は二人いれば十分だと。どうせ全員斬首刑となるのだ。無駄なことはしたくない。

 それにそいつらにペラペラとラフェールのことを喋られても困るしと。

 キシリール伯爵家の護衛と侍女は、子供達を守るために強盗と戦って倒れた後の記憶がないのでその心配はなかったのだが。

 

 ただ気がかりなのは娘のモードリンのことだった。彼女は強盗犯が倒れた後に遭遇したので、ラフェールが敵を倒すところを直接見たわけではなかったようだ。

 それでも、薄々娘は何かを感じているような気がしたのだ。

 

 とはいえ、藪をつついて蛇を出す真似はしたくなかったので、カインツは迂闊に質問することもできずにいた。

 そしてその数日後、突然モードリンから例の領地を継がない発言をされたのだった。

 

 

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